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クロス×クロシズ ~ヒモの賞金稼ぎと包帯少女~  作者: 五島七夫
東方中央遊戯 -Once Upon a Time in Central Plains-
97/217

15-2


「……居たぜ! 十万と四十ま……ぐげ!?」


 スコットビルが連れてきた賞金稼ぎの一人を、ブッカー・フリーマンがギターケースで殴って沈めた。狙われているのだ、情けをかけることもないのだが、落とした相手はここの住民がしっかり締めあげてくれるようだし、フェイ老師もネイも相手は殺すことなくいなしている。周りの流儀に合わせておくのも悪くないし、下手に堅気を殺めて本気で狙われるようになったら、それはそれで面倒なことである。なので、褐色肌の自由人は一応命までは取らないでおくことした。


「……酷い」


 走りながら、近くを走るネイがぽつりとこぼした。周りを見れば、多くの者たちが倒れている。中にはまだ息のある者もいるようだが――大半は既に事切れているようだった。原型を留めていれば良い方で、下手をすれば元の形が分からないほどに潰れている者もいる。恐ろしい力で攻撃されたのだろう、行く先には、どんどん死体が増えていっていた。


 そして、居た。九龍中心、そこにシーザー・スコットビルは立っていた。先ほどはむせかえるほど人が居たのが嘘のように、立っている者はただ一人だった。


「……来たかね」


 自分たちの気配を察したのだろう、ロマンスグレーの紳士がゆっくりと振り向き、そして右の腕を振り下げながら、大仰にお辞儀をした。どれ程の人間を屠ったか分からぬはずなのに、スーツには返り血など一滴も見えない。それどころか、上等な上着は着崩れてもいない――それこそ、この男は羽虫でも潰す様な感覚で、この広間に転がる死体を積み上げたのだ。


「貴殿が、フェイ・ウォン……高名は、かねがね聞いていた」


 スコットビルの眼には、ただフェイ老師しか入っていないようだった。男はただ嬉しそうに、しかし紳士的な態度は崩さぬまま、両の腕を上げて構えを取る。


「今日は、貴殿と手合わせ出来ることを楽しみに来た。帝国四千年の歴史上、最高の拳士と戦い、我が勝利の礎とすることをな」


 対して老師はまだ構えず、ただ冷静に相手を見据えている。


「もう勝った気でいるのか、シーザー・スコットビル」

「いいや……むしろ、ここで果てるならば、それも天命なのだろう。私は、ただ試したいだけだ。自分が、どこまでいけるのか……」


 そう言って、スコットビルはパイプの煙を吸いこみ、ゆっくりと吐き出した。


「……待てよオッサン。アンタ、もうちょっと立派な奴だと思ってたのに……見損なったぞ」


 ブッカーの横から、ネイが一歩前に出た。するとスコットビルは笑顔を崩さぬまま、少女の方へと向き直った。


「言い訳はしない……もっとも、ネイ・S・コグバーン。私は君が、私の何に失望したのか分からないし、また興味も無い」

「なっ……!?」

「……まぁ、大方は、私の夢……この国を富ませたいと言っておきながら、自分がどこまでいけるのかなどということに執心していることを指しているのだとは思うが……この二つは、別に何一つとして矛盾しない」


 そこで一旦息を付き、スコットビルは続ける。


「私が通った跡に、勝利が続く。それ故に、私は誰よりも強く、誰よりも早く走らんとしているだけだ」

「で、でも……こんな、こんな誰かを犠牲にして……それがッ!!」

「別に、私はウェスティングスや《《あの男》》の娘のように白人至上主義な訳でも無ければ、聖典の記述を絶対視しているわけでもない。私の後に着いてくるならば、何人でも受け入れよう」


 スコットビルはなんという調子でもなく、熱っぽい訳でもなく、ただ淡々と話し続ける。


「そしてその先に、永遠の王国【ミレニオン】が来たる。しかし、仮に安寧の園を作りあげたとて、人は自らの本能には逆らえん。人間は誰もが勝ちたいと、誰かよりもすぐれていたという欲求を持っているものだ。だが、それは同時に進化の兆しでもある。何かを打倒さんとすることは、すなわちそれは己の研鑽と同義であり、あくなき進歩とは、果てなき闘争の果てにある」


 再び煙を吸い込み、そして吐き出し、シーザー・スコットビルは笑った。その笑顔は、皮肉気でもなく、自嘲的な物でもなく――それなりに生きてきたブッカー・フリーマンにも読みとれぬ、深遠な、しかし単純な、男の精神が映し出されているようだった。


「そう思うからこそ、私は戦い続けるのだ。私はどこまでいけるのか、この国はどこまで進化するのか、人間はどこまで進歩出来るのか。その果てを見たい」

「……そーかよ。でも、アタシは誰かの犠牲の上に立つ進歩なんか、駄目だと思うから……」


 言うのと同時に、少女の手には右手に拳銃が握られていた。既に、拘束具は解いてある――つまり、当たりさえすれば終わりなのだ。しかし、やはり少女の手は震えていた。クェンティ・バーロウの部下と戦ってるときだって命のやり取りにはかなりこだわっていたのだし、仕方がないのだろう。

 一方で、スコットビルはただ立ったまま、少女の所作を見守っていた。ただそれだけなのに何とも言えない凄味があり――だが、返ってそれが良かったのかもしれない、人間を超越しているような男を倒すため、ネイは覚悟を決めたようだった。


「……シーザー・スコットビル!! 覚悟ッ!!」


 少女が引き金を引くのと同時に、表情も変えぬままスコットビルが拳を突き出した。こちらまで届く程の拳圧――それだけで、体が文字通りに震わされた。そして、渇いた音が聞こえて、鉛の玉が男の前に三発落ちて終わった。


「ば……パンチの風圧で、銃弾を落としたってのか!?」


 普段は飄々としているものの、あまりのあり得無さにブッカー・フリーマンは叫んでしまった。


「そんな玩具では、私を殺すことは出来んぞ。私のやり方が、私の思想が気に入らないと言うのであれば……文字通り、全身全霊で以てかかってくるがいい、ネイ・S・コグバーン」


 拳をゆっくりと引き戻し、やはりスコットビルは笑った。


「……言われなくたってぇ!」


 単純に悔しかったのか、闘争心に火がついたのか、少女は例の銃剣を取り出した。しかし、それをフェイ老師がネイの前に立ち、今にも飛びかかりそうな少女を制止した。


「全身全霊……拳で語らいたいとあらば、やはりワタシの出番アル。下がっていなさい」

「じ、じーさん!?」


 おどけた調子で老師は振り返った。きっと、少しでも少女を安心させ、かつ冷静にさせたかったに違いない。


「君とブッカー・フリーマンには援護にまわってもらいたい。勿論、隙あらば……トドメをさしてもらって構わん」


 そして、フェイ老師は流れるような動きで、静かに構えを取った。


「シーザー・スコットビル。確かに、貴様の言う事は一理ある。だが、それだけが人間の強さと驕ること無かれ」

「……ほぅ?」


 スコットビルの眉がつり上がった。それは、驚きで上がった訳ではない。あの男は、自分に立ち向かう者はなんでも喜ぶ、そういう男だ。


「東洋の考えに、調和という物がある。中庸といってもいいだろう。何かが突出し過ぎていると、バランスが悪いもの……切磋琢磨する競争、確かに必要だろう。しかし、永遠の闘争の果てには疲弊があり、打倒さんとする思想の先には滅亡があるだけだ。時にぶつかり、しかし認め合ってこそ、ワタシは進化があると考える」

「ふむ……成程、御高説痛み入る」


 一度、スコットビルは構えを解いて、先ほどと同じように深々とお辞儀をした。


「だが、生憎と主義や思想を変えられる程若くもないし、また貴殿の意見に同調できる訳でもない。もっと言えば、私の欲求はすでに貴殿の思想と平行線にある。しからば、こう言い変えよう。私は戦う事が大好きだ。ただの欲にかられた賤しい男だ。勝つことでしか己の存在価値を見いだせない愚かな男だ……故に、拳を交えていただきたい」

「ふっ……最初からそう言えばいいのだ」


 二人の男は、ただ笑いあい――。


「いざ、尋常にッ!!」

「勝負ッ!!」


 瞬間、広場の中心で二人の男の影が重なった。スコットビルの剛拳を、フェイ老師が右の腕でいなしている。しかし、そこまでの過程は一切見えなかった。ブッカー・フリーマンは、歳で衰えを感じ始めているのも間違い無かったが、なお大陸屈指の実力があると自負している。それでも、二人の動きは捕え切ることが出来ない。ただ、この四角く切り取られた、空の遠い空間の中心で、轟音を上げながら二人の男が拳を撃ちあい、蹴りを放ち、戦っている。それしか分からなかった。


「くっ……あ、あんなの、どうやって援護しろってんだよ!?」


 ブッカーの隣で、少女が銃剣を持ちながら困惑していた。それはブッカーもまったくの同感で、あんな打ちあいをされていたら銃を撃っても邪魔になるだろうし、仮に近接戦闘に加勢しても、余波だけで吹き飛ばされそうなほどの威力で二人は戦っているのだ――その証拠に、周りの建物の窓ガラスが、衝撃波だけで割れている。


「……ふふ、はは!! こんなに胸が高鳴るのは、五年ぶりかッ!!」


 どうやら――やはりと言うべきか、スコットビルの方がやや上手のようだった。表情に余裕がある。


「素晴らしいぞ、フェイ・ウォン! 個別術式を扱わずともこの能力とは!!」

「……舐めるでないぞ! ワタシには術式の代わりに、物心ついてから貯め込んできた功夫がある!」


 その言を証明するかのように、刹那の隙をついたのか、老師の拳がスコットビルの腹部に刺さった。ロマンスグレーの紳士は一瞬小さく呻き、苦痛に顔を歪めたモノの、しかしすぐに笑みを浮かべ――攻撃的な笑顔だった。

 

「貴殿の使う拳、洪華拳と言ったか……だが、私も少々心得があってね」


 スコットビルの気を察したのか、しかし相手の反撃をさせまいと攻勢に焦ったのか、フェイはそのまま拳を引き抜き、モーションを蹴りに移行させた。だが、それが不味かったのか、スコットビルは地面を踏み抜いたかと思うと、自身の左肘で老師の蹴りを止めた。相手の動きに見覚えがあったのだろう、老師が驚愕の表情を浮かべている。


「……八極拳!?」

「そう、余興にと、友と共に学んだモノだが……なんでもやっておくものだ」


 二人が制止した一瞬、不気味なほど静かで――しかし、それはすぐさまスコットビルの右拳の唸る音で終わった。フェイ老師は、一旦距離を取るためか、ばく転しながら後ろに下がり、米神から血を流しながら、体をだらんとさせている。


「成程……その技、単純に能力だけで練り上げて来たわけではないのだな」

「貴殿の様な拳士に認めていただき、歓喜の極み」

「だが、それ故に危険だ。貴様は、ここで倒さねばなるまい……」

「……ぬぅ!?」


 驚きの声を上げたのはスコットビルだった。無論ブッカーも驚いたのだが、むしろ褐色の従者は事後に理解したと言っていい。老師は先ほどの力を完全に抜ききった状態からノーモーションで瞬時に移動し、気がつけばスコットビルの懐に潜り込んでいたのだ。


「――はぁッ!!」


 そして、老師がサマーソルトキックを放つ。避けることもあたわず、スコットビルは両腕を交差させてガードした。だが、アレも恐ろしい威力の蹴りなのだろう、脚が地面から離れ、スコットビルは宙に浮いた。


「まだッ!!」


 すぐさま老師も跳躍し、スコットビルへの追撃を始める。老師の両足が捕え切れないほどの速度で動き――どうやら、連続で蹴りを繰り出しているようだった。一発一発、それこそダイナマイトでも爆発しているかのような爆音で、しかしスコットビルも流石と言うべきなのか、一応老師の動きに対応し、ダメージは抑えているようだった。それでも軽減しきれてはいないのだろう、さしもの化け物も、痛みに顔を歪めているようだった。

 先に老師が着地し、上半身をバネにし、今度は思いっきり踏み込んだ。大地が震え、老師の足元の舗装が裏返る程の衝撃が辺りに走る。


「これぞ奥義――無影錬天脚ッ!!」


 丁度落下してきたスコットビルの体に、老師の全ての気が込められたであろう、渾身の蹴り上げが刺さった。スコットビルは再度上空に、先ほどと比べ物にならない位高く舞い上がった。


「やったか!?」


 少女が上を見ながら叫んだが、しかし下から、老師の声が聞こえる。


「い、いや……まだ削りきれては無い! さぁ、トドメを……!」


 見れば、老体に鞭を打ったせいなのか、老師は膝をついて少女の方を見つめていた。


「あ、あぁ! 分かった!」


 老師の期待にこたえるべく、少女はライフルを構えて上を向いた。ブッカーも仰ぎ見れば、老師が貯め込んできた気をぶつけたのだ、スコットビルも今は無防備――これならば、取れる。サングラスの男もそう思った。


「……私と老師との闘いの邪魔はさせんッ!!」


 上空でやや苦しげにスコットビルが叫ぶと、一発の銃声が聞こえた。それは、すぐ近くから聞こえてきたものではなかった。


「あっ……!?」


 気付けば、少女の右腕から血が流れている。掠めただけで終わったようで、浅く皮膚が裂かれたのみだったが――その傷跡から射線を手繰り、ブッカーは上を見た。その先にはある建物の窓があり、しかしかなりの上部だった。


「……貴様は殺すなと言われている。そこで大人しくしているのだな」


 かなり遠くなのに、イヤに鮮明に聞こえてきた男の声には聞き覚えがあった。ロングバレルのリボルバーを持ち、鋭い目で笑う男、フランク・ダゲットがそこにいた。


「アイツ……そうか、そういうことか」


 スコットビルとダゲットは、最初からグルだったのだろう。恐らく、ハッピーヒルでの一件は、反鉄道勢力を巨大輝石を餌に集めて、一網打尽に――しかし、いまはそんなことを考えている暇ではない。視線を少しずらせば、既に空中で姿勢を整え、幾許か余裕を取り戻したスコットビルが、やはり笑っていた。


「今のは危なかった……だが、そちらも仲間を連れて来たのだ、卑怯という事はあるまい?」


 スコットビルが空中を蹴り――またあり得無さ過ぎて、もはやあの男は既知の外に居るのだ、逆に納得してしまったのだが――加速しながら落下してきた。老師も立ち上がり、迎撃しようとするのだが、しかし先ほどの一撃でかなり力を使ってしまったのだろう、先ほどのような覇気は既に無かった。

 スコットビルは空中で体を捻り、頭と下半身を上下入れ替えて、そして凄まじい闘気を老師へとぶつけるべく飛来してくる。先ほどの戦いでも、老師は打ちあっていると言うより、いなしていた――今までで最大の一撃など、喰らったら耐えられる訳も無い、寸での所でフェイも体を捻ってスコットビルの脚をかわした。

 その結果、凄まじい威力の衝撃が地面へと叩きつけられ、広場の舗装は一気に禿げあがり、スコットビルを中心に巨大なクレーターが完成した。老師の体は吹き飛ばされ、ボロボロになった壁へと背中から叩きつけられる。


「……がはっ!」


 口から鮮血を噴き出す老師の体にすぐさまスコットビルは追撃に走る。やっと立ち直ったブッカーが、なんとかケースを構えてスコットビルを狙うが、すでに遅かった。少々ロマンスグレーの髪を乱した男の肘が、老師の腹部に突き刺さり、その一撃の威力が老師の体を突き抜けて、まず壁に大きなひびを作った。


「素晴らしかったぞ、老師。だが――」


 スコットビルは振り返り、そしてパイプの煙を一吸いし、大きく吐き出す。


「その魂、このシーザー・スコットビルの勝利の礎となって散らすが良い」


 その一言の後に、老師の背後の壁が、というより、建物全体が崩落し始めた。しばらく五月蠅い音が鳴り響き、今度は土煙が舞い――落ち着いた時には、ただシーザー・スコットビルが、笑いながらこちらを見ているだけだった。


「さぁ……まったく、グラントの坊やが要らんことをしてくれたおかげで、私がこうして迎えに来る羽目になったのだ。勿論、抵抗は大いに受け付けるが……どうする?」

「くっ……!」


 抵抗すると言った所で、悔しいが何も出来そうにない。あの男なら、発破の爆撃の中でも、それこそ笑っていそうである。


「ま……待て……」


 微かな声が、瓦礫の下から聞こえてくる。そしてすぐに、一部の破片が崩れ落ち、そこから血だらけのフェイ老師が姿を現した。満身創痍と言った具合なものの、それでもまだ眼には光がある。闘う意思があるのだ。


「ふふ……はは! これでは先ほど勝ち誇った私は、まるで道化だな!」


 スコットビルは手で顔面を覆い、盛大に笑った。少しして、今度は落ち着き払って、老拳士の方を見た。


「死に体に拳を打つ程、恥知らずなつもりも無いが……私は、戦う意思を尊重する」

「……この私の目を見て、意思を見て、それでなお、退く男に見えるのか?」

「素晴らしいぞフェイ・ウォン。ならば次の一撃でこそ、貴様に勝利してくれる」


 スコットビルは完全に老師の方へと向き直り、ゆっくりとその歩を進めていく。


「させる……くっ!?」


 少女の語尾は、再び上方から放たれた凶弾でかき消された。


「駄目駄目。邪魔はさせん……それに、お前さんたちは、もうちょっと自分の身を心配した方がいい」


 ダゲットの一言に周りを見回すと、どうやら騒ぎで駆け付けて来たのか、賞金稼ぎ達が自分たちを取り囲んでいた。冷静にこう見ると、案外賞金稼ぎも、木っ端の賞金首と変わらないくらい下卑た顔をしていた。


「動けば撃つ……あぁ、ネイ・S・コグバーン、お前は右腕に包帯を巻け。さもなければ、安全に捕えられんからな……」

「誰が、お前の言う事なんか……」

「聞かないのか? それならば……」


 再び、銃声が鳴り響いた。だが、今度は自分達を狙って撃たれたものではない。その代わりに、一人の賞金稼ぎの肩が撃ち抜かれていた。


「い、いでぇよぉ……」

「な、何しやがる!?」


 下で、粗暴な男たちが上に向かって抗議を始めた。それはそうだろう、まさか味方に撃たれるとは思ってもいなかったのだろうし、彼らの抗議は全うだった。

 しかし、あの男の行動は、少女を牽制するにはこの上なく効果的だっただろう。現に、自分を狙ってきた、肩から血を流してうずくまる男の方を見ながら、少女は辛そうな顔をしていた。


「次は、頭を狙う。いいのか? お前の我がままで、人がどんどん死んでいく」

「……分かったよ……」


 ポケットから術式の刻まれた赤い布を取り出し、少女はそれを腕に巻き付けた。逆にこうなっては、あとは捕まるだけ――無論、ブッカー・フリーマンとしては黙って待っている義理も無いのだが、しかし動いた所で状況を改善できる訳でもない。


「さぁ、賞金稼ぎども。十万ボルと四十万ボル、生きて捕まえれば二倍の賞金首が、無抵抗で諸君らの前に居る。早い者勝ちだぞ?」


 狂喜に満ちた表情で、ダゲットは笑った。しかし、賞金稼ぎ達の方も、この場の雰囲気に呑まれてしまったのか、上に居る男の意味不明さにどうするばいいのか分からないのか、互いに顔を見合わせて、困ったような顔をし始めた。


「ふん……つまらない連中だ。所詮は金にたかる凡夫の集まりか?」


 そう言われて、男たちはしぶしぶと言った感じで、ブッカーとネイの体を拘束し始めた。その様子を、ダゲットはただ嬉しそうに眺めていた。


「くっくっ……年貢の納め時だなぁ? 史上最高の賞金首達……ぬぅ!?」


 何か、異常事態が起きたらしい、男の顔が今度は驚愕に染まった。見れば、男のロングバレルに何かが巻きついていた。


 ◆


 銃身を取られ、何が起こったのか、ダゲットは後ろを向いた。その先に、背の高い、死んだ魚の様な眼の男――いや、今は眼に怒りをたたえている――が、手に持ったボビンから紐を伸ばして立っていた。


「俺は違うぜ、フランク・ダゲット。金には興味は無い……まぁ、あの子に御執心という点は、同じだけどな」

「き、貴様……ネッ……!?」


 ダゲットが名を言うより早く、青年――ネッド・アークライトは一気に間合いを詰めてきた。以前対峙した時より、早い――驚いているうちに、いつの間にか持っていた繊維の刃が、フランク・ダゲットの右腕の肘から先を切り落とした。


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