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White Hero  作者: 夢見無終(ムッシュ)
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第四話 未確認ヒーロー ―A part―

「あー、ようやく夏休みだな!」

 閑静な住宅街を自宅に向かって抜けながら、真上に陣取るまぶしい太陽に腕を突き上げ、大きく伸びをする。

『終業までにはまだ五日ほど登校日があるのではないか?』

「期末試験が終われば休みなんだよ、気分が! どうせこれから午前中しか授業ないんだし」

『夏休みの予定はもう決まっているのか』

「あ?」

 変なことを聞く…あ、そういうことか。

「盆に父親の実家に帰省ってのがお決まりかな。後は特になし。重蔵さんに道場に引き込まれないように逃げ回るくらいだ。他には予定を入れてない、というか入れない。探究システムが出たらすぐ行かないといけないだろ? 海外とか遠くにいる奴は休みの間に相手してしまわないとな」

『なるほど、それはこちらにとってありがたい。しかしそれはそれとして、ショウコと一緒に出かけたりはしないのか』

 また変なことを聞く…。何言ってやがると、バースの付いた右腕をぶんぶん振る。

「どこに、どういう理由でしょう子と出かけるんだよ」

『一般的なデートだ。どこに行くかは君らで決めればいい。最近、ショウコとの会話が減っているだろう』

「まあ…避けられてるわな。いつもみたいに試験前に勉強教えてとも言ってこなかったし」

『この間の話が原因ではないのか』

「……そう言われても、な」

 俺はしょう子に自信をつけさせることしか頭になかったから、あんな話になってパニックになって、うっかり口を滑らせてとんでもないことをバラしてしまった。そりゃあ「エロい目でお前を見てる」なんて何宣言だよ。ただの変態だもんな……。自分でも何が言いたかったのか、あの後ずっと悩んだが結局わからなかった。

「いや…でもな、確かにあんなこと言っちゃったけど、あれは思春期男子ならよくあることだろ、たぶん。あれはあくまで一般論の一例で、しょう子がそれをわかってなかったんだよ」

『そうか。するとタケトは相手が誰であっても性的興奮を覚えるわけだな』

「人を無節操な獣みたいに言うな!」

 リストバンド越しにバースにデコピンを食らわせる。客観的にはマヌケな自虐人間に見えているだろう、ノリでやったが割と恥ずかしい。

『…異文化探究システムについてだが、現状、これ以上出現する可能性は低い』

「うん? それはどういうことだ?」

『異文化探究システムはランダムに異世界へ放出され、漂着先で結晶核を分散し、データを収集するようにプログラムされている。いくつに分散されるかは現地の文化レベルやシステムの状況によって変わるため断定できないが、調べた結果、およそ六十五年前に結晶核の一つが覚醒したらしいことが確認された』

「何ぃ!? 六十五年前って…」

 終戦してちょっと経ったくらい。そんな前から存在していたのか。

「その時のヤツはどうなったんだよ?」

『そのシステムが擬態したのは兵器だった。世界大戦終結後、当時この国の虎の子だったヤマト級戦艦に擬態し、最終的には戦時中でも存在しなかった超大型戦艦となったらしい』

「それで!? どうなった!?」

『取り込んだヤマト級戦艦の影響か、太平洋へ出航した『未完ヤマト』だが、不手際の発覚を恐れた占領軍によって内々に処理された。占領軍は反発した軍の残党に強奪されたものと思い込んでいたのだろう』

「処理ってのは具体的にどうしたんだ?」

『『未完ヤマト』はヤマト級戦艦の大艦巨砲の理念を発展させたらしい。5500ミリの主砲を始めとする大型砲塔を多数搭載していたらしいが、あまりに飛距離がなく、航空戦力の前に轟沈したようだ』

「……今となっちゃ笑い話かもな」

『この話からすると、異文化探求システムが飛来したのは六十五年以上前。その文化レベルから推察するに、結晶核の分散数は五個以下だろう。加えて今日までの地球の技術促進のスピードを考慮すると、すべての結晶核が覚醒状態になっておかしくない。『メジロ』の時を思い出してくれ。釣られるように『タワー』が覚醒しただろう。現地―――この国は、高度成長期からの急激な技術革新が落ち着き、現在は停滞状態にあり、異文化探究システムも時期として芽吹かざるをえない時期にきているわけだ。逆に言えば、この間の『メジロ』の時に覚醒が確認できなかったのなら、これ以上結晶核が存在しないことも考えられる。もちろん徹底した調査は必要だが』

「なるほど…。結晶核は元々一つで、おそらくこの辺っつーか、この国に分かれて散ったんだな? それで数的にも時期的にもいっぱいいっぱいだろうから、もう現れることはないだろうと――」

『大雑把だが、その認識で間違いない』

「どうやってそんな情報を得た?」

『……不眠不休の調査の賜物だ』

「ふうん…?」

 バースにしてはどこか不合理な回答だな…。

『それでだ―――驚異はないのだから、ショウコとデートしたらどうだ』

「そこに戻んの!? デートって……探究システムがないなんて、まだ憶測の段階だろ!? いつも言ってるだろ、そうそう上手くはいかないって」

『以前から感じていたが、タケトは少々悲観的なのではないか。憎からず思っている女子とのデートを拒むなど、思春期男子としておかしい』

「何だと!? おかしいのはお前だろ!? どうして俺としょう子のことに絡んでくるんだよ! それにさっき何て言った!? 『以前から感じて』!? 機械の分際で『感じる』とはどういう意味だ、この―――」

 ビカッ――――!!!

「うおっ……!?」

 突然世界が赤紫に染まる。見上げると、遥か上空、入道雲の合間に現れたその光の点は、太陽よりも激しく輝いた後、急速に光を失って歓楽街の方へ落下した。

 茫然としているうちに、遠くからサイレンの音が聞こえてくる……。

『…前言を撤回しよう。タケトには予知能力があるのか? 尽く悪い予感が的中する』

「不幸の象徴みたいに言うな、そんな能力はねぇよ! ちょっと特別な星の下に生まれてきたらしいってのは、お前を拾った時点で証明されてるだろ」

 人目を確認して素早くスキンを装着し、現場へと飛んだ。



 ラブホテルの門前に直立する未確認物体。望遠カメラで捉えた映像が出た時、俺は目を剥いた。

「なあ、あれって……お前のお仲間じゃねぇの」

 どうみても、腕組みをして直立しているプロテクトスキン装着者だ。

『正しくは、私と類似した兵装を装備した別次元の人間だ』

「ナントカカントカ排除システムじゃない?」

『個人装備型脅威排除武装システムだ。兵装のシリアルから私と同種の存在だと確認できた』

「じゃあ仲間じゃん」

『…その通りだ』

 バースはどうも歯切れが悪い。

「しかしちょっとスキンの形が違うよな。部分的に青い色とか入ってカラフルだし。あっちのが強そうだ」

『本国で認証を受け、カスタマイズされている。スタイルによって特化した能力が違うが、基本的なスペックはこちらの二倍以上と予想される』

「確かに。ヒーローものなら中盤以降のパワーアップフォームって感じのルックスだもんな」

『その譬えに準じると、こちらは前半クライマックスに退場してしまう敵の中堅幹部程度の性能しかない』

「…ヤな譬えになったな。まあそれだけ向こうが頼りになる戦力なんだろうけど。傷の残った装甲がいかにも歴戦の戦士って感じで渋い……いや、ちょっとボロすぎな気もするけど」

『そこが気がかりなのだが…』

「そこ? どこ?」

『いや…。とりあえず接触を試みよう。群衆が集まってきている。さらに警察が多数出動して、これば厄介だ』

「うし」

 未確認ヒーローを取り囲む野次馬はさすがに一定の距離を置いていた。駅前の時ほど人がいなかったのは不幸中の幸いだろう。ラブホテルが向い合せに三軒ずつ並ぶこの一帯は二車線道路が通っているとはいえ、人の行き来は少ない。用がない人間はあまり通り抜けたくないし、用があったとしても、まあ……よい子の俺はわからないが、平日の真昼間から繁盛しているのもどうかってことだろう。だからか、野次馬の何割かは様子を見にきたホテルの従業員らしかった。

 ドーナツ状に広がる野次馬の真ん中、未確認ヒーローが立っている正面に降り立ちステルスを解除するが、突然姿を現せたのは失敗だった。周りが騒然となる。

「あー……この人連れてさっさとここを離れよう。とはいえ、言葉は通じるのか?」

『私が翻訳して伝える』

「じゃあ、えー……自分はこの国の人間で、個人装備型………排除…システムに協力し、異文化探究システムと戦ってきた者です。お話を伺いたいのですが、ここでは混乱を招くので場所を移しましょう。ついてきてください」

 そう言って返事を待つが、腕を組んだまま動かない。真正面に立っているはずだが、こちらを見ていないような気がする。マスクのデュアルアイも光らない……呼吸すらしていないように見える。

「? バース、伝わったのか?」

『意訳して送信したが、反応がない。もしかすると音声で会話しない人種なのかもしれない。タケト、テレパシーによる呼びかけを』

「できねぇよ! ふざけてんのか!? つーか……本当にどうなっている? コイツ、意識があるのか?」

 手が届く距離まで近づいた時―――

 トンッ…

「ん?」

 腕組みを解いた未確認ヒーローの右手が俺の脇腹にパンチ…なのか、とにかく拳が当たっている。殴ったというより触れただけだが、その右拳が見覚えのある色に光り輝くと、接触したところからスキンにパキパキとヒビが入って…!

『下がれタケト!』

 ズン――ッ!!

 同じ処に再び放たれたパンチは、およそ殴るという行為に分類できない超人的な一撃だった。威力が半壊したスキンを突き破り、身体の中で激痛となって暴れる。

「ぅあっ、あがぁ…っ!!」

『タケト!!』

 脇腹を押えながら転がるように後退するが、膝を着いて丸まったまま、立てそうもない。

「ぐうぅっ、うう…!」

『タケト! タケト! 大丈夫か!?』

「何が、起こったっ…!?」

『波動衝だ。本来結晶核に用いる波動衝を応用した攻撃でスキンを破壊され、そこへ重ねて攻撃を受けた。スキンの構成素材が同じであることを逆手に取った戦法だ』

「ワケわかんねぇ…!」

『痛みが許容量を超えて混乱しているのだ。肋骨が三本折れている。内蔵のダメージは現在スキャン中だが――』

「そういうことじゃなくてッ……味方じゃないのかよ…!」

 未確認ヒーローは拳法家のように両の鉄拳を豪胆に構えている。と、両腕をクロスさせ、気合を入れるように開くと、なんと肩から腕が生える! 

「うおぉっ…!」

『動じるな、ただのサブアームだ』

 しかしそのインパクトは絶大だ! まるで手品―――そしてマスクのサブアイが煌く。

「……あ!?」

『! タケト、防ぎょ――』

 一瞬で、いやそれすらも感じとれないまま、俺は逆さになった未確認ヒーローの背中を……

『時間遅延機能を使用された! 使用者から半径数メートル、三秒程度だが空間制御までの展開が一瞬だ…む? タケト?』

 横たわった武人からは返事がない。かすかなうめき声はあるが、意識を失っている。

『意識の混濁…ショック症状を確認。装着者非常事態につき、緊急モードに移行。現場から離脱する』

 糸に吊り下げられたように力なく飛び去っていくホワイトヒーロー。どよめく群衆の視線を浴びながら、未確認ヒーローは再び腕を組み、沈黙した。


 



『ショウコ、カメラがブレている』

「わかってるわよ…」

 繁華街のラブホテル通りを見通せるビルの五階・非常階段からハンディビデオを構えていた。レンズが捉えるのは、警察と報道カメラに囲まれながらも仁王立ちする例のヤツだ。手首のバース(子機)と繋げてデータを採取している。

「…これでアレに勝てるの?」

『対象から攻撃は受けたが、敵とするには根拠が足りない。シリアルナンバー、ID認証を確認し、私と同タイプの異文化探究システム迎撃兵器であることは間違いない。カスタマイズされているところからして、装着者共々本国で正式に認可されているはずなのだ』

「それが問答無用で攻撃? アンタの国の倫理感が疑われるわ」

『問答無用ではなく、意思の疎通がなされていない。システム間の交信ができないのは何らかの故障の可能性もある』

「でも殴ったのは装着してる人なんでしょうが」

『その通りだが……ショウコ、少し落ち着いてくれ。いろいろ混乱しているのは理解できる』

「うるさい…!」

 武人が重傷を負った、しかしそれだけではない―――。

『む…』

「何?」

「―――しょう子♪」

 ポンと肩を叩かれて息が止まりそうになった。全然足音がしなかった…。

「盾林くんの処置、終わったよ」

「あっそ…」

 身構えながら振り向く。変わらぬ微笑みの、五月二十美だった。

 バースから知らせを受け、部活が始まる直前に学校を飛び出した私の前に、二十美が謀ったように現れたのだ。新たに現れたバースの仲間(らしい奴)を確認することが目的だったようなのだが、ついでに私の様子も見に来たらしい。

 再会した二十美は状況を知り、武人の治療を行うこと、それに自分の住んでいるマンションを一時的に匿う場所として提供すると提案してきた。予想外の事だが、形振り構ってもいられなかった。前回倒れたときとは違い、今回ははっきり外傷がある。しかも「ホワイトヒーロー」がやられたのと同じ部分だ。野次馬が撮った画像も出回っているみたいだし、偶然で押し通すのはあまりに難しい。しかし二十美なら一日で骨を整復できるというのだ。

 もちろん、無条件というわけではない。口には出さないが、私が狙いなのは一目瞭然だった。提案を受け入れた結果、私は二十美に半ばされるがままになっている。今もそう……歩きながら腕を絡めてきた二十美を振り払えないでいた。

「しかし盾林くんも災難ね。結晶核はもう打ち止めだろうって情報流してあげたのにコレだもの」

「何の話?」

「アンチシステムに情報提供していたのよ」

 リストバンドの下のバースを睨む。弁明はない。

「…どうして協力してくれるの?」

「まだ来るかも、まだ来るかもってずっと構えてたら、しょう子は盾林くんにずっとべったりでしょう? それは嫌だもの」

 明解な理由があった。ある意味安心した…。

「あーあ、本当は夏休みに入ってから偶然を装って再会して、そのままデートして付き合う流れだったのにね」

「……三年間は会わないんじゃなかったの!?」

「ええ? 三年経っていきなり現われて結婚してください? そんなの受ける? ちゃんと段階踏んでからに決まっているじゃない。転校したのは、少し距離を置いた方がしょう子の負担にならないと思ったから。私は毎日会いたいけど、しょう子は盾林くんにバレないかって不安になるでしょ?」

「そのために…?」

「そうよ」

 一応は私を気遣ってくれているらしい。まさか転校までするとは……。

 しかしうっかり感じ入っていると、二十美が「惚れた?」と調子に乗ってきたので、絡めていた腕を捻ってやった。

 二十美の住んでいるマンションは近かった。転校先は二駅はなれた隣町の高校らしい。拍子抜けもいいところだ。

 武人は奥の部屋で眠っている。運び込んだときは痛みに呻き声を上げていたが、今はウソみたいに落ち着いている。二十美によれば、バイオセルで体内の損傷を治し、身体に負担がかかるギリギリのところまで自己治癒機能を高めているらしい。完全ではないものの、もう骨はいくらかくっつき始めたそうだ。

「そんなに心配しなくても、ちゃんと治療しているから。こっちでお茶でも飲まない?」

「ありがと…」

 襖を閉めて、リビングで腰を下ろす。一人暮らしで2LDKはかなり広いが、家具もほとんど置いていないためさらに広く感じる。

「気にならないの?」

「?」

 ミニテーブルの上に紅茶の入ったカップを置きながら訊ねてくる。何を指してのことかわからない。気になるというか、聞きたいことは山ほどある。

 二十美はわざわざ隣に座り、もったいぶってから口を開く。

「どうやって盾林くんにバイオセルを移したか――」

 わざとらしく口元に指を当てて見せる。ああ、そういうこと…。

「別に…」

「あれ、意外と反応薄い?」

「武人を助けるために必要だったんでしょ。人工呼吸と同じこと」

「そういう割り切り方するんだ……フッ、ちょっと大人になったつもり?」

 見透かされている……。

「でもまあいいわ。私も口移しなんてしていないし、したくもないし」

「そんなのよりも別に気になってることがある。この部屋見て確信したけど、前に見た破廉恥な夢、あれアンタの仕業でしょ!?」

 するとにんまりとした二十美が私の手に手を重ね、肩を寄せてきた。

「この場所でそんなこと言いだすなんて………誘ってる?」

「何言ってんのよ…! アンタの毒が身体の中で悪さしないかって言ってんの!」

 重ねてきた手を払おうとするが、二十美は指を絡め、離さない。

「そういうつもりなら好き放題してる。私はこれで年上、結構大人なのよ? 理性振り切って衝動で行動したりしない」

「どうだか…」

「大体、私の目的はしょう子に好かれることなんだから。しょう子が困っているなら、いくらでも助けてあげる」

 手をきゅっと握りながらそんなふうに言われて、不覚にも胸がきゅんとなる。

「それで……」

「え?」

「しょう子のほうからお礼の気持ちはないの?」

「………」

 ……一気に冷めた。やはりリターンを求めてのことか。

「…何が望み?」

「どこまでだったらいい?」

「どこまでって、何が…!?」

「軽いキスならどう?」

「キ…あっ」

 顎をとってぐいと引かれる。二十美の吐息が顔に触れた。背筋にどっと汗が噴き出てくる。

「か、軽く、ちょっとよ!? 気持ち程度なんだから!」

「……意外。いいんだ」

「え!? や、でもっ…」

「いいよ、軽くでもちょっとでも。ただし、しょう子のほうからしてほしいな」

「ええっ!?」

「そうじゃないとご褒美にならないし」

「何よご褒美って、子供みたいに……」

「大人はね、甘え上手なのよ?」

 その甘い声に含まれる色気は確かに子供のそれではない。女の自分がくらりと惑わされそうになっている。でもそれがコイツの手…。

「……私からっていうなら、しない」

「うん? どうして?」

「私は二十美に対してそれほどの気持ちを持っていないから。ちゃんと態度を示さないのは、アンタの気持ちに対する裏切りになる」

 二十美は目をぱちくりとさせ―――ごくりと喉を鳴らし、一気に押し倒してきた!

「ちょっ…!? 何やってんのよ!!」

「ごめん、ちょっとムラムラしてきた」

「はぁ!?」

 二十美の目は少し蕩けて……あの屋上の時と同じ。本気だ…!

「さっきは衝動で行動しないって…!」

「大人は自分に都合よくしかできないの」

「三年の約束は!?」

「三年はしょう子を束縛しない。でも言ったでしょ、段階を踏むって。いわばお試し期間でもあるわけで………じっくり味見しないと、判断できないでしょう?」

 そう囁いて、私の首元に顔を埋めてくる。味見って……!

「止めっ…待って!!」

 首を捩って武人が寝ている部屋を見上げる。襖は閉まったままだけど、今の会話を聞かれていたんじゃないか? というより、この状況を見られたら――!

「心配しなくても盾林くんは眠っているわよ。事が終るまで、ね」

「!」

 この女、バイオセルで武人の睡眠をコントロールしているのか! 

「夢でイメトレもしたし……いいよね?」

「いいわけないっ! ホントに…止めてっ…!!」

 圧し掛かって手足を絡めてくる二十美に、本気で抵抗して―――




「う……」

『…ようやく目覚めることができたか』

「…ん!?」

 戸惑った。バースの発言についてもだが、現在の状況に関してもだ。

 記憶はすぐに戻った。あの未確認ヒーローにボコられて、敗北。とりあえずそれはいい。問題は、ここが病院じゃないということだ。俺の家でもしょう子の家でもない……?

「バース、ここは…」

 上半身を起こすと左脇腹が痛い。

「ああ、目が覚めた」

 勢いよく襖が開いて現われたのは、上は制服のブラウスで下はジャージのしょう子と、同じように下がジーパンの………五月さん!?

「え!? ここどこ!? 夢!?」

「寝ぼけんな、バカ武人」

 しょう子はすさまじく機嫌が悪かった。俺が無様にやられたからだろうか。仕方なく、俺はもう一人の苦笑いの絶えない人物に声をかけた。

「えっと、五月さん…?」

「久しぶりね、盾林くん」

「どうも……どうしてここに?」

「私の家だからね、ホワイトヒーロー」

 「ホワイトヒーロー」と名指しされ、凍りついた。正体がバレてる!? そんな……どうして!?

 と、しょう子のスマホが鳴る。しょう子がジャージのポケットから出すと、バースの声が聞こえてきた。

『……すまない、私の不注意で正体を知られてしまった。彼女には事情を説明し、協力してもらっている。部屋を用意してくれたのも彼女の好意だ』

「え…あっと…」

 バースはわざわざスマホのスピーカーを使って説明してきた。五月さんに聞こえるように……ということは、事情は全て織り込み済みと理解していいのだろうか。ちらりと様子を窺うと、彼女はニコリと会釈を返してくる。一応しょう子にも目をやるが、曖昧な反応だった。

「そうなんだ……どうもありがとう」

「ううん。しょう子も困っていたみたいだし」

「困ってはいたけど、私から二十美にお願いした覚えはない」

 あれ? しょう子? 二十美?

「二人って、名前で呼び合うほど仲良かったっけ…?」

 すると五月さんがしょう子に顔を寄せる。

「仲いいよ。特別に……ね?」

 近い、近い近い…! なんか、そのまま……うおっ、しょう子が力づくで押しやった。

「大っ嫌い!!」

 きっぱり言い切った。しょう子にしては珍しい。そして二人の仲がいよいよわからない。

『……タケト、状況を説明しよう。突如現れた個人装備型脅威排除武装システム装着者――』

「あの『未確認ヒーロー』な」

『『未確認ヒーロー』……呼称を設定しておこう。『未確認ヒーロー』に攻撃を受けたタケトは意識を失い、私の判断で緊急モードに移行し、離脱した。覚えているか?』

「ああ。確か肋骨を……パッキリいってるのか?」

 自分で口にして青ざめる。親に説明しようがなく、病院には行きにくいが、行かざるを得ないだろう。

『…心配ない。少しヒビが入っている程度だ。無理しなければ自然治癒できるレベルにある』

「ホントか? でも確かにメキメキって感触が…」

『それは破壊された装甲だろう』

「そうか…。なんだ、折れてねぇんじゃん」

「盾林くん、ヒビでも骨折って言うのよ」

「あ、そうなの…?」

 ちょっと安心したところで五月さんに水を差された。しょう子はなぜか黙ったままだ。

『さて、その後『未確認ヒーロー』がどうなったかだが―――テレビを』

 テレビはリビングということなので、部屋を移動する。多少身体が痛むが問題ない。結構やられたように思ったが、そうでもなかったのか。

 布団から足を抜いて、ふと気付く。これは五月さんが普段使っているものじゃないのか? 確か、一人暮らしだって学校で言ってた気が……。

「そんなに緊張しなくても、それはお客さん用で、私の布団じゃないよ」

 心を読まれた!?

「男の子って、すぐ顔に出るから」

 クスリと笑われ―――しょう子にはひどく睨まれた。

 リビングでテレビを点けると、夕方のニュースは未確認ヒーローの話題で持ちきりだ……あ、もう六時か。

「警察が取り囲んでいるな…」

『ホワイトヒーローの敗北は、かなりの反響を呼んでいる。個々によって程度の差はあれ、我々は正義の味方だった。しかし今回の件で『未確認ヒーロー』、そして外見上も類似している我々は驚異の存在だと民衆に捉えられつつある』

「拿捕されるのか?」

『すでに一度試みられた後だ。見ろ――』

 テレビに三時頃の録画映像が流される。警察がサスマタを持って捕縛を試みるが、近づいた者はことごとく殴り飛ばされていた。

「…………」

『死者が出ていないのが不幸中の幸いだ。タケト、どうする?』

「どうするってどういうこと? 武人に止めに行けっていうの? 探究システムでもないのに!?」

 しょう子が声を荒げた。

「今回は相手が違うでしょ!? そもそもスペックからして違うって話だし……戦えるの? 戦いになるの!?」

『ショウコの指摘はもっともだ。『未確認ヒーロー』は戦闘用として完成されたモデルだ。正面からでは十中八九、勝利を納めるのは難しいだろう』

「…そもそも何をもって勝利なんだ? 向こうだって、まさか地球を侵略しに来たわけじゃないだろう? バースと同じAIの載った装備を使っているのなら、意思の疎通はできるはずだ。するべきことは未確認ヒーローを説得することと、これ以上被害を拡大させないことじゃないか? 単純に、たとえばホワイトヒーローから声明を出して、あいつに近づかないでくださいってすれば、あとは未確認ヒーローの出方を見ながらやればいい」

『タケトの案は最善策の一つだ。そうするべきだろう』

「――でも、そんなにのんびり構えていていいの?」

 ここにきて五月さんが口を出してきた。

『…聞こう、サツキハツミ』

「盾林くんが戦ってきたっていう異文化探究システムは社会的に認知されていないけれど、『バース』は明らかにオーバーテクノロジーよ。その技術は誰もが欲しいはず。今回のことで日本は同様の装備を持つ『未確認ヒーロー』を堂々と捕える大義名分を得たわけだけど、手錠をかけるなんて無理な話だし、通常の銃弾も効かないんでしょう? 実際は手出ししようがない。そこで諸外国の協力を仰ぐような事態になれば、未確認ヒーローを接収した後、報酬として技術を分配され、この世界に不要な進歩をもたらせてしまう。それはバースにとって一番不都合なことじゃないの?」

『……………』

 バースは返答しないが、俺も言葉がなかった。まさか五月さんがこんな大局的な視野で物事を見ることができるなんて……同じ高校生とは思えない。

「早急に『未確認ヒーロー』を人の手の届かない所へ移す必要があるわね。それが出来なければ、ホワイトヒーローの手で破壊するしかない」

「二十美っ――!」

 肩を引くしょう子の手を、五月さんはあっさりと払いのけた。

「未知のテクノロジーの旨みを知れば、二匹目のドジョウを追いたくなるものよ。『未確認ヒーロー』が捕まれば、次は『ホワイトヒーロー』が狙われることになる。選択肢はおよそ三つ。意志の通じない異邦人を倒して回収もしくは破壊するか、追われる身になって逃げ回るか、『バース』そのものを捨ててしまうか。どうしよう、盾林くん?」

「……どうするかな」

 バースと同じく、判断を求めるのか。溜息一つ、そして俺は立ち上がった。

「とりあえず帰る。これ以上迷惑かけるわけにもいかないし、帰って考えるわ。しょう子はどうする?」

「……少しだけ話があるから、先に下に降りてて」

 何か、聞かれたくない類の話だというのは声色でわかった。

「ん。ありがと五月さん、いろいろ。いつか絶対お礼するし」

「気にしないでね、本当に」



 武人が玄関のドアを閉めるのを確認して、しょう子は二十美にくってかかった。

「どうしてあんな煽るようなこと言うのよ!?」

「煽る?」

「武人は生き物を傷つけたりできる性格じゃない! まして相手が人ならなおさら…!」

「それは前にも聞いたけど……ピュアなんだ、盾林くんもしょう子も」

 顔を真っ赤にさせて、しょう子はさらに毛を逆立てる。

「アンタに治してもらったとはいえ、あっさりやられた相手なのよ!?」

「盾林くんが臆病だというのなら、私のために戦ってって言ってみたら? 女の子の頼みなら、男の子は意地になるものよ」

「っ―――!」

 しょう子は感情のまま平手打ちしていた。

 二十美は茫然とするが、すぐに殴られた頬に手を当て、しょう子を睨んだ。

「…今のはどうして叩かれたのかわからないわ。理由を説明してくれる?」

「武人を………バカにしたから…!」

「フッ……笑えるわね。盾林くんをバカにしてるのはしょう子じゃないの?」

 しょう子の肩をドンと押し、壁に押さえつける。苛立った表情にしょう子は気圧された。

「どんなに優しい性格でも、彼は男よ。自分がやってやろうってプライドは持ってる。なのにしょう子が必要以上に庇って、彼を小さい男にしようとしてるのよ。言わせてもらうけど、しょう子は人との接し方がまるで子供ね」

「う…」

「彼の表情を見てた? 慌てず、何か確信めいたものを持っていた。しょう子が気を遣わなくてもちゃんと―――…って、どうして私が盾林くんを擁護しなきゃいけないのよ…!」

 と、気づくとしょう子が涙目になっていた。

「ちょっと……泣かないで」

「泣いてない…! 私だってわかってる! けど、武人が傷ついて悩むのは見てられない! 仕方ないじゃない、小さい頃からそういうふうに刷り込まれてるんだから……!」

「わかった、わかったから、もう……」

 二十美が抱き寄せて頭を撫でると、しょう子は額を二十美の胸元に押し付けた。

「叩いて、ごめん……」

 背中から腰へと降りようとしていた二十美の手が止まる。

「ほっぺにキス……いや――これで許してあげる」

 叩かれた左の頬でしょう子の顔にこれでもかと頬ずりすると、しょう子が嫌がって、いつものブスッとした表情に戻る。

「ほら、もう盾林くんが待ってるでしょう。深刻に考えないで、さっさと行って。しょう子と仲が悪いなんて思われるのは面倒だから」

 脱衣所に干していたスカートを手早く畳んでしょう子に渡す。押し倒したとき、暴れたしょう子の足がテーブルをひっくり返して二人とも紅茶を浴びたのだった。バイオセルで軽度の火傷はすぐに治ったが、スカートはシミになるため洗濯していた。

 スカートを受け取ったしょう子は微妙な表情で二十美を見返す。

「……ああいうのは困る。二十美の本気に応えられないし……」

「…今はそのことはいいから。ほら、早く行く!」

 背中を押して半ば追い出すようにしょう子を帰した二十美は、しばらく玄関のドアを見つめて、しょう子の残像を追っていた。

「……幼馴染って、ハンデありすぎよね」

 憎々しく思う。こうして学校の外で三人で集まって、ひしひしと感じた。談笑してようが喧嘩してようが無言だろうが、盾林武人としょう子の間には易々と割り込めない絆がある。武人が眠っていて、しょう子と二人きりで話している時でさえ、何度嫉妬したことか。振り向かせたくて、幾度となく襲ってしまいたい衝動に駆られて、その度に私をかわす言い訳に武人を持ち出すしょう子を卑怯と責める隙間もない。ごく自然に、ごくごく当たり前に二人が二人でいることが、恨めしくて仕方なかった。

 不安を感じた。焦りを覚えた。下劣な言い分だが、これでも何人もの女性と付き合ってきた身だ。身も心も籠絡できる自信はある。なのに初な少女相手にこれだけ悩ましい想いをさせられることになるとは考えもしなかった。

 すっきりした顔立ちが好き。線が細いけど意外とグラマーな身体が好き。ちょっと困った、でも素直な性格が好き。何もかもが好き……その上、自分の存在を理解してくれている。絶対に二度と出会えない運命の相手―――しかし、少女。その少女にここまで恋に堕ちてしまった自分は、嬉しくも情けなく、幸せだが苦しい……。

「どっちが子供だか……」

 キスしたい……今すぐ追いかけてキスしたい。盾林武人の目の前で……。

 溢れてきた欲望を、水と一緒に飲み下す。

 大人な恋愛なんて、あるはずがない―――。





 家に帰った武人はやられた肋骨を気にしながらも、食べ逃した昼の分を取り戻す勢いで夕食をたいらげた。それで回復するとはさすがに思っていないが、なんとなく身体がエネルギーを欲している気がしたのだ。

 いっぱいになって苦しい腹を抱えて部屋に戻ると、テレビの前に寝そべった。

「バース、昼間のときの映像出せるか」

『了解した』

 ブレスレットから伸びたコードがHDMI端子に接続、ハイビジョンで映像を出してくれる。ハイビジョン対応はいいが、腕とコードが繋がっているのが鬱陶しい。しかし短距離のラジオ電波程度ならともかく、屋根にアンテナが付いているテレビに電波を飛ばそうとすると、他の家などで拾いかねないらしい。だから無線を使ってコンポから音声は出しても、映像は直接回線だという。でも寝転がるには邪魔でしかたがない……。

 映像は、望遠で未確認ヒーローを発見したところから始まった。

「いろいろ気になるとこがあったんだよな」

『検証していこう』

「まず…この傷だらけのスキンが気になるって言ってたよな? そこが気になる」

 未確認ヒーローのスキンはボロボロというほどではなかったが、今見てみれば部分的に破損が酷かった。

『不自然なのは装甲が完全回復されていない点だ。次元跳躍で消耗していたとしても、わざとそのままにしているとは考えにくく、理屈に合わない。この映像を見てくれ』

 未確認ヒーローの肩から腕が生えた瞬間の静止画像だ。

『展開された義肢はACシステムの応用によるものと推測されるが、こちらには一切破損がない。機能が正常に働いているならば、装甲を回復できないはずはない』

「辻褄が合わないな? どうしてだと思う?」

『…回答不能だ』

「俺もちょうどこの場面で違和感があったんだよ。ここからスロー再生してくれ………ストップ」

 腕を四本にしてから攻撃態勢に移る瞬間―――(ディレイ)システムを使う直前だ。画面がブレているのは、俺がたじろいだからか。

「フェイス部のサブアイが光ってる。A.Ⅰが働いたってことだろ? でもメインカメラは一度も光っていない」

『む――!』

 映像が最初から、倍速で流れ出して、再びサブアイが赤く輝くところで止まる。

「俺がなんらかのシステムを使うときはお前に伝えてから、つまりメインが光ってからサブが光ってるはずだよな? この未確認ヒーローはどうなんだ? メインだけ光らないとかあるのか?」

『カメラの点灯は限定的にオフにすることもできる。夜間の作戦など、特殊なケースもあるからだ。しかし一方だけオフにすることはない。無意味だ』

「だよな」

『故障の可能性も考えられるが、しかし、これは……』

 画面の片側に未確認ヒーローの別の映像と、読めないグラフが多数現れる。

「何だこれ?」

『タケトが気を失っている間にショウコのカメラを通して分析したものだ。もう一度検証し直してみよう。しばらく時間をくれ』

 画面の中で目まぐるしくウィンドウが開閉する。俺はテレビから目を離し、最も気になっていたことを口にした。

「なあ、五月さんの言ってたことって、ありえることなのか?」

『どのことだ』

「世界がバースの世界の技術を狙っている話だよ……つーかお前、今わからないフリして誤魔化そうとしなかったか?」

『心外だ。心にひどく傷を負った』

「ついにA.Ⅰに異常をきたしたか?」

『冗談だ、タケトの真似をした。まさに、心にもないことだな』

「…マジで壊れたんじゃないだろうな」

 シュール過ぎて笑えん。

『サツキハツミの着眼点は間違っていない。むしろ、今回の最大の要点と言って過言ではないだろう。これまでのことを振り返ってみよう。『軽トラ』のときは写真に撮られたものの、実際に我々が戦っているときの映像は残されていない。オービスに写真は取られたが『変化した軽トラ』は残っておらず、人々も都市伝説程度にしか思っていなかっただろう。しかし『メジロ』戦で繰り返し衆目にさらされ、世間に大きく認知されている。個人単位で自在に浮遊する反重力システムは素人目に見てもオーバーテクノロジーだ。これを機に、日本は世界から軍事兵器を開発しているのではないかと抗議されたが、政府は否定。また、抗議そのものも具体的な圧力にはなりえなかった。果たして現実的に開発可能な技術なのか、誰もが半信半疑だったからだ。しかし、だからこそ手中に収めたいという思惑もある。ホワイトヒーローが現れたのは二度とも日本。日本か、日本に近い地域で活動していると考えるのが普通だ。日本政府としては、民衆の支持を受けているホワイトヒーローとコンタクトをとり、活動に協力する見返りに技術を求めるのが理想の形だ。技術先進国として世界に大きく差をつけることができる』

「実際、そういう動きになっているのか?」

『何とも言えない。しかしこの近辺を調査している人間がいることは確かだ』

「ふうむ…。技術を渡せないってのは? やっぱりマズいのか?」

『…タケトは気分を悪くするだろうが、文明が未発達な世界に技術供与はできないというのが私の国の方針だ。未発達とは、戦争状態にあることも含む。分け与えた技術を用いて攻め込まれるわけにはいかないからであって…』

「まあそうだわな…尤もな話だ。あー、いよいよバカデカい話になってきたなぁ…」

 壁にもたれかかり、天井を見上げて大きく呼吸する。

『……不安になる必要はない。タケトやショウコには危害が及ばないようにすると約束する。三日前に本国との通信ラインが繋がり、救援を要請している。ショウコの言った通り、今回の件はタケトに依頼したこととは関係ない。訪れるのに多少時間はかかるだろうが、救援者に任せて一向に構わない』

「お前なあ、そういう大事なことはちゃんと………ん? 今までは交信できなかったのか?」

『ここにたどり着くまではワープ移動……つまり点で移動している。異文化探求システムの通った線をそのままなぞってきたわけではないため、多次元空間を渡る正確なルートを把握する必要がある。そのため、常に本国に向けて通信を試みていたのだ。繋がれば、道筋もわかる。それができなければ通信はおろか、帰還も不可能になる。もちろんそれも想定内ではある』

「想定内? 対策があるのか?」

『そうではない。私のようなシステムは基本的に使い捨てだということだ』

「…………」

 言葉に詰まった。失敗したシステムを処理するためのシステムは、役目を終えれば消滅する運命だという。機械として、道具としてはそうなのだろうが、ジョークを言うA.Ⅰに人権はないのか? 言い様のない憤りを感じて……

 ――ジョーク? 今までそんなことあったか? もしかして、さっきのは俺に気を遣ったのか? まさかな……。

「ちゃんと帰れよ……こっちの技術じゃ処分できないんだろ」

『その通りだ。肝に銘じておこう………再検証が完了した。先ほどのタケトのヒントを得て、一つの推論に達した――――』








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