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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR6 『魔王のジャスティスプログラム』
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第一七話 『爆弾の場所』

 ミヤは息を整え、観客席に眼をやる。

 ミヤの真に迫る訴えが効いたのか、中には避難を始めるプレイヤーもちらほら見えた。

 だが――


「”魔王”が《リベレイター》と戦ってる? おかしいよな? ”魔王”ってそんな博愛精神がある奴じゃなくね?」


「だよな。俺たちを守るためとか有り得んわ」


 観客席からミヤの耳に届いてくる言葉は残酷なものだった。その言葉の通り、見回してみてもまだ動かずにいるプレイヤーの方が大多数だ。焦りながら時刻に眼をやる。


(あと二分しかない――! 避難が無理なら早く”爆弾”を処理しないと――!!)


 そこへ舞台の上に、誰かが降り立った。そのよく知る姿に観客席がざわりと蠢く。

 それは誰であろうかな”聖剣”の〈エクスカリバー〉だった。

 その眉間には深い皺が刻まれていた。


「”聖剣”の……〈エクスカリバー〉……!?」


 ミヤはいきなり有名人が近づいてきたことに驚き、思わず身構える。もしかして、乱入してきた自分を諫めに来たのかと、一歩、足を後ろへ退かせる。


『爆弾が仕掛けられているという話。事実か?』


 だが、真剣な表情でしてきた彼の問いかけに、一瞬呆気にとられたが、ミヤも真面目な顔で頷く。


『ええ……事実よ! このままじゃここにいるプレイヤー全員が死ぬ!』


 ミヤの逼迫した様子を見て〈エクスカリバー〉はミヤの隣に立つと、ばさり、とその背中にかかったマントを翻した。そして観客たちに向かって声を張り上げる。


『聞いただろうッ!! この子の話したことは真実だッ! よく思いだせ! 《リベレイター》が『ワールドマスター』を潰すと予告していことをッ!! それが今日だったんだ! これはサイバーテロだッ!! 今すぐに避難しろッ!! 本当にリアルで死ぬことになるぞッ!!』


 何も知らない〈エクスカリバー〉からすれば口から出まかせもいいところだったが、ミヤにとって〈エクスカリバー〉の発言は有難いものだ。これで心を動かされてくれればいいのだが。


「マジかよ……。〈エクスカリバー〉が出てくるなんて、これ……マジでヤバいんじゃ」


「そ、そういえば確かに《リベレイター》ってテロ予告してたよな……! じゃあ爆弾が仕掛けられているっていうのは本当なのか!?」


「ね、念のために避難しとかないとマジだったらヤバくね……!?」


 ガタガタと席を立つ音が大きくなり、多くの人が避難を始めると不安になったのだろう、ほぼ全員が一斉に避難をし始める。


「んなぁっ!? 私が言っても聞く耳を持たなかった癖に……! 有名人が言ったら一発で聞くなんてっ……! 現金すぎでしょうがっ……!」


 そんな文句を放つミヤのところへ、影が差した。

 何事かと見上げると、そこには白い翼を広げた青い戦乙女がこちらに向かって降りてくるではないか。そのまま翼を羽ばたかせながら青い甲冑の美女”天空”の〈ヴァルキュリア〉が舞台へ、ふわりと降り立つ。

〈ヴァルキュリア〉だけではない。《ディカイオシュネ》のメンバー、総勢二〇名近くが舞台へとミヤを囲むように着地していく。


(……《ディカイオシュネ》――!! こいつら一人一人が、【二つ名持ち】!? 信じられないほどの戦闘力を持っているって話だけど……!)


 自分を取り囲む様子にミヤは圧迫感を覚えながらも、こちらへ歩いてくる〈ヴァルキュリア〉へ視線を合わせた。


「って、なんでこっちにくるのよっ! 逃げろって言ってるでしょ!」


 腕を振って叫ぶミヤの言葉には聞く耳を持たず、〈ヴァルキュリア〉はミヤの胸を人差し指でトンとやる。


「黙れ。私は今、冷静ではないんだ」


 凄みのある声色で、冷徹な瞳で見降ろしてくる〈ヴァルキュリア〉にミヤはびくりとなる。そのまま〈ヴァルキュリア〉はミヤと額が触れ合うほどの距離まで顔を近づけて、視線を合わせる。


「私らが知らないことをお前が知っているということが許せない。あの方が私らに話していないことを、お前に話していることが恨めしい。どういう関係かは知らないが信用されていることが憎い。殺したいほどにな。分かったら喚かず私の質問にだけ答えろ」


 本気の眼をしていた。その瞳にミヤはごくりと生唾を呑み込む。

 恐ろしいほどの殺気に、背中から汗が噴き出してくる。


「おい、〈ヴァルキュリア〉。今は――」と渡りに船とはまさにこのことで、〈エクスカリバー〉が口を挟もうとする。


 だが、それを遮ってミヤは気丈にもその〈ヴァルキュリア〉の視線に真っ向から立ち向かい、言い返し始める。


「っるさいわね……! あんたがあいつとどういう付き合い方をしてきたかなんてそれこそ知ったこっちゃないわよ! あいつが話してないってのなら、あんたがそれだけ信用されてないってことでしょ!」


 ミヤはそうでない事を知っている。セイギが彼女らを守るために話さなかったことを、それだけ大事にしている存在なのだという事を知っている。だが、思わず売り言葉に買い言葉でそう言ってしまっていた。

 そんな二人の間で〈エクスカリバー〉がどうどうと宥めようとするが、


「なん……だと……! 貴様ッ、私とあの方がどれだけ……! 貴様など殺しもがっ――!!」


 怒りのあまり剣を抜こうとした〈ヴァルキュリア〉を〈ブル〉が後ろから羽交い絞めにして、〈Z〉が〈ヴァルキュリア〉の口を両手で塞ぐ。


「はいはーい。今はそんなことを言い合っている場合じゃないわよぉん」


「姐さんっ! 気持ちは分かりますが今はこらえて下さいっ! 貴重な情報源ですからっ!」


〈ヴァルキュリア〉はそんな〈Z〉の手に噛みつき、思わず〈Z〉は『きゃん!?』と可愛らしい声をあげ手を離す。


「貴様らっ! どちらの味方なのだっ! 離せ、オカマ牛!」


 宙に浮いた足をじたばたと、広げた翼をばっさばっさとさせながら、〈ヴァルキュリア〉が暴れる。


「はいはーい。お話の邪魔になるからあっち行ってましょうねぇん」


 ずしんずしん、と足音をたて〈ブル〉は〈ヴァルキュリア〉を羽交い絞めにしたまま離れていった。


「何なのよ、あいつは……! ってか、なんで今の《ディカイオシュネ》にいる”魔王”が偽物だって知ってるような口ぶりなのよ!?」


「ああ、それ俺だから」と〈チャールズ〉が手をあげていたが、ミヤは聞いちゃあいなかった。


「やれやれ。それで、状況を説明してくれるか」


〈エクスカリバー〉は頭を掻くと、改めてミヤへ向き直った。


「闘技場に現実世界で死人を出すような”爆弾”を《リベレイター》が仕掛けたのよ……! 爆発は二二時! あと一分一〇秒……! だからあんたたちも早く逃げてっ!」


 ミヤは周囲にいる《ディカイオシュネ》を見回し、そう言い放つ。

〈エクスカリバー〉は観客席へ眼をやった。そこには避難するために動き出したプレイヤーたちで大混雑となっていた。人という人が通路にひしめき合い、その様子では――


「観客たち全員の避難は間に合わないな。このままでは俺たちも無理、だな。爆弾をなんとかするしかないか……。爆弾の場所は?」


「分かってたらとっくにどっかやってるわよ!」


「だろうな」と〈エクスカリバー〉。


 そこで〈アゲハ〉が右手をあげる。


「ならその爆弾の形はー? 色はー? 幾つ仕掛けられているかはー?」


「っるさいわね! 今どこにあるか考えてるんだから黙ってて!」


 ミヤに怒鳴られ、〈アゲハ〉の額にビキビキと青筋がたつ。表情はにこにこと笑顔になっているが、ブチぎれてしまっているのは明らかだった。


「んふふ。良いお友達になれそう」と顔の前で右手を拳に変える〈アゲハ〉。


「あの……やっぱりどこかに隠されてるんじゃないですかね。人があまり寄り付かないような場所とか……例えば、トイレとか選手控室とか」と建設的な意見を〈Z〉が出した。


「んー控室なぁ。でもそんなもんがあったようには思えなかったけどな。ユーティ、そっちはどうだ?」


”猿真似”の〈チャールズ〉が思い返すように視線を上にして呟き、なつきの方へ問いかける。だが、話を長く感じたのか彼女はすかーっと立ったまま眠りこけていた。


「「「って、寝てるし!?」」」


 思わず《ディカイオシュネ》メンバーたちが盛大にツッコミを入れる。

 自分が現実世界での死に直面している状況が本当に理解できているのか、《ディカイオシュネ》のメンバーたちからは緊迫感のかけらも感じられなかった。良く言えば冷静だとも表現できるだろうが、ミヤにしてみればこの状況で心穏やかなままでいられる彼らが狂っているように感じた。

 一体、なんなんだろうかこの人たちは。まるで自分たちがこんなところで死ぬわけがないという自信があるような、そんな空気を感じる。それはもしかしたら絶対的な強者による余裕なのかも知れない。

 そんな彼らから視線を外して、ミヤは眼を閉じる。


『どんなものにも攻略法はある! 必ずだ!』


 セイギはそう言っていた。だが、こんな広い場所から爆弾を見つけるなんて不可能に近い。それも一分で、だ。避難も間に合わないし、このままじゃ舞台上にいる全員が死ぬ。


「いいえ、ダメよ、弱気になるな、私! 考えるのよ! これだけ広い場所を爆破するには――! そう、”爆弾”は等間隔に配置されるはず……! そうよね!?」


 ミヤの言葉に〈エクスカリバー〉が顎に手をそえて同意する。


「そうだな。なら一つが見つかれば後はだいたいの目星がつく。だが、その方法じゃ最初の一つを見つけない事には始まらない。別の方法を考えよう」


「ああっ、もうっ、分からないっ……! 無理っ……! あいつじゃないんだからこんなの分かりっこない――! せめてヒントでもないと――!」


 ミヤは〈ヘリダム〉の言動を思い出そうとする。何か、もしかしたら”爆弾”の設置場所に繋がる情報を喋っているかも知れない。


(何て言ってたっけ!? あいつは……確か――!)


『いいえ、ダメですよ、お嬢さん。私の手にあった最後の”爆弾”はもう解除なんてできませんよ。時間がくれば……どかーん、です。まあ、解除できたとしてもする気はありませんが』


 そこでミヤはハッとなった。


「最後の――”爆弾”――! じゃあ……! 爆弾は一つだけ……!」


「そうか、爆弾が一つということは……」と〈エクスカリバー〉が悟ったように視線を上げた。



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