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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR6 『魔王のジャスティスプログラム』
99/109

第一九話 『爆炎』

 ”爆弾”は一つ――ということは――


「ええ、そうよね!? この円形に作られた闘技場を吹っ飛ばすためには――!! そうよ……! 闘技場の中心ッ!! この舞台の中央――!! それが一つの爆弾で闘技場を爆破するのには最も合理的……!! あってるわよね!? いえ、迷ってる暇はないわ――!! 舞台を探さないと――!」


「これじゃないのか」とそこで後ろから声がした。


 ミヤが振り返ると、腕を組んで床を見降ろしている制服姿の女子高生、さっきまで眠りこけていた――〈鳳 なつき〉の姿があった。


「舞台の中央には選手たちの会話が闘技場内で聞こえるように集音マイクが埋め込まれている」


 と、なつきは集音マイクをブーツのつま先でノックした。闘技場内にゴッゴッとという音が反響する。なつきは慌てた様子もなくしゃがみ込み、右手をずぼっと舞台の中へと突き入れた。そして、舞台から引き抜かれた手には短い棒状の集音マイクが握られていた。


「爆弾のようには見えないが?」となつきは集音マイクからミヤへ視線をあげた。


「そ、それよ! 《リベレイター》の”爆弾”はどんな形状にもできるのよ!」


 と、その時だった。

 なつきが手に持つ集音マイクが点滅を始める。


「む。なんだ。光りだしたぞ」


 しげしげと訝しげに集音マイクを見つめるなつきから、一斉に《ディカイオシュネ》メンバーが、〈エクスカリバー〉が脱兎の如く背を向けて走り出す。いきなり逃げ出した彼らを不思議そうに眺めながら茫然としているなつき。


「お、おい……。みんな、どこへ行くんだ。これ、光ってるんだが?」


「光ってるんだが? じゃないわよっ! 貸してッ!!」


 ミヤがなつきが持つ集音マイクを奪い取った。


「貸すのは構わないが。それが闘技場一帯を吹き飛ばす爆弾ならここから投げたところで――」


 無駄だろう、と続けようとして、ミヤを見るなつきの眼が少し驚きで見開く。

 ミヤの身体を黄金の光が包み込んでいたのだ。

 そして彼女の靴から光の羽根がばさりと翼を広げ、光の羽がはらはらと舞う。


「…………【覚醒者】、だったか」となつきの眼が鋭いものへ変わった。


 その次の瞬間。ミヤは文字通り光速で遙か上空へと飛び上がっていた。


 残り時間は――八秒。


 ミヤの胸もとで抱えられた集音マイクは、その点滅を早めていく。

 何も無い空間を蹴り、まるで見えない階段でもあるかのように、みるみるうちにミヤは高度を上げていく――

 夜の闇に、黄金に光り輝く一本の線が上へ上へと上昇していく。

 そしてミヤは集音マイクを上に放り投げると、みちみちと血管が浮き上がるほど力を入れた右脚を振りかぶり、さらにその場で身体をぎゅるんっと横に捻り一回転し――


「うりゃああぁあぁあぁ――ッ!!」


 黄金に輝く右足に、真上へ蹴り飛ばされた集音マイクはとんでもない勢いで、空に浮かぶ雲に大きな穴を開けて進み――


 ―――――――!!


 ミヤの鼓膜を突き破るような轟音。夜を昼に変えるような眩い閃光。そして時間が凝縮した中で、真上から業火がミヤへと迫ってくる。視界一杯に広がっていく炎に、ミヤの背中からぶわっと脂汗が出た。その炎に巻き込まれたらおそらく一溜りも無い。

 自分は一瞬で消し炭になってしまうだろう。


「っにゃろぅ――!!」


 ミヤはぐっと両の足底を炎が迫る方――天に向かって踏ん張らせる。

 キュィィイイィンッ、と黄金の光がミヤの両脚に収束していき、後は空中を蹴り飛ばして地表に向かって脱出すればいいだけ、というところで、ふっ、と黄金の光はミヤの両脚から掻き消えていた。


「えっ!? ええぇ!?」


 いきなり力が抜ける感覚がし、ぎょっとなって見てみると、自分の周囲を覆っていた光も、鉄靴から生えていた小さな羽根も見る影もなくなっていた。

 ただただ、ミヤは自然の法則に従って落下していく。


「きゃああぁああああ!!」


 しかし、その落下速度よりも迫りくる炎の速度が勝り、ミヤを包み込むように、まるで化け物が手を伸ばしてきているかのように、追いついてくる。

 だが不意に、ミヤの背中を誰かが抱き止めるような優しい衝撃が襲う。

 背後を見るとそこには大きく広がる白い翼が眼に飛び込んでくる。

 それは誰であろうかな、蒼空のように真っ青な光に全身を包んだ”天空”の〈ヴァルキュリア〉であった。


「あんた……! なんで!?」


 ミヤの問いには答えず、〈ヴァルキュリア〉は迫ってくる炎を見上げると、ミヤを片手で自分の身に抱き寄せる。ちょうど良く膨らんだ〈ヴァルキュリア〉の胸に顔がうずまり、「わぷっ!」とミヤが声をあげる。そして〈ヴァルキュリア〉はもう片方の手で腰の鞘から翼を象った柄の、煌びやかな装飾剣を抜く。

 そして、コォォ、とゆらめく陽炎のような吐息を吐きだす。

 刹那。


「ふっ!!」


 眼にも止まらぬ速さで、爆炎に向かって〈ヴァルキュリア〉は剣を振るう。

 その剣風が旋風を巻き起こし、炎とぶつかると、〈ヴァルキュリア〉たちを避けるようにぱっくりと裂けていく。だがそれでも包み込むように伸びてくる炎に〈ヴァルキュリア〉は剣を自身の前で立てて構える。すると、〈ヴァルキュリア〉たちの周囲を球状の白い神聖な輝きを放つ膜が包み込む。

 爆炎はその白い膜にぶち当たると、〈ヴァルキュリア〉たちを包むように通り過ぎていく。それはまるで川の濁流が中州にぶつかり流れを変えているような光景だった。

 だが、想像以上に爆炎の勢いは凄まじいもので、ビキッビキビキッ、と不穏な音をたて膜にヒビが走る。『0』と『1』に分解されていく白い膜に、ぴくり、と〈ヴァルキュリア〉の眉が動いた。


「……防ぎきれんな」


「はあ!? 助けにきてくれたのは有難いけど、これじゃ二人とも死――!」


「……と、いうわけだ。誰かが受け止めるだろうから安心しろ」


〈ヴァルキュリア〉は抱えていたミヤの首根っこを掴むと、振り被るようにぐいっと一度、宙に持ち上げる。そのミヤの身を新たに形成された白い膜が包み込む。その行為に彼女が何をしようとしているのかミヤは理解し、声をあげる。


「――ちょっ! 待って! 〈ヴァルキュリア〉っ!! 待って――!! あんたはどうすんのよっ!」


 だが〈ヴァルキュリア〉はやはり聞く耳を持たず、ミヤの身体を下へと放り投げ、同時に、炎から逃げきらせるためミヤの腹を思いっきり踏みつける。


「がはぁ……っ!」


 ミヤは蹴られた勢いと自由落下の勢いが合わさって、地面へと落ちていく。痛みに腹を押さえながら片目を開けると、〈ヴァルキュリア〉はミヤの方など見ず、バキバキと音をたてて崩壊しつつある膜の中で、際限無くぶち当たってくる爆炎に耐えていた。

〈ヴァルキュリア〉が壁になっているおかげで、その下方向にいるミヤへ爆炎がくる様子は無い。


「〈ヴァルキュリア〉――ッ!!」


 白い膜の中から手を伸ばしミヤがそう叫んだ瞬間、〈ヴァルキュリア〉を包む光の膜は粉々に崩壊し、その身を紅蓮の炎が包み込んでいた。

 その姿を溶かすように、炎が彼女の影を呑み込んでいく。

〈ヴァルキュリア〉の肌を焼き、焦がし、溶かし、腕が、脚が、ボロリと焼け落ち、消し炭になっていく。


「ぁっ……!!」


 とてつもない痛みが彼女を襲っているだろうに、叫び声一つあげない姿に、ボロボロに焼け落ちていくあんまりな姿に、涙を流しながら自分の身代わりになった者の名をミヤは必死に何度も叫んだ。

 その爆発に巻き込まれた死は、仮想世界だけの死ではないことをミヤは知っている。


「〈ヴァルキュリア〉ぁーーッ!!」


 そして炎は〈ヴァルキュリア〉を呑み込んで満足したかのように収束していく。

 完全に爆炎が消えたというのに、夜の空が戻ってきたというのに、そこには彼女の遺品一つ、何も残っていなかった。

 すべてが焼き尽くされ、無へと変えられていた。

 ジョルトー城で見た”爆弾”の威力と比較にもならなかった。あれがもし闘技場で爆発していれば確かに闘技場一帯を吹き飛ばしていたことだろう。

 そんな爆炎から、身を挺して守ってくれた〈ヴァルキュリア〉に申し訳ない気持ちが溢れてくる。

 どれだけ自分には力が無いのだ。やっと、追いつけると思っていたのに、これからだと思っていたのに、セイギに助けられ、〈ヴァルキュリア〉に命を救われ、お荷物になっている自分が、たまらなく嫌いで、たまらなく悔しい。

 ゆっくり、ゆっくりと、舞台へと落下してきたミヤを〈ブル〉が抱き止めた。ミヤを包んでいた光の膜がぱりんっと割れ、ミヤは両手両膝を舞台につく。


「…………あら。ヴァルは?」


〈ブル〉の問いに、ミヤは悲壮な表情で俯き、がりっと舞台を掻いた。


「……ごめん……なさいっ……! ごめんなさい……! ごめんなさいごめんなさいっ!」


 ミヤの口から出たのは謝罪の言葉だった。


「……〈ヴァルキュリア〉は……っ! 私の身代わりになって――!!」


「……あらぁ。――そう。あの子らしいわねぇ」


 仕方の無い子だと言わんばかりに、〈ブル〉は夜空を見上げる。

 そこへ《ディカイオシュネ》のメンバーたちが、〈エクスカリバー〉が、舞台の上に再度集まってきた。

 何度も『ごめんなさい』と呟いて舞台を掻くミヤを見、〈アゲハ〉が説明を求めるように〈ブル〉へ眼をやる。その視線に気づいた〈ブル〉は肩をすくめた。


「身代わりになった、らしいわよぉ」


「ありゃりゃ。じゃあ、ヴァル姉、まーた死んだの?」


「みたいよぉ。あの子、死んでいい身体になってから無茶をするようになったわねぇ」


 彼らの会話を聞き、ミヤはぴたりと泣き叫ぶのを止め、顔をあげる。


「は? 死んでいい……身体?」


「そうよぉ。厳密には瀕死状態になった時にのみ発動可能になるスキルよん。驚かせちゃってごめんねぇ。もうそろそろ落ちてくると思うわよぉ」


 近所の主婦がそうするように、〈ブル〉は苦笑しながら手の平を前へと倒す。

 ミヤが、《ディカイオシュネ》の各々が、夜空を見上げていると――

 真っ青の光に包まれた何か小さなモノが、ゆっくりと落下してくる。

 それを〈Z〉が受け取るために、上を見上げながら、『おっとと』と足をふらつかせて、両手で受け取る。そして、それを人差し指と親指でつまんでミヤに見せる。


「……たまご……?」


 それは手の平サイズの青い卵だった。


「ですです。これが姐さん――〈ヴァルキュリア〉さんなんです」


 と、不意に、その卵がピシッと音をたててヒビが入る。


「ほら、孵りますよ」


 その言葉の通り、卵の両側から、きらきらと、小さく可愛らしい白の翼が突き破った。そして、眩い青の光が卵の内側からサーチライトのように漏れ出る。


 パリィインッ!


 音をたてて卵の殻が砕け散り、中から姿を現したのは小指ほどの身長に――三頭身ほどにデフォルメされた〈ヴァルキュリア〉の姿だった。

 ぷち〈ヴァルキュリア〉は白い翼をぱたぱたと可愛らしく羽ばたかせながら、大業そうに額を腕で拭う。


「ふに。なんちょかにゃったようだにゅ」


 とてつもなく愛らしい声色で、舌足らずな口でそう呟いたぷち〈ヴァルキュリア〉にミヤは思わず眼を点にした。そこには威厳もくそもない、ただただ可愛らしい妖精のような存在が蝶々のようにぱたぱたと飛んでいるだけだった。

 瞬間。《ディカイオシュネ》のメンバーが大爆笑した。


「ぎゃはははは! こいつ、また『にゅ』って言うようになったぞ!」


〈チャールズ〉が腹を抱えながら、ぷち〈ヴァルキュリア〉のぷにぷにほっぺたを突っつく。小さい身体にとってその衝撃は強いもので、ぷち〈ヴァルキュリア〉の身体が大きく傾いた。


「んぎゃっ! やめるにゅ! わたちはでかいおちねのなんばーとぅーだにゅ!?」


 汗を飛ばしながら頑張って羽根をぱたぱたさせ、体制を整える妖精。


「あぁん! もうっ、可愛いわよんっ、ヴァル! その姿になるために定期的に死んでいいくらいよぉんっ!」と〈ブル〉が大きな手でぷち〈ヴァルキュリア〉を包み込み、うっとりした表情で頬ずりする。


「にゃぎぃいっ! ぶりゅ、やめるにゅー! おみゃえらもわらうんじゃないにゅ! すきでなっちいるわけじゃないにゅ!」


 撫でられたり頬ずりされたり、イジり倒されていることが不満らしく、ぷち〈ヴァルキュリア〉は腰からちっちゃなちっちゃな剣を抜いた。そして近づこうとする《ディカイオシュネ》メンバーをぺちぺち叩いて追い払おうとした。そんな嫌がる姿がまた可愛いらしい。

 結局、ちっちゃくなって無力なぷち〈ヴァルキュリア〉は《ディカイオシュネ》たちに成されるがままにされるしかないようだった。

 一しきり撫で回されると、またもぷち〈ヴァルキュリア〉の身体が青く輝き、その姿が――元の体型へ、威厳のある彼女本来の姿へと戻っていく。

 そしてほんの数秒の間に、シュゥウゥ、と白い煙を身から放ちながら、元の青甲冑を着た〈ヴァルキュリア〉が舞台に片膝をついた格好で出現していた。

 彼女はその自慢の白く、大きな翼を両側に広げた。周囲の《ディカイオシュネ》メンバーを翼に跳ね除けらてひっくり返る。〈ヴァルキュリア〉はすくりと立ち上がると、倒れている彼らをフンと鼻を鳴らして一瞥し、手で乱れた髪を後ろへさらりと流した。


「あらぁ、もう三分経っちゃったのぉ?」と残念そうな〈ブル〉。


「まったく……忌々しいスキルだ。いや、それよりも――貴様らっ、よくもこの私に辱めをっ!」


 赤面したまま肩をぷるぷる震わせる〈ヴァルキュリア〉を見て、


「やばっ……!」と背を向けて逃げ出す〈チャールズ〉。


 けらけら笑いながら〈アゲハ〉が、無言のまま真顔で〈ルシア〉も逃げ出す。


「姐さんっ、落ち着いぎゃひん!?」


 宥めようとした〈Z〉だったが〈ヴァルキュリア〉に頭頂部をどつかれ、その場に崩れ落ちてしまう。舞台に倒れた〈Z〉の頭からぷっくらと大きなたんこぶが膨らんでいた。

 ぎゃーぎゃー喚きながら逃げる《ディカイオシュネ》メンバーと、剣を抜き放って舞台を走り回る〈ヴァルキュリア〉。

 ついさっきまで死ぬ瀬戸際だったというのに鬼ごっこを始めた能天気な彼女らを見て、ミヤは思わず笑ってしまう。


(これが……あいつの――セイギの信頼していた、とても大切にしていた仲間たち……)


 とても胸が熱くなってくる。災厄と怖れられた人たちだというのに、なぜか、ほっとする。それは自分と彼女らがセイギという共通の友人を持つ仲間意識によるものもあるだろう。だが、それよりも彼女ら自身の人となりに惹かれ始めているのだとミヤは感じていた。


(この人たちなら――!)


 ミヤは考える。セイギに”魔王”だと明かせない理由があっても、この《ディカイオシュネ》のメンバーが《正道騎士団》の館に向かえば状況は一転する。もしかしたらナーガやトラを助けだすことさえ可能かもしれない。

 ミヤは決意を込めた瞳で、すくりと立ち上がった。


「聞いて、みんなっ!」


 そのミヤの叫びに〈ヴァルキュリア〉が、《ディカイオシュネ》のメンバーたちが、足を止めミヤへと視線をやる。


「そうだったな。貴様らと戯れている暇はなかった」


〈ヴァルキュリア〉は抜き身の剣をぶら下げたまま、ミヤを見据え近づいてくる。

 その眼は爛々と殺気に輝いていた。


「貴様にどんなに苦痛を与えてでも吐いてもらうぞ……! あの方が今、どこにいるのか……!」


 ぶんっ、と剣を横に振り、ミヤの前で上段に構える〈ヴァルキュリア〉。


「ええ、話すわ!」


 あっさりと断言したミヤに〈ヴァルキュリア〉は肩すかしをくらったように眼をぱちくりとさせた。


「あいつは……! あんたらの”魔王”は今、《正道騎士団》の本拠地で戦ってるわ……! だからっ、お願いッ! ナーガをっ……トラ――タイガを助けてっ!」


「ちょ、ちょっと待ってよ。どゆこと? 〈ナーガ〉と〈タイガ〉もいるの?」と〈アゲハ〉もミヤへと近づいてくる。


「……なるほどな。”魔王”様は〈タイガ〉と共に行動していたか。〈タイガ〉も”魔王”様と馴染みある奴だからな。一緒にいてもおかしくはない」


〈ヴァルキュリア〉は剣を鞘に納め、腕を組む。


「だな。闘技場で俺たちが〈ナーガ〉たちのPTと会った後に、〈ナーガ〉たちのPTは”魔王”様と〈タイガ〉に出会ってたのか」


〈チャールズ〉は考え込むように、ふむと、視線を下にする。


(……あ、いや、私たちのPTにタイガも”魔王”も潜んでたんだけど……)


 面倒なのでミヤはその説明を省く。それに状況は急を要する。長々と説明している暇もない。


「あいつらっ、ナーガとトラ――じゃなくてタイガは私たちを……あんたらの”魔王”を〈ヘリダム〉と戦わせるために囮になっているのよ……! このままじゃあいつら死んじゃう!」


「ナーガ。タイガ。強い。簡単に。殺せない」と、どこか怒っている様子の〈フェルト〉。


「違うのよっ! あいつら確かにめちゃくちゃ強いわよ! でも相手は《正道騎士団》の【二つ名持ち】たちと”盾姫”の〈ステラ〉! それと”螺旋”の〈へリックス〉よ――!」


”螺旋”の〈へリックス〉。その名に〈ヴァルキュリア〉が眼がすっと細くなった。


「どうやら深い事情を聞いている暇は無さそうだな」


〈ヴァルキュリア〉はミヤから振り返り、《ディカイオシュネ》全員を見渡す。


「聞いたなッ! これより《正道騎士団》の本拠地に侵攻するッ! 来ていないメンバーにも連絡を入れろッ! 全員で”魔王”様の援軍に向かうぞッ!!」


〈ヴァルキュリア〉は今までかの彼がそうしてきたように、胸に添えた右手を拳に変え、天へと掲げる。


「「「おうっ!」」」


 それにならい拳を天に掲げ、《ディカイオシュネ》たちの頼もしい声が空に響く。


(ナーガ……! トラ……!! お願い……! 間に合って――!!)



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