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奴隷の王  作者: 木ノ下
13/43

11 未知への懸け

(やっと……届いた!)


 僕はリザンさんの犠牲の元に手中に収めた黒い宝玉を見ながら胸を一先ずの達成感で満たしていた。後ろを振り返ると僕を庇ったリザンさんが床に倒れ伏している。

 わかっている。彼がもう起き上がることはないことは。

 さっき堪えた涙が溢れそうになるのを目に力を込めて耐える。

 今は悲しみに暮れるよりも先にやること……いや、やらなければならないことがある。

 僕は自分の手の中にある黒い宝玉を睨み付ける。


(後はこれを破壊すれば……)


 すぐにでも宝玉を破壊しようと思っているとフォービスが低く怒りに満ちた声を上げる。


「小僧ぉ……その宝玉を渡せ」


 圧倒的な強者に直接怒りの感情を向けられたことで身体に震えが走る。

 更にさっき切断された肩口から血が流れ続けているため意識が朦朧として今にも気を失いそうだ。


「ぐっ、折角手に入れたのに誰が渡すもんか!」


 必死に意識を繋ぎ言い返す。


「大人しく従った方が身のためだぞ。そもそも貴様がそれを手にしてどうしようというのだ?」

「壊すに決まってるだろ!」


 ふん、精々悔しろ!

 フォービスの悔しがる顔を見てやろうと僕は奴の顔を凝視するが、こちらの予想に反してフォービスは笑い出した。


「ク、クク、クハハハハハ! 破壊するだと? やはり所詮は猿知恵だな! 一体どうやってその宝玉を破壊しようというのだ? 言っておくがそこらに転がっている武器を使った所で無駄だぞ。その程度で壊れる様な強度ではないし、叩きつけるなど論外だ」

「⁈……」


 今フォービスが言った様にまさにオークが使っていた斧でも使うか叩きつけようと思っていたので内心歯ぎしりする。


(いや、あいつの言ってることが本当だとは限らない)

「そんなこと、やってみなきゃわからないだろ」


 フォービスの反応を窺う。


「ならばやってみるがいい。だがその間我が待っていてやる義理は無いがな」

「っ!」


 確かにフォービスの言う通りだ。隙を晒した相手を攻撃しない手はない。


「そうだな……ならばこうしよう。もしその宝玉を渡せばここから逃がしてやろうではないか」

(こいつ……! なにを抜け抜けと!)


 僕はこの部屋に入ってすぐ、その甘い言葉に騙された事を忘れていなかった。


「そんな言葉に騙されるか!」


 フォービスはやれやれといった風に首を左右に振ると今まで他の奴隷を拘束していたオークに向かって命令を下す。


「そいつらは放っておいていい。この小僧を捉えろ」

「!」


 この期に及んで自分で動こうとしないフォービスの舐めた態度に腹が立つがどうしようもない。


(本当に不味い……。血を流し過ぎて目が霞んできた。何か手は……)


 僕は迫りくるオークと余裕の態度で佇んでいるフォービスを睨み考える。

 そのとき、一つだけ頭のなかにある方法が浮かんだ。でもそれを実行するにはこの状況でも躊躇われた。

 僕は自分の手の中にある宝玉を見つめる。


(そんなに大きくはない……。ビー玉位か)


 この方法ならフォービスも出し抜けるかもしれない。でも、これをしたら自分もどうなるか予想がつかない。

 僅かな逡巡。でもこれしか方法が無いと決意する。

 意志を固めた僕はフォービスを見据える。


「ん? どうした? ようやく従う気になったかね?」


 意地の悪い笑みを見せながらフォービスが問うてくる。


(その顔を屈辱に歪ませてやる!)

「ああ、決めたよ……」


 僕は宝玉を乗せた掌を目の前に掲げる。


「これを……」


 僕の態度を見てフォービスは諦めたと思った様だ。


「おお、さあ早くそれを寄越せ」


 フォービスが手を伸ばす。


(さあ勝負だ!)

「こうするんだよ!」


 僕は手に持った宝玉を勢いよく口の中に放り込む。

 やはり少し大きかったかもしれない。だが意地で飲み込む。

 ゴクン!


(飲み込んだ!)

「なっ⁈」


 フォービスは眼玉が飛び出るんじゃないかと思うほど目を見開き口をパクパクさせている。


(ははっ、あんな間抜け面が見れたなら成功だな……!)


 僕は今まで誰にも見せたことがない様なニヤニヤとした嫌な笑みを見せつけてやる。


「こ、この……!」


 フォービスは顔を俯かせ肩を震わせていたかと思ったら、いきなり顔を振り上げ大音声を張り上げた。


「こおのおぉ、糞餓鬼がああああああぁぁぁぁぁ⁈」


 鼓膜が割れるかと思うほどの咆哮が過ぎ去った後、突如フォービスが姿を消し、消えたと思った次の瞬間僕の目の前に現れた。

 骨しかない方の手で首を掴まれ押し倒される。

 倒された衝撃で指が食い込み痛みが走る。


「ぅぐっ⁈」


 目を開けて前を見れば、そこには半分だけ肉が付いた顔を憤怒に歪めたフォービスがいる。


「家畜の分際でえぇぇぇぇ! それは我の物だあああぁぁぁぁぁ!」


 感情だけで殺されそうなほどの怒りを向けられ僕の身体が委縮する。

 フォービスは僕を押さえつけながらもう片方の手を掲げ、僕の腹目掛けて振り下ろす。

 ズプン。


「⁈」


 沈み込んだと言うのが正しいだろうか。肉を突き破るかと思われた手刀はそうはならず、妙な音を立てて一切の抵抗も痛みも感じないまま僕の身体の奥へと沈んでいく。


「なっ⁈」


 何かが自分の身体の中を這い回っている感じがして気持ちが悪い。

 だが突き込まれた腕は何かを探すように更に這い回る。

 やがて探し物を見つけたのか腕がピタリと動きを止めた。


「ク、クハ、クハハハハハ! 見つけたぞ! さあ我の元に返って……⁈」


 バヂッ!

 フォービスは歓喜の声を上げるが、言い終わる前に突然何かに弾かれた様に吹き飛び、僕の腹に突き込んでいた腕も引き抜かれた。


「がっ⁈ な、何故⁈」


 フォービスも何が起きたか分かっていないようで動揺している。

 当然僕にも理由など分かる訳が無く呆然としていると突然身体中が熱を持ち始める。


「あ、熱い⁈」


 身体の中で何かが出口を求めて暴れ回っている。

 それはさらに数を増やし身体の隅々まで行きわたる。体内に収まる臨界点を超えるとついにそれが姿を現した。

 それはまるで滲み出すかの様に僕の身体のいたる所から溢れ出す。

 その正体は黒い靄で形作られた人型の物質。そう、黒い宝玉によって具現化された魂の姿だった。

 最初に出て来た数体では終わらず、それを皮切りにまるで決壊したダムの様に僕の体内から具現化された魂が噴き出し続ける。


「があああああああああ⁈」


 噴出する勢いは全く衰えず、外界に飛び出し自由を手に入れた魂達は好き勝手に動き出し、四方へ散っていく。

 更に体温は上昇を続け、僕の視界は霞み始め思考も曖昧になる。


(僕……どうなるんだ……?)


 薄れゆく意識の中僕が最後に見たのは、まるで狂喜するかの様に部屋中を飛び回る魂達の姿だった。


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