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奴隷の王  作者: 木ノ下
27/43

24 アルガース大陸

 東の空から光が射し、世界を覆っていた闇を塗り潰していく。

 ――――夜明けだ。

 僕は段々明るくなり眩しさを増していく空をぼうっと眺める。

 しばらくそうした後、立ち上がって深呼吸し腰を捻ったり前屈運動をして身体を解す。


「ふう~……。よしっ」


 頭と身体をシャキッとさせ、脳を回転させながら今日の予定について考える。


「まずは朝食だよね」


 僕は朝食の支度に入る前に隣で穏やかな寝息を立てている少女――――ユニさんを見る。


「すー、すー」


 毛布に包まりながら熟睡している様で起きる気配は全くない。でも、それも仕方がないと思う。

 彼女の境遇を考えれば奴隷に身を落す前からまともな生活を送ることなど出来なかっただろうし、昨日までは盗賊に捕まっていたのだから精神的にも疲れが溜まっているはずだ。

 今は出来るだけ休ませてあげようと思いそのまま寝かせてあげることにした。


(それにしても……)


 僕は未だ熟睡しているユニさんの寝顔をそっと覗き込む。

 ユニさんの寝顔はとても綺麗だった。昨日は夜だったけど今は明るいためにはっきりとわかる。

 その白い肌と透き通る様な銀髪がどこか幻想的で妖精の様に思えるけど、時折ピクリと動く少しだけ尖った耳に可愛らしさを感じてユニさんが生身の肉体を持った人だと思い出す。

 いつまでも眺めていられそうだけどそういう訳にはいかないので僕はユニさんから離れて食事の支度に入る。

 メニューは昨日と全く同じだ。

 干し肉と少し硬いパンとコルの実、これだけだ。

 正直干し肉はあまり美味しくなかったので都市に着くまでは途中でホーンラビットを食用に狩っておこうと思う。

 準備はあっさり終わってしまい五分も掛からなかった。

 まあ食料を取り出して並べるだけで調理なんかしないのだから当然だけど。


「皮でも剥いておこうか……」


 手持ち無沙汰になってしまったのでコルの実の皮を剥くことにした。

 ショリショリとのんびり剥いているとユニさんの寝ている方からごそごそと動く気配がした。

 そっちに顔を向けると段々毛布が盛り上がりその中からユニさんが半分寝ぼけた顔を出した。

 ぼけっとしていたユニさんが僕の方に顔を向けた。口の端からほんの少し涎がたらーっと出ているんだけど指摘していいんだろうか……。


「……」


 そのまま数秒見つめ合っていると突然ユニさんがハッとした顔になり、後ろを向くとごしごしと口元を擦りだし、次いで両手で軽くパシパシと頬を張るとようやく顔をこっちに戻した。


「おはようございますハイジ様」


 ユニさんはすまし顔で挨拶をしてきた。


「……うん。おはよう」


 なんと言えばいいかわからなかったけど僕も取り敢えず挨拶を返す。さっきのは見なかったことにしようと思う。


「準備は出来てますからご飯にしましょう」


 僕が声を掛けるとユニさんは慌てて近づいて来た。


「すみません、ハイジ様。食事の用意をさせてしまって……」

「別にこれ位いいですよ」


 ユニさんは気にしているけど実際僕がしたのなんて並べただけだしね。


「それじゃあ食べましょうか」

「はい」


 僕たちは二人で早めの朝食を摂った。






 食事をしながら今日からの予定について話し合った。

 都市カロンはここから歩いて行くと数日はかかるらしい。距離はかなりあるけど街道を歩いていれば迷うことなく着くことが出来る。

 簡単に予定を確認すると僕達はすぐに出発した。

 僕は今まで通りボロボロの奴隷服を着ているだけだけど、ユニさんは盗賊の荷物にあったフード付きのローブを身に纏っている。これをすっぽりと被っていればユニさんの銀髪も隠せるのですぐに正体がバレることはないだろう。

 僕も上に何か羽織りたかったのだけど、いかんせん僕の身長ではサイズが全く合わず、袖は余るし裾はズルズルと引き摺ることになるので諦めた。

 今は出発してから三時間位経ったけど周りの景色は林が広がっているばかりで何も面白味がない。なので暇つぶしも兼ねてユニさんにこの世界に来てから気になったことを色々質問していた。

 まず今僕がいるのはアルガース大陸という所で、一年は三百六十日で一月は三十日として区切られている。この辺は地球と殆ど変わらない。

 それと四季もちゃんとあるそうだけど、この大陸は一年を通して割と温暖な気候が続き、冬でも雪は滅多に降らないらしい。

 地図で見ると大陸の上半分が人間やエルフ、ドワーフ、獣人などの亜人が国や村を作り生活していて、人界と呼ばれている。王国や帝国は色々な種族の者が暮らしている(と言っても帝国にいる亜人は殆どが奴隷らしい)けど、人間の王を筆頭に貴族達が国を統治している。

 逆に神聖法国という宗教国家は人間しかいなく、人間以外の種族を邪悪な者として差別したり討伐に乗り出すこともあるらしい。 

 他にも大小様々な国が存在しているそうだけど、特に強い力を持ったのが王国、帝国、神聖法国の三国だそうだ。 

 そして、大陸の下半分は現在確認されている五人の魔王がそれぞれ区分した領地を好き勝手に治めていて魔界と呼ばれているらしい。

 ちなみに人界と魔界、両方に魔物は生息しているけど、魔界にいる魔物は人界にいるそれよりも桁違いに強いらしい。

 何でもこの世界には大気中に普通は目に見えない魔素という物質が存在していて、僕達が魔法などを使用して魔力を消費した際に体内で生み出される魔力の他に、この魔素を大気中から吸収して魔力の元にしているそうなのだ。

 で、魔物は基本的にこの魔素を吸収して生命活動を維持している(普通に人や動物、他の魔物も食べれる)んだけど、魔界に溢れている魔素は人界の物よりも濃度と質が高く、そのため魔界の魔素を吸収している魔物や新たに産まれてくる魔物は自然と強力な力を持つんだとか。

 人界に生息している魔物は当然人界で産まれたのもいるだろうけど、魔界での生存競争に敗れたのや偶然人界と魔界の境界を越えて来たのもいる。偶に滅茶苦茶強い魔物が現れるのはそういう理由らしい。

 ちなみにどういう原理で魔物が産まれて来るのかは解明されてないけど、説としては魔素が集まって魔物の核(僕達で言うところの心臓)となり、さらにそこから身体が形成されていくんじゃないかと考えられている。

 魔物の進化に関しては、他の魔物を殺し、その身を食らうことでその魔物の魔素を自分の体内に取り込み、それを繰り返すことで体内に蓄えられる魔素の量が臨界点を突破すると今までより多くの魔素を取り込める様により強靭な力を持った肉体へと進化するんじゃないかという話だ。

 ああ、そういえば人界と魔界の境界は大陸の端から端までを横断する山脈で区切られているそうなんだけど、ユニさんの話を聞くとその山脈って僕がついこの間までいた砦の背後に聳え立ってたのがそうらしい。

 本当に僕ってとんでもない所にいたよね……。

 と、まあこんな感じで色んなことを教わりながらユニさんとは平和に都市を目指している。


「へえー、なる程」


 ガンッ!


「上手く説明出来たでしょうか?」


 バキッ!


「はい。凄くわかりやすかったです」


 ゴキッ!


「それは良かったです」


 僕が本当のことを言うとユニさんは嬉しそうにニッコリ微笑んだ。

 実際ユニさんの説明は簡潔でありながら要点をしっかり押さえているのですぐに理解出来た。

 ゴガン!

 ところで時々妙な効果音が入るけど気にしないで欲しい。

 さっきから街道の両脇に広がる林から魔物が現れては襲って来るのでそのたびに駆逐しているのだ。

 まあ出てくるのは所詮ホーンラビットやゴブリン程度なので何も問題ない。

 最初に魔物が出て来た時はユニさんも心配してたけど僕の戦闘の様子を見て安心したのか、今では気にせずに会話を続けている。


「それにしても……」


 先を見渡してみても地平線の彼方まで同じ景色が続いている。


(歩いて行くのは無理があったかなあ……)


 別に僕は問題ないのだけど、ユニさんが心配だ。

 奴隷商人に捕まってからはまともな食事も運動も出来なかったみたいだし体力もだいぶ落ちているだろう。

 休憩を挟みながらとはいえ、ここから先はほぼ一日中歩き詰めになる。途中で倒れたりしないだろうか……。


「ハイジ様?」


 ユニさんの横顔をそっと伺ってたのに気付いたようで訝しげな様子で僕を呼ぶ。


「あ~……いえ、何でもないです」

「?」


 僕がそう答えるとユニさんは若干納得がいかなそうながらも顔を前に戻した。


(ユニさんって結構鋭いな)


 気づかれるとは思わなかったので少しビックリした。


(今のところ大丈夫そうだけど何か考えないとなぁ……)


 カサ。


 僕が一人で悶々としていると林の方から草を踏みしめる音が聞こえてきた。

 また魔物かと思い、音の出所に顔を向ける。


(ん?)


 確かにこっちの方から音がしたはずだけど何もいない。

 気のせいかと思い、顔を戻して歩みを再開する。

 だが数歩も行かないうちにまたもや草の上を移動する葉擦れの音が聞こえてきた。

 もう一度振り返ってみるがやはり何もいない。

 さっきから止まっては振り向くことを繰り返している僕をユニさんが少し前方から不思議そうに見ている。

 ユニさんの様子には気付いていたが僕は視線を逸らさずに眼前に広がる林を見つめる。


(何かいる……)


 目の前には背の高い同じ様な木が林立している様にしか見えないが、その中から僅かにこちらに向けられた敵意を感じる。

 どこかに身を潜めているのか……ハッキリと敵の居場所が掴めない為慎重に林の中を見渡す。


「ハイジ様? どうかしましたか?」


 立ち尽くしている僕を見て何か異常が起きたことを感じ取ったのかユニさんが戻って来る。


「ユニさん、そこで止まってください。林の中に何かいます」

「えっ」


 僕の言葉に驚き、ユニさんは指示通り立ち止まって僕が見ている方を注視する。


(どこだ……?)


 眼前に広がる林は木々はそれ程密集しているわけではなくそれなりに一本一本間隔が空いている。そのため身を隠そうとしたら木の幹一本分のスペースしかないのだが、見た限り隠れている様子はない。

 頭の奥底では絶対に何かが潜んでいると叫んでいるのだが、やはり勘違いなのかと少し林の方へと近付いてみる。

 と、そこで違和感を感じた。

 周りの枝葉の薄い木々に比べて一本だけ青々と生い茂った木がある。それに何故か根っこの部分が地上に半分程飛び出していた。

 頭に疑問符を浮かべながらその木に近付いて行く。

 が、後数歩で手が届くという所でこっちの様子を窺っていたユニさんがハッと、何かに気付いた様に慌てて声を上げる。


「――っ?! いけませんハイジ様! その木は――」

「っ?!」


 突然叫び声を上げたユニさんに驚き振り返るが、ユニさんの台詞を最後まで聞くことは出来なかった。

 振り返った僕の背筋に突如悪寒が走り、背後から殺気が膨れ上がる。

 僕は悪寒と殺気の正体を確認することなく飛び込み前転の要領でその場を飛び退く。


 ズンッ!


 次の瞬間には僕のいた場所に何か巨大な物体が振り下ろされていた。

 すぐに起き上がり振り返ると、そこには巨大な枝で地面を叩き付けている木の姿があった。


「なっ! 木が動いて?!」


 地面を叩き付けた枝はズルズルと引きずられる様に持ち上げられ通常の枝の位置に戻った。

 すると、木の幹の真ん中あたりに二本の縦線が、その下にギザギザとした一本の横線がピシピシと罅が入る様な音を発しながら現れた。

 次の瞬間――――


「キイイイィィィィィ!」


 三本の線がグワッと一気に開くと同時に、耳障りな甲高い奇声を発しながら木がグネグネと動き出した。


「トレントです、ハイジ様!」

「これも魔物?!」


 予想外の敵の正体に瞠目して食い入る様に観察する。

 さっき木の幹に現れた線はどうやらトレントと言うらしいこの魔物の目と口のようだ。

 獲物を仕留められなかったのが悔しいのかさっきからキーキーと喚き続けている。


「ユニさん、離れていてください」

「?! ハイジ様、トレントはゴブリンやホーンラビットとは違います! 逃げてください!」


 そうしたいのは山々だけど適は完全に僕達を獲物に定めている。逃げたとしても追って来るかもしれないし、また擬態されて休んでいる所を不意打ちでもされたら堪らない。今仕留めてから先に進んだ方が安全性は高い。それに――

 僕は強ばっていた体の力を抜き、僅かに腰を落として構える。


 ――この程度の相手に逃げる必要はない!


 ドンッ!

 足に思い切り力を込めて地面を蹴りつける。

 足下の土と芝を吹き飛ばしながら猛スピードで急接近して来る僕の動きに合わせて、トレントは枝をハンマーの様に振り下ろして来る。

 このまま進めば直撃だが僕は避けない。

 頭を叩き潰そうとして来る枝に向かって跳躍し、体を回転させながら遠心力を乗せた回し蹴りを放つ。


 バキャッ!


「キイイ?!」


 自分の武器でもある枝をあっさりと蹴り折られたことにトレントは怯み、数歩後ずさる。

 が、すぐに気を取り直したのか、今までよりも更に甲高い奇声を上げ、残りの枝を振り回しながら猛烈な勢いで迫って来る。

 上下左右、あらゆる方向から凶器と化した枝が襲い掛かって来るのを冷静に観察し、見切り、弾く。

 最初の攻防でこのトレントの強さは大体わかった。

 確かにユニさんの言う通りゴブリンやホーンラビットとは格が違う。でも、今まで戦って来た森の強者には遠く及ばない。

 トレントの攻撃を片腕だけで弾きながら徐々に接近していく。

 確実に自分の懐に近付いて来る僕の姿にようやく身の危険を感じたのか、もはや絶叫と言える鳴き声を発しながら更に攻撃の勢いを増す。

 だが、自身の視界を奪う程に大量の枝を振り回したせいでトレントは僕の姿を見失ってしまった。

 目標を見失ったことに気付いたトレントの動きが一瞬止まる。

 その致命的な隙に僕は一息でトレントの懐に肉迫し、左腕を引き絞る。


「?! ギイイイイ!」


 僕の接近を許したことに気付いたトレントが慌てて僕を引き離そうとするが、リーチの長い枝ではこの距離には咄嗟に対応出来ない。


「はあっ!」


 無防備な幹に向かって引き絞った左腕を打ち抜く。


 バガンッ!


 凄まじい破砕音を響かせながらトレントの幹が真っ二つに折れた。


 ズズウンンン!


 真っ二つになった幹の上側は地面に倒れると、幹の表面に存在していたトレントの目と口はいつの間にか消えて普通の木に戻っていた。残った下半分も沈黙したまま動かない。

 完全に倒したようだ。

 驚いたのはその姿だけで強さは大したことなかった。


「ハイジ様!」


 後ろから聞こえて来た声に振り返ると血相を変えたユニさんが僕の方に走って来ていた。


「怪我は!? 怪我はありませんか?!」


 ち、近い?! 近いですユニさん!

 目の前まで来たと思ったら両肩を掴まれて鼻がくっつきそうな程に顔を近付けて心配された。


「だ、大丈夫ですからー!」


 ひとしきり僕の体を探って怪我がないことを確認するとようやく離れてくれた。


「よかった……。もう! 逃げてくださいと言ったじゃありませんか!」

「ご、ごめんなさい。でも、ほら、ちゃんと倒せましたよ」


 そう言って木の残骸となったトレントを指差す。


「それは……そうですけど。まさかあんなにあっさりトレントを倒すなんて思いませんでした……。でもハイジ様、最初トレントだと気付きませんでしたよね?」

「それは、まあ……」


 確かに最初はまったく気付かなかった。そもそもあんな魔物がいること自体知らなかったし。

 最初の先制攻撃を食らっていたらどうなってたかわからなかったかもしれない。

 これは……この世界の常識の他にも魔物に関しても知る必要があるな。


「それにしてもトレントですか……本来は深い森の奥に生息している魔物なのですが、こんな街道沿いに現れるなんて珍しいですね」


 この世界のことに詳しくない僕にはへー、としか言えないがユニさんは若干眉を顰めてトレントだった木の残骸を見つめている。

 だがそれも少しの間だけですぐに顔を僕の方に向け直す。


「先に進みますかハイジ様?」

「そうですね。余計な時間を食ってしまいましたし進みましょうか」


 歩いて行くにはまだまだカロンまでは距離がある。早く先に進まなければならない。

 とは言えさっきのトレントみたいに周囲の景色に擬態出来る魔物がいるとなるとまともな装備のない状態で二人で長距離を歩いて進むのは危険度が跳ね上がる。

 どうしたものか……。そんなことを思っているとどこか遠くから微かにガタガタと何かが走る音が聞こえてきた。

 立ち止まって後方をじっと見つめる。


(どこだ?)


 急に立ち止まった僕に気付いたユニさんが首を傾げながら僕を見ている。

 申し訳ないけど今は音の出所が気になってユニさんに気を回せない。

 そのまま後方を探っていると……見つけた。


(馬車だ!)


 かなり離れているけど数台の馬車の集団が街道をまっすぐこっちに向かって進んでる。数分もすれば僕達と合流するはずだ。

 馬車の姿を認識した瞬間、僕の中ではこの後どうするかは既に決まっていた。


「ユニさん、馬車です」

「えっ」


 ユニさんに馬車の存在を教えると僕が見ている方角に目を凝らし探し始めた。


「あっ」


 ユニさんも見つけた様だ。軽く驚いた表情をしている。


「この距離でよく気付きましたねハイジ様」

「え?」


 言われて自分達と馬車の距離をもう一度見てみる。

 ……確かに軽く見積もっても一キロは離れているんじゃないだろうか?


(以前と比べてみても明らかに索敵範囲が広がってる……森では気付かなかったけど、やっぱりオーガを倒した影響かな)


 自分の強化っぷりに軽く戦慄しながらもひとまず置いといて、ユニさんに僕の考えを話す。


「ユニさん、あの馬車に乗せて貰えるよう頼んでみましょう」

「えっ、ですが……」


 ユニさんは軽く目を見張った後、どこか気まずそうに自分の銀髪に触れる。

 ユニさんが懸念していることは勿論僕もわかってる。それに関しては僕に考えがある。まあ考えと言える程の物じゃないかもしれないけど‥…。

 要は顔さえ見られなければいいのだ。


「大丈夫です。任せてください」

「……わかりました」


 僕が強い眼差しで訴えかけるとユニさんは僕に任せてくれた。


「それじゃあユニさん、まずはフードを深く被った後、布か何かで口元を覆ってください」

「はい」


 僕が指示を出すとユニさんは手際よく顔を覆っていった。


「どうでしょう?」


 準備が整いこっちを向いたユニさんは足首までをすっぽりと覆うローブに加えフードを目深に被り、更に顔の下半分を隠すための布を巻いた状態だ。

 これなら外から見えるのは僅かな目元のみとなる。

 元の世界で歩いていたらすぐに職務質問を受ける様な恰好だ。


「バッチリです」


 これで準備は終わりだ。

 ユニさんの様子を窺うと若干不安そうにしている。正体がバレてまた人に拒絶されるのが怖いのかもしれない。きっと里を追い出された時から何度も同じ目に遭って来たんだろうな。


(何とかしてあげたいけど……)


 望みを叶える具体策がすぐに思い浮かぶはずもなく、心に微妙なしこりを残しながら近付いて来る馬車を見つめる。


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