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A国から逃げ隊  作者: 瓜
13/35

コンビニ

読んでいる方がいれば…

更新が遅れてしまい、申し訳ありません。


更に今回は、かなり冗長です(殆どがgdgdな心理描写)。すみません。

 私は眺めている。

 友人が、ただ只管にゾンビ共を蹴散らしてゆく姿を。

 いや、一方的に攻撃している訳ではなかった。

 時々、数を伴って押し寄せる彼らに、傷つけられてはいる。

 その姿は傍目から見れば、余りに痛々しく、正視に堪えないものだったが、彼女自身はさして気にする様子もない。

 何処か、死に急いでいるようにも、罪悪感に苛まれているようにも見える。

 そんなもの、必要ないのに。私は、少し悲しい気持ちになる。


 ゾンビ達は、理性を持たない筈なのに──少なくとも、私が見てきたのはそうだった──規則的で合理的な動きをしていた。

 ただ、動作が鈍いので、彼女に翻弄されているだけで。

 あれが、人間と同程度の早さで動いたならば…

 考えるだに恐ろしい。


 *

 怖かった。

 ゾンビ集団も、自分も、何もかもが。

 何もかも信用出来なかった。

 兎に角必死だった。それしかなかった。


 別に、崇高な精神何かがあった訳ではない。

 少しでもゾンビ共の数を減らさなければ、と考えただけだった。

 それだけで飛び出した。

 今の私は、余りに愚かで、短絡的だと思う。少し急ぎ過ぎだとも、分かっている。


 ああ、でもどうしようもないじゃないか!

 私がやらなければ、誰が露払いをするというのか。

 さきにやらせては、本末転倒だ。

 もう、この事──さきの安全に関しては、馬鹿な行動をとらない。

 動く死体は、一人残らず殺さなければ。

 頼れる誰か何て、いやしない。

 自分を過信しているのではない。

 むしろ、今の自分こそ最も信用ならない存在だ。何時理性を掬われるか分からない。

 ただ、こういう役回りが出来る者が、偶然にも、私しかいなかった。そう、私しか……


 戦わなくては。…戦わなくては。


 幸い、平日昼間のホームタウンには、大した数の人間はいなかったらしい。

 この町のゾンビは全て、という訳にはいかずとも、半径20mはさきを連れて歩ける位に、彼らを減らす事が出来た。


 なるべく油断せず、モップを固く握りしめたまま、さきを呼びに行く。


 *

 二人連れ立って、無言で歩く。

 静かだ。町も、流れる空気も。横たわる未来も。

 まずは、食糧の確保が第一だ。

 そう話した通りに、彼女達は駅の目の前のコンビニへ向かう。


 店内は暗く、蒸し暑く、荒れていた。

 割れたガラスケースが散乱し、一歩踏み出す度にシャリシャリと音を立てる。

 誰もいない、今は。

 先程、たまが殴り倒したゾンビの中には、コンビニの制服を着ている者もいた。

 しかし、それで、何かが変わる訳じゃない。


「余り、手はつけられてないね」

「そうだな」


 少女らは、二言三言交わしつつ、散らばったガラスを足で軽く払い退ける。


「適当なの見繕っといてー」

「私、レジ袋取ってくるから」


「ん、おっけー」


 声のトーンは、普段通りだ。

 音声だけならば、或る日常の一頁。

 そう思わせる程、両者とも妙に落ち着いていた。いや、落ち着いている振りをしていたのだ。


 *

 カウンターから身を乗り出し、大きめのレジ袋を掴み取る。

 一瞬、レジから現金を抜いていこうかとも考えたが、余り役に立たないだろうと思い直し、止めた。

 私にも勿論、盗みに対する罪悪感はある。

 現金を取ろうとしていたのを誤魔化すように視線を上へ彷徨わせ、私は踵を返す。


 *

 たまに商品の選別を頼まれ、適当に棚から棚へと歩き回る。

 袋入りのパンや、「そのままでも美味しい!」と銘打たれたレトルト食品を引っ掻き集める。

 それから、割れたガラスケースの破片で手を切らないよう気をつけて、ペットボトルも数本抜き取った。

 そうして腕が一杯になった辺りで、丁度たまが戻ってきた。


「ただいまー」

「…随分、沢山集めたね?」


「二人分となると、これ位要るだろ…多分」

「それに入り切らないんだったら、私、バッグの中身捨ててくし」


 たまの左手に握られたレジ袋を指差して、私は言う。


「…私も、鞄持ってけば良かったなぁ」


 彼女は、溜め息を吐く。


「状況が状況だし、持ち出せなくても仕方ないって」


 私は教室に籠城していたからバッグを持ち出せたが、たまは状況的にそうもいかなかっただろう。


 それから、二人で食糧を選別し、レジ袋に詰めていった。

 黙々と、缶詰め等を下に、規則的に。こうすると、パン何かは潰れない。重くなり過ぎた袋は二重にして。

 生活の知恵、というものは、こんな時でも役に立つものか。


「………。」

 生活の知恵、ね。


 …駄目だな、家族の事を思い出しては。

 脳裏に浮かぶのは、私をここまで育ててくれた、愛すべき両親の顔。

 本当に、本当に生きていて欲しいが、生きてもう一度会いたいが──両親共に、勤め先は都会のど真ん中だった。

 人が多いという事、それが何を意味するか。

 …これ以上は、考えるまい。


 *

 食糧を詰めるのに夢中だった私は、ふと、さきの頬に雫が伝うのを見、手を止めた。

 彼女の輪郭に合わせ伝う玉滴が、日光を受けて、淡く輝いている。


 …泣いている?


 どうしてだろうか。

 こんな状況で泣きたくなるのも分かるが、何故、今?

 何か、嫌な事でも思い出してしまったのか?


「…さき、泣いてるの?」


 私は首を傾げ、小声で尋ねる。


「…あぁ、うん」


 彼女の声は静かで、何処か、心ここに在らずといった様子だった。


「あ、えと、どうして──や、違、駄目そう?その、私が原因?」


 どもりながら、さきに質問をする。


 彼女に不快な思いをさせていないか、やけに気になってしまうな。

 何でだろう。さっきの今だからだろうか?


「たまが原因では、ないよ」

「や、少し、家族が心配でさ」


 そう言うさきの口許は笑っていたが、やや鼻声で、無理をしているのはばればれだった。


「そっか」

「さきのお母さんとお父さん、いい人達だもんね」


 言ってから、止めておけば良かったと思った。

 今、こんな、徒らに不安を煽るような事を言うんじゃなかった。


「うん、あの…」


「…多分、また会えるよ」


 余りにも拙い慰めだ。

 ああ。私は、無力なんだな。


「そう、だと、いいな……」


 絞り出すような声。

 案の定、私の言葉は、さきに気を遣わせただけだった。


 それっきり、二人俯いて、作業に戻った。

 これは要る、これは要らない、これとこれは要る、こっちは要らない。

 パッケージに書かれた消費期限や、カロリーや、その他様々な情報を元に、商品を選り分けていく。

 そして、機械的に詰め込んでいく。


 …私はどうなんだろう。

 私の消費期限は何時までだろうか。

 私は、要るものだろうか。


 ポッ、と頭に浮かんだ問いに、答えは出ない。

 考えたって仕方ない。


 *

 作業が終わった後、私達はガラス片を除けた床に座り込み、棚に残っていたサラダなどを貪り食った。

 何時もなら手に取ろうとも思わなかっただろうが、この国で生の食品を食べられるのも、これが最後な気がしたのだ。

 電気が止まって間もないから、温くとも腐ってはいなかったものの、生鮮食品は、直ぐに悪くなってしまうだろうから。

 そう考えると、今日まで苦手だったものが、途端に惜しくなった。


 シャク、シャクと小気味のいい咀嚼音。

 真新しい香りと、僅かな苦味。

 噛み潰した時の瑞々しさ。

 喉を滑る、やや固めの感触。

 そして、その鮮やかな見た目。

 …何もかもが最後だ。


 今まで当たり前だった事、当たり前だったもの、厭わしくさえあったものに、一つずつ別れてゆく実感。

 徐々に込み上げてくる過去への憧憬。


「…しょっぱい」

「…うん」


 本当に、私達は弱い。


 *

 少女達が口元を拭って立ち上がったのは、もう暫く後の事だった。

冒頭の戦闘描写について補足を。


・最寄り駅は、中途半端な都会をイメージしています。

・たまが一度に相手しているゾンビの数は大体2〜3体程度で、多くとも5体を超える事はなかった筈。

・ゾンビの動きが合理的とはいっても、"よろめく"とか、無駄な動作がない程度です。訓練された軍人のような動き方はしていません。

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