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奴隷の王  作者: 木ノ下
31/43

28 路地裏の誓い

「気にしなくていいですよ、ハイジ様」

「……はい」


 目を覚ました後、場所を移動して僕は朝からしでかした粗相を平謝りしたけど、ユニさんはずっとニコニコしたままあっさり許してくれた。

 その時、建物の隙間から昇って来た太陽の光がユニさんの背後から後光の様に差し込んだのもあり、僕にはまるでユニさんが女神に見えた。


「さあハイジ様、しっかり説明していただきますよ。どうしてここにいるんですか?」


 ぐぬっ、やっぱりきた……。

 まあ、聞かれれば話すつもりだったからいいさ。


「え~っとですね、あの後――」


 僕はユニさんと別れた後のことを全て説明した。

 あの後、僕はユニさんに言われた通り一旦適当な宿を探して部屋を取った。でも別れたユニさんのことが気になって結局宿泊をキャンセルし、ユニさんを捜しに外に出た。でもユニさんがどこに向かったのかわからず街の人に聞いて回って捜そうと思ったんだけど、特徴を話すと皆関わりたくないという風に逃げるので仕方なく街をしらみ潰しに捜し回ったのだ。そして何とかこの路地裏で見つけ出したのは良かったけど時間は深夜だし、ユニさんは既に寝ている。僕も走り回って疲れ果ててたのでユニさんの横に寝転んでそのまま寝てしまい、気付いたら朝だったと言う訳だ。

 そこまで説明するとユニさんはおもむろに立ち上がり僕の方に近付いて来た。

 言う事を聞かなかったことを叱られるかと思い、思わず縮こまってしまう――――が、そうではなかった。

 ユニさんは僕の目の前に膝を着くとそっと僕を抱き寄せた。


「えっ」


 予想外の事態に戸惑っていると耳元でユニさんが優しく話し掛けて来た。


「まったくもう……あまり無茶なことをしてはいけませんよ。もし私が見つからなかったらどうするつもりだったんですか?」

「うっ、それは……」

「夕食はちゃん摂りましたか?」

「え、えっと、摂りまし……」


 グ~。


「……」

「……すみません」


 ああ、何故このタイミングで……。

 今度こそ怒られるかもしれない。そう思い、そっと顔を上げるとユニさんは怒るどころか笑いをこらえていた。


「ユニさん!」


 僕は少し膨れっ面になり抗議の声を上げるけど、ユニさんに悪びれた様子はない。


「ふふふ、申し訳ありません。実は私も昨日は夕食を摂ってません」

「そうなんですか?」

「はい。寝る場所を見つけた後になってまだ夕食を摂ってないことに気付きまして」


 そう言いながらユニさんはちょっと恥ずかしそうにはにかんだ。

 そっか。それならユニさんもお腹が空いているだろうしどこかで早めの朝食にしようか。でもこんな朝早くから開いてる店あるかな?


「それにしても……わざわざ街中を走り回ってまでどうして私を追い掛けて来たんです?」


 僕が朝食の心配をしていると、抱き付いたままのユニさんが追い掛けて来た理由を聞いて来た。


「えっと、だから気になったから……」

「本当に? 気になっただけでそこまで必死に捜してくれるんですか? どこにいるか全く宛がなかったのに?」


 うっ……。

 まあユニさんが思ってる通り他に理由はあるんだけど………。それを言うのはちょっと恥ずかしい。 でも目の前で期待と不安をない交ぜにした眼差しで僕をジッと見つめて来るユニさんを見ると、誤魔化すべきではないと感じた。

 だから、僕は今思っていることを全て話すことにした。


「その……最初にこの街に入った時はきっとユニさんのことを説明すればユニさんが危険な存在じゃないって、人々を襲った過去のエルフとは違う普通の女の子なんだって皆わかってくれると思ったんです……。でも、実際は説明する暇も与えて貰えず顔を見ただけであんなに酷いことを言われました。それだけじゃないです。僕がユニさんを捜すために街の人達に色々聞いて回った時だって……ただ話を聞きたいだけなのに皆に『そんな化け物の話をするな!』って言われました」


 僕が話すに連れてユニさんの眉尻が段々下がり困った様な笑顔になっていく。

 慣れた風を装っていてもきっと自分でも気付かない内に心のどこかは傷付いているはずだ。

 本来ユニさんが責められる理由なんてない。街を襲ったのも、人を傷付けたのもただ髪の色と種族が同じだけの他人に過ぎない。なのにユニさんが傷付くなんて理不尽は絶対に間違っている。だから僕は言うんだ。


「ユニさんは化け物じゃないです!」


 目の前の少女に届く様に。心に染み込む様に、身体の奥底からの想いを込めて僕は叫ぶ。


「まだたった数日だけど、僕はユニさんが本当は優しい人だって知った! ユニさんは産まれた時からずっと大変な目に遭って来たのに、会ったばかりの僕を常に気遣ってくれる凄い人だって知ってる! だから……だから、そんな人が化け物の訳がない!」


 誰が何と言おうとこれだけは譲らない。

 僕が知ってるユニさんはどこにでもいる普通の女の子なんだ!


「……そうだとしても、きっと誰も認めてはくれません」


 ユニさんの表情は変わらなかった。俯いた顔にさっきまでの困った様な笑顔を浮かべ、更にその双眸には深く暗い諦めの色が加わっている。なら――


「僕が認めます!」

「えっ」


 僕の宣言にユニさんが顔を上げた。

 きっと、過去に受け入れてもらおうと努力してきたんだろう。そしてその度に目を逸らされ、拒絶され、蔑まれて、そんなことばかりを繰り返してきて諦めきっていることが今のユニさんの瞳からは読み取ることが出来た。

 それに、僕はその目を知っていた。

 過去、あの忌まわしい場所で毎日目にして来た。

 それだけじゃない。

 僕も今のユニさんと同じ諦めの色を自身の双眸に宿していたんだから。

 でも、その中でも僕には救いがあった。人の醜さと世界の理不尽さを知って失意の底にいた僕に意志を持つこと、そして確かな人の強さを教えてくれた偉大な背中を見た。

 だから僕は最後の最後で見捨てられた憎しみに捕らわれ、生きることを諦めることなく自身を保つことが出来た。

 きっと今のユニさんはあの時リザンさんに出会うことがなかった僕だ。

 このままだといつかユニさんは世界を憎む様になる。いやもしかしたら既にそうかもしれない。ユニさんが自分を拒絶した世界に復讐する為にたった一人で生きる様になったら……。

 きっとユニさんは一生心から笑うことは出来ない。敵意と悪意を一身に受け続け、いつか疲れて身を滅ぼす。

 そんな道にユニさんを行かせたくはない。

 だから今僕が最初の可能性を与える。


「誰も認めないなら僕が認める!」


 いつか皆に認めてもらえるまで。


「皆が拒絶するなら僕が受け入れる!」


 いつか世界に受け入れてもらえるまで。


「誰かがユニさんを傷付けるなら僕が守る!」


 誰が敵になろうとも。


「いつか世界の有り様が変わるまで――」


 その時まで――


「僕はユニさんの側にいます」


 あなたにとっての救いになる。


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