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A国から逃げ隊  作者: 瓜
12/35

安全な旅の終着駅

書き溜めのラストです。

今回は、何時もに増してラノベっぽい気がします。

 とても静かだ。

 辺りには、死んでも死に切れない死者の群れ。

 ゆらゆら、ふらふら、立ち上がり、彷徨う。

 すえた臭いが漂い、何処を見ても荒廃している。

 街は灰色の空気に包まれ、生物の息遣いは聞こえない。

 濃厚な、濁ったスープのような霧が、終焉の気配を伴って周囲に降り立つ。

 霞んで見えない遠方から、肌に纏わりつく潮風が吹いてくる──


 私は、彼女と共に海を目指している。

 それは、すぐそこだ。

 もう少し、あと少し…


 ──しかし、彼女達が港に辿り着く事はない。


 …この声は、何だ?


 何故、辿り着けないのかって?


 五月蝿い。


 それはねぇ…


 黙れ。


 s0そ1ni使…W……♡


 …黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!


 …まぁ、いいよ?黙っても。


 *

 声が聞こえなくなる。

 そして私は気づく。

 此処は、さっきの荒廃した街ではないと。

 不思議な匂いがする。

 汗と、洗濯用洗剤の混ざったような、甘酸っぱい香り。

 決して、嫌な臭いではない。

 私の身体は、宙に浮かんでいる。

 規則的に揺れて、上下に動いている。

 瞼の肌色に、明るい光が当たっているのか、視界はオレンジ一色だ。

 今は何故か、寒くもなく、心地よい。

 私は、そっと目を開ける。


「良かった、目、覚めたんだな」


 暫し、呆然とする。

 私はどうやら、さきに背負われていたらしい。

 そうだ、歩いている途中で倒れたのだった。

 少しずつ、意識を失う前の記憶が蘇ってくる。


「いきなり倒れたから、驚いたよ!熱中症?」

「あぁ、ごめん…どうだろう?」


 本当に、熱中症かどうか、分からなかった。余りに急だったものだから。


「んー」

「何か私、迷惑かけてばっかりだね…」


 自分自身に落胆して、呟く。


「そんな事もあるでしょ」

「人間なんだから」


 さき。

 その言葉を、口にしないで。

 私は違う。


「…ありがとう」

「どういたしまして」


 不器用に、最低限の礼を言う位しか出来ない。

 自分がひどく、情けない。


「次で目的地に到着だ」

「それまでは、休んでていいよ」


 優しい声に、哀しくなる。

 とても、彼女に申し訳ない。


「ごめん」

「謝る事じゃない」


 そして、力の抜けた全身を揺られて、私達の終着駅に運ばれていく。

 遠くに、白いホームの壁が見える。

 さきが、一歩踏み出す。私の身体は上に上がる。踏み出した足が地面に付く。私の身体は下に下がる…

 動作自体は、それの繰り返し。

 しかし、確実に目的の駅は近づいてくる。

 この状態は情けないから、早く着いて欲しいと思う一方、あと少し、このままでいたいとも思っている。我儘は言わないけれども。

 相手に触れる事が出来るのは、まだ、私が人間性を保っている証拠だからだ。だからか、落ち着く。

 一歩近づく、また一歩…

 駅の全容が目の前に浮かぶ。

 白い壁。ホームの地面は、薄汚れた灰色。壁に嵌め込まれたガラス窓。止まったエスカレーター、エレベーター。唯の箱と化した待合室。冷たい、コンクリートの階段。無骨な天井。

 毎日毎日、通った駅。

 そして恐らく、もう二度と通う事はない駅。

 また、最後が訪れる。


 プラットホームで降ろして貰って、ズルズルと、滑稽な動きで這い登る。

 あゝ、無情だ。

 登って、服をはたいて、さきに続いて止まったエスカレーターを降りる。

 …薄暗い。

 エスカレーターを下り切って、二人で改札口へと向かう。

 誰もいない。血の痕だけが、ただ、広がっている。

 コツコツ、と床に足音が響く。

 構内は静かだった。

 改札の外に、よろめき、ふらつくゾンビ達が見える。

 改札は壊れ、酷く汚れている。

 ゾンビがさきに気づいたら、容易に襲える事だろう。

 眉を顰め、壁に立て掛けてあったモップを手に取る。

 気休めだろうが、ないよりはマシだ。どうせ、私自身に失うものは何もない。

 さきに、改札口で待つように伝えて、一人、外へと足を踏み出す。


「さっき倒れたばっかりなのに、大丈夫なのか?」


 あんな事があったばかりなのに、彼女は私の身を案じてくれる。


「うん、全然大丈夫…」


 若干クラッとしたが、大丈夫だと答える。

 この程度、屁でもない。


 奴らを、壊さなくては。

 さきのために、私が出来る事は、それ位しかない。


 モップの柄を、ぐっ、と握る。

 不恰好でも構わない。

 それしか、私には残っていないのだから。

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