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奴隷の王  作者: 木ノ下
22/43

20 怒り

 街道を歩いている最中に何回か左右に広がる林から魔物が出てきて襲われることがあった。

 魔物と言ってもゴブリンやらホーンラビットといった森で見た小型の魔物ばかりで全て瞬殺して終わった。

 そんなことを繰り返して進んでいると日が暮れて来た。

 ここには街灯なんて物はないので日が沈めば辺りは真っ暗になるだろう。月明かりだけでは心許ないので僕は明るいうちに火を熾して食事を済ませることにした。

 僕は街道から逸れて林の中に入り少し開けた場所を見つけると準備を始める。

 準備と言っても火を熾すための枝を拾ってくるだけだ。

 火を熾した後、昼間倒したホーンラビットを丸焼きにする。焼けたら火からおろしていつも食べてる桃に似た果実を用意して食事の準備は完了だ。

 このメニューは僕が森に入った時から続いている。果実は瑞々しくて美味いしホーンラビットの肉も柔らかくて食べやすいけど毎日食べてるとさすがに飽きが来る。


(都市に着いたら色んな料理を食べたいな……)


 そんなことを思いながら僕は食事を終えすぐに眠りについた。

 次の日、僕は目が覚めるなり荷物を纏めて街道に戻り先を急いだ。

 昨日の食事中に思ったことが実現可能だと考えると居ても立ってもいられなくなったのだ。

 僕は心持ち昨日より速度を上げて歩いた。

 時々休憩を挟みながらもほぼ一日中歩いていたのでかなりの距離を稼げただろう。都市に到着する日が待ち遠しい。

 日が暮れて来たので今日はこの辺で野宿することにする。

 僕は昨日と同じ様に林の中に入り今日の寝床を探すのだが、その途中僕の耳が何かの音を拾った。

 最初は近くに魔物でもいるのかと思ったけどどうも違う。目を閉じ意識を耳に集中すると今度ははっきりと聞こえた。


「……悲鳴?」


 間違いない。人、それも女性の声だ。

 魔物にでも襲われているのかもしれない。

 そう思った僕は一瞬迷ったもののすぐに気持ちを切り替えて急いで悲鳴が聞こえて来た方に向かって林の中を進んでいく。






 しばらく進むと明かりが見えて来た。何人かの話し声も聞こえる。どうやら悲鳴はそこから聞こえて来る様だ。

 僕は音を立てないように近づき木の陰からそっと様子を窺う。

 そこで目に入ったのはまず焚火を囲んだ四人の男の姿だった。次に離れた所に質素な服を来た十代後半位の少女から二十代前半位の女性四人が膝を抱えて座り込んでいる。

 女の人達は一人を除いて皆目が虚ろで焦点が合っていないようだ。一人だけ意識がはっきりしていそうな長い銀髪をした少女はカタカタと肩を震わせている。

 男達は時折彼女達の方を見ると下卑た顔で嗤っている。その度に少女は肩を跳ね上げ怯えている。

 男達は四人とも厳つい顔つきでどこか薄汚れた皮鎧を身に着けている。脇にはそれぞれが使っているのだろう剣や斧などの武器が置いてあった。

 そこでまたも女性の悲鳴が聞こえた。今度はさっきよりもか細く今にも消えてしまいそうな声だ。

 僕がそちらに目を向けると奥の方に一つだけ建てられた天幕があった。

 悲鳴はそこから聞こえてくる。

 僕はここまで観察して何が起きているのかを理解した。

 奥にある天幕から一人の男が出て来た。その男は焚火を囲んでる男達に近づくと座り込み会話に加わる。


「ようお頭ぁ、随分お楽しみだったな」


 男の一人が天幕から出て来た男に話しかける。

 お頭と呼ばれた男はニヤニヤと下品に笑いながら話しかけて来た男に返事をする。


「おう、なかなかの上玉だったぜぇ。あの奴隷商人なかなかいい品扱ってやがる」


 そこで話を聞いていた別の男達も会話に加わって来た


「確かに。偶然見つけた獲物でしたが思わぬ収穫でしたね」

「それにしてもお頭、昼からずっと続けてよく持ちますねえ」

「そりゃあお頭の本体は下半身みたいなもんだからなあ!」

「あの女壊れちまったんじゃないですかい?」

「てめえらだって何度もやってただろうが!」


 そこで男達がギャハハと笑い声を上げる。

 僕は目の前で馬鹿面を晒しながら笑っている男共を見て腹の奥底から際限なく溢れて来るドロドロとしたどす黒い感情に身体中を満たしていた。今僕の目には目の前の男達が砦にいたオークやゴブリンと同じに見えていた。

 今にも飛び出して行きそうになるが頭の中の微かに残った冷静な部分が相手の強さがわからない以上危険だと必死に抑える。

 僕が自分を押さえるのに必死になっている間も男達の会話は続いていた。


「しかも今回はエルフまで手に入りましたからね。こりゃあかなりの金になりますよ」


 男の一人が少女の方を見ながら言った。


「ああ、しかも銀髪のエルフときたもんだ。変態貴族の間でかなりの値が付くだろうぜ」


 男の一人がそう言うと他の男達も一斉に少女の方を見た。


「ひっ」


 男達の視線を一身に浴びた少女は小さく悲鳴を上げると先程よりも震えだした。

 その姿が男達の嗜虐心を煽るのか男達はますます下卑た笑みを浮かべる。

 すると突然お頭と呼ばれた男が立ち上がった。


「? お頭、どうかしたんですかい?」


 男の一人が疑問に思い問いかける。


「なあに、金にする前に俺様がちょいと味見してやろうと思ってよぉ」


 お頭と呼ばれた男はいやらしい笑みを浮かべて少女の方に近づいて行く。


(あいつ、あの子にまで!)


 焦りが生まれるが奴はどんどん少女に近づいて行く。


「いやいやお頭、それは不味いですって! 傷もんにしたら一気に値が下がりますよ!」


 男の一人が焦って声を掛ける。


「なあに、もし渋りやがったら脅してでも金を巻き上げりゃいいのさ」


 だがお頭と呼ばれた男は全く聞く耳持たず少女に近づくと腕を引っ張って無理やり立たせる。


「いやあ!」


 少女は必至に抵抗して逃げようとするが男はビクともしない。


「おいおい、大人しくしろよ? そうすりゃ優しくしてやるぜぇ」


 男はニヤつきながら少女に向かって言うが、少女は抵抗を続けている。

 その姿に苛ついたのか男が手を振り上げ少女の頬を張った。


「いぎっ!」


 頬を叩かれた少女は地面に倒れ込み頬を押さえて呻いている。

 男はそんな少女を見下ろしながら言い放つ。


「調子にのるなよガキ。奴隷に堕ちた時点でてめえはもう家畜同然なんだよ。家畜は大人しく言うことを聞きやがれ!」


 ――――――――――――。


 その言葉を聞いた瞬間、僕の中で理性を保っていた何かが切れた。


「おう、お前ら!」


 お頭と呼ばれた男がいいことを思いついたと言うような表情で後ろの男達を振り返る。


「お前らも来い! 全員で犯るぞ!」


 ――――相手の数なんてどうでもいい。


「ひゅー! お頭鬼畜ぅ!」


 ――――相手の強さなんてどうでもいい


「ギャハハ!」


 ――――もう自分を押さえる必要は無い


「さすがお頭だあ!」


 僕の頭を満たすのは唯一つだった。


「ぶっ壊しちゃったらごめんねぇ、お嬢ちゃん!」


 少女は諦めたかのように目を瞑る。

 僕は男達に向かって踏み出した。






 私は心を絶望に染め涙を流していた。

 自分を囲み見下ろす盗賊達の顔を見ればこれから自分が何をされるかなど明白だ。

 隣に座っている女性達は誰も助けてくれない。いや、彼女達じゃなくとも助けてくれる人などいないだろう。

 私を見た人は皆私を避けていく。

 親ですらそうだったのだ。きっとこの世界に私の居場所はないのだろう。

 そのことを認識した瞬間またも涙が溢れて来る。


(私は何のために産まれてきたの……? どうして誰も私を助けてくれないの……!)


 私はこの世界を呪う。私を産んだ親を、私を虐げた同族を、私を見捨てた全てを。

 私は自分の周りに集まった盗賊達を見上げる。

 盗賊たちが全員集まったところでお頭と呼ばれた男が私に手を伸ばして来た。

 もう何も見たくなかった私は全てを諦め目を瞑る。

 そうして私は次の瞬間起こるであろう未来を待つ。

 ――――だが実際に訪れた未来は私の予想とは全く異なるものだった。


「ぎゃああああああああ⁈」


 突如盗賊達の中で一番後ろにいた男が悲鳴を上げた。

 他の盗賊達は突然悲鳴を上げた仲間に驚き一斉に振り返る。

 私もゆっくりと目を開けて何が起きたのかを確かめる。

 私の視線の先で見たものは見知らぬ少年が盗賊の一人の心臓を手刀の形にした左手で貫いている所だった。

 突然の事態に頭がついて行かず何とか冷静になろうと必死になっていると、その少年は盗賊を蹴り飛ばして突き刺した左腕を引き抜くと憎悪と憤怒を湛えた瞳を呆然としている他の盗賊達に向け一言だけ発した。


「死ね」


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