Zhang Wei: 1969
私は喧騒に誘われ、路地を曲った。そこでは紅衛兵が家族と思しき人々を取り囲み口々に声を張り上げていた。
「自己批判せよ!」
「労働者こそ真の人間である!」
「資本家のつもりか!」
「知的階級のつもりか!」
それらの声に、子供は泣き、夫婦であろう二人は、おそらくは弁明を試みようとしていた。
だが、私にはそれらはどうでもいいことがらだった。路地を曲ったのには、もう一つ理由があった。燃える匂い。紙が燃える匂い。本が燃える匂い。それが、その理由だった。地面に両膝を着く四人からすこしばかり離れたところで、本が燃やされていた。
祖母から聞いていた、私の家系の家業。それは長い歴史を持っていた。だが、私がその家業を継ぐことになるとは、幼いころには思いもしなかった。私の家系に伝わる、ただのおとぎ話だと思っていた。
何年も前、祖母はベッドに横たわり、私の手を取った。
「お前に役目が周って来たんだねぇ」
その声は弱かったが、祖母の目はしっかりと私を見据えていた。
「誓ってくれるかい? 家業を継いでくれるかい?」
「おとぎ話だと思っていました」
祖母は笑みを浮かべた。
「そうだろうねぇ。実を言うとね、あたしも子供のころはそう思っていたもんさ」
祖母は左手を私の手から離し、首にかけていたものを取った。それは紐が通された一つの鍵だった。祖母との思い出とともにある、一つの鍵だった。
「さぁ、誓っておくれでないかい? 家業を継いでくれるかい? 誓ってくれたら、この鍵はお前に譲ろうね。誓ってくれたら、裏の洞窟の扉をこれで開けて、ちゃんと見ておくれでないかい?」
私は右手で鍵とともに祖母の左手を包んだ。
「誓います。どうやればいいのか、それもわかりませんが。それでも誓います」
岩に不似合いな、あるいは似合った堅牢な扉を思いながら、私は答えた。
祖母はまた微笑んだ。
「では、お前に譲ろうね。いいかい、洞窟をちゃんと見るんだよ」
祖母は鍵を私の手に残し、彼女の手をベッドの上に戻した。
私は護書者。護書者ヂャン・ウェイ。本が燃える匂いを嗅ぎながら、心の中で何回めかの名乗りを挙げた。それは、救えなかった本への、私の誓いでもあった。