表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A国から逃げ隊  作者: 瓜
11/35

また、歩いてゆく

 真っ暗なトンネルから、出口の光に向かって少し歩くと、私達は外へと出た。

 かなりの長時間、暗い所にいた私達にとって、屋外の日差しは、目に痛い程眩しかった。

 線路の両側は、灰白色の高い壁に囲まれ、更に、線路自体が地下から柱に支えられて傾斜し、空中に設置されているため、ゾンビ達は入ってこれそうになかった。

 先程の人々が、この辺りに避難しているのも納得出来る。

 彼処に居れば、食糧等が尽きるまでは恐らく安全だろう。建物も頑丈に造られているし。

 それで助かる見込みがあるかは、疑問だけれど。


 此処から私達の家の最寄り駅までは、かなり歩く事になる。

 しかし、駅に着けば、非常用の食糧や、自転車も手に入るかも知れない。

 そうすれば、移動のスピードがぐっ、と上がるし、生存率も、きっと高くなる。

 その場凌ぎでなく、生き延びたいのなら、行動が必要だと思う。余り偉そうな事は言えないが。


 *

 額から吹き出す熱い汗を拭いながら、私は思う。


 *

 右腕の芯から凍る寒さに耐えながら、私は思う。


 *

 そして歩く。

 赤錆びた線路の上を。真っ赤な太陽を浴びて。

 下から伸びる呻き声を、私達が気に留める事はない。

 そうしたところで何になる?

 真っ直ぐな意思を以って、二人は進み続ける。


 歩く、歩く。

 カラフルな真夏の昼下がりを。

 歩く、歩く。

 モノクロな悲劇の舞台を。

 それだけ。ただ、それだけだ。


 幾つもの、似たような駅たちを通り過ぎ、次は目的地かな、などと期待を抱きつつ。

 陽光に光る駅名を見ては、ほんの少しだけがっかりして。

 何度もそれを繰り返す。


「…あと、何駅だ?」


「さぁ…多分、えーっと、3駅位じゃないかなぁ」


「3駅か、まだ遠いな」


「…着いてからの方が遠いよ」


「分かってる!気分の問題だよ」

「ぁー、暑い!」


 気を紛らわすように、騒いだかと思えば。


「気が滅入るねぇ…」


「………………」


 時に、すっかり黙りこくって。


「はぁ、あぁ…」

「っ!」


「おー」

「次のホーム見えてきたな〜」


 ゆるり、相手と喜び合って。


 私達は、先へ行く。

 真っ白な熱、空気が揺らめきそうに熱せられた枕木。

 それらを越えて、先に、先に。


「あと、二駅か」


「そうだね」

「もうすぐだ」


 線路の上は、余りに静かで。

 今日という日を忘れてしまいそうになる。

 忘れてしまえたら、どんなに楽な事か。

 今、こうして歩いているのを、ちょっとした冒険、という事にしてしまえたなら──


 *

 駄目だ。

 私はもう、誤魔化したり、隠しだてしたりするのは止めた。

 それは、自分に対してもだ。

 夢を見ては、いけない。

 隣の彼女を、天原港へ送り届ける事だけが、私の使命。

 そうでなくては。


 *

 きっと、たまは思い詰めている。

 私に隠し事をしてしまったから。

 少しずつであっても、別れが近づいてくるだろうから。

 そうならなければ、一番良いのだけど。

 しかし、腕が擦れる度、血の滲んでゆくたまのパーカーを見て思う。

 きっと、それは叶わない。

 無理だ、って。


 *

 カラカラに乾いた喉と、重く疲れた足を引きずって、只管に歩く。

 暑さで回り始めた視界に、ある駅のプラットホームが映る。

 もう少しだ。

 私達の目指す駅は、目前に迫っている。

 嗚呼、暑い。でも。

 もう少し、あと少し──


 *

 その時、プツリと私の意識が切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ