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福袋の彼女  作者: 天川ひつじ
第一章 平太、福袋彼女を買う
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彼女の説明書は高級品

残された平太は、彼女に凍り付くような視線で見つめられる。

「私。許さないから」

「え。なにを」


「この私を欠陥品だなんて」

「まだ分からないだろ、調べてもらうんだから」


「ねぇ、一億光年ほど譲って、私が欠陥品だとして、もし私が欠陥品じゃなかったら、どうしてくださるのかしら?」


心から欠陥品だと祈るばかりだ、と平太は思ったが、状況の不味さは感じている。


彼女が詰め寄ってきた。

「私のお願い、聞いてくださいます? ねぇ、平太様」

「う」

平太は目を泳がせた。

周囲で、展示中の他の彼女たちが、少し不思議そうに、あるものは心配そうに平太たちの様子を見ている。

あぁ、本当に、なんで俺の彼女はこんなのなんだろう。

「もぅ!」

胸倉を掴まれた。


***


平太への圧迫は、戻ってきた店員によって解かれた。

店員はじっと彼女を見つめてから、

「少し、あなたの彼氏にお話がありますので、店内にてお待ちください」

などと言った。

製品相手に嫌に丁寧な口調だと思ったが、そういうスタイルの店なのかもしれない。


平太は店員に、少し離れたソファーに案内された。

「福袋でご購入という事で、本来は詳細仕様書などはつかないのですが、有料でご提供が可能です」

と店員が言った。


「へ?」


「佐野様の彼女は、希少で、特注用でございます。オーダーがあり、そのために彼女を製造いたしますが、例え1体を作るためでも型などから作りますから、結果として最小ロットで15体が生まれます」

「・・・はぁ」


「こちらの型は3体、正規ご購入に至りました。なお、ご安心いただきたいのですが、15体全て個性が少しずつ違います。15体は、家族や親せきのような間柄と捕えていただくのが宜しいかと」

「はぁ・・・」


「なお、本来は平均300万マの商品でございます」

「さ、300万・・・!? 良いんですかそんなの福袋に入れちゃってて!?」

福袋は1万マ! それだって平太には大金だった。 その300倍!?


「廃棄や在庫にするよりはと、福袋の目玉として用いたのです。おめでとうございます、佐野様」

「いや、いやいやいや、でも、あの・・・」


「確かに、特殊オーダーでございましたので、扱いが難しいかと存じます。汎用品とは異なりまして、親しみにくさを売りにした製品でございます」


なんだよそれ、どんな客だよ! と平太は罵りたくなった。


「そこで、こちらの仕様書を、30万マでご提供しております」

「さ、30万マ・・・!?」


「はい。いかがされますか? 本来の製品の価格が300万マでございますので、仕様書としてはお手頃価格でございますが・・・」


本当にそれ、俺に買えると思って言ってる?

俺、1万マだって必死に溜めたのに。


平太は泣きたくなった。


***


夢破れて、平太は購入店を去った。

もちろん、ものすごく態度の冷えた彼女を連れて。


隙あるごとに、睨んでくるばかりか、目が合うと口の動きで「馬鹿」と伝えてくる始末だ。


本気で泣いてしまいそうだ。


デパートを出ると、彼女が平太に高飛車に言った。

「自分の過ちを認めたらどうかしら」

「・・・すみませんでした・・・」

なんで俺は、大金を払ってこんな惨めなものを手に入れてしまったのだろう。


「罰に、私の指示を、1週間聞いて貰います。絶対に」

「え」

彼女にそんな強制力はないはずだ。


「嫌なの?」

「え、いや、ううん・・・」

平太は口ごもった。

これからずっといる彼女だ。ここは従い、また先輩に相談しよう・・・。そうしよう。


「じゃあ。まず、私にアイスクリームをごちそうなさい!」

「は?」


「アイス!」

「アイス」


「ごちそう!」

「ごちそう」


「分かった!? 聞いてるの!?」

「うん、聞いてるよ」


「じゃあ良い」

彼女は真顔になって平太を見た。

「で、奢ってくれるの、くれないの」


「・・・奢る」

「ふん。当然よね」


「・・・ねぇ、きみ」

「・・・何」

つっけんどんに彼女が答えた。


「きみ、怒ってるのに、求めてるものが子どもっぽいね」

平太の発言に、彼女がカッと目を見開いて平太を睨んだ。

何かを言おうと口を開きかけたので、平太は慌てて言った。

「いや、全然、良いんだけど、可愛い脅しで驚いただけだ」


彼女の口の動きが止まって、パクリと閉じた。

無言でじっと平太を見た。


「・・・もう一度言って」

「は? 何を。え、『いや、全然良いんだけど』?」


「そう。その後、言ったでしょ。なんて言ったの」

「え、えーと。『可愛い脅しで驚いただけだ』」


「・・・」

ふへ、と、彼女の頬が少し緩んだ。

その表情の変化を見て平太は驚愕した。


この子・・・! この彼女!

褒められたいのか! この性格で! 『可愛い』と!!


「あ、あの。きみ、キレイな顔立ち、してるよね」

「ま、そうよね」

あれ、普通の反応だった。


「可愛いよね」

「え、やだ、うそ」

彼女が慌てた。


「可愛い」

「やだ、ちょっと止めてよ」

頬が染まった。


おぉ。と、平太は思った。

30万マ出さなくても、一つ彼女の事が分かった気がした。

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