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White Hero  作者: 夢見無終(ムッシュ)
15/15

特別ストーリー しんしんと雪が降る夜に

 しょう子と出会ったのは転校した日……ではない。個人装備型驚異排除武装システムことバースが落下してきた日だ。あの日、胸に埋め込まれた石が急に騒ぎ出した。すぐさま財団の医療施設に駆け込み、石による異常だということは明らかになったものの、原因は判明しなかった。しかし私には何かきっかけがあると確信があった。呼び寄せられるように現場に向かった私は知る……あの時空から落ちてきた石が、文明が作り上げた機械なのだと。そして人類を危機に陥れる可能性のある、壊れた存在であると。胸の石―――異文化探求システムの結晶核は、バースのように人とコミュニケーションを取るインターフェイスを持っていない。言うなれば寄生虫と宿主の関係だ。自らが得た力の理由と行動原理を理解した私は、いろんな意味でショックを受けた。

 だが、それは一番の衝撃に比べれば瑣末なことに過ぎなかった。私の運命を決定づけたのは、牧原しょう子を発見したことだ。異文化探求システムが融合した軽トラックに撥ねられ、スキンを纏った盾林武人。一番の驚異になるはずの彼に目が移ったのはほんの一瞬で、彼を見上げるしょう子をずっと見ていた。

 幼馴染を心配する彼女の顔は純粋で、見蕩れてしまった。あの眼差しを欲しいと思ってしまった。

 思い至った時には行動に出てしまっていた。私は事態に戸惑いながらも帰宅しようとするしょう子の後ろからカメラ兼盗聴器を取り付けた。バイオセルによる分身体だ。大きさはわずか数ミリ、有機物だからそれほど長い期間は持たないが、電波ではなく念波を飛ばすため現代のあらゆる探知機にひっかからない。バースも出し抜いた。未知の存在であるバースをクリアしたことで一定のアドバンテージを得た私は、バースの目的と狙いに注意しながらあらゆる知識を得た。異文化探求システム、結晶核、その性質と能力………これまであやふやで説明のつかなかった力の仕組みがわかり、自分の内にある結晶核を認識した私の能力は飛躍的に向上した。これはすぐさま財団の研究所で実証され、私はついに外的な有機物を変化させ、生成する能力を得た。数十年越しの成果に、研究者たちも大いに沸き立ったものだ。

 だがやはりそれは二の次で、私はしょう子の一挙一動に全力で耳を傾けていた。本来なら盾林武人を盗聴するべきであって、しょう子から得られる情報は限られているか、鮮度の古いものだ。そうするべきなのだが、そうしなかった。なぜか? しょう子のことで頭がいっぱいだったからだ。

 しょう子を見た日から、私はしょう子に夢中だった。二言目にはタケトタケトと男の名を連呼するのが鬱陶しかったが、恋人未満の相手を思いやる気持ちで揺れる彼女は、紛う事なき乙女で、愛しかった。稽古でひたむきに気迫溢れるしょう子。後輩や道場の生徒に優しく接するしょう子。盾林武人と言い合いになって、その後気落ちするしょう子……彼女の生の声が響いて伝わるたびに私は身悶えした。このままでは変質的なストーカーにしかならないと考えた私はすぐさま転校手続きをとり、しょう子のクラスへ。主張しすぎず、誰にも嫌われないキャラクターを作り上げるのは得意だったが、しょう子の前ではその仮面が剥がれそうになるのを堪えるので必死だった。放課後は仕方がないが、学校の中なら男の盾林武人よりも一緒にいられる時間は長い。特に更衣室の中は危険だった。性欲の対象が女である自分にはしょう子の下着姿は眩しい。髪の毛から足のつま先まで何度もこっそり盗み見るなど、未だかつてない経験だった。そしてその姿を思い出しながら、夜のベッドの中で渇きを覚えることも……。淫らな夢がしょう子とリンクしてしまったこともあった。

 これが一目惚れなのか―――当時は本当にそう信じていた。今は………バースの機能によって結晶核の成長を促進させられ、それがしょう子に対する欲望の増大につながった可能性を否定できない……。しかしそのときの私は、間違いなくしょう子に恋していたのだ。

 盾林武人以外とはどうにもコミュニケーションを取るのが不器用なしょう子に、遠回りに、少しずつ不自然にならないような接触に務めたが―――その我慢は「メジロ」との戦いで盾林武人が不在になったことにより、脆くも崩れ去った。挑発するような言い回しでしょう子を惑わしながら近づき、それが原因でしょう子が盾林武人と一悶着したとき、私の胸の中は前後不覚になるほど沸き立っていた。そしてしょう子の指にキスをし―――禁断の蜜の味を知ってしまった。彼女のDNAは、私と最上級に相性がいいと結晶核が判断したのである。理論と技術と能力を兼ね備えた今――――ついに、積年の夢が実現するチャンスが訪れたのである。

 そして告白。時期尚早だったが、胸の奥から湧き上がる感情が後押しした。しょう子の前で余裕ぶって見せてはいたが、ひどく指先が震えていた。それを隠すように強引にキスしたとき、経験からわかった。この子は、迫れば落ちるタイプだと―――。確信めいたものを感じた私は、そのまま次の日に会う約束を取り付けた。すっぽかされるとか微塵も考えていない。しょう子は必ず来る、そういう子だ。そしてそのまま彼女を私のものにする……身も、心も。

 事の顛末は改めて語るまでもなく―――……やはり、急過ぎたのだと思う。私も自制が効かなくなっていた。

 先にしょう子に正体を明かすべきだったのか、今となってはわからない。ただ、気持ちは受け入れられながらも別れる運命だった。



 そして―――三年が経った……。







「どうだい? 三年ぶりの故郷は」

 ミタモはわざとらしく大きく手を広げて見せる。街中でとても目立つのでやめてほしい。

「……別に」

「ドライだねぇ。まあ僕は気晴らしに出られたからいいけどね。それにしてもどうして三年経ってから訪れる気になったのかな? 結晶核の調整に一年ちょっとかかったとはいえ、向こうからならすぐに三年後の彼女に会うことができたんじゃないか」

「必要な時間だからよ。私にとっても、彼女にとっても」

「致命的な時間じゃないの? 青春時代ならなおさらさ。君はすでに常人とは時間の感覚が違うんだから」

「………」

 ミタモの国・アマタナで、私は取り調べと検査を受けた。アマタナ側は結晶核の即時廃棄を求めたが、私は拒んだ。あちらの言い分はわかる。人間との融合体という初めてのケースで私がこの先どのように変質するかわからず、しかも結晶核の特性を踏まえるなら同様の個体が分裂することもありうる。私が子供を産んだら、その子にも結晶核が移る可能性があるのだ。しかし私にとって、これはもはや自分自身だ。結果的に見ればシステムの行動原理と私の行動が重なっていた部分は多いにあるが、それでも私は自身の意志で物事を選択してきたつもりだし、システムの影響を受けていたのは認めるが、操られていたつもりはない。そしてそれを証明することも否定することも誰にもできないのだ。そもそも、この結晶核が私に落ちてこなければ、人間らしく生きることはできなかったかもしれない…。

 結局、アマタナ側は私が提示した結晶核のプログラムの書き換えという譲歩案にのった。あちらとしてもこの先私がどうなるのか結果は見たいのだ。須らく、交渉は足元を見られた時点で終わりである。

 しょう子の子供を身籠る最後の手段を堅持することができた私だったが、ふと、三年待つことにした。三年後の約束……もうあんなもの、ないも同然だったが、別世界とはいえ二人の子供を産もうというわけだし………しょう子に認めて欲しいというのもある。もう一つの理由は私自身だ。欲求を掻き立てる一因だった結晶核のプログラムが変更され、それでも私はしょう子を好きでいられるのか……それらを確かめる時間なのだ。

 バースを通じて通信すると、しょう子は会うことを約束してくれた。約束を忘れている……ということはないだろう。

「待ち合わせまでは?」

「…もうすぐよ」

「そうか、じゃあ――」

 首に嵌められていたシンプルスキンが外れる。

「何を…!?」

「いや、だって犯罪者ってわけじゃないしさ。久しぶりに帰ってきたのに監視付きじゃ辟易するでしょ。その気になれば君自身から通信できるわけだし、何も問題ないでしょ。よしんばやっぱりこの世界で生きたいといっても、元々こっちの人間なんだし」

「私の能力が失われたわけじゃないのよ。それに、私の望みだって……私が人類のバランスを変えるような悪さをしたらどうする気?」

「どうなるかは決まってるさ。やってくるよ―――ホワイトヒーローがね」

「………」

「僕らも時間を決めよう。明日の今頃……午後五時にここで落ち合うってことで」

 ミタモはさっさとどこかへ消えた。

 季節は冬、十二月……街はクリスマスの彩で溢れている。駅前のショッピングモールは三年前と変わらないように見える。いや……ショーウィンドウに映る私の顔は、どこか違う……

「…二十美……」

 ドキッとした。いきなり、すぐ近くでしょう子の声がしたからだ。どこから? いつ現れた? 

 声の聞こえた方を振り向くと……セミロングの髪、ニットのセーターの上に柔らかい生地のコートを羽織り、スカートを穿いた女性がいた。

「えっ……しょう、子…?」

「…久しぶり」

 その少し照れたような顔は間違いなくしょう子だったのだが。しかし見違えた……ぐっと大人っぽく、女らしくなっている。三年待った甲斐があったと、わけもわからず感動してしまった。

 空からは、雪が降り始めていた。




「掃除していてくれたのね」

 外で食事をしたあと、久しぶりに住んでいたマンションに入る。全然埃っぽくない。エアコンを動かしても嫌な臭いがしない。

「だって鍵預かってもどうすればいいかわかんないし……そもそも、ここの支払いってどうなってんの?」

「私から五年間連絡がなかったら送金がなくなる、そういう契約になってるわ」

「ふうん…?」

 それ以上しょう子は聞かなかったが……よかった、普通に話ができている。正直、もっと距離があると思っていた…。

 だが、その先が続かない。近況を聞こうとすれば必ず盾林武人の話題が出てくるだろう。しょう子がこんなに女らしい装いをするようになったのも付き合っているからに決まっている。その話につながった時点で私の目的は限りなく果たせなくなってしまう。

 それをしょう子も気にしているのか、盾林武人には一切触れない。それはつまり、私を意識してくれているということだろうか? わからない……三年は確かに長すぎた。盾林武人がいるから、いや他の男でもいいから、付き合っているから絶対無理だとフラレた方がむしろ諦めがつく。遠まわしに拒否されるのが一番怖い……。

「……お茶、淹れる」

「え? あ……ありがとう…」

 リビングに腰を下ろす。なんだか他人の家みたいだ。ものの数分でしょう子はポットに紅茶を淹れてきた。覚えのある香りだ……。

「部屋の空気を入れ替える時に買い足してたのよ。置きっぱなしのもののわけないでしょ」

「そう…よね」

 ぐるりと見回せばすぐにわかった。さっきのエアコンもそうだが、あらゆる家電のプラグがコンセントから引き抜かれている。なし崩し的に鍵を渡すことになったのに、しょう子は家の管理を徹底している。ここを訪れた回数は一度や二度じゃないのかもしれない。

 ミニテーブルを挟んで向き合い、カップに口をつける。じんわりと身体に広がる暖かさに、気持ちが和らいでいく…。

「……やっぱり、ちょっと変?」

 しょう子が唐突に聞いてきて、なんのことかわからなかった。

「あ、いや……ほら、髪伸ばしてみたんだけど……なんか皆から似合わないって言われて。二十美も最初、私がわかんなかったみたいだし…」

「驚きはしたわよ。でも変じゃない。しょう子、綺麗になったわ。今も………ドキドキしてる……」

「あ………うん、ありがと…」

 また会話が途切れる。そして空気が少し重くなる。

 私はバカだ……。

「……三年前の、返事だけど……」

 とうとう、しょう子から切り出した。あの時は期待していたこの瞬間が、今はまるで極刑を言い渡されるような心境で―――

「…いえ、もういいの、そのことは。私はあなたの側を離れると言ったんだから。一度さよならを言ったんだから……!」

 もう、自分から遮るしかない。でも…

「…私は向こうの世界に行って、結晶核の再プログラム処理を受けたわ。結果、私の中の結晶核は異文化探求システムとしての目的を遂行するために私に働きかけることを止めた。でも能力を持つ融合体としての私はそのままなの。その上で……私は……」

 私を意を決して、想いを吐き出した。

「しょう子との、子供が欲しい……」

「……」

 言ってしまった……。しょう子は私から視線を逸らし、気まずい雰囲気だ。それでも胸の奥にしまいこんでいた想いは濁流のように溢れてくる。

「何もっ…しょう子に産んで欲しいって言ってるんじゃないの、結婚して欲しいとか、この先一緒に生きて欲しいとか、そういうのじゃなくて…! 私が独りで産んで、向こうの世界で独りで育てる、決してしょう子に迷惑かけないから、だからっ………だから、ただ、しょう子に………認めて欲しい。許して欲しいの……それだけ……」

 途中から声は擦れ、目尻には涙が溢れてきた。たったこれだけのことを言うだけで、どれほどの魂を削っただろうか。どれほどの感情を込めただろうか。他人より長い人生の中で、これほど感情をぶつけたことは―――…あの人のとき以来だ。

 重苦しい静寂……遠くで車が走る音だけが時間を進めていく……

「………いいよ」

 小さな声を聞き取り、顔を上げた。

 今、なんて…?

 しょう子は右手の袖を捲ると、銀色の輪を指でコンコンと叩く。

「バース、手出し口出し一切禁止。いいわね」

『……了解した』

 銀の輪が広がり、しょう子の腕からするりと抜けて元の大きさに戻る。そしてブレスレットがもう一つ…? 同じように広がって腕から抜けると、ミニテーブルの上で、バースよりも小さな輪になった。これは……

「…指輪…?」

 はっと気づいた。アマタナの技術で作られたこれは、盾林武人からの指輪だ! さらにおそらくペアリングのはず! だがしょう子は今日一日それを指に填めていなかった。そして今、目の前で外す。つまりこの意味は……!

 しょう子は居住まいを正し、もう一度言う――。

「二十美………私は、いいよ…」

 しょう子の瞳は真っ直ぐこちらを見て、離さない。

 何を、と名言しないのは「何でも」ということだ。そして指輪を外したのは……。

 喉が鳴ったのが、はっきりとわかった。

 心臓が大きく音を立て、鼓動は早くなっていく……。

 指輪とバースの乗ったミニテーブルをそっと脇へやり、膝歩きでしょう子へと近づく……息遣いが聞こえるほどに身を寄せても、しょう子は微動だにしない。だが、二人の間の空気は少しずつ乱れていく……。

 どれほどそうして見つめ合っただろうか。一分……数十秒……数秒かもしれない。ただ、時間が過ぎるごとに身体は疼いていく。この私のいやらしい視線を受けて、しょう子の呼吸も落ち着かなくなってきている。

 おもむろに、しょう子に触れた。

 右手の指がしょう子の目元を滑り、掌が頬を撫でる……それでもしょう子は瞳を逸らさない。

「………」

 右手が顎のラインを撫で首筋を滑り降り、柔らかな、胸元へ……

「…っ…!」

 ピクンと肩が震えるも、視線を逸らさない。拒絶しない……。

 ……必要のないことだった。しょう子のDNAパターンは採っている。ただしょう子から了解が出れば、それだけで終わるはずだった話だ。何の意味もない……いや、意味はある! 私は単に子供が欲しかったわけじゃない。そう、本当は欲しいものがもう一つあった。

 私は………愛が欲しかったのだ。

 豊かな膨らみを覆っていた手を、ほんの少し押す―――

「ん…っ!」

 眉根を寄せてしょう子が声を押し殺す。さすがに恥ずかしさに頬を赤く染めるが、それでも視線は深く絡まる一方だ。

 妖しくも引き合う……始まる前の、独特の空気。もう何も確認する必要はない…!

 気が付けば私は押し倒していた。伸びたしょう子の髪が波のようにカーペットに広がる様が扇情的だった。吐息が交わるごとに彼女は、そして彼女の瞳に映る私も、表情に情欲を滲ませていく……。

「は……ぁ……」

「ふ……は……」

 お互いに興奮している。理性の堰は決壊寸前だ。

 ――あの時もこの部屋、この場所だった。私は一方的な感情で、気持ちがずれたまましょう子を求めてしまった。しょう子の答えはノー。その後思いは噛み合わず、最後には盾林武人に全て持って行かれたようになってしまって悔しかった。

 今は違う。今の私としょう子なら何の気兼ねもなく肌を重ねられる。それこそ夢にまで見た、待ちわびた瞬間だ。

 でも―――…

「…ぁ…」

 意識が逸れた一瞬の隙に、しょう子の両腕が覆いかぶさる私の首に回った。たったそれだけのことが、私を虜にするには十分すぎた。

「しょう子…」

 肘を曲げ、少しずつ身を落とす……それに比例するように呼吸が浅く、熱を帯びていく。


 私の髪がしょう子の顔をくすぐり……

 重なった胸が小刻みな呼吸を伝え合い……

 私は、しょう子を―――

 しょう子の、唇を―――

 唇を―――……


「………っ…」

 …………奪えなかった…。

 しょう子の肩に顎を乗せ、身を投げ出すようにしょう子の上に沈む。床に着いていた手は、拳を握り締めていた。

 しょう子はただ「いいよ」と言った。何をしてもいいと、何でも受け入れると……私の気持ちを汲んでの一言だと思えた。バースを、指輪を目の前で外してみせたのも、私が遠慮しなくて済むように、私が気にしないように気遣っての行動だと、そう思った。事実、そうに決まっている……しょう子が私を思いやってしてくれたはずだ。

 だけど……だけど……! 

 そこまで私を許してくれるのは、たとえ気がおかしくなるほど熱く、激しく愛し合ったとしても――――盾林武人との関係は変わらないという、全てはその確信の裏返しなのだ…!


 私は、私は……しょう子の一番には、なれない……!!


 涙で目が滲んできたそのとき、しょう子の腕が私を固く、固く抱きしめてきた。苦しいくらいの抱擁に息を止めると、耳元ですすり泣くような声が囁いてきた。

「苦しめて、ごめん……」

「――――」

 今度こそ涙は止まらなかった。しょう子だってずっと悩んでいたのだ。三年間苦しんでいたのだ。私のことを真剣に………愛してくれていたのだ。

 つくづく思い知らされる………この人は、私の生涯でただ一人の人間だと。

「しょう子、愛してる……あなたを愛してるの…!」

「私も……二十美を、愛してる…」

 互いの頬を涙で濡らしながら、私たちは抱きしめ続けた………。









 私の願いは、そのときに果たされたらしい。気が付けば妊娠していて、時期を逆算すれば、あの夜以外にありえない。性的交渉なしの受胎になるが―――だからこそ、恥ずかしい。そして誇らしくもある。心が求め、結晶核が働き、身体が動いた。至極自然に、生理現象のように。その事実がたまらなく幸せで、今でも顔がにやけてしまう。

「ママー…?」

 不思議そうな顔をして見上げる娘が、とても愛らしい。

「うれしいことを思い出していたのよ」

「なんのこと?」

「秘密………あなたにもわかるときがくるわ」

 膝立ちになって抱きしめると、娘もきゅっと抱き返してくる。小さな手で、力強く。



 私は五月二十美。愛する娘を持つ、母親………。










 以上、これで終わりとなります。

 以前物理的にPCが壊れ、データを探している中で見つけた過去の作品をちょっと手直ししました。なお、最後の二回は新たに書き下ろしです。確かどこかに……投稿した作品だったかと思います。

 

 まあアルタナシリーズなんかと比べると割合スッキリ書いてますね。ありきたりな設定、どこかで見たようなありがちな展開ではありますが(笑)、時間をかけて書いただけあって中々の完成度だと自画自賛しております……自己満足ではありますが(苦笑)。読んでいるうちに書きたくなって最後の二篇を書き足しました。なんか昔に及ばないなー…と複雑な気分になったり。とはいえ、ちょっと当時のやる気みたいなのを思い出しました。

 ただ、今週もアルタナを書く時間が……! オイオイ…。

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