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奴隷の王  作者: 木ノ下
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3 奴隷生活

 奴隷としての一日は豚人間に叩き起こされることから始まった。ちなみにこの魔物の名前はオークと言うらしい。

 身体がだるくゆっくり体を起こしていたらオークに腹を蹴り飛ばされた。

 痛む腹を押さえて蹲っているとオークに無理やり牢屋から蹴り出され外まで引き摺られていく。

 外には僕と同じ格好をした奴隷たちが既に百人程いた。その周りにはオークともう一種、背は人間の子供位の大きさで緑色の体色を持ったオークに負けず劣らずの醜悪な顔をした魔物がいた。

 昨日リザンさんから得た情報からするとおそらくゴブリンだろう。

 周りの様子を見てから自分が今までいた建物を振り返って見ると、昨日背中に奴隷の烙印を押された建物だった。

 そういえば僕の背中はどうなっているんだろうか。別にどうでもいいことだけどどうせなら格好いい模様がいいな。などと僕を連れてきたオークが建物の中に戻って行ったので考え事をしながら突っ立っていると建物の中からどんどん奴隷たちが出てきてあっという間に数百人程に膨れ上がった。

 この中のどこかにリザンさんもいるのだろうが顔がわからないから捜しようがない。

 きょろきょろと首を動かして周りを見ていたが元の位置に戻す。あまり目立って魔物共に目を付けられるのは御免だ。

 しばらくすると建物の中から出て来る奴隷はすでにいなくなり全員集められたようだ。

 その後、僕達はオークに連れられて城砦の後方に聳え立つ岩が剥き出しの山脈の麓に向かった。

 到着するとそこには大量のツルハシやスコップ等が置いてあった。これだけで僕達が何をさせられるのかは大体読める。近くにはツルハシで砕いた岩などを運ぶのだろう荷車も数十台置いてある。

 僕より前からここで奴隷にされたと思しき者達は既にツルハシを手に取り作業にかかっている。彼らの表情は何かを恐れるように恐怖に歪み、何も考えまいとするかのように一心不乱に手を動かしている。

 その様子を見ていたら離れた所からオークがこっちに向かって歩いて来ているのが見えた。

 慌てて僕もツルハシを掴んで彼らの輪に入り見逃してもらえるように死に物狂いでツルハシを振るう。

 その甲斐もあってかどうやら今回は見逃して貰えた。

 そのまま作業を続け、ある程度砕いた岩が溜まったらそれを荷車で運ぶというだけの単純作業を日が沈み辺りが何も見えなくなるまで繰り返した。休憩は昼頃に三十分程度で水と硬いパンが一個出ただけだった。今日一日で既に両手はボロボロで血が滲んでいる。全ての作業を手袋すらなく素手でこなしているのだから当然だ。

 やはりリザンさんの話通りこの程度の怪我では首輪に備えつけられている回復魔法は発動しないようだ。

 まったく役に立たない魔法である……。

 その日の作業が終了すると僕達は元の牢屋に戻され、その際に昼と同じ水とパンだけの食事を渡された。

 今日一日で既に体力は限界に来ていた。

 牢屋に戻った後、疲れすぎて食欲も湧かなかったけど食わねば身体が持たないと思い僕は無理やり詰め込み水で流した。

 貧しい食事を終え横になると隣の壁から声がした。


「よう。まだ生きてるか?」


 誰かは直ぐにわかった。

 というよりもこんな所で話しかけてくる奴はリザンさんしかいない。


「既に死にそうです……」

「ははっ、冗談が言えるくらいならまだまだ大丈夫だな」


 大丈夫なもんか。こんな生活が毎日続いたらすぐに耐え切れずに死んでしまう。


「なんでそんなに元気なんですか……。疲れてないんですか?」


 こっちはへとへとだというのにリザンさんの声からはまだまだ余裕が感じられる。


「うん? そりゃあ俺だって疲れてるさ。だが俺はここに来る前から身体は毎日鍛えてたからな。単純な肉体労働ならまだまだいけるぞ」

「へえ。ここに来る前は何をしてたんですか?」


 毎日体を鍛えなければならない仕事など何があるだろうと思い訊ねてみる。


「騎士だ」

「騎士ぃ?」


 予想もしていなかった答えが返って来て素っ頓狂な声を上げる。僕のイメージする騎士といえば爽やかで物腰は柔らかく、紳士的な人物が想像されるのだけど……。

 今までのリザンさんとの会話を思い出して頭に浮かぶのは精々――


「居酒屋のカウンターで隣同士になったオッチャンっていう感じだなぁ……」


 別に居酒屋に行ったことはないのだけどそんな想像をしてしまった。


「おい……、口から出てるぞ」


 おっと、いけない。考えてるだけのつもりが言葉にしてしまったようだ。でも僕はあまり気にしなかった。


「まったく。王国の騎士様に対してなんて口を利きやがる。大体お前、俺より随分年下だろう? もっと俺を敬えよ」


 今更敬えとか言われてもなあ。だいたい――


「騎士だったのは昔の話で、今ではあなたも奴隷の身に堕ちてるじゃないですか。奴隷に上も下もないですよ」

「うがあああ! それを言うんじゃねえ!」


 僕が事実を言うと本気で嫌そうな叫び声を上げた。どうやら割とプライドが傷ついていたらしい。だがまあ、現実を知ることは大事だろう。こっちもここのことをいろいろ教えてもらって絶望したのだ。

 壁の向こうでまだリザンさんが喚いているけど僕はほっといて寝る準備に入る。少しでも体力を回復させて明日は蹴り飛ばされる前に起きないと。痛いのは御免だ。

 横になり、せめて夢くらいはいい夢が見れますようにと祈りながら目を閉じる。

 





 三日が経った。

 僕は相変わらず初日と同じ作業を毎日繰り返していた。

 僕の体力では一日中ツルハシを振り続けることはかなり厳しいのだけど何とか耐え忍び、その間は特に何事もなく過ごすことが出来た。食事も相変わらずパンと水だけで、極々稀に小さな肉の欠片みたいなのを一欠けら貰えただけ。栄養失調の身体は段々とやせ衰えいずれ骨も浮き上がって来るだろう。

 変わったことといえば、僕の掌に新しい胼胝の仲間が増えたことと、体力と精神がどんどん削られていっていることぐらいか。数字に表せるならもう二割位しか残っていない気がする。

 こんな状況でも未だに耐えられるのは恐らくリザンさんがいる御蔭だろう。牢屋に戻れば僅かな時間だけでも彼と話すことで孤独を忘れることが出来た。

 こんなことをリザンさんに言えば調子に乗るだろうし、口に出すのは照れ臭いので心の中で思うだけにしておく。

 あれからもリザンさんと会話を重ねることで色々と知ることが出来た。

 僕達が毎日作業している山は鉱山らしく、運ばされている岩は様々な鉱石で構成されているらしい。

 中には魔石という名の鉱石自体が魔力で出来ている物なんかもあるらしい。どうやら魔物はそれを大量に集めて何かに使うつもりのようだ。何に使うのかはわからないけどリザンさんは鉱石や魔石の使い道は大抵武器や防具の作製と言っていた。特に魔石は武具の作製時に組み込むことで魔石を使用していない一般の武具と圧倒的な差が出る程強力な物ができるため、採掘しても滅多に発見出来ないのも相まって購入しようとするととてもお金がかかるそうだ。

 ちなみにこの魔石は魔物の体内からも採取することが出来るのだが一部の上位の魔物からしか取れないため、それ相応の実力がある者でなければその方法は取れない。だけどその分、普通に採掘して出て来る魔石よりも上質な物が多いためより強い武具が作れようになる。

 まあここまで色々と知識を得ることが出来たけど、結局この城砦を脱出出来なければ使い道はないわけで。

 そしてその日も僕達に課せられた労働が終了し一日を終える。

 ああ、愛菜や孤児院の皆はどうしてるかなぁ。特に愛菜は目の前からいきなり僕が消えて心配していないだろうか。

 日本に残して来た大事な家族の顔を思い浮かべながら僕は眠りについた。


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