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White Hero  作者: 夢見無終(ムッシュ)
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第五話 最大の敵、最難の敵、最強の……ミカタ? ―A part―

 今さらだが、それなら納得がいく―――。

 つまりサライルのプロテクトスキンは、母星を滅ぼした結晶核の残りを追っていたのだ。先回りしたスキンは、いずれこの地球に飛来するであろう結晶核の群れを待っていた…………ずっと、腕を組んで。

 俺は、なんてバカなことを――――

『タケト、四時の方向から敵!』

「四時…!」

 一瞬右斜め下を見てしまった自分の愚かさ。それを嘲笑うように右斜め後ろから敵がブチ当たってきて、爆発した。

「うああっ!」

『右肩部装甲破損、全装甲の六十五パーセントを損耗! 修復が追いつかない! このまま続けて攻撃を受ければ命はない!』

 しかし自分の周りを囲むように敵が飛びまわっている。避けろというのが無理な話……そもそも飛び込んだ時点で無謀だったか。カスタマイズしたスキンを装備したサライルもやられたのだ。スキンはどノーマル、実力はゼロ、闘争本能が小動物並みの俺が敵うはずがない。

 現れた七十四の結晶核の元に急行した俺は、夜明け前の海上でその圧倒的な脅威と対峙することになった。

 敵は、ミサイル。一基につき一個の結晶核を積んだミサイル。縦横無人に飛びまわる中型ミサイル。堕ちることのない不滅のミサイル―――。

「くっそ…爆発してるのに減らないぞ!」

『爆発しているのは弾頭の部分だけだ。おそらく基部にある結晶核が弾頭を再生・再装填している』

「どういうミサイルなんだよ!?」

 さらにこのミサイルには基部にアポジモーターが付いている。進行方向と垂直に噴射することで旋回半径を縮め、すぐにUターンして戻ってくるのだ。

「どこかで開発されていた最新兵器なのか!?」

『違う。これは地球製ではない』

「…そうか!」

 サライルの星のものだ! サライルの母星で分裂した結晶核は、異文化探求システム一つにつき十。地球に飛来した探求システムが分裂したであろう数よりはるかに多い。つまり、地球よりはるかに文明の進んだ星だった。その星を滅ぼしたのがこのミサイル群……。

 まずい。これだけのミサイルが永遠に絨毯爆撃していけばどうなる? 数が四分の一とはいえ、サライルの星を滅ぼしたんだぞ!? 実際に俺は何一つできていないじゃないか!

『――正面だ!』

「…はっ!」

 胴体にモロに爆撃を食らい、海に落ちた。痛覚はかなり麻痺してしまっている。爆発の熱や破片を防げていなかったら……スキンを着ていなかったら普通は即死か。ダメだ、どっちが上かもわからなくなってきた……。

『タケト、これ以上の戦闘継続は無理だと判断する。撤退するぞ』

「撤退して、どうするんだよ……こいつらを誰が止める…」

『アメリカ空軍が来た。後は任せて、一度退却しよう』

 海面から頭を出すと、白んできた空に点滅する光が見える。飛行機……戦闘機だ。ということは、もしかして空母もあるのか、な………。

 虚ろな意識で、バースに促されるまま逃げ去ったのだった。



「バカじゃないの!? ホントにバカじゃないの!? 一昨日も昨日も今日もって! 怪我も治りきってないのに、死にたいの!?」

 まだ午前六時半。しかし部活の朝練を欠かさないしょう子にとっては苦でもない。すでに登校する格好でばっちり待ち構えていた……鬼の形相で。しかし早朝の玄関前。近所迷惑にならないように、あくまで小声で怒鳴ってくる。

「怒んなよ……緊急だったんだしさぁ」

「朝のニュース見てなかったら気付かなかったじゃないの! バース…どうして教えなかったのよ」

『……すまない。緊急事態だった』

「からかってんの、アンタたち!?」

「大丈夫だって。まあ逃げ帰っちゃたけどさ、ピンピンしてるだろ」

「それは…!」

 しょう子が歯軋りする。その理由がわからない。

「……何だよ?」

「…とにかく。やせ我慢してるんでしょ。今日は学校休んで治して、どこにも出るな」

「またか…」

 やれやれとため息を吐くと、しょう子がキッと睨む。それは俺の右腕に対しても向けられた。

「バース。行かせたら許さないわよ」

『…了解した』

 昼にまた来るから待ってなさいよと言って、しょう子は肩を怒らせながら登校していった。

「まったく……朝からおっかないな。何であんなに血圧高いんだよアイツ」

 こっそりスキンを装着し、二階の窓からそっと自分の部屋に入る。出かけるときに寝巻からTシャツ・ジーパンに着替えたものの、裸足だった。靴を履きに玄関でごそごそすれば、親に見つかって揉めてしまうと思ったからだ。さすがにその点ではしょう子にバカと言われてもしょうがないが。

「行くなって言っても、もう一遍行くっての。なあ?」

『いや、今日は休養だ』

「はあ? さっきの了承は本気だったのか? オイオイ…」

『しょう子の言うとおり、タケトは連戦で疲弊している。身体にも相当な痛みがあるだろう』

「別に」

『嘘をつくな。本来なら入院していてもおかしくない。それに作戦なしでは先ほどの二の舞だ。完全回復し、十分な対策を練る必要がある………君はいろいろと、自覚するべきだ』

「わかったよ…」

 気のせいか強い口調のバース。とはいえ、身体が参っていることも、ミサイル群をどうにかする方法を思いつかないのも、間違いではない……。

 とりあえず布団に寝転がり……本当に身体が重いけど仮病で休まなければならないというわけのわからん事態に、さてどう言い訳したものかと考えていたら、七時半ごろ、なんとしょう子から家に電話がかかってきた。

「武人、しょう子ちゃんから電話あったけど、頭以外にどっか悪いの?」

 …母さんのいつもの手だ。ここで「頭はそれなりだよ!」などと返事すると元気だということがバレてしまうので、

「あー……熱はないけど、かなり吐きそう」

 と、「これからちょっと熱が上がるかも」みたいな感じでアピールしておく。結果的にはしょう子の電話が効いたようで、学校は休むこととなった。

「えらく手回しがいいな、しょう子のやつ」

『それだけ心配しているということだ。感謝した方がいい』

「…お前はたまに、しょう子の肩持つよな」

『君たちの関係性を理解してきたのかもしれないな』

「……どうだかな」

 テレビをつけると、どこのチャンネルもニュース特番だった。俺が見たアメリカ空軍は偵察部隊だったみたいで、あっという間にやられたようだ。しかし近くを航行していた巡洋艦などで防衛線を張っているらしい。日本の駐屯地からもアメリカ軍が出るらしいのだが、自衛隊も一緒に出向するかどうかで揉めているところらしい。

『ミサイル群がどこの所属かはっきりしないからだろう。しかしここで下手に協力しないと、自国のものかと嫌疑をかけられかねない。今は水面下で駆け引きが行われているのだろう』

「ぼさっとしている暇はないと思うけどな」

『迂闊に出ようとするな。今は様子をみるべきだ。ホワイトヒーローが日本製だという声は未だにある。与り知らぬところで外交カードにされてしまうぞ』

「そんなバカな話があるかよ…!」

『とにかく今は休め。状況が動いたら私が知らせる』

「くそ…」

 舌打ちするが、眠気もかなりきていた。ほとんど寝ていないし戦闘の疲れもあったが、太平洋の往復が一番効いていた。亜音速で片道三時間は、バースのオートパイロットでも死ねる。スキン越しでもそれなりにGがかかるからだ。実際に戦闘していた二十分足らずよりも移動で疲労を蓄積していた。

 どうせ後でまたしょう子と戦わなければならないのだ。もう何も考えずに寝よう……。





 ――何か気配を感じて、目が覚めた。直後にドアがノックされて母さんが顔を出す。

「あ、起きてる? お友達がお見舞いに来てくれたわよ」

「ふぁ?」

 欠伸しながら時計を見る。十一時十分過ぎ……。学校から直で来てもまだ早いんじゃ……というか、しょう子なら母さんが「お友達」なんて言わないか。

「誰?」

 まさか康祐じゃないだろうな…。

「五月二十美さんってコ」

「えっ!?? 五月さん!?」

 慌てて飛び起きた。あ、やべ。俺、仮病中なのに……。

「知り合い…なのよね?」

 母さんが思い切り眉間に皺を寄せて訊ねてくるのはなぜか。

「そうだけど、何で?」

「アンタにしょう子ちゃん以外にあんなきれいな子が…」

「何かいろいろおかしいよ、その発言」

 「女はしょう子だけじゃないだろ」とうっかり口に出そうになって堪えた。どう聞いても違う意味になって、さらに混乱を招くだけだ。

「違う学校の制服着てるけど…」

「この間、転校したんだよ。あれ、じゃあ何で俺のこと……とにかく上がってもらって」

 間もなく五月さんが部屋に現われた。改めて見れば、親が訝しげに首を捻るのも当然だよな。そこらのアイドルや女優を軽く超える美貌だ。接点が生まれただけで人生の運の半分以上を使ってしまっていることだろう。

「あ…っと、一昨日はどうも」

「いいえ。私もしょう子に頼まれなければ来なかったわ」

 あれ…微笑みはいつも通りだけど、今日はやけにトゲトゲしいな。

「しょう子がどうして…」

「寝てて。しょう子が来てから話をしましょう」

 俺の肩を押して布団に寝かしつけると、座って文庫本を広げ始めた。特に俺を気にすることもなく、本当にしょう子を待つつもりなのか。連絡を受けたというから、風邪じゃないことはわかっているんだろうけど……。

 母さんがお茶を持ってきたりしてしばらく慌ただしかったが、やがてうつらうつらと船を漕ぎ始めて………

 …ふっと顔に何かが触れた。いつの間にか閉じていた目を開けると、俺は息が止まった。

 指先が頬に―――添い寝する五月さんの顔が、すぐ近くに……!

「っ…えっ…と!?」

「寝てて」

「いや、なんというか………緊張して、眠れないんですけど…!」

「緊張…?」

 五月さんの指が俺の首筋に触れて、Tシャツの襟首の隙間から、胸元に……!

「ちょっ…なっ!?」

「緊張じゃなくて、興奮じゃない?」

 いつもとは違う妖しい笑み……やばいやばいヤバイ! 何でこんな展開になってんの!? 夢!? どっから夢!?

「私のも触ってみる…?」

「は!!?」

 何を…問うまでもない。つまり………

 戸惑う俺に抱きついてくる。そのまま俺の肩を引き、ごろりと身体を入れ替える。俺が上に――五月さんに覆いかぶさる形になる。

「ほら…」

 五月さんが自らの手でシャツのボタンを一つ外すと、花開くように襟元が緩む。眩しい肌が露わになって、それだけで俺は喉を鳴らしてしまった。俺の手は、無意識に……

 その時、ドアが開いた!!

「うあっ! これは違っ……あ…」

 母さんではなかった。もっと恐ろしい奴……しょう子だ!

 しょう子はしばらく固まっていた。が、無表情で俺を蹴り飛ばした後、腕を引いて起こした五月さんに何かぼそぼそと囁く。途端に五月さんは不機嫌な表情になった。

「私だって悪ふざけしたくなるときはあるわ。ほんの冗談よ。しょう子はわかってるくせに……」

 するとしょう子もまた表情を曇らせる。何なんだよもう……とりあえず誤解されることはなかったが、俺は蹴られ損か。俺の中で五月さんの印象が変わったことは確かだ。あまりにあまりな出来事だったのですぐに理由を聞きたいが、俺の知らないディープな関係を二人の間に感じて物怖じする。後でしょう子と二人の時に訊ねた方がよさそうだ。

 重い空気を打開するために、病人であるはずの俺自身がしょう子の分のお茶を取りに行く始末。母さんも眉を顰めるが、構っていられない。

「えー、あー……お二方とも、お見舞いありがとう。どうもご心配をおかけしました。とりあえず身体のほうはもう大丈夫ですので」

 正座してできるだけ丁寧に喋ったが、しょう子はため息を、五月さんに至ってはフンと顔を背けられた。どうしてここまで機嫌が悪い……?

『…状況を説明しよう。よく聞いてくれ』

「お、おお」

 バース……フォローかわからないが、とにかくありがとう。

『昨夜、次元の壁を越えて現れた多数の結晶核は、昨日打ち破った『未確認ヒーロー』こと、サライルが生前に戦っていたものと推測される。擬態しているのは兵器の発展型であり、サライルの星で生産されたミサイルがベースになっているようだ。地球製のものに似ているが、はるかに性能が高く、結晶核による自律機能と再生機能を備えている。それが七十四基だ』

「細かい性能はどうでもいい。肝心なのは処理できるのかどうかっていうこと。どうにかできるの?」

 五月さんの当たりはキツい。

『さすがに多勢に無勢だ。『メジロ』…鳥の群れのときと違い、一個体を破壊すればいいというものではない。高速で軌道を変えるミサイルに取り付くのも至難の業だが、結晶核を破壊するまでに他のミサイルに邪魔されることが一番のネックだ』

「厄介極まりないよな…。そういえば、あれからどうなったんだろうな」

 テレビを点ける。昼のニュースでライブ中継が流れているが、バラエティのチャンネルはそのままだ。今は台風情報のように外枠に流れていて、特番にはなっていない。

 ニュースによると、攻撃隊の第一陣はかなりの被害を受けて撤退。今は第二陣の出撃準備を待っているという。ミサイル群に動きはなく、ひとまず静観しているという状況だ。

「…動きがない? 移動しないのか?」

『それについては私も疑問だ。サライルの映像データでは苛烈なほどの攻撃だったが……』

「そんなのあるのか? ちょっと見せろ」

『しかし…』

「いいから」

 バースがブレスレットからコードを伸ばす。あ、これは五月さんに見せてもよかったのか? ホワイトヒーローであることを知っているなら大丈夫か?

 ニュースからビデオ画面になり―――現れた映像は、かなり上空から撮影されたものだった。

 そういえば弾幕系シューティングゲームってこんなだよな……と不謹慎なことを思いついてしまったのは、俺がバカというより、映像がバカみたいだったからだ。画面いっぱいのミサイルの群れが、本当にゲームのように、無限に爆撃していく。赤い爆発は噴火のようで、遠くで弾けた影は建造物か、あるいは人か。それが息つく間もなく連なって、地平線の向こうまで紅蓮の絨毯をつくる。

 地獄絵図だ…………。

「何なの、これ…」

 しょう子の声が震えている。俺もいつの間にか身震いしていた。

『サライルの星は人工島を三層に重ねており、内部に人工太陽を設置することで地表面積を三倍化、人口増加に対応してきた。しかし覚醒した異文化探求システムによって一カ月あまりで主要都市はほぼ壊滅…』

「もういい! 消してくれ」

 プチンとテレビが消えた。悪い夢でも見ていたようだ……。アレが本格的に活動を始めたら地球は終わりだ。

「…結晶核は迎撃ミサイルや大砲で潰せないの?」

 ぽつりと、五月さんがつぶやく。

『当たり所が良ければ可能かもしれない。もっともそれは、結晶核が単体でむき出しの状態であるならばの話だ。擬態する対象にもよるが、基本的には何らかの装甲で守られている。さらに今回のミサイル群は常に高速で移動している上、弾を避ける。すでにアメリカ軍が試したことだろう。一基も破壊できていないところをみると、成果は出ていないようだ』

「なら…核兵器なら?」

 五月さんはその薄い唇で、さらっととんでもないことを言い出す。

『直撃を受ければ蒸発は免れないだろうが…』

「出張った軍では歯が立たず、そのままミサイルが東に向かってきたら、一度はその機会があるんじゃない? アメリカにとってみれば、本土攻撃されるよりは洋上で破壊したほうがいい。もしアメリカが発射せずに本土が攻撃を受けた場合は、ワシントンを含む主要都市の壊滅で国としての機能を失ったところで、今度は別の国が核を撃ち込むかもしれない。さしずめ中国、ロシアとか。そして西に向かってきた場合―――これも中国あたりが上陸を嫌って撃つかも。手前の日本を無視してね。もうそういうレベルになったら、犠牲や環境破壊で非難を浴びるよりも世界を救ったという主張のほうが大きくなる。撃って被害を食い止めたという正当性も認められるだろうしね。そのために日本は生贄にされるだろうけど」

「…………」

 言葉がなかった。いや、でも……

「それはちょっと……さすがに飛躍しすぎじゃないかと思う…」

「じゃあどうするの? ホワイトヒーロー」

 五月さんの、そしてしょう子の視線を受けて、俺は上手い答えが何一つ出そうになかった。浮かんだのは、「どうして俺が」という逃れたい思いだけだ。

 『軽トラ』も『メジロ』も『タワー』もまだ何とかなった。それぞれの進化があって、その末に間接的に危害を加えるものだったからだ。人間が被害を受けるまで、まだ一歩余裕があった。しかし今回のは違う。破壊するために、人を殺すために存在する『兵器』。立ち塞がらなければ、後ろにいる人たちは死ぬ。だが、盾となるには己はあまりにも薄っぺらな存在だ。バースを手に入れて、俺は『超人』になったのかもしれない。でも『人』だ。その枠を超えることはできない………。

「…帰るわ」

 五月さんが立ち上がる。

「いい案も浮かばないし、私が協力できることはないわ。あの『未確認ヒーロー』も勝てなかったし、盾林くんに無理強いする気はない。しょう子も怒るし」

 しょう子が複雑な顔をしたが、五月さんは笑みをこぼして返す。そして改めて俺に向き直った。

「核兵器なんてそうそう使えるものじゃないし、現実的じゃない……今の段階ではね。でも撃とうが撃つまいが、ああいう無残な結果になるのは変わらない。あきらめるわけじゃないけど……これも一つの運命なのかもね」

 俺は………何も言えない。

「しょう子、帰ろう」

「え……でも…」

「後は盾林くんが決めること。心配するのはわかるけど、しょう子がここにいたら追い詰めるだけよ。わかるでしょう?」

「…………」

 しょう子は腰を上げながら、俺に不安げな目を向ける。いや……不安を抱えているのは俺だ。だからしょう子がそんな顔をする。

「大丈夫だ、しょう子。明日から土日で学校もないんだし、厄介だけどどうにかなる。ミサイル一発あたりの破壊力は耐えられる程度だし、身体だってほら、大したダメージもないし」

「盾林くん―――」

 溜め息を吐いた五月さんは、

「バカね」

 呆れたように、冷たく笑った。





 部屋の片隅でずっと座り込んでいた。日が落ち、夜が更けても――。

 時刻は深夜の十二時を過ぎた。カーテンを閉めていない窓から星明かりが入り、照明の点いていない部屋を青く染める。

 静かだ………。

 昨日の今頃に慌ただしくしていたことが遠い記憶のように思えてくるが、昼間の出来事が今の俺を苛んでいる。

 恐怖……敗北という名の恐怖が纏わりついて離れない。やられて死ぬことが怖い。そして敗北した結果がもたらす未来が恐ろしい…。

 テレビで見る限り、ミサイル群は相変わらず海の上をウロウロしているようだ。ここにきてミサイル群は実はUFOなのではないかという声が一部で上がり始めた。規格外の性能を目の当たりにすればそういう流れになっても不思議ではないし、それが真実だ。

「…バース」

『何だ』

「五月さんの核の話……どう思う」

『タケトと同じ意見だ。飛躍しすぎだと判断する。この世界の情勢は核兵器を撃たないことで均衡が保たれている』

「核はあくまで抑止力か…」

『その通りだ。そうでなくとも世論が撃たせないだろう。しかし選択肢の一つであることも、おそらく間違いではない。その場合は世間を納得させるだけのものが必要だ。たとえば国連で決議されるとか』

「日本が壊滅するとか、か?」

『全ての国が承認した上でなら責任も問われない』

「そういう問題かよ」

『そのことも含めて、今は世界の首脳陣が調整を行っているところだろう。軍も現在は攻撃しておらず、様子見のようだ。不安になることはない』

「そうは言っても、あの映像を見てしまったらな……」

 延々と赤く爆ぜていく人や街………世界の終焉―――。

『…悲惨な有様だった』

「あれが今度はこの星で起こるんだぞ」

『まだ決まったわけではない。悲観的になるな。特別な星の下に生まれたのだろう?』

「それは慰めてんのか…」

 苦笑し、俺は頭を抱えた。

「ヒーローってのは辛いな、バース。俺は今の今になって、ようやく敗北が許されない立場だってことに気付かされたよ。俺一人じゃない、大勢の人の命を背負ってるんだな」

『それは違う。タケトは民間人の協力者だ。特殊な装備を所持しているからといって、他人の命運を背負って戦う義務はない。戦線に立つことを放棄したからといって、誰も責められるわけではない。君は君自身の勇気と正義感でこれまで戦ってきたのだ。そんなタケトが装着者であることを私は誇りに思うし、出会えて僥倖だったとも感じている』

「…お前さ、『思う』とか『感じる』って言ってるときは嘘だろ? だって感情がないんだよな?」

『……確かに感情はない。しかし論理回路で処理できない思考が感情だとするならば、私の言葉に偽りはない』

「ハッ、ややこしすぎてわかんねぇよ……」

 俺は大の字になって天井を見上げた。

「バース………どうすればいい……」

『……………』

 俺は何もできないまま、意識を闇に呑まれていく………。

『…む。これは…!』

「…ん? おい、まさか…!」

 起き上ったその時、突風が窓を叩く。それが治まると、続いて何かに窓をノックされた。

「な…に!?」

 同化していた風景から徐々に浮かび上がったのは………見慣れた姿の異邦人だった。

 





 


 核を撃つとかなんとか出てますが、この作品はフィクションですのであしからず。

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