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奴隷の王  作者: 木ノ下
18/43

16 住処

 ホーンラビットを倒した後、僕はすぐにその場を後にした。

 いつまでもあの場に留まっていたら血の匂いに誘われて他の魔物が寄って来るかもしれない。

 ホーンラビットもあのままにしてある。食料として持って行こうと思いもしたけど火を熾す手段が無いため焼肉にも出来ないし、そもそも魔物の肉が食えるのかもわからない。 

 まあ、本当に切羽詰まってくれば生で食べるしかないのだけど。

 そんな事態にならない様に早く食料となる果物なり木の実なりを見つけようと歩を進める。

 それから三十分程。

 森の出口を目指しながら食料を探し歩いている最中に二回ホーンラビットに遭遇した。

 一回目の戦闘でコツを掴んだ僕は二回共冷静に立ち回り、一回目のホーンラビットと同じ要領で倒すことが出来た。

 三匹共同じ殺し方をしたせいで森の至る所で木に角を刺してぶら下がったまま死んでいる魔物というホラーな光景が見られるが気にしない。

 それよりも三匹目のホーンラビットは何かの果実を食べていた。もしかしたら近くにその果実が実っている木があるかもしれないと周囲を探してみたら見事発見することが出来た。

 腕が片方しか無いためにどうやって木の上まで登ろうかと心配だったけどそれも杞憂に終わった。

 その木はそれ程高さはなく、手を伸ばせば下の方の実には届く位だった。

 その果実の形は地球に存在する桃に似ているけど色は真っ赤だった。

 久しぶりのまともな食べ物に我慢できず、僕は毒の有無も考えずに皮ごと齧り付く。

 噛んだ瞬間果汁が溢れ、果実の瑞瑞しさと爽やかな甘さが口の中を駆け巡る。

 今までの腐りかけの様な硬いパンだけの食事を繰り返して来た舌にはその果実は一流レストランの高級料理に勝るとも劣らない至高の逸品に感じた。

 夢中で食べ続けた僕はあっと言う間に一個を平らげ二個目に手を伸ばす。

 それから暫く食べ続け、五個目を食べきったところでようやく手と口を動かすのを止めた。


「ふう~、食った食った」


 腹が満たされて満足した僕はその場に座り込み少し休憩を取る。

 多少リラックスした所で先程のホーンラビットとの戦闘を振り返る。


(戦闘もだいぶ慣れて来たな。まあ他のモンスターと戦ったことないから油断は出来ないけど)


 そういえばと思い出す事があった。

 二回目と三回目にホーンラビットを殺した時も一匹目と同じ様に何かが身体の中に流れ込む感覚があったのだ。


(あれは何だったんだろ……)


 視線を今は無き右腕に移し、フォービスの屋敷で目を覚ました時に切断された腕の出血が止まっていたことを思い出す。


(やっぱり僕の中にある黒い宝玉の影響なのかな?)


 心当たりと言えばそれしか思いつかないものの確証が無いため決めつけることは出来ない。


(まあ、今のところ害はないみたいだからいいけど自分の身体の中がどうなってるのかは気になるな……)


 フォービスが何に黒い宝玉を使おうとしていたのかはわからないが魔王の考えることなんて碌なことじゃないだろう。

 そんな奴が持っていた物が自分の身体の中にあるのだから気にならない方がおかしい。


(はあ……。いくら考えても無駄か)


 この場でいくら考えようと結論など出るはずもないのだ、今は目の前の問題を片付けるため頭を回転させることにする。


(とりあえず食べ物は手に入ったし、後は寝床だけど……)


 周りには木、木、木。それしか見当たらない。

 安全に休めるところなどこの森に存在するとは思ってないけど、せめて魔物に見つかりにくそうな所で休みたい。

 桃に似た果実をいくつか採り、近くに生えていた巨大な葉っぱで包み少し苦労しつつ蔓で縛り上げて斧と一緒に片手で蔓の先端を持つ。

 この葉っぱは他にも何かに使えそうなのでもう何枚か千切りズボンに挿し込んでおいた。

 準備が整った所で移動を開始する。

 既に辺りは段々と暗くなって来ている。急いだ方がよさそうだ。

 歩く速度を上げながらも極力足音は立てない様に気を付けて進む。

 移動を開始してから約一時間。

 周囲が殆ど見えなくなるほど暗くなった頃、周囲の巨大な木々に比べても一際背が高く、幹に至っては直径で十メートルはありそうな大樹が眼前に現れた。

 あまりの大きさに僕は唖然として見上げるが頂上は見えない。

 一体どれだけの年月が経てばここまで巨大になるのだろうか。

 眼前の大樹が放つ威容に圧倒されるが今は寝床を探さなくてはならない。もう時間は殆ど無いのだ。

 先に進むため大樹を迂回しようと足を踏み出すと大樹の裏の方から何か物音が聞こえる。

 何かいるのかと、緊張しながら慎重に大樹を回り込んでみる。

 するとどうやらこの大樹には大きな洞が開いていたようでそこから僅かに光と声が漏れ聞こえて来る。

 音を立てない様に洞に近づき中を覗き込んで見る。

 そこには人間の子供位の大きさで緑色の肌と鷲鼻を持った人型の生物――ゴブリンがいた。


(ここは……あいつらの巣か?)


 今見える範囲では巣の中心で火が焚かれ、周りには何枚かボロボロの布が積み重なっていたり棒の先に刃を取り付け蔓で縛った槍や小さなナイフ、更に何かの生物の骨が転がっていた。

 巣の中にいるゴブリンは二匹だけで焚火の近くに座って何事か訳の分からない言葉で喋っている。


(いけるかな?)


 ゴブリンとは戦ったことがないので相手の強さは分からないけど二匹ともお喋りに夢中なようでこっちに気付いた様子はない。

 ここで奴らを始末出来ればこの住処を丸ごと手に入れることが出来る。


(それに――)


 森を振り返ればゴブリンどもを観察している間に既に真っ暗になっていた。この暗さの中森を彷徨うのは危険すぎる。

 僕はすぐにこの巣を奪い取る決断を下す。

 僕はもう一度巣の中を見てゴブリンに動きがないことを確認すると近くに手ごろな大きさの石が落ちてないか探す。

 握り拳程の大きさの石を見つけるとすぐにそれを持って洞の前まで戻る。


(よし、まだ気付いてないな……)


 ゴブリン達との距離を測り二匹の頭上を越えて奥に落ちる様に石を放り投げる。

 コツン!

 狙い通りに石は飛んでいき洞の奥に落下する。

 石が落ちた物音に気付いたゴブリン達がお喋りを中断し音のした方に顔を向けた。

 二匹は一度互いの顔を見ると同時に立ち上がり音のした方に慎重に歩いて行く。

 その様子を見ていた僕は息を殺しながら二匹の背後に近づく。

 一匹が音の発信源である石を拾うため前に出て身を屈めた瞬間、僕は後ろに立っているゴブリンの頭部目掛け思い切り斧を振り下ろす。


「ふんっ!」


 ドグチャ!

 振り下ろした斧が気持ちの悪い音を響かせながらゴブリンの頭部を粉砕する。

 斧を引き抜くとビクビクと身体を痙攣させていたゴブリンがドウッと倒れ伏す。


「⁈」


 石を拾っていたゴブリンが背後で起きている異常事態に気付き振り返ると、突然眼前に広がった惨状に驚き目を見開く。

 僕はゴブリンが驚いて硬直している内に仕留めようと接近する。

 だがそこでゴブリンの硬直が解けたようで僕の横を通り抜けて逃走を謀った。


「逃がすか!」


 僕の横を通り抜け背を向けたゴブリン向けて斧を薙ぎ払う。

 ブシッ!


「グゲゲェ!」

(くっ、浅い!)


 だが背中を切られた衝撃でゴブリンは足をもつれさせ洞から出る直前で転倒している。

 僕は斧を放り投げ、巣に置いてあったナイフを手に取ると転んでいるゴブリンに馬乗りになり喉目掛けてナイフを何度も振り下ろす。

 ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!

 最初は手足をバタつかせ暴れていたゴブリンも段々動きが弱弱しくなってくる。


「ガ……グガ……ゲァ…………」


 やがて喉を貫かれ続けたゴブリンは手足をだらりと伸ばした状態でピクリとも動かなくなった。


「はっ、はっ、はっ、はあ……」


 僕は動かなくなったゴブリンに念の為もう一突き入れてからゴブリンの死体の上からどいた。


「やった……」


 何とか無事に巣を奪うことが出来たことに安堵していると、またも例の身体の中に何かが入り込む感覚があった。

 本当に何なのだろうか?

 いい加減考えるのも面倒なので無視することにした。

 それに早く後始末をしなければ血の匂いが広がって余計な客人を招いてしまう。

 まあ何はともあれ一先ずの寝床は確保することが出来た。僕は早くゴブリンの死体を処理して今日は休むことにした。


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