エピソード0.5 異世界に来た俺。
俺は異世界に来た。
唐突で申し訳ない。仲間と仕事終わりに飲んでいたのに、何を突然と思うかもしれない。だから少し時間を戻そう。
そう、シュージがカルパッチョが美味いと誘った「イタ飯屋ベラルーシ」からだ。
「おお!美味そう!!」
確かにシュージが勧めた店なだけはある。
ナマ肉の薄切りの上にはキノコのソテーが乗り、山の香りとバターの香りが食欲をそそる。そこにオリーブオイルが満遍なくかかり、バルサミコ酢が数滴垂らされ、彩を引き立たせていた。
それを頬張ると、冷たい肉と暖かいキノコソテーが絡み合い舌を悦ばせる。
肉料理でもこういった前菜には白ワインも合う。
俺らはそのカルパッチョを肴に、乾杯をした。
酒の席での話は、いつも決まっている。
「ディエゴさんは天才だ」
「あー、あの腕、あの感覚!!欲しい!!」
と一通り料理長の才能を渇望してから、互いの悪いところを指摘し合う。
このあたりから酒に飲まれ始め、仕事の話から脱線。贔屓にしている野球チームの話をし、互いに握手をし合って解散。
途中で店員に、ベラルーシの意味を聞くと、オーナーがその国の出身だからと言っていた事だけは覚えている。しかし後の記憶は無い。全く無い。
この時点で予想がつく。
きっと夜中にガバッと起きて、トイレの便器に頭突っ込んでる光景が。
俺は『イタ飯屋ベラルーシ』を出て、二人と別れると千鳥足で大通りに向かった。
「あっれ?っかしいな。こっちらと思ったんらけどら」
呂律の回ら無い口で、目をこすりながら俺は言った。
どうやら方向を間違えてしまったらしい。
俺は人気の無い路地の更に人気の無い方に歩みを進めると、なんだか見慣れない『渦巻き』に遭遇した。
「え!?何ら、これ」
俺はもう一度目をこすると、時空が歪んで回転しているような、捻れが生じている何かが目の前にあるのに気がついた。それは確かに渦巻きだった。
「なんだ?ゲームのワープゾーンみたいだな。これに入ると異世界へなんて」
俺はヘラヘラしながら、その渦巻きに入っていった。
自慢じゃないが、俺は今酔っ払っているのだ。
しかも泥酔の中の泥酔。
見境など無くなっていて当然ではないか?
そして渦巻きを通過した俺は、異世界に来たのだ。
次回は、主人公がコックスキルで王宮の料理人に登りつめていきます。