第六話 ―ラストアタック―
翌朝四時。目覚ましは鳴った瞬間に止めた。身体を起こして、頭を掻く。
「くそ……」
「おはよう。大分寝てないみたいだけど、大丈夫かい?」
ミタモが晴れ晴れとした顔でのたまいやがる。その言い草だとお前はずっと起きていたということになるが、さもありなん。どっちでもいい。
「ケガは治ったかい?」
「怖いくらいにな。バース、どうだ?」
『タケトが睡眠中もメディカルスキャンを継続していたが、壊れた組織や骨はバイオセルが整復・補強している。とはいえ、くっついたばかりだ。全快とは言えない』
「まあいいさ、動けりゃ」
「ふぅむ…間近で直接コントロールしなくても働くんだね。すごいなバイオセル」
「…そうだな」
昨晩のことがあって、俺は手放しに喜べない。着替えようとパジャマを脱ぐと、左肩に痕が残っているのを見つけた。五月さんの爪痕だ。これは消えないのか、消さないのか…。
とりあえずそれはそれだ。正直、全くどうしていいかわからないが、とりあえず今は目の前のミサイルだ。
昨日五月さんにボコられて、一昨日はミタモがやってきて、その前はミサイル群とやりあって、さらにその前は未確認ヒーロー……休んだ気がしないが、それでも早起きしないわけにはいかない。ミサイル群は太平洋の海の上――ただでさえ日本の領海の外にいるのに、その上どんどん東に流れていっている。アメリカ本土からやってくるアメリカ軍につられていっているのだ。今は様子を見ているらしいからいいものの、大々的に攻撃が始まれば、ミサイルは川を上る鮭のようにアメリカ大陸に到達してしまうかもしれない。それでやりたい放題されればお手上げだ。今日潰す。じゃないと夏休みが永久に潰れかねない。
昨日の朝に買ってきたコンビニ食糧の中からカロリーメイトなんかを適当に摘まんで、俺たちは飛び立つ―――
『む…タケト、サツキハツミが呼んでいる』
「は? どこで?」
まだ眠っている街を見下ろすが……?
『現在地からおよそ五十キロ先の埠頭から、直通回線だ』
「直通………そんなのできるんだ」
半笑いで流すしかなかった。つーかコイツ、今までも通信のやりとりしてたんじゃないのか? いくらしょう子との間に約束があったからって……俺は大したピエロだよ。
並んで飛ぶミタモに通信で伝え、五月さんの待っている場所へ向かう。しかし昨日の今日、さすがにどう顔を合わせればいいのやら……。
朝方の埠頭はすでに人が動き始めていた。そこから離れた林のなかに反応を見つけ、一応人目を気にして降下する。五月さんは六時間前と違ってパンツルックだ。スラリとしたシルエットが大人っぽく、同じ歳(いや六十歳超えているのか?)には見えなかった。しなやかで長い脚に見惚れそうになる……が、俺がそういう目で見るのはよろしくないな。幸いスキンのマスクで顔が隠れているからいいが―――
「おはよう盾林くん。私を見て朝から興奮しているの? 身体は元気みたいね」
鼻で笑われた。ああ…そういえばそうでした、俺の身体の状態を把握してらっしゃるんでしたよね……。
「…どうしてこんなところで俺達を待ってたわけ?」
「別に待ってたわけじゃない。なんとなく海を見に来て……気が向いただけ」
五月さんは俺の後ろのミタモに目をやり――
「私も連れて行ってくれる?」
「えっ!??」
「いいよ」
ミタモはあっさり快諾する。
「いいよって」
「タケトくんの体力を回復できる彼女がいれば盤石だ」
理には適っているが……。
「ハツミちゃん、君に飛行能力は?」
「ないに決まっているでしょう。ちゃん付けはやめなさい。年上よ」
「失礼。じゃあ………これを」
ミタモが手を掲げると、黒光りする金属の輪がどこからともなく現れる。どういう仕組みだ?
「簡易タイプ、名づけてシンプルスキンだよ。A.Ⅰは搭載されていないが、最低限の機能がついている。これを首に」
「首……なるほど、私は孫悟空というわけね」
「ソンゴクウ?」
「悪いことをすれば絞まるんでしょう? それとも爆発?」
「さあねえ」
ミタモは否定しない。まさか本当に…?
「おい、ミタモ!」
「お察しの通り、それは時空を超えて逃亡した犯罪者を連行するために使っている手錠というか、拘束具のようなものだ。スキンなしじゃ次元跳躍はできないからね」
「お前…ふざけんなよ!!」
「いいの、盾林くん」
ミタモに突っかかろうとして五月さんに止められる。
「どうせ後で付けなければならないし、なければ困る。顔を曝してカメラの前に出るわけにはいかないし」
「そりゃ……そうだけど…」
「それにね――盾林くんに庇ってもらういわれはない」
キツイ一言だったが、昨晩ほど毒は含んでいない。単に庇われるのが嫌なだけなんだろうと都合良く納得しておく……苦しいけど。
「さて、これで不安材料は最後の一つを残して消化されたわけだ」
「ちょっとまて、まだ何かあるのか? つーか未だに作戦を聞いていないぞ」
「昨晩、あんなことがあったからねぇ」
俺も五月さんも顔を逸らす。
「ハハ、道すがら話をしよう」
目的地まではまだ遠い。俺たちはすぐに飛び上がる……のだが、一つ問題が起こった。
五月さんの簡易スキンは浮遊することはできても、早くは飛べないのだ。スピードを落としてダラダラ行くわけにはいかないので、引っ張っていくことになる。その役が俺なのだ。
五月さんはミサイル群に遭遇するまで俺を治療するという。そのためにはできるだけ近いほうがバイオセルのコントロールがしやすいらしい。申し出はありがたいのだが、そのために、こう………俺が抱きかかえるような形をとらなければならないのはちょっと……。
「もっと腰に腕を回して……」
五月さんの方から身を寄せてくる。
「うわっ…」
細いし、スキン越しなのになんか柔らかいし……。
シンプルスキンは無駄がない分、やたらと身体のラインが際立つ。ぴったりフィットしたラバースーツを着ている感じだ。しかも五月さん、しょう子よりも動きが艶めかしい…。
「女の子を抱くのは初めて…?」
マスクを合わせてそっと囁いてくる。
「――しょう子の身体は、柔らかかったわよ?」
脳に染みるような悪意を感じた。意味深な言い回しに色々考えてしまうが、聞こえないフリだ。今はミサイル群が先!
「では、作戦だけどね――」
ミタモの作戦の概要はこうだった。
1.ミタモがミサイル群を囲むようにエネルギーのフィールドを張って閉じ込める。
2.俺がその中でミサイルを叩く。
……敵を逃がさないという点では理想的だが、俺は猛獣の檻に入れられるようなもんだよな。
「範囲はできるだけ絞りたいね。それだけエネルギーの消費を抑えられるし、敵も小回りが利かなくなるから有利に戦える。最低直径五キロ、目標二キロ以下で」
『しかし、タケトはどう戦う? 前回は手も足も出なかった』
「存分に時間遅延機能を使いたまえ。君の言っていた必殺技―――範囲数メートルで数秒程度の時間遅延による空間変動は、僕が即時修正する。君は連発してもらってかまわない。ただし、君のスキンはリバウンドを解消できないから、その後はそのまま僕の国に直行して時間同調治療を受けてもらうけどね」
「……一気に勝てそうな気がしてきた」
「いやぁシビアだよ? フィールドの維持は一時間が限界だ。単純計算してもミサイル一基に当てる時間は一分以下だね。七十四人組み手ですべて秒殺―――できるかな?」
「一気に不安になるようなこと言うなよ…」
「そこでハツミ女史が活きてくる。ね?」
しかし五月さんは小さく首を横に振る。
「私のバイオセルはケガの治療や肉体の活性化はできても、根本的な体力の回復はできない。致命傷を受けたら、あとは盾林くんの気力次第」
「……極めて現実的だ」
だんだんやる気が失せてきたな……。肩を落としたのが見えたのか、ミタモが寄ってきてポンポンと背中を叩く。
「ハハ、そう暗くなることないよ。サライルくんだっけ? 彼に比べたら恵まれているよ。ちゃんと勝つための備えがある」
「………」
「ずっと気になっていたんだ。どうして彼の星にあったミサイル群が、次元を超えてここに現われたのか。異文化探求システムには次元跳躍機能は備わっていない。本来は目的を達成したら採取したデータを送信して、自動的に朽ちるはずだったからね。そこで君の言う必殺技を聞いて、ようやく謎が解けた。サライルくんはその必殺技を連続して使い過ぎてしまったんだ。空間が不安定になって穴が開き、地球と繋がってしまった。そこにミサイル群がなだれ込んだのか、巻き込まれたのか……。全く、君らにとってはいい迷惑だけどね」
「―――おい」
俺は急停止をかけた。ミタモも止まる。
「どうした、タケトくん?」
「…お前が言うな」
「ん?」
「サライルも俺達も、全部お前のとこの造ったシステムに被害を受けてんだ。サライルは一人必死で戦って、皆やられて、死んでもここまでやってきた。そいつを俺は葬った…」
後悔……そう、後悔している。俺が何もしなければ、今ごろ一緒に戦っていたかもしれないのだ。仇を討たせてやることができたかもしれないのだ。
「五月さんだって、お前らがどうこう言う筋合いじゃないだろ! 俺も五月さんも同じように巻き込まれたのに、どうして五月さんはダメなんだよ! お前らが自分の都合で勝手にしたことだろ! 他人事みたいに言ってんじゃねぇよ―――!!」
俺はミタモに拳を突き付けたが、殴らなかった。殴る度胸がなかった、というのが正しいのかもしれない。それでも……振り上げた拳を下ろしはしなかった。
「………そうだね、タケトくんの言う通りだ。悪かった。謝るよ。どうも僕も感覚が麻痺しているようだ。慣れとは恐ろしいね」
それだけ言って、ミタモはふいっと先に飛んで行ってしまう。
「アイツ…!」
『タケト、彼を責めないでくれ。彼自身には罪はない』
「あ!?」
まさかバースが仲裁に入ってくるとは思わなかった。
「そういう問題じゃねぇし、お前にはわかんねぇよ!」
『彼は結晶核の回収のために百カ所以上の星々を廻っている。慣れというのは嘘ではない』
「だからっ…そういうことじゃ…!」
「もういいでしょう、盾林くん。ここでゴネても仕方がないわ。今ある脅威を片づけなきゃ、文句も言えないのよ」
悔しいが、五月さんの言うことはもっともだった。ミタモの後を追って俺も急ぐ。
「盾林くん…」
「ん?」
「私を庇うのは止めてって言ったよね」
「あ……別に庇ったつもりはないよ。でも、許せないだろ」
「…盾林くん」
「何?」
「嫌い」
五月さんの細い指が、俺の腕をきゅっと握った。
ミサイル群を捉えたとき、時刻は午前九時を回っていた。まさに行き場なしといったように、ミサイル群は輪になって周回飛行を続けている。考えてみればずっと飛びっぱなしのはずだが、燃料は切れないのだろうか? やはり地球製じゃないということか。
レーダーでさらに広範囲を索敵すると、ミサイル群から二十キロ離れた海上に空母が三隻並んでいるのが見えた。アメリカを主軸とした連合軍だ。いざというときのための防衛ラインだろう。これが壊滅した場合、つまり航空戦力や迎撃ミサイルの類が通用しないと判断された場合、やはり核攻撃もあり得る…か?
「あっちの艦船に通達しておかなくていいのか?」
「構わないよ。どうせ向こうも僕らをキャッチしているだろうし、知られていた方が後々やりやすい」
何が?と気になったが、ミタモは構わず手からケーブルを伸ばして俺のスキンに接続する。
「何だ何だ!?」
「万全を期しておかないとね。いろいろバースにインストールしておこう。本来は認証がないとカスタマイズはできないが、これはパソコンで言うところのバージョンアップだ。あくまで基礎部分の向上だが、運動性だけでも1.4倍になる。体感的にはかなり変わるだろう。重力制御能力も上昇し、範囲二メートル・数秒間の条件なら八秒ごとにDシステムを発動できる。あとはACシステムで武器を生成するのに使う圧縮金属マテリアル、と」
「どうして直前になって渡す?」
「人間、力を得た直後は試したくて仕方がないからね。一番やる気が出る。来る前に渡して、ミサイル見てやっぱりやめるなんてことになったら面倒だし」
「ノリでやってねぇよ!」
「でもノリも大事だって話さ。やる気は?」
「…十二分」
「じゃあ、はりきっていこう!」
ミタモが俺を乗せつつコードを切る。スキンは力を充足できたと証明するように、一瞬赤いラインを全身に走らせる。
「バース、サブアーム展開!」
『了解した』
肩――というか背中、肩甲骨のあたりから二本の腕が生える。マンガに出てた技や小説の描写を参考にしたが、このテの腕はやはりコレがイケてると思う。真横から生えてたら本物の腕が動かしにくいもんな。見た目ちょっとグロいのが欠点だが…。
『サブアームはACシステムで物質変形させるときと同様、思い浮かべるだけで動かせるようにはなっているが、本物の腕のように器用に動かそうとは考えない方がいい』
「わかってる。行くぞ」
その場に待機のミタモに声をかけ、五月さんにも目をやる。五月さんは黙って俺を見ている。俺は何か言おうとし―――何も浮かばずにミサイル群に突撃した。
青空をゆるりと旋回する、ミサイルの大群。まだこの距離では空に流れるそうめんのようだが、5000メートルから4500…4000………詰めると細部が目視でわかるようになってきた。と同時に、ミサイルの先端がこちらを向く!
接近、交差―――爆発!
「ふむ……よく引き付けたよ。フィールドの範囲を直径1700メートル以下に絞れた。しかし……死んじゃったかな?」
「死んでねぇよ!」
ミタモに通信で怒鳴りつけながら、ACシステムで作った盾の残骸を捨てた。ミサイルの威力を完全に防ぐには厚みも強度も足りないが、直撃を避けられればいい。とりあえず六発受けたが、装甲破損率は二十四パーセント。この程度なら数秒で回復できる。
「よし……ぶっ壊す!!」
勇んで拳を握ったが、戦闘は壮絶だった。魚群で満たされた狭い水槽の中に放り込まれたに等しい。しかも魚に触れると吹き飛ぶ。それでもDシステムの連発で凌ぎ、ミサイルの後ろ半分・基部に埋まった結晶核を破壊。少しずつ数を減らしていくが、一発食らって態勢を崩すとエサに群がるようにミサイルが食らいついてきて、あっという間にボロボロになる。何度も意識が飛びそうになるが、五月さんの回復でその度に持ち直す―――。
「……ク、クク…」
『どうしたタケト!?』
下から飛んできたミサイルを間一髪でかわす―――
「いやな……ちょうどゲームのボス戦ってこんな感じなんだよ。最強の攻撃を連続で繰り出してヒットポイントを削り、こっちもそれなりのダメージを受けるが、回復魔法で全快する。それを繰り返し続け、余力が上回れば勝ち」
『まだ戦闘中だぞ。集中しろ』
時間遅延――。超スローモーションになったミサイルの脇を抜け、サブアームで装甲を引きはがし、暴きだした結晶核を塵にする―――
「まあ聞けよ……。大分慣れてきてパターンも掴んだ。ミサイルの数も減って、攻撃の頻度も減った。五月さんの力で体調もマシ……だけどな、ちっとも楽じゃねぇんだよ。余裕じゃねぇんだよ。気を失いそうなところを回復、戦う、やられる、回復、戦う………ゲームならボタンを押し続ける程度の苦でしかないが、実際には拷問だな。神経が摩耗して、どうして自分がここにいるんだろうとか考えさせられてしまう」
『…限界なのか? 一度離脱するか?』
「いや……そういうわけにはいかねぇよ」
前後から挟み撃ち…後ろからのミサイルを辛くも避け、前からの一基を四本の腕でガードするが、爆発した。爆炎の隙間から、エネルギーフィールドの向こうでぼやけた五月さんが見える。
「装備は他人にもらい、回復は他人任せ、戦法は他人真似、おまけにチート処理済み―――こんだけやってもらって無理ですなんて、そりゃねぇよ! 俺はここで……俺が何のための、誰のためのヒーローなのかってのを見せつけなきゃなんねぇだろう!!」
『ショウコのためだろう?』
「…あっさり言うなぁ――!!」
また一基破壊……残り二十基を切った!
だが、ここでミサイル群が思わぬ動きを見せる。並列に飛んでいたミサイルが頭上で寄り集まり………巨大なミサイルに!!
「うおっ……」
『直径八メートル、全長四十七メートル―――推定される威力は今までとケタが違う。とても防げるものではないぞ!』
「ハッ、乾坤一擲か!? おあつらえ向きだが………バース、高周波ブレード!」
『そんな武器のデータはない』
「…そうだろうよ! ならばぁ…!!」
合体したミサイルが真上から迫ってくる様は、巨大な塔が垂直落下するかのようだった。単純に巨大化しただけだと思ったら違うのか、弾頭は赤熱。臨界状態であることを知らしめる。
『これは単なるミサイルではない……構成物の五十六パーセントを占めるのは戦略級の爆弾だ! 広範囲に威力が及ぶぞ! 逃げろタケト!』
「だから逃げるかっての!!」
俺はミサイルの予測落下軸に対して高速で周回運動をとる。ミサイルでなく爆弾だとするならば、あちらは狙いを定める必要はない。近づけばいいだけだ。俺の動きは撹乱にならない―――それは元より承知の上だ! 俺の目的は…!
「バース、マテリアルを全部回せ!」
『およそ六十五トンもあるぞ!?』
困惑気味の訴えを無視して、ミサイルの弾頭・赤く火の入った爆弾の周囲を旋回しながら螺旋状に上昇する。同時に圧縮マテリアル解放。未知の技術で質量を変えられていた素材からACシステムで金属棒を作り、伸ばす――伸ばす―――さらに伸ばす――――。
太く、大きく、強く、しなやかな柄の先端にぃ……眼下に広がる果てない海を割るような、巨大な、刃を―――!!
『作成しようとする武器が巨大すぎる! 私のスペックでは扱うのにパワーが足りない!』
「一発当てりゃいいんだよ!」
パワーを補強されているはずの腕にずしりと重みを感じ始める。サブアームを加えて四本腕、渾身の力で超重量の武器を支える。ハンマー投げの要領で回転してさらに遠心力を加え、鋭く研いだ、この長大な鉞を―――っ!!
「おおおッ―――らアァっ!!!」
弾頭部分と結晶核の詰まった基部、その間に叩きつけた! 刃はミサイルを凹ませ、潰し、裂き、折り、分かつ―――。
『基部との接続を断ったがしかし、すでに爆弾は臨界点を突破…』
「うおおおおぉ!」
勢いの止まらない鉞の軌道を無理やり縦に変え、今度は大上段から基部を打つ。さすがにスピードがいくらか殺された分、刃が刺さっただけなのだが、それでいい…!
「食らいやがれえぇぇ!!!」
刃先に食い込んだ基部を自由落下する爆弾に、万感をのせて叩きこむ。
直後―――衝撃と高熱を発して、太陽が生まれた。
「……そりゃそうなるよねぇ…」
焼きつきそうな光を浴びながら、ミタモもぽかんと、呟くしかなかった。
もはや小規模の核爆発に匹敵するほどのエネルギーは、ミタモのフィールドですら全てを止めることはできない。海面に高波が生まれ、雲はかき消えるように流れていく。
「ちょっと…盾林くんどうなったの!?」
二十美がミタモの肩を引く。
「レーダーには引っかからないねぇ……この爆発じゃあ」
「そんな……責任持ちなさいよ、あなたが立てた作戦でしょう!?」
「いや、まさかあんな行動に出るとは夢にも思わなかった。変なスイッチ入っちゃったのかなぁ……あ、いた」
ミタモの指す先。熱気で揺らぐ中に、薄黒い球体がある。
「なるほど、爆発の瞬間に自分の周囲だけ時間を限りなく静止状態にしてやり過ごしたのか。といっても、わずかに遅かったみたいだけど」
重力波の膜が霧散するようにとけると、現れた武人はボロボロだ。しかし俯くことなく高々と両腕を上げる。
「うおっ…しゃあ!!」
雄たけびとともに武人の両手が眩しい輝きを放ち、鷲掴みにしていたいくつもの結晶核を塵に変えた。勝ったのだ……!!
――かくして、世界に終末をもたらすミサイル群との戦いは終わったのだが。
「……なあバース。思い出したんだけどな」
『なんだ?』
「しょう子に『今から行く』って言ってたっけ……?」
日本に戻り始めて一時間。まだまだ海の上だが、勝利の興奮が冷めてきて、ふと気付いた。
『…言っていない。出立した時刻はまだ夜更け、就寝時間だった』
「もう起きてるかな…」
『到着予測時刻は十三時過ぎだ。昼寝という可能性はある』
「それは救いになんねぇ。それに……」
ちらりと、俺に掴まる五月さんをそっと窺う。行きと変わらず俺の治療をしてくれているのだが、さて……。