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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR6 『魔王のジャスティスプログラム』
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第一話 『《ディカイオシュネ》の始まり』

 薄暗くなった大通りは露店や街灯の光が照らしだされていた。

 俺は人の波を縫いながら日の沈みかけた城下町の大通りを歩いていく。

 足早に、煮えたぎるような熱を滾らせ、だが努めて冷静に歩いていた。

 ちらりと横に視線をやる。街灯の下、大通りの道端で台の上に乗り、誰かを探している兵士を見かける。

 探しているのは間違いなく俺たちだろう。

 俺たちが城を爆破した怨敵だと彼らは思っているのだから。

 思わず俺は舌打ちをする。

 この人混みじゃバレる可能性は低いし、バレたところですぐに撒けるだろうが……今は時間が惜しい。

 彼らに追いかけられている暇も、俺の感情に余裕も無い。

 俺はアイテムボックスから姿形を隠せる真っ黒のローブを取り出して着込む。

 ついでに名前も非表示に変えた。

 逆に怪しい服装になってしまうが、わざわざ引き止めて確認しにくることはないだろう。

《正道騎士団》の名を聞いたためか、胸がもやもやとしていた。

 こんな気持ちになるのは俺と《正道騎士団》に深い因縁があるからだ。

 二年前、俺がCSNゲームから離れた理由がそこにあるからだ。


『私はっ……問題ないと言っただろう……! こんなことをされて誰が喜ぶというのだ……! 私がお前の重荷になるというのなら私は《ディカイオシュネ》から――去る……!』


 寂しそうに彼女はそう言った。

 幼い頃、遠方へ転校した鳳なつきの――彼女を体現したキャラクターの頬には涙が伝っていた。

 あの時が初めてだった。いつも無表情で淡白だった彼女の涙を見たのは。

 頭にどんどんと思い出が溢れてくる。

 楽しかったこと、哀しかったこと、ぶつかりあったこと、笑いあったこと、彼らとの刺激に満ちた大冒険……そしてその終幕が――

 ……ユーティ。あいつは今、どうしているのだろうか……。

 そうやって昔を思い返し、物思いにふけりながら歩みを進めていると人にぶつかってしまった。


「おっと……すまん。前を見ていなかった」


 ぶつかった相手を見ると、自分と同じく頭から足まですっぽりローブで覆った人が立っていた。

 顔は影になっていてよく見えないが、その通った鼻筋と潤いを保った唇から女性であることは分かる。

 俺に文句を言う様子もなく、彼女は自分がどこにいるか確認するかのように辺りを見回し始める。

 そして今、意識が覚醒したと言わんばかりに疑問を口にだした。


「………………。どこだ、ここは」


 ……何を言ってるんだ、こいつは。

 名前を確認しようと意識してみるが、彼女の名前は非表示設定になっているらしく浮きあがってこない。

 怪しい。あからさまに怪しい。あまり関わり合いにならない方がいいだろうし、関わっている暇はない。

 俺は無言で彼女の横を通り過ぎようとする。

 だがローブの袖を掴まれた。


「闘技場は……どっちだ」


 ジョルトー城下町についたばかりなのか彼女はそう俺に問うた。

 俺は闘技場がある方向を指さす。闘技場はこの区画と真逆の位置だ。どう探したらこんなところをほっつき歩くことになるのか。よほどの方向音痴なのか、こいつは……。

 彼女は礼を言うこともなく、俺が指した方向へとふらふら歩きだす。

 その背中を見て俺は気が付いた。彼女の背中で交差するように背負われた二つの得物。

 一つは彼女の身長よりもある長刀。それが左肩から右足側の地面まで伸びている。あまりにその刀身が長すぎるため刀の鞘の先が地面に引きづられてすり減っていた。

 そしてもう一つ、右肩から左足側へ猟銃やマスケット銃のような銃身の長い銃。銃の握り部分には何か鳥のようなものが彫られているのが見えた。

 ……変な奴……。

 俺は前へ向き直り、目的地へ足を急がせた。

 闘技場といえば今日は”ソロ”と”魔王”の決勝戦の日だ。

 時間を確認するとあと一時間ほどでその試合が開催されようとしていた。

〈エクスカリバー〉は”ソロ”が俺の知り合いであるようなことを言っていたが……俺の敵だった奴か、《ディカイオシュネ》のメンバーか……。何にしても俺はその試合を観ることはできないだろう。

 俺は今からやらなければならないことがあるのだから。

 腹の底から沸き起こる殺意に似た感情を抑え込みながら、俺は真っ直ぐ視線をあげる。

 俺がCSNゲームというものをプレイし始めてから何年が経ったろう。

 特区からこちらへ転校してきた俺をこの世界に誘ったのは虎雄となつきだった。

 俺はCSNゲームという世界でめきめき頭角を表した。

 当然のことだ。俺の脳は彼女・・にそういう風に育てられたのだから。

 そして、そうあれは四年前――俺がまだ〈ジャスティス〉と名乗っていた時のことだ。

 当時、まだ誰も攻略したことの無いクエストがCSNゲーム界にちょうど七の数も存在していた。

 それらのクエストは『七つの未攻略クエスト』と呼ばれ、中にはクエストが実装されてから一四年と経過しているものもあった。

 その一つ一つが、壮大な世界観を盛り込んだエンディングクエストだったがプレイヤーたちはその世界の全貌を前に指を咥えて見ているしかなかった。

 その七つのクエストは攻略の糸口さえ掴めずに全滅してしまうため、もはや挑戦者さえいない状況が何年と続いていた。といっても記念挑戦や怖いもの見たさで挑む人たちはいたが……。

 どちらにせよ、本気で攻略しようと考えている者はもはやいなかったのだ。

 攻略ができない理由は敵が強いという理由だけではなかった。

 プレイヤーたちが気づけていないのだ。

 何でもこの時、CSNゲームの開発者たちはこぞって難解なクエストを作ることに情熱を懸けていたらしい。それ故に何らかの『仕掛け』がクエストには施されており、それを解かない限りクリアすることはできない仕様になっている、というのがプレイヤー間で総じての考えだった。

 それは出されたクイズを考えても考えても解けないのと同じ状況といえる。

 問題に公平さがないわけじゃなく、プレイヤーたちに閃きが訪れない、もしくは何らかの知識が足りていないのだ。余談だがそれは現在でも代わらず〈黒ウサギ〉が『人類への挑戦状』だなんて言い始めたのも彼らの影響を受けているに違いない。

 当時、俺は誰も到達していないその先を見てみたかった。

 しかしもはや『七つの未攻略クエスト』に挑戦しようという気概のあるサイバーセルズは存在しなかった。だから俺はあるCSNゲームの日本大会で優勝した時、インタビューを利用してプレイヤー中にその意志を伝えた。

『七つの未攻略クエスト』を完遂する目的でセルズメンバーを大々的に募集したのだ。

 ――未攻略に終止符を打つ、と。

 しかし、一ヶ月経っても誰一人として名乗りをあげる者はいなかった。

 みんなが『馬鹿げている』『無理に決まっている』と俺を白い眼で見た。

 だから俺たち――俺、虎雄、なつきの三人は一人一人、名の知れたプレイヤーに声をかけ勧誘した。

 ――あるセルズリーダーの男が俺に言った。


『条件がある。俺はよぉ。俺より弱い奴につく気はねぇ。タイマンで俺に勝てたら、サブリーダーにセルズは任せてお前のセルズに入ってやる』


 なのでその場でぶち殺がした。サブリーダーは彼の脱退に泣き崩れていた。それを説得しながら慰めている背中が印象的な、無骨な男だった。

 ――ある中性的な拳法家のそいつは俺に言った。


『ボクがですか? 技量を買って頂けるのは凄く嬉しいんですけれど……。ボクは“漢”を目指しているんです。横道に反れている暇は……。――な、なるほど! 確かにあなたの言うとおりその方が“漢”への近道ですね! し、師匠と呼ばせてください! 私――じゃなくて――ボクを弟子にしてください!』


“漢”という言葉を加えて説得すればすぐに納得してしまう物分りの良いヤツだった。漢を目指すわりに虫型モンスターを見ると女みたいにキャーキャー叫んでいたが。

 ――ある魔導士の女が俺に言った。


『馬鹿げているわね。あれはクリアできない仕様なのよ。私の頭脳が欲しいというのは有り難いのだけれど、お断りだわ。条件? そんなものないわよ。私は今のセルズから離れるわけにはいかないわ。――……分かったわ。そんなに言うのなら、『七つの未攻略クエスト』のうち一つでもクリアしてみて頂戴。その時は私もあなたのセルズに名を連ねてあげるわ』


 一つ目の未攻略クエストに挑んでいた時、隠れて俺たちが戦っているのを見ていたらしい彼女は、俺たちが手間取るのにじれったく思ったらしく戦闘の途中から口をだしてきた。

 ――ある貴族風の男が俺に言った。


『貴様がくるのを待っていたぞ! フフフ、この間の大会の恨みこの場で晴らしてくれよう! 貴様の無敗伝説も宿敵であるこの我輩が――な、なに? リーダーを辞めて俺のセルズに入れだと? ふざけるな! なぜ高貴なる我輩が貴様なんぞにぐぼぉあっ! い、いきなり何をするのだっ! や、やめっぎゃふっ! ……断る! 宿敵の仲間になどぎゃべぼぁッ!!』


 ちょっとスキンシップしたら快諾してくれた。頭は悪いが腕だけはたつ男で、ことあるごとに俺につっかかってくる気の良いヤツだった。

 ――ある赤眼の少女は俺に言った。


『断るのじゃ。儂はクエストを攻略することには興味ないからのぅ。どうしてこの儂がお前様みたいな愚図に力を貸してやらねばならぬのじゃ? あー、もう、ぎゃーぎゃーとうるさいのぅっ! 付き纏うのもいい加減にせぇい! 暑苦しい男は嫌いなのじゃっ。左様っ。儂は一人でいるのが好きなのじゃっ!』


 一人でいるのが好きだという割には淋しがり屋のウサギみたいなやつだった。何度も、何度も頼み込むうちに彼女は俺の前で笑うようになった。……馬鹿にして、だが。

 そうやって仲間は徐々に増えていった。

 大会優勝経験者や【二つ名持ち】の中でも有名なヘビープレイヤーに声をかけたためか、どいつもこいつも一癖二癖ある変人たちだった。

 俺が最初に声をあげたので便宜上、リーダーを務めたが……あれは『同盟』だった。

 上下関係なんて無い。全員が同じく肩を並べる共同戦線だ。

『七つの未攻略クエスト』に終止符を打たんとする者の集いだった。


 それが歴史上最強と云われる事になるサイバーセルズ――《ディカイオシュネ》の始まりだった。


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