表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
福袋の彼女  作者: 天川ひつじ
第一章 平太、福袋彼女を買う
10/23

今後の不安と

日が落ちてすっかり暗くなっていた。平太は彼女と二人、家路をのんびり歩いている。


晩御飯は何を食べよう。モヤシ丼。肉の切れ端も入れて。

でもミーニャはまた文句を言うかな。


チラと平太が彼女を見ると、彼女もチラと平太を見上げた。お互い無言だ。


「・・・何?」

と彼女が尋ねた。


「今日の晩御飯、きみ、どう思うかなって思ってた」

「・・・メニューは?」

「モヤシ丼。ご飯の上にモヤシと肉をちょっと入れて炒めたのをのせて、ソースで食べる」

「えぇええ・・・」

案の定、彼女の顔が険しくなった。

でも今日は文句を言わない。ちょっと俯いたら、彼女が持つ袋が揺れてカサッと音を出した。


思うところがあって、平太が言った。

「あの、不満は我慢しないで、言ってくれていいよ。自分でもちょっとどうかなと思うメニューだし」

「でも・・・今日、私のお願いで服を買ってくれたから、そんな寂しいご飯なのでしょう?」


「大丈夫、今日の服の事とか関係なく、前からこういうの食べてたから。それこそ、前の家に住んでた時も」

「・・・そう。じゃあ・・・そんなの食べてたら、栄養バランスが悪いと思うの! それにご飯が楽しみじゃなくなってしまうわ!」

「うん」

その通りなので平太は頷いた。


「・・・ねぇ、本当に、私、平太の傍にいてても、迷惑じゃない?」

口調が弱くなったので、驚いて平太は隣の彼女を見た。

表情を確認しようと思ったのに俯いているから、平太は立ち止った。彼女は顔を見られたくない様子だったが、どうしても確認したくなってしまって、平太は彼女の肩を抑えて動きを止めて、顔を覗き込んだ。


泣きそうな手前の顔をしていた。


平太は、ゆっくりと彼女に言った。

「俺も、きみが、こんな俺みたいなところにきて、嫌じゃないのかなって、思ってしまう。実際、本当のところを教えてほしい」


「本当のところを話したって、私はもう返品不可なんでしょう?」

「うん。でも、他に方法だって、あるかもしれない」


そういうと、彼女は平太を見上げた。じっと見つめる。

「平太は、嫌? 私みたいなのがきて、困ってるでしょ。ご飯も食べない彼女が、欲しかったのよね」

「・・・でも、来てくれたのは、きみだし」

「そういう話じゃないの、分かってるくせに」

彼女の顔が歪む。

話が長引きそうだ。

平太は、さきに促した。

「とにかく、家に入ろう」

動きを止めてしまった彼女を連れて行こうとするが、彼女は足を動かさない。


「ねぇ。・・・お姫様だっこして、家に連れて帰るよ」

それが嫌ならちゃんと動いて、とそういう意味で言い聞かせるように言うと、彼女はフっと鼻で笑った。

「置いてってもいいのよ? 平太は、きっと、知らないと思うから教えてあげる。いらないんだったら、捨てちゃえばいいのよ。そしたら、いつか、平太との繋がりが切れちゃって、それで、もう、動かなくなる」


「・・・そんな事考えたこと無いし、望んだことなかった」

「でも今、そういうのもアリって、知ったでしょ?」

彼女が笑う。雨なんて降ってないけれど、まるで雨に濡れて途方に暮れたみたいにして、でも、笑ってる。


「俺は、そういうのは、嫌だな」

と平太は思ったから、そのまま言った。

「きみが動かなくなるのって、それは嫌だなぁ」

「馬鹿」

「うん。はい」

平太は、てんで動かない彼女を抱き上げた。

「きゃ」

と彼女が慌てて、支える場所を求めて平太の腕を、それから困って首に腕をかける。


「家でゆっくり話そうよ。とりあえず、モヤシ丼食べて、それから、今日買った服を見てさ。それで、考えよう。お金はまぁ、本当にちょっと困ってるから」

「・・・馬鹿ぁ」


どうしてここで馬鹿と言われるのか平太には分からない。首を傾げようと思ったけど、先に平太の首に彼女が抱き付いてきたから動かせなくなった。


多分きっと、彼女は、自分が思う以上に色々考えて悩んでしまっているような気がする。


***


モヤシ丼にせめてスープをつけるべきだと彼女が主張するので、薄いコンソメにキノコのスライスを入れたのを作った。こんなもので代わり映えがするのだろうかと平太は疑問だ。モヤシ丼に、水とコンソメをほんの少し、そしてキノコ半分が追加されただけなんだけど。

ちなみに彼女はネギを入れるべきだと主張したけど、ネギは高くて平太のうちにストックしていない。

だったら育てれば良いと彼女は言い出した。前向きに検討してみよう。


「確かに、うちで育てられるものは育てても良いのかなぁ。ちょっとした量だから、栽培資格取らなくても問題ないだろうし」

この世は全て分業で成り立っている。何か変わったことをするならば、資格と申請が必要なのだ。


「ねぇ、それって私でも育てられるわよね」

元気を取り戻したように彼女の声が弾んだ。


「うーん、多分、手順さえ踏んだら大丈夫じゃないかな。とりあえず簡単なものから始めてさ」

「さっそくしましょうよ! ねぇ、早く早く!」


平太と彼女で、情報パネルを使って調べて、とりあえずモヤシのプチ栽培セットの購入をすませた。

明日には手元に来るはずだ。

モヤシがうまくいったら、他のも検討しよう。


ご飯を食べて元気を取り戻した様子の彼女が、今日購入した古着をワクワクしたように袋から出す。

「早速着てみて良いかしら」

「うん、良いけど、一度洗った方が良いよ。古着だから」

「そうなの? でも、私たちの服なら、洗わなくてもいけるのじゃないかしら」

そういうものなのだろうか。


「うーん、分からないから、きみの判断に任せるよ」

「えぇ。とりあえず着てみる」


彼女が古着を着込む。

今着ている衣類をそのままに着込むので平太は驚いた。


シャン、と小さな音がして、彼女の服が変わった。

「あ、ちょっと雰囲気が変わったわ」

彼女が嬉し気に立ち上がり、くるりと回って見せる。

一体どういう仕組みなのか。前の服はどこに行ったのか。

平太は瞬き色々疑問に思ったが、彼女は嬉しそうに平太に尋ねた。

「どう? 似合う?」

疑問を脇に置いてただ見てみれば、今まではどちらかというとお嬢様系の服だったのが、随分フレンドリーなランクに下がっている。


平太は正直なところを告げた。

「前の方が見慣れてたし、なんだかきみらしい気がする。きみが服に合ってない」

「もう! どういう事!?」

「えーと、きみの方が高級に見える、というか、なんていうか」

「・・・」

平太の嘘偽りない感想に彼女は真顔になり、それからなぜか上から目線で「ふふ」と笑った。


「平太。私が来て、嬉しいと思った事、ある?」

「え」

それ、考えたこと無かった、と平太は思った。

彼女は期待したような顔をしている。

正直なところを告げるとマズイ気がしたので、平太は少し考える。


彼女の機嫌が降下してきた。

少しそらせていた視線を彼女に戻して、平太は言った。今新しく思った、本当のところを。

「こうやってやり取りするの、案外楽しいなと、思う」

「・・・『案外』」

「案外」

「・・・『案外』?」


ぷっと平太は笑った。

「『案外』は訂正するよ」

「もう」

彼女は呆れたように平太を睨んだ。それから、少し心配そうに、笑った。


平太は、安心させる言葉を言えなかった。


楽しいかもしれない。

でも、このまま進むことはできない。絶対、いつか生活できなくなる。


でも、泣かせたくないなぁと、平太は思った。

彼女は、平太の彼女なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ