高嶺のアイスクリーム
早速アイスクリームを買おうと平太は思った。
ちょっと可愛いところがある彼女だと、平太は初めて見た一面に浮かれていた。
そもそも『彼女』と言うのは、メーカーが生みだした存在だが、『彼氏』の存在を核としてこんな風に現れる。この彼女も平太の影響を受けて独自の判断をする平太だけの彼女なのだ。
なんだ、この彼女、可愛いな。
帰宅途中で、平太たちはコンビニに寄った。
「これでいい?」
とショーケースから平太の好きなジャンボアイスのカップを手に取る。
彼女は
「え」
と変な声を出した。
平太は彼女の様子を見た。彼女は状況が呑み込めていなさそうな顔をして平太を見つめ返した。
「え。アイスって、これ?」
と彼女は戸惑った声で尋ねた。
「え。そうだけど」
「え、違う・・・」
「え。アイスって、これ、アイスだよ」
平太は馬鹿みたいな答えを返してしまった。
彼女は無言でじっと平太の手元のカップを見つめた。心なしか、気落ちしているようだった。
「あれ。これじゃないの? あ。そうか。ごめん、好きなの選んでよ」
「・・・ううん・・・いい・・・」
「え。どういうこと。これで良いの?」
「・・・」
彼女は答えなくなった。
何かどうも違うアイスらしい。
「ちょっと待って。俺のアイスってこれなんだけど、きみのアイスって何なの」
「・・・ううん・・・」
キツイ彼女がどんどん落ち込んでいく。
平太は頑張って尋ねた。ポンポン好きな事いう彼女が、こんな風になると心配になる。
「ねぇ。教えてよ。分からないじゃないか。きみがお願いしたんだろ。言ってみてよ」
「・・・ブルンソワーズで食べる、アイスクリーム・・・」
「へ?」
「ブルンソワーズで、遠景を見ながら、並んで、食べるの・・・スコーンつきで・・・」
「・・・」
とりあえず、平太は選んでいたビッグカップのアイスをショーケースに戻した。
これじゃないのは良く分かった。
で、なんだ、
「ブルンソワーズ・・・?」
聞いた事も無い。
「ううん、良い・・・。それで良い」
あの彼女がものすごく落ち込んでいる。
「えっと・・・」
人の良い平太は困った。
「とりあえず、えっと、待って、調べるから」
「ううん、良いよ・・・」
「えーと・・・」
とりあえず平太は家に戻る事にした。彼女が平太の戻したアイスを心配そうに見るから、加えて店員の視線もあったので、とりあえずさきほどのビッグカップだけ購入することにした。
***
ブルンソワーズ。
それは、彼女を持つ彼氏のためのお店。
彼女と共に食べる最上級の甘味はあなたの人生に華やかさを加えてくれることでしょう。
「うわぁ・・・」
手元のパネルでブルンソワーズとは何かを尋ねた平太は頭を抱えた。
映し出される光景は、超高層ビルの見晴らしの良い窓からみえる夜景だ。
この店は『彼女』たちの憧れの店に違いない。
または、超金持ちの人たちには有名な店なのかも。
平太の隣では、少し離れたところで、彼女がチラチラ、パネルの中に映される情報と平太の様子を気にしつつ、それを平太に気づかれないようにと気のないそぶりなどしている。
気を使われているようだ。
調べてみれば、まずそのビルに入るところからして平太には無理だった。
年会費の馬鹿高いそのビルの会員になっていなければならない。玄関どころか敷地に入る時点でアウトである。
ついでに仮にそこがクリアできたとしても、次にその店の価格は手が出せない。
なぜアイスクリームごときに、平太のアルバイトの給料の半分を出さなくてはならないのか。
平太は正直に詫びた。
「ごめん。俺には、アイス、無理だった・・・本当にごめんね」
「・・・ううん・・・」
彼女がしょんぼりとしている。部屋の隅っこで膝を抱えている。
演技じゃないと平太は感じた。
そんな演技するぐらいなら、この彼女は自分の胸倉を掴んでくるタイプだと思われる。
そもそも自分が彼女を欠陥品だといって怒らせたのが原因なのに、要望に応えることもできないなんて。
平太は自分が情けなくなった。
***
「あー、平太お前、苦労してるなぁ。身分の違いってやつか?」
「シャレになりません。どうしたら良いんだろう。返品できないし、彼女も可哀想です。俺も可哀想」
「どうしようもないなぁ・・・」
アルバイト先で平太は先輩方に愚痴っていた。
ちなみに平太は基本学生である。自宅にて情報パネルで学習する。
「仕様書もバカ高いし、どう接したらいいのか分かりません」
「ウェステリア系なんだろ。フツーのなら俺持ってるんだけど。でもあれ心得みたいなものだし、結局個性違うから買わなくて正解だよ、そんな高いの金出さなくて正解だって」
「でも、俺、平太の彼女見てみたい。美人なんだろ。良いよな」
「美人ですけど、難しいですよ・・・」
「岩尾と平太、今度彼女連れて来いよ、バーベキューとかさ」
「あ、秋田先輩も彼女いるから秋田先輩も誘ってさ」
「え・・・」
「良いだろ、その方がアドバイスだってしやすいしさ。彼女同士悩み相談とかするみたいだし」
平太はその話に驚いた。
彼女同士で悩み相談するのか!
・・・あの彼女、大丈夫だろうか。彼女の中で浮かないだろうか。
でも自分以外の人にどう接するのかを知りたいと平太は思った。
「じゃあ、来週の木曜日にバーベキューな!」
話が決まった。