4-1
「らっしゃぁせー!」
どこかの世界のいつかの時、今日も人を馬鹿にしたかのような晴天が、人の行き交うメインストリートを照らしている。
その道の脇で一人の、なんだか疲れた顔をした青年が、茣蓙の上で胡坐をかきながら、その顔に似合わぬような声を張り上げていた。
「オサレな綿製品はいかぁっすかー! お安いですよー!」
その声は元気というより、半ばやけくそ、半ば空元気と言ったところであった。しかも売り子が死んだ目の野郎では、客足も遠のくというもので、通りの人々はちら、と青年の方を見ると、すぐに何も無かったかのように過ぎ去って行ってしまう。
「くっそー……やっぱり野郎が客引きやったって駄目なんだよ。おい、ネイ、やっぱり君がやってくれないか?」
そう言いながら青年は、隣に止めてある馬車の荷台の上で、首周りがだぶだぶのポンチョを羽織って、テンガロンハットを深くかぶって寝転がっている黒髪の少女の方を向いた。ネイと呼ばれた少女は、帽子のつばを左の人差し指で少し押し上げて、青年の方に気だるそうに視線を返す。
「イヤだね」
「即答!? いやぁ、そこをなんとか……」
「見世物になるような行為はゴメンだっての」
そう言いながら、少女は再び帽子を深くかぶり直し、ごろん、とそっぽを向いてしまった。中々の喧騒の中、しかも今日は日差しも強く、気温もなかなか高い。しかしちょうど建物の日陰になっているこの場所は、実にちょうど良い気温になっているため、昼寝にはうってつけなのだろう、青年、ネッド・アークライトはそう思った。
「はぁ……そうかぁ、そうだよなぁ」
青年はため息一つ、自らの組んでいる足に視線を落とし、思考の海に入っていく。
ネイと一緒に旅を初めて、一月という所であろうか、以前鉄道会社からもらった謝礼金はまだ残っているものの、その日暮らしの二人には余裕があるとは言い難い。しかも、青年は元々荒野の荒くれ者を掴まえる賞金稼ぎをしていたのだが、少女の主張に合わせて、今は人間相手のドンパチは休業中。少女の旅の目的――以前の仲間を探す――に協力しているため、荒野をさすらい、先日この町、ハッピーヒルに辿り着いた所であるのだが、そろそろ稼がない心もとない。しかし、少女の専門である暴走体も、そこかしこにいるわけではない。
そのため青年が考え出した苦肉の策が『コレ』であった。
「……結構良くできると思うんだけどなぁ」
そう言いながら、青年は眼の前に並べられている布製品をひとつ、つまみ上げた。自らの能力である、繊維を自在に操るという特性を使って編み出した、綿製のハンカチである。
「……見世物になるのはゴメンだが、他になんかできることがあるなら、やるぞ?」
やはり、辺りの雑踏が五月蠅いのか、はたまた本心は青年を心配してなのか、今度は上半身を起きあげて、ネイが声をかけてきた。
「そうだなぁ……それじゃあ俺の隣に座ってるだけでいいから、その代わりに値札の所に『少女使用済み』って添えていいかな?」
「ばっ!? お、お前なぁ、いくら馬鹿だからって、言っていい冗談と悪い冗談の分別くらい付けろよ!?」
「いや、すまんすまん……あまりに売れないからついね」
「……たく、ほんと、しょーもねーやつ」
呆れたような声を上げながら、しかし少女は茣蓙の上に来て、青年から少し距離をとって、青年の右側に座った。
「徹底してるねぇ、君は」
少女は誰かの横に並ぶ時、相手を絶対に自身の左側に置こうとする。それは、僅かに見える赤い包帯が――その下に隠された彼女の秘密が故である。
「まぁ、もう癖みたいなもんだからな……それより、お前が今持ってるハンカチ、いくらで売る気なんだ?」
「一ボルぽっきりで」
「それ、ぼり過ぎじゃねーのか?」
少女は訝しむような目で、青年を見てくる。
「そんなことないぞ? 実際、これくらいの製品は、俺の付けてる値段以上で売られてるんだからな。それに旧大陸の偉い学者さんが言ったそうな、人の労働が余剰価値を生むと……つまり、俺が苦労して作り上げたこれは、原価以上の価値があってしかるべきなんだよ」
そう、青年は得意になって続けた。実際、青年の能力を使えば、織機要らずで、しかも一瞬で製品を作ることが可能なので、初期投資なし、設備費無し、維持費無し、低利率で製品を売ることができる。これを思いついた時には、北部の繊維工業を席巻できるのでは、いっそアークライト興産でも作ってやろうか、くらいに思ったのだが、やはり実際に売りに出してみて、結局一人で作る量には限界があるし、なにより捌く手間がかかるので、個人では難しいこという事を実感せざるを得なかった。
青年の説明に対して少女は、しばらく目をパチクリさせて、なんだか少し考えてから、結局分からないことが分かった、という顔で話しだした。
「……売れないならもっと安くしたらどうだ? そうすれば、売れるかもしれないぞ?」
「まぁねぇ。下手に持ってても在庫だし……でも、根本的な問題は、そこでも無いような気がするんだよなぁ」
そう、既に他店より値段は下げているのだ。端的に言えば、道端で露店をしている男が怪しくて、買う気がおきない、そんなところなのだろう。
「はぁ……やっぱり俺にはこう、地道にコツコツとしたのは向いてないんだよなぁ」
がっくし、と肩を落とす青年に対して、少女はけらけらと笑った。
「あはは、そーかもな。でも、さ……」
少女は自らのポンチョの首の辺りを、はにかむような表情で触り始めた。
「あ、アタシはお前の作るもん、嫌いじゃないぞ?」
どうやら、慰めてくれているらしい。だが、少女がふと手を伸ばし、売り物のハンカチを一枚手に取ると、少女の顔は温かいものから、なんだか呆れるような表情に変わった。
「……おい、お前。これはなんだ?」
そう言いながら、少女は右の手で、生地についている刺繍を指差した。
「何って、花さ。無地だと味気ないだろ?」
自信満々に返してやった。すると少女は、今、私はドン引きしています、とでもいう表情を浮かべたあとに、青年の前に並べられている製品をまざまざと見て、そして再び呆れ顔になって青年の目を覗き込んできた。
「……分かったぞ。お前の製品が売れない理由が」
「な、なんだって!? それは一体……」
「テメーのセンスが絶望的過ぎんだよ! これが花だぁ!? こんな七色で、ドロドロしたおぞましいものがついてるもん、誰が買うかってんだ!」
少女の赤い包帯の巻かれた指先には、青年が良かれと思って付けた七色の花がある。最初はよく出来た、と思ったのだが、言われてみれば花っぽくなかったかもしれない。
「俺としてはこう、写実主義を越えた何かを表現してみたくって……」
「いいんだよ、そんな余計なことしなくっても! 買いたい奴は、もっと無難なもんを求めてるんだ! 売りたいもんを作るなら、他人が求めてるもんを理解しろ、この馬鹿!」
「な、成程なぁ……でも俺としては、冒険心があったほうが……」
そう、冒険心がなければ詰まらないではないか。少女の言うことも尤もであるが、きっと自分のような我儘さも、新たな境地を切り拓くには大切なのに違いないのだ。
「そう、俺はこう、新しい何かを開拓しようとだね……荒野のようにね」
「ぶっ! あ、あのなぁ、あんまり面白い顔するのやめろよ、笑っちゃうだろ?」
真剣な表情をしたつもりだったのだが、少女からすると面白い顔だったらしい。まったく遺憾である、青年はそう思った。
「とにかく……とりあえず、刺繍が無ければ大分マシなはずだ。お前の能力なら、サクッと作り直せるだろ?」
確かにその通り。青年は少女に言われるまで、この在庫をどうしようか真剣に悩んでいたのだが、一回分解して、そのまま作り直してしまえば済む話だ。もっといえば最悪売れなくても、自分の武器用に取っておけばよいだけの話であって――いや、売れなければ哀しいのだが、その時はその時である。
「君の言う通りだ、それじゃあ……」
「あら、素敵」
少女からハンカチを受け取って分解しようとした瞬間、近くから声が上がった。青年がそちらを向いてみると、一人の女と、その後ろに一人の男が立っているのが見えた。男の方は褐色の肌、なかなか背が高く、そこそこ歳がいっているようで、口元に法令線が深く刻まれている。しかし上着を着ていてもなお分かるその体躯は、衰えなど微塵にも感じさせていないほど隆起していた。帽子を深くかぶり、そのうえサングラスまでしてしまっているので、表情は見てとれない。顔で白い部分と言えば、顎の髭くらいである。背中に何かを背負っているようだが、どうやらギターケースの様であった。
一方、女の方はと言えば、若い、とは言い切れないにしても、恐らく青年と同等か、それよりやや上といったところであろうか、少なくとも相方の男とは世代が親子ほどに違うのは確かであった。背は女性にしては高めで、髪は茶、肩下辺りまでの長さで、末端に少々癖がある。ロングコートにロングスカートと、肌のまったく見えない色気の無い格好だが、首に巻かれたスカーフやその下に覗くベストなど、細部に見えるお洒落もそうであるし、何より整った目鼻立ちのおかげか、どことなく品があった。
そしてどうやら声の主は、こちらの女性のようであった。
「あの、素敵って言うのは、コイツの事で?」
青年がハンカチをつまみながら女性の方に向かって質問すると、コートの女はにっこり笑って、そして近づいて来て、ゆっくりと青年からハンカチを受け取った。
「えぇ、素敵な雑巾ですわ」
「あ……はい?」
一連の動作があまりにも洗練されていたせいで、笑顔で毒が吐かれたことを、青年は一瞬理解できなかった。
「これ、綿製品なのね。駄目よ、貴方……綿は、もっと大切に扱わないと。こんな刺繍がされていたら、折角の綿も、雑巾くらいにしか使えなくなってしまうわ」
女は眉をひそめながらも、しかも腹立だしいことに、皮肉を言い慣れているのであろう、その表情すら完成されている。コイツとは相容れない、青年はそう直感した。
「いや、そこまで言うんだったら返して……」
「でも、ちょうどこんな布切れが必要でしたの。おいくら?」
まさか、ここまでこきおろされて、買うだなんて言ってくるとは思わなかった。それに呆気を取られてしまい、青年は素直に答えてしまう。
「あ、その、一ボルで……」
「百で買うわ。ブッカー」
「へい、お嬢」
女は振り向きもせず、後ろの褐色肌に指示を出す。そして、全て心得ております、とでも言わんばかりに、ブッカーと呼ばれた男は財布を取り出し、紙幣を手渡してきた。
「あ、あの、さすがにこんなにいただくのは……」
先ほどむかっ腹が立ったのに下手に出てしまうのは、青年の哀しい小市民の性であった。
「いいのよ……物の価値を決めるのは、見えざる手でもなんでもない……人間なの。それに、それには色々込み込みの料金なのですよ、ネッド・アークライト」
「……え?」
初対面の相手に、唐突に自分の名前を言い当てられて、青年はまたもや呆気にとられてしまった。それも計算済みなのだろう、女はにやり、と口を釣り上げ、ブッカーと呼ばれた男から紙幣を取り上げて、茫然としている青年の手に無理やり握らせてきた。
「この百ボルで、そこでじっとしていて下さい。そう言いたいのよ、私は」
そこで女は法外な価格で買い取ったハンカチをポケットに仕舞い、そのまま踵を返した。どうやら大通りの先、広場に鎮座する銀行の方を見つめているようである。
「ハンカチには一の価値も無いとしても、貴方の行動を買うのには百以上の価値があり、そして今から起こることには、一万の価値がある。そういうこ――――」
最後の言葉は、唐突に響渡った爆発音がかき消した。
「んな!? な、なんだ!?」
慌てふためく青年をよそに、辺りに居た人々は爆心地から離れようと、広場から反対の方へと大挙で逃げ出し始めた。ネイはネイで、ポンチョの下に手を伸ばそうとしたが、それをきらりと光るサングラスが制止した。
「アンタ達は、黙ってそこで見ていなって事だぜ」
「そういうこと……ブッカー、手出しは無用よ」
「分かってます、お嬢」
そう言いながら、お嬢――嬢と言う程の歳ではなさそうなのだが――は、優雅な足取りで人の居なくなった大通りの真ん中に立った。
少しすると、爆心地、つまり煙を上げている銀行の方から、男が五人出てきた。建物の前に止められていた馬車に、恐らく大金が入っているであろう袋を投げ込んでいる。
「あ、飯のタネ……」
そう青年が小さく漏らすと、褐色肌の男がやはり威圧してきた。
「……黙ってみてりゃいいんでしょ? 黙ってみてりゃあね」
どの道、荒くれ者を掴まえて金を得るのは、隣にいる少女の嫌う所である。なので青年は大きな音で怯えた馬の方へと歩いて行き、逃げないようになだめて、そして大通りの女を注視する――茶髪の女がコートの裾をずらすと、意外や意外にセクシーなおみ足が現れ――もとい、ロングスカートのスリットに、拳銃のホルスターが現れた。
「おい、お前、今イヤラシイ目をしなかったか?」
隣から、少女の低い声が飛んできた。
「いや、ぜんぜん、まったく、これっぽっちも?」
矢継ぎ早に否定する青年をよそに、今度は大路の方から声が飛んでくる。
「ふふ、いいのよ、見せているのだから……」
そして拳銃を抜き出し――その銃は細長く華奢な外見であるが――文様の刻まれているグリップの底、そこに取り付けられていたエーテルシリンダーを擦り上げ、輝石の力を解放した。
「だから、その眼に焼き付けなさい……私の、ジェニファー・F・キングスフィールドの舞台をッ!」
ダイナミックに自己紹介をしたのも束の間、すぐさま大路の向こうから、砂煙を上げて馬車が暴走してくる。
「おい! 女ぁ! 死にたくないならそこをどきなぁ!」
馬車を駆る粗暴な顔をした男が、最後のお情けか忠告してきてくれたようだ。だが、ジェニファーと名乗った女は一歩もどかず、威風堂々という調子で立ち続けている。
「どかせるのなら、どかしてみなさい? 命が惜しくないならね」
しかも、この挑発。強盗の後で、というより強盗中だが、気がたっているのだろう、その挑発に乗せられて、馬車を駆る男、並びに荷台の男たちが、一斉に女に銃口を向けた。
「そんなら、穴だらけになってあの世に行きな!」
そして、一斉にその引き金が引かれる。だが、その弾丸は女には刺さらない。別段、男たちの銃の腕がへっぽこなわけではない――女が、かわしているのだ。
「アレは……南部式銃型演武!?」
大路のジェニファーは、微細な、時には大きな動きで、舞うように銃弾をやりすごしている。すぐ隣にもその技の使い手がいるのだが、それこそおかしな話であり、そう簡単に使える技ではないはずなのだ。
しかし、このままでは馬車に轢かれるか、はたまた馬車を避けねばなるまいか、女の細身の拳銃一挺では、馬車は止められまい――そう青年が思っていると、やはり女は口を釣り上げ、笑った。
「さぁ、ここからが本番……いくわよ!」
そして、最後の一発を華麗なステップでかわし、着地した瞬間、女の足元から何か光が発せられ――。
「切り拓けよ我が熱情【フロンティアスピリット】ッ!」
叫んだ瞬間、女の足元の光は電流となって、馬車向かって走り出す。直後、その軌跡を追うように大地に亀裂が走り、そのまま地面が音を立てて割れ始めた。
「な、なんだぁ!? こりゃぁ!」
驚いたのは馬車の男で、そのまま車輪が溝に取られ、馬車が土煙を上げて横転した。倒れて悲鳴をあげる二頭の馬の声が響き、辺りには飛び出た紙幣が宙を舞う。
「く、くそ……!?」
男たちがなんとか武器を持って起き上がろうとした瞬間、銃声が素早く六発、そのまま武器が吹き飛ばされた者は幸せで、握っていた不幸な者はその掌を打ち抜かれていた。
女が銃をいじると、バレルとシリンダーの間で折れて、六発分の空薬莢が一気に放出される。地面と金属がぶつかりあう渇いた音が鳴り、そして女はすぐさま新たな実包をシリンダーに二発詰めて、紙幣と煙の舞う馬車の方へと銃身を向けた。
「やろ、てめ……!?」
一人の起き上がった男が――アイツがボスなのだろう、脂と汗でテカテカした顔に、殺気が籠っていて――だがすぐに驚愕の表情へと変わった。ベルトにつけていたらしいエーテルシリンダーが撃ち抜かたのだ。そして、お嬢様と言われても遜色ない――いや、やはり嬢、というには年齢的に無理があると思うのだが――優雅な足取りでゆっくりとボスに近づき、その眉間に銃口を押しあてた。辺りを舞う紙幣が、男の頭に積もっていく。しかし何故だか、紙幣はジェニファーの方にはかすりもしない。それは、彼女の威厳を損なわせないためなのか、はたまた金に嫌われているのか。
「爆炎のカブレラ、賞金額一万ボル――貴方くらいの悪党だったら、ギリギリ絞首台には送られないわ。刑務所で美味しくないご飯を食べるのと、ここで天に召されるの、どちらがお好み?」
ここからでは見えないが、きっと凄くイイ笑顔をしているに違いない。青年はそう確信していた。
「……マズイ飯でいいです」
「そう、賢明だわ」
そこで、丁度保安官達が駆けつけてきた。そのまま保安官たちに荒くれどもを引き渡し、そしてジェニファーはポケットから、先ほど青年から買ったハンカチを取り出して、まず服についた土煙をその布ではたいて後、銃口を拭いながら、青年の方に歩いてくる。
「まったく、どうして無頼漢どもは、こう脂ぎっているのかしらね……汚らしいったらありはしないわ。ところでこれ、使い終わったのだけれど、返品は可能かしら?」
言いながら再び、コートの下のスリットを現し、そこに綺麗になった銃を、綺麗に回転させながら、綺麗な足についているホルスターへと入れた。
「いやぁ、せめて洗ってからクーリングオフをしていただきたいんですけど……」
「そうね、それもそうだわ……それじゃあ、どうしようかしら……折角の綿製品ですから、捨てるのももったいないですし、でも私にはもはや無用の長物ですので、ぜひともお返ししたいのですけれど……」
絶対に嘘だ。恐らく、真意は別の所にある。コイツと関わると碌なことにならなそうだ、そう確信した青年は、さっさと切りあげることにした。
「えぇ、えぇ、そうですね、俺も目の前で捨てられたら心が痛みますし、仕方ないです、引き取りましょう。いっそ、コイツもお返ししますか?」
そう言いながら、青年は指で挟んだ紙幣をひらひらと動かして見せた。
「いいえ、それは依頼通り、黙って見ていてもらった訳ですから、お納めくださいな。とにかく、私は貴方とお話がしたいんですよ、アークライトさん……銀刀のジーン・マクダウェルのことについて、ね。お付きの方の帽子、彼女の物ですよね? 関係ないとは言わせませんよ」
こんな事であろうと思った。隣の少女が、偉く動揺したのがうかがえた――青年たちの前に立っている褐色肌の男は、先ほどから一歩も動いていない。それどころか、威圧感を出し続けている――そして、眼の前でにこり、と佇む女、放っておいたら、何かとつけまわしてきそうである。
ここは一つ、話をするしかないか。そう腹を決めて、青年は空を見上げた。気がつけば、いつの間にか正午であったらしい、南北にのびる都会の大通りを、太陽がちょうど照らしだしていた。




