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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR6 『魔王のジャスティスプログラム』
95/109

第一五話 『”ソロ”』

『さあああ!! ついに決勝戦となりましたああ!! 待ちに待って待って待ちまくった世紀の決戦が今! まさにここで開かれようとしてします! ここで決まるはNo.1! ここで決まるは最強のプレイヤー! それが今ぁッ! 私たちの目の前で行われようとしていまあぁあすッ!』


 闘技場の実況が感極まったように叫んだ台詞に、所狭しと観客席にいたプレイヤーたちが拍手をし、大きな歓声をあげる。

 その中には”聖剣”の〈エクスカリバー〉率いる《七雄剣》の姿、そして〈ヴァルキュリア〉を筆頭に観客席に座す《ディカイオシュネ》メンバーの姿もあった。


『そぉれでは人類最強候補の二人をお呼び致しましょうッ! ご存じ二年前まで最強の名を欲しいままにしてきた”魔王”〈ジャスティス〉選手うぅう!! あぁんど、今や有名人となりはしたものの素顔も分からない名前も明かさないまったく喋らないの三拍子! “ソロ”選手の入ッ場ッだああああああぁ!!』


 一際、大きな歓声。そして勇ましいファンファーレと共に、舞台へとあがる出入り口から青と赤、コーナー色を表すそれぞれのスモークがもくもくと広がっていく。

 そして、その二つのスモークからそれぞれが姿を現し、舞台へと歩いて行く。

 一方は、黒い甲冑を身に纏い、不敵な笑みを浮かべている”魔王”〈ジャスティス〉。

 もう一方は、眼深まで隠れるフードを被り、長刀と長銃を背負う”ソロ”。

 大歓声の中、二人が舞台上へと上がっていく。

 そして舞台の規定開始位置で立ち止まった〈ジャスティス〉に対し、”ソロ”はふらふらと規定開始位置を超えてそのまま〈ジャスティス〉へと歩いて行く。


『おおっ!? おおっっと”ソロ”さぁん!? 開始位置過ぎてますよ!』


 実況の声に聴く耳をもたず、”ソロ”は舞台中央をすたすたと歩き進み、そのまま〈ジャスティス〉の目の前でやっと立ち止まった。

 ざわざわとしだす観客をよそに、舞台上に設置された集音マイクが”ソロ”の声を拾い上げる。


『私がこの大会に出場したのはお前を倒すためだ』


”ソロ”が放った第一声に、闘技場は大盛り上がりとなった。あちらこちらから拍手が飛び交い、観客席がヒートアップする。


『おぉーっと”ソロ”選手ぅ! ここで挑発ともとれるオープニングトークをかましてきたぁ!! 今まで舞台上では〈ヴァルキュリア〉選手との戦いで〈ヴァルキュリア〉選手が発した『豚の角煮』という言葉に対し、『圧力鍋』と応えた謎の会話しか話さなかったのにどういう風の吹き回しだぁ!?』


”ソロ”の言葉を受け、〈ジャスティス〉はニィと口を笑みに歪ませる。


『貴様と〈ヴァルキュリア〉の戦いは見せてもらった。そこで俺が言えるのは一つだけだ。貴様では俺様に勝てん』


 その言葉に、”ソロ”が被るローブの奥で、双眸がギラリと光を放つ。


『いいや、あの時のようにはいかない。お前は二年間、何をしていた。まるで成長していないじゃないか。だが、私は――とっても強くなったぞ』


『あの時? 二年前、俺様と戦ったことがあるのか』


〈ジャスティス〉の問いに、”ソロ”は右手でフードをわしっと掴み、全身を覆っていたローブを脱ぎ捨てる。

 そこに現れたのは――

”ソロ”が常に着ていたローブの下、そこには首に巻いた腰よりも長い赤のマフラー、紺よりも黒味がかった上着とスカート、そして赤いタイ、黒のタイツ――女子高生のセーラー服姿があった。ただ、その制服姿と不釣り合いなのは両足の膝近くまであるブーツと、背中に背負われた長銃、そして一メートルをゆうに超える長刀である。

 現実世界ではよく見る格好とはいえCSNゲーム内の、ファンタジー世界の中での格好としては、あまりに浮世離れして見えた。

 その格好も浮世離れしているが、彼女自身の美しさもまた浮世離れしていた。

 腰まで届く艶やかな黒髪、凛とした黒い瞳、瑞々しく張りのある唇、絹のようにきめ細やかな白い肌。その一部分一部分をとってしても美少女だと分かるパーツが、均整のとれた形で集合していた。まさに産まれながらの美少女女子高生がそこに立っていた。


『じょ、女子高生だああぁ!? 美人の女子高生だぁああ!?』


 実況を担当している女性プレイヤーが思わず席から立ち上がる。


「お、おい……あの制服って北海道の……!」


「ああ。あれ札幌高だよな……。もしかしてリアルで通ってる所なのか?」


 観客もざわざわと騒ぎだす。だが、それだけに留まらなかった。


「お、おい……! ”ソロ”の名前表示がッ……!!」


 非表示設定を解除したのだろう。そこには”ソロ”のプレイヤー名が彼女を注視すると映り出すようになっていた。

 そのプレイヤー名は――『鳳 なつき』。


「まさかあれ実名かよ……!? 何考えてるんだ、あいつ……!!」


『ええっと、これは一体どういうことでしょうかー! あれですよね、”ソロ”選手! 女子高生ロールプレイ……ですよね?』


 実況の問いかけに”ソロ”――〈鳳 なつき〉は〈ジャスティス〉を見据えたまま答える。


『実名だ。私は札幌高校二年C組、鳳なつきだ。住所は北海道札幌市――』


 実名、住所、電話番号といったありったけの個人情報を次々と口にしていく”ソロ”に闘技場はしんっと静まり返っていく。


『――二年前は『CosmoChaos Online』を主にプレイしていて所属セルズは《ディカイオシュネ》。その時のプレイヤー名は〈ユースティティア〉。好物は豚の角煮だ。圧縮鍋で調理したものが好ましい。最近は『よってこい! にゃん太郎』という子供向けのアニメにハマっている。にゃん太郎はころころとしていてとても愛らしい。ちなみに、私が使っている業物の武器はカヌチベ工房で制作されたものだ。カヌチベ工房は大通りから少し反れた東地区に工房を構えている。念のためもう一度言っておく、私は今から〈ジャスティス〉を倒すが、倒すのに使われた業物の長刀と長銃はカヌチベ工房で制作されたものだ。以上だ』


『ええっと、最後の方はどうでもいい個人情報というか宣伝が含まれていましたが……。こ、これは一体、どういうことなんでしょうか……。CSNゲームで実名や住所を自ら晒すなんて前代未聞な事態になって参りましたが……。いや、それよりも……! 《ディカイオシュネ》ですか!? ”無閃”の〈ユースティティア〉!? こ、これは大変なことになってきましたぁあああ!! 人類最強の戦いは《ディカイオシュネ》創設組の戦いだあああ!』


『ああ、言い忘れていたことがあった』


『まだ喋るんですか!? 今までのオープンニングトークじゃ何を訊いても喋らなかった癖に!?』


『私の好きなタイプは『私を信頼してくれる人』だ。あと結婚するなら私が何も言わずとも欲しいものを持ってきてくれるような察する男がいい。それと共働きはご免だ。ちなみに私はまったく家事をしないからな。全部やって欲しい。それと服を自分で着替えるのは面倒だから着せ替えも頼む』


『要介護者だ!? 問答無用で要介護者だ!? あんた働きもせず家で何するつもりだ!?』


『無論、ごろごろする。そして嫌いなタイプは――お前だ。〈ジャスティス〉。だから私はお前を斬る。もちろん、お前を斬るのに使われるのはカヌチベ工房で作られた業物の長刀だ』


『貴様がそのカヌチベ公房と妙な契約をしているのはよく分かった。だが、俺様のことが嫌いというのは有難い話だな。家事一つできない女に好かれた所で嬉しくはない』


 その言葉になつきの眉がピクピクと跳ね上がる。顔は無表情のままだが、額に青筋がたっているあたり怒っているのは確かだった。


『ああ、そうか。ふむ、嬉しくない、か。だがな、私は家事ができないわけじゃない! しないんだ! やればできる子だ! できるんだ!』


『…………何を意地になっているのだ、貴様は』


『……フン。料理や洗濯、家事全般は寮暮らししているお前の方が得意だろう。できる方がやればいい話じゃ――』


 そこでなつきは言葉をぴたと止めた。


『…………。お前、誰だ。〈ジャスティス〉じゃないな』


 いきなり凄みを効かせてなつきが放った言葉に、〈ジャスティス〉の眼が細くなり、ニィとさらに口を歪めた。

 その様子を『ほう』と感心しながら〈エクスカリバー〉は観客席から眺めていた。


(あれが偽物であるということに気づいたか……)


 と、そこで視界の隅にベルが表示され、ちりんちりんと鈴の音が鳴る。

 コールだ。こんな時に誰だろうと相手を見てみると〈セイギ〉という文字が眼に入った。


(…………。闘技場に姿が無いと思ったらあの馬鹿は何をしているんだ。さしずめ席を取るのを忘れて闘技場に入れない、といったところか……。俺たちがとった席に同席させろと言うつもりだろうが、そうはいかんぞ……! ふふふ、なにせここは三時間も前から我々《七雄剣》が確保していた席なのだからな……! 俺の勝ちだな、”魔王”……!)


 むふぅ、と鼻息も荒く、自慢げに腕を組み、セイギのコールに無視を決め込む〈エクスカリバー〉をよそに、実況の女性プレイヤーが舞台の”ソロ”へ言葉を投げかける。


『えーっと、”ソロ”選手? いい加減に場を混乱させるような事を言うのはやめて貰いたいのですが……これ以上は進行に影響が出ますし、〈ジャスティス〉選手がCSNゲーム界に帰ってきたのは今までの戦いから明白――』


『流石にお前にはバレるか、ユーティ。まあ、”魔王”様とは幼馴染という話だしな』


〈ジャスティス〉は腕を組んで『んぅむ』と唸った。


『その通りだ。俺は二年前に”魔王”と呼ばれていたプレイヤーとは別人だ』


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