21 殺戮
「この餓鬼! どこから出て来やがった⁈」
「よくもボルツを!」
「おい! さっさと武器を持って来い!」
「ぶっ殺してやる!」
先程から目の前で喚き散らしている男達を一通り見渡すと僕は汚い音を発する口を閉じさせるために行動を開始する。
と、男の一人が武器が置いてある焚火の所に行こうと動き出した。
「行かせる訳がないだろ」
僕は脇を抜けようとしている男の腕を掴み無理やりこっちを向かせる。
「えっ?」
驚いた表情を浮かべている男の顔面に向かって跳躍し思い切り頭突きをかます。
ゴズン!
「ぐあああああ⁈」
凄まじい衝突音が響き男は顔を押さえて蹲る。
「そんな所にいていいのか?」
僕は足元に蹲って悶えている男の頭部目掛けて足を振り上げる。
「おい、避けろモルト⁈」
他の男が蹲っている男に注意を促すがもう遅い。
僕は振り上げた足をモルトと呼ばれた男の頭部目掛けて振り抜く。
ゴキン!
僕の蹴りが直撃した男は首をあり得ない方向に曲げその場に倒れ伏した。
まずは一人。
「お頭ぁ! これを!」
どうやら僕がモルトと呼ばれた男を相手している内に別の男が武器を取りに行っていた様だ。
そいつから武器を受け取った男達が僕に向けて武器を構える。
「てめえ、よくもやってくれたなあ! 今更後悔しても遅えぞ!」
こいつらはいちいち喋らないと行動に移せないのだろうか? 無駄が多すぎる。
「おい! こいつを囲め!」
指示を出された他の男達が僕の周りを囲むべく動き出した。
でも僕にわざわざそれが終わるのを待ってやる義理は無い。
ドンッ!
僕は正面にいる男に向かって全力で地を蹴り跳び出す。蹴りつけた地面が陥没する程の勢いだった。
予想外の速さで接近してくる僕に男は対処が間に合っていない。
僕は勢いを殺さず肩から男の腹に突っ込む。
ズドン!
「がげえ⁈」
爆撃されたかの様な音を出しながら男は身体をクの字に折り曲げ、後方に生えていた木をへし折りながら吹き飛んでいく。
二十メートル程吹き飛んだ所でようやく止まりそのまま動かなくなった。
二人目。
僕は直ぐに反転し一番近くにいる男に向かって駆け出す。
そいつは槍を装備した男で僕の突進に合わせて槍を突き出して来た。
「はあっ!」
ビュッ!
なかなか早い突きだとは思うけど今の僕には絶好のカウンターチャンスにしか見えない。
僕は足を踏み出し身体を斜め前方に倒しながら突き出された槍に被せる様に左腕を振るう。
「なっ⁈」
槍を持った男の驚愕した叫びが聞こえる。
僕はそれを無視して男の顔面にカウンターを叩きこむ。
グシャッ!
オーガすら殴り殺すことが可能な拳を受けた顔面は無惨に潰れ、その一撃で男は絶命し崩れ落ちる。
三人目。
僕が残りの男達を振り返れば一瞬で仲間を三人殺されたことに激しく動揺していた。
「何なんだ……何なんだてめえはよぉ⁈」
「お、お頭ぁ……どうすればいいんすか⁈」
「んなもん知るかぁ⁈ 自分で考えやがれぇ!」
残りは二人のみ。既に半狂乱に陥っていて片方は殆ど戦意を喪失している。
ザッ。
「ひいっ⁈」
僕が一歩踏み出しただけで部下と思われる方は情けない悲鳴を上げ、背を向けて逃げ出した。
「お、おい⁈ 逃げるな!」
お頭と呼ばれた男が制止の声を上げるが男は止まる様子は無い。
「ちっ! くそがあ!」
敵の頭は部下が逃げたことに舌打ちをしているけど僕は一人たりともここから逃がすつもりはなかった。
僕は足元に落ちている敵が使っていた槍を拾うと肩に担ぐように構える。
身体を捻り十分に引き絞った後、逃げた男目掛けて槍を放つ。
ゴウッ!
放たれた槍は空気を唸らせながら一直線に男に向かって飛んで行き、その無防備に晒された背中に勢いよく突き刺さる。
ズブシュッ!
突き刺さった槍の勢いは止まらず男を串刺しにしたまま進み、前方にある木に男を縫い付ける様に突き立った。
「ごふっ! な、なに……が……」
男は勢いよく血を吐き槍に串刺しにされたまま死んだ。
これで四人。後は――
僕は残された最後の一人、敵の頭を見据える。
「ひいっ⁈」
僕に見据えられた敵の頭は顔面蒼白になりながら歯をカチカチ鳴らして怯えている。
「後はお前だけだ」
僕はゆっくりと敵の頭に向かって歩を進める。
「ま、まってくれ! な、何でもする。だから殺さないでくれぇ!」
敵の頭が無様に命乞いを始めたが僕は構うことなく近づいて行く。
「か、金をやる! 俺を見逃してくれたら金貨百枚をやるぞ! 悪くない話だろ?」
口から唾を飛ばしながら必死に自分が助かるための道を探している。僕は更に近づく。
僕が一向に止まらないのを見て敵の頭は遂に泣き出した。
「だ、だのむよぉ! な、なん、何でもずるがらあ!」
僕は一歩程離れた所で止まり、武器を捨て土下座まで始めた敵の頭を見下ろす。
「そうですね……一つ欲しい物があります」
僕の言葉を聞いた敵の頭は一筋の希望を見つけたかの様な顔で僕を見上げる。
「な、なんですか⁈ なんでも用意します⁈」
僕は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした敵の頭を見つめ――――
「あなたの命です」
「は?」
グシャッ!
呆けた声を上げながら見上げて来る男の顔を僕は無言で踏みつぶした。
これで最後。
「ふう……」
思ったよりあっけなく勝負が着いたことに少し拍子抜けしながら足元で頭を潰され身体をビクビクと痙攣させている死体を眺めて一つ息を吐く。
(人を殺しても特に何も感じないな……)
人型の魔物を殺すことはあっても人を殺すのは今回が初めての経験だったのだけど、人を殺すことに躊躇いはなく、終わった後も殺人に対する罪悪感や嫌悪感を感じることもなく心は平静を保っていた。
でも僕はそれを悪いとは思わなかった。この世界はかつて僕がいた世界の様に優しくない。
きっと迷いが生まれた瞬間自分の命を失うことになるだろう。生きたいのなら躊躇ってはならないのだ。僕はそう考えていた。
それと一つわかったことがある。
どうやら人間を殺した場合でも魂を吸収することが出来る様だ。男達を殺した直後、お馴染になったいつもの身体に何かが入り込んで来る感覚があった。
人を殺した場合どこが強化されるのかは見当が付かないけど、この先も誰かを殺すことがあればそのうち気付くだろう。
正直こんな下種共の魂が自分の身体の中に入って来るなんて考えただけでも吐き気を催すけど自分ではどうしようもない。
考えごとをしてるうちにさっきまで身体を満たしていた殺意や憎悪はだいぶ落ち着いてきた。とりあえず襲われかけてた少女の様子を確認しておこう。
僕は頭と心で自分の意志と体調を確認すると先程暴行を受けそうになっていた少女の方を振り向く。
僕が視線を向けると少女は肩を震わせ、警戒しているのか緊張で顔を強張らせている。
(無理もないよね)
僕はなるべく少女を刺激しないようにゆっくり近づいて行き、出来る限り優しい声音を意識して話しかける。
「えっと、大丈夫ですか? 怪我は無い?」
僕が問いかけると少女はまたビクリと震えながらも小さな声で返事を返してくれた。
「は、はい……」
良かった、とりあえずは大丈夫そうだ。それにしても……
僕は改めて少女の顔を見ると思わず見惚れてしまっていた。
でもそれは僕だけの話ではないだろう。僕の目の前にいるこの少女、とんでもなく可愛いのだ。僕がいた世界のアイドルと比べてもおそらくこの少女に軍配が上がるだろう。渡り合えるとすれば愛菜くらいしか思いつかない。夜闇の中ですら輝くような長い銀髪に白い肌、僕を見つめる二つの碧眼はさっきまで涙を流していたせいか僅かに潤みどこか艶がある。身長は百七十センチ程だろうか。立ち上がれば僕は彼女を見上げることになるだろう。
目の前の少女に見惚れていると一つ気になることに気付いた。
それは彼女の耳だ。
よく観察してみると普通の人の耳よりも先端が少し尖っているのだ。
そういえばさっき殺した男達がこの少女を見てエルフと言っていたことを思い出す。あの時は頭の中が殺意で満たされてそんなことを気にするどころじゃなかったけど、よく思い出してみると確かにそう言っていた。
「エルフ……?」
僕がポツリと呟くと少女はハッとした顔になり慌てて自分の耳を両手で隠した。
慌てた仕草は何だか可愛いかった。
でも何で耳を隠すんだろう? この世界でエルフは珍しいのかな?
僕が考えを巡らせている間も目の前の少女はどこか怯えた表情で僕の顔を窺ってくる。
(どうしよう……)
何故かは知らないが少女のことを怯えさせてしまった様だ。対策が見つからないので僕は取り敢えず他の女性の様子を見ることにした。
僕は少女の前から離れ近くに座り込んでいる三人の女性に近づきしゃがみ込む。
あの男達は既に存在しないのだが彼女達の目は虚ろなままで、何度か彼女達に話しかけてみたけど返事は返ってこない。
あの男共に何度も暴行を受けて精神が壊れてしまったのかもしれない。僕が困り果てていると一人の女性が口を開いた。
「――て――」
それはとても小さく殆ど聞き取ることは出来なかったけど、その女性は繰り返し言葉を発した。
「――ろ――てく――い」
さっきよりも大きい声になった。
「ころ――ください」
段々彼女の言葉が明確になってくる。でも――――
「殺して、ください」
それは自らの死を願う言葉だった。
「お願い、します……ころし、て」
「私を……殺して、ください」
そして隣にいる二人の女性も口々に同じ願いを口にした。
「……」
僕は無言でその願いを聞き続け、おもむろに立ち上がる。
立ち上がった僕が向かった先には男達が使っていた武器の一つ、剣が落ちている。
僕はその剣を拾うと彼女達の前に戻る。
今まで虚空を見つめていた彼女達が初めて僕に目を向けた。
そしてほんの少しだけ微笑み一言――――
「「「ありがとう……」」」
「……」
僕は彼女達の生を絶つべく無言で剣を振り下ろした。
私の目の前で三人の女性が殺された。
彼女達を殺したのは盗賊達を皆殺しにし、私が純血を奪われそうになった所を助けてくれた少年だ。いや、まだ本当に助けてくれたのかはわからないが。
彼は突然現れたかと思うと瞬く間に盗賊を皆殺しにしてしまった。
彼の格好は今私が着ている奴隷用の服よりも更に質素でボロボロだった。もう服を着ていると言うよりも布切れを身体に引っ掛けているといった風だ。
しかも彼は右腕をなくしていた。
一体何があったらあんなみすぼらしい状態になるのだろうか。
しかし片腕がない状態で、しかもあんな年端もいかない子供が盗賊達を圧倒した戦闘力は凄まじかった。
冒険者なのだろうか? いやそれならあんな格好はしていないだろう。
見た目と中身がバラバラで私には彼が何者なのか判断が付かなかった。
彼は盗賊達を殺すと私の方に近寄って来た。
思わず肩が震え警戒してしまうが彼は優しい声音で私の安否を確かめて来た。
私はなんとか返事を返すことが出来た。
彼はしばらく私を見つめた後、ポツリと一言、
『エルフ……?』
私はその言葉でハッと我に返り耳を隠す。今更隠しても遅いのだが隠さずにはいられなかった。
別にエルフだとばれるのが不味いわけではない。問題は――――。
私の様子を窺っていた彼は困った様な表情を浮かべると私のもとを離れ、近くで座り込んでいる女性たちの方に歩いて行った。
彼は困った顔をしていたがあの表情は私に対して嫌悪感や恐怖を抱いていたわけでは無かった。
今まで私の正体を知った人達との反応の違いに私は少し戸惑ってしまう。
私が戸惑っている間に彼は女性たちに話しかけていたが反応がないことに困り果てている様だ。
だがそこで女性の一人が口を開く。
『殺して、ください』
最初は小さい声だったが段々聞き取れる様になり、私はその言葉を聞いた瞬間息を呑んだ。
そして他の女性たちも同じ台詞を口にする。
彼はじっと彼女達の願いを聞き続けていたかと思うと立ち上がりどこかに向かった。
どうするのかと思っていると、彼は落ちていた剣を拾うと女性たちの前に戻って来る。
私は彼が何をしようとしているのか理解した。
「ぁ……」
だが私は動かない。いや、動けない。何故なら――――
彼は小さく微笑んでいる女性たちに向かって剣を振り下ろす。
その姿は命を刈り取る悪魔ではなく救いをもたらす神に見えたから――――。
次回からようやくヒロインと本格的に絡んでいきます




