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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR5 『蠢くテロリストプログラム』
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第二一話 『”魔王”かどうかの議論』

 結局、ミライはぷんすか怒りながら俺をミヤから遠ざけると、ミヤの口へ回復薬を流し込む。

 これでとりあえずミヤのHPは回復したはずだ。しかし状況の危機は去っていなかった。

 ミヤは相変わらず熱っぽい顔でぐったりとし、ぜぇぜぇと荒い息を繰り返している。


「なにさこの状態異常は? 【毒】ってここまでひどい症状になったかに?」


 トラの誰に問うでもない質問に、状態異常になっている本人が小さく答える。


「どく、じゃなくて……もうどく……みたい」


 ふーむ、【猛毒】か。ミヤはどうやら厄介な状態異常を付与されてしまったらしい。


「【毒】状態の上位版だろうとは思うけど……【解毒草】って効くのかに……?」


「わかんないよ。でもとにかく飲ましてみようよ」


 ミライが懐から【解毒草】を取り出してミヤの口へと運ぶ。ミヤは眉根を寄せて呵責し、時間をかけて嚥下した。だがそれでもミヤの症状が改善された様子はない。

【猛毒】は【解毒草】で消せないのか……。

 とりあえず回復アイテムが尽きない限り彼女の体力が減っても回復できるが、この【猛毒】には現状お手上げのようだった。


「参ったねぇ。打つ手なしかなぁ。【毒】同様に時間経過で【猛毒】も消えるといいけど」


 トラはポリポリと頭を掻く。

 いや、まだ打つ手はある。


「あのさ――」と俺がその案を提示しようとしたまさにその時だった。


 俺の言葉に被せるように後ろから声がかかったのだ。


「いいえ、試していないことがまだあるわ。回復魔法【デトキシー】なら解毒できるかも知れないわよ」


 振り返った俺たちの視線の先にはいつの間に俺たちの傍まできていたのか、ミヤの様子を伺っていたらしいナーガの姿があった。


「そうよね。セイギくん?」


 ナーガが俺へと確認をとるように顔を向けた。

 その顔はなぜかにニコニコと満面の笑みなのだが……。

 ちょっと額に青筋入ってません、ナーガさん? とても怖いのですが……。

 ……俺、なんかナーガが怒るようなことしたっけ……?


「あ、ああ、ナーガの言う通りだ。俺も試してみる価値はあると思う。ミライ、やってみろよ」


 少しナーガの様子を不審に思いながらも俺はミライにそう促す。


「ふっふっふ。ついにわたしの出番がきちゃったんだねっ!」


「おぉー! でばーん! ミライ、がんばれー!」と〈白ウサギ〉がぴょんぴょん跳ねる。


 ミライはゆっくりと杖をミヤに向ける。そして眼を閉じ意識を集中させた。彼女の杖が、その身体がほのかに緑色の光を発すると、ゆるやかな優しい風が舞いはじめる。


「――七つの世界に統べる王が一人、フェラギルオよ。我は癒し手なり。暖かき風をまといて従前たるその力を――」


 ミライがいきなり始めた詠唱に俺は隣のトラへ顔を向けた。


「…………。……なあ、トラ。『ワールドマスター』に呪文って必要だったっけ?」


「にひひ。セイギくーん、せっかくミライっちのターンなんだし黙っとこーよー。まあ、ミライっちの世界観設定は気になるところだけどね。フェラギルオって誰だろねー?」


「――大海に沈んだ船は深き闇の、財宝が……ぴかぴか……えーっと……【デトキシー】!」


「「諦めたの!?」」


 設定が怪しい方向に向かっていた詠唱も半ばに魔法を発動させたミライに、俺とトラはぎょっとしてしまった。設定が固まってないなら最初からやるなっての!

 ミヤの体を光が包み込むと、紫色の煙が漏れでて消えていく。

 そして、とろん、としていたミヤの眼が急にぱちりと開いた。


「うそ……。なおった……」とミヤが自分の両手を開いたり閉じたりする。


「なんてことだ! ミライが役に立つ日がくるとは……!」


 えっへんと胸を張るミライに俺たちはパチパチと拍手した。


「ありがと、ミライ。助かったわ……」


「うんうん! これからもどんどんと頼ってくれちゃっていいんだよー!」


 ミライは自分の胸をどんっと叩き、鼻を高々としていた。


「おぉー! いーんだぉー!」


 それを見た白ウサギも自分の胸を叩いてミライの真似をする。

 ミヤは彼女らの様子に微笑み頷くと、俺たちそれぞれの顔を見回す。


「みんな……その……一人で突っ走っちゃって悪かったわ。みんなが来てくれてなかったら私今頃やられてたわね……」


「おお、えらく殊勝じゃないか。まあ、実際ミヤはかなり強くなってるからな。気持ちが逸るのは分かるが、対人戦はプレイヤー自身の経験値を稼いでからじゃないとな」


「そうね。こんなこと二度とごめんだし対人戦の訓練もしていくことにするわ。っていうか、セイギ。あんた、そんなに強いなら普段からもうちょっとやる気だしてよね。あんな動きができるなんてびっくりしたわよ」


 そう言って肩をすくめてみせるミヤに同意する人物がいた。


「そうね。私も驚いたわ。まるで――」


 とナーガが俺をじっと見る。


「――”魔王”――みたいだったわね」


 ぎくっ、と思わず俺は肩を震わせてしまった。

 まずい……。少しやりすぎたか。


「はっ、はははは! な、何を言ってるんだ、ナーガ。俺が”魔王”なわけないだろ?」


 俺は爽快に笑っておどけてみせる。

 だがナーガはじと眼でじーーっと俺を見つめていた。

 何か言いたそうだがナーガはただただ黙っている。

 ……やっべぇえええ! なんかこれナーガさん、むちゃくちゃ俺のこと疑ってね!?

 思わず俺はトラへ視線をやる。

 トラは頬にだらだらと脂汗を垂らしていた。何かボロを出したらまずいと思っているのか助け舟をよこすつもりはないらしい。

 そんな俺の様子をじぃーっと見ていたナーガさんはやがて「ふぅ」とため息を吐いた。


「ええ、そうね。まさか最初に出会った時に私が〈ディカイオシュネ〉だと言ったにも関わらず自分が”魔王”だと言わない理由はないものね。仲間なら言うはずだわ。ええ、そうセイギくんが”魔王”なら言うはずよね? ねぇ、セイギくん? まさかセイギくんが”魔王”だったら参謀軍師として一緒に戦ってきたこの私に”魔王”だと言わないわけないものね?」


 ナーガさんからお怒りのオーラが立ち昇っているように見える。

 んぎゃあああ! やっぱりナーガさん俺のことめっちゃ疑ってるぅうう!


「ナ、ナーガっち! なんか勘違いしてるって! セイギくんは”魔王”じゃないよ!?」


「ええ、そうね、トラくん。あっ、そうそう」とナーガはぽんっと今思いついたかのように手を打った。


「トラといえばディカイオシュネには虎の名を冠した弓の名手がいたわねぇ。でもなぜか……ええ、本当になぜか偽”魔王”が束ねる現〈ディカイオシュネ〉に彼はいなかったのよね。ええ、なぜか。彼は今どこで何をしているのかしら。もしかしたら本物の”魔王”と一緒に行動している可能性はあるわよね。ねぇ、トラくん?」


 トラ撃沈。トラは「あはは、そ、そうだねぇー」と乾いた笑いを浮かべていた。


「ちょっと待って、ナーガ。もしかしてあなた、セイギが”魔王”だって言って……るの?」


 ミヤも話の流れをなんとなく掴んだらしく俺とナーガを交互に見やっている。

 だがナーガはミヤの問いには答えず、ただただ腕を組んで俺をじっと見つめていた。


「「……………………」」


 俺とトラ無言。

 うぅ……いっそ殺してくれ。これはどうしようもなさそうだ……。 

 だが、そこで思わぬところから助け舟がでた。


「んー? ナーガちゃん、ナーガちゃん。まぁくんはナーガちゃんが探してる”魔王”さんじゃないと思うよ?」


「「「へ?」」」


 いきなりミライがそんなことを言い始めるものだから俺、トラ、ナーガは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「だって”魔王”さんって傍若無人で我儘な人なんだよね? 色々なセルズから敵対されてたみたいだし。だったらまぁくんは違うよ。まぁくんはわたしたちのこと守ろうとしてくれてるでしょ?」


「確かにあの人は他人を顧みない行動を幾度となく行っているわ。でも彼のそういった行動や大人びた喋り方や俺様気質はロールプレイしていただけだと思うわ。心根ではとても仲間を大事にしている人だったから。彼も仲間のことは全力で守っていたわ。人物像はセイギくんと合致しているのよ」


「じゃあ仮にまぁくんが”魔王”だったとしてナーガちゃんに正体を明かさない理由は?」


「どんな事情があったかは知らないけれど彼は〈ディカイオシュネ〉を裏切り私を殺しているのよ。それに後ろめたさを感じているんじゃないかしら」


「まぁくんは後ろめたさを感じてるからって隠す人じゃないよ? そこは素直に『あの時は悪かった』って謝れる人だと思うけど?」


 その言葉にナーガは俺を見やる。そして唇を親指で押さえて考え込んだ。

 なんだか急に始まった俺が”魔王”かどうかの議論を俺はただ聞いているしかない。

 トラも俺の隣でごくりと生唾を飲んでいた。


「…………。たしかにセイギくんならそうするでしょうね」


「人物像に多少の差異があるのはナーガちゃんも認めるんだね?」


「でも誤差の範囲だわ。これで人物像に差異があるというのは――」


「ううん、違うよ。『非を認めて謝る』と『非を隠し通す』のは大きな差だとわたしは思うよ」


「…………。分かったわ、でも人物像に差があったとしてもセイギくんの観察眼や考察の鋭さはあの人そのものなのよ。セイギくんが”魔王”としか考えられないわ」


「たしかにまぁくんがしたさっきの推測は凄かったと思うよ。ミヤちゃんが戦った痕跡を辿って居場所をつきとめたんだよね? でもたった一度、鋭い考察をしたからってどうしてまぁくんが”魔王”になるの? 誰だってあっと驚くような鋭い考察を閃く時ぐらいあるんじゃないかな? まぁくんの推理にクリティカルがでたからってすぐに”魔王”だと決めつけるのは早計だと思わない?」


 ナーガは視線を下にして黙している。ミライの言ったことをよくよく考え直しているようだ。

 ……って、あれ? ミライってあの時、いたっけ? 俺がフードの男と戦闘が終わってから来たように思ったんだけど……。

 疑問に思い、俺はナーガと議論を交わすミライへ顔を向けた。

 ミライはいつもと変わらぬお子ちゃまみたいな、にこにことした笑顔で考え込むナーガを見ている。


「それにね、ナーガちゃん。まぁくんが”魔王”じゃないという確定的かつ科学的な証拠があるよ?」


「…………BQ、ね」とナーガが顔をあげた。


 その言葉にミライは笑顔で頷く。


「うん。”魔王”さんはCSNゲームで伝説になっているほど凄いプレイヤーなんだよ? どんなに少なくとも200を超えるBQを持っていると思うの。でもまぁくんのBQはたった78だよ? BQ78の人が凄い人たちが集まった〈ディカイオシュネ〉をまとめられると思う? 『七つの未攻略クエスト』を解けると思う?」


「……………………」


 ナーガは完全に沈黙してしまった。


「以上。”魔王”さんとセイギくんの人物像の差異、鋭い考察をしたのがたった一度だけということ、まぁくんのBQから考えて、まぁくんは”魔王”ではありません。たぶんナーガちゃんは”魔王”さんに会いたいと心から思ってるから、その心情がまぁくんの姿に”魔王”さんを重ねただけなんじゃないかな? ”魔王”さんを恋しく思う気持ちが作り出した幻想なんだよ」


「………………はふぅ」


 しばらく黙っていたナーガはようやくため息をついた。


「どうやらそのようね。セイギくんを”魔王”だと思っただなんて……私の脳も鈍ったかしら」


 ナーガはやれやれと頭を横に振った。

 俺が”魔王”だとバレずにすんだことに俺はほっと胸を撫で下ろす。

 そして同時に、俺はミライへと驚きの目を向けていた。

 ミライが……ナーガを説き伏せやがった……。あのミライが……!

 ミライは俺の視線に気づくとにこりと笑う。


「良かったねぇ、まぁくん。”魔王”だっていう疑いが晴れてー」


「あ、ああ……」


 と返事はするものの俺は内心でもやもやとしたものが広がっていくのを感じていた。

 まさか……こいつ、……俺を庇ったのか……?

 俺が……”魔王”だと知っているのか?


「うんうん。まぁくんはわたしの幼馴染だからね。”魔王”なわけがないんだよ、うんうん」


 腕を組んで何度も頷くミライ。

 いや、やっぱただの天然おバカちゃんだな……。

 本当に俺が”魔王”じゃないと思ってるだけか……。


「……えーっと、ナーガさん。俺の疑いは晴れた?」


「…………ええ、とりあえずグレーには戻ったわね」


 も、戻った? 元から俺グレー扱いだったの? ずっと疑われてたの?

 と、その時だった。

 呻き声をあげてフード男がゆらりと立ち上がった。


「おっと、いかんいかん、思わぬ展開で忘れるところだった。そういえば決着がまだだったな」


 俺は眼をぎろりと彼に向ける。

 俺の視線を受けて、フード男はじりっと後ずさった。


「俺の仲間に手をだした奴は……お前の想像を超える苦痛を与えて――ぶち殺がす!!」


 フード男の足ががくがくと震えだす。するとフード男はいきなりフードを脱いだ。


「ま、待ってくれ……! 話を聞いてくれ! これには訳があるんだ! 仲間が人質になっているんだよ! 仕方なかったんだ! やりたくてPKしたわけじゃない!!」


 フード男の顔には見覚えがあった。

 闘技場で〈エクスカリバー〉と戦っていた暗殺一家の男……たしか名前は〈ヤマカガシ〉……。


「なんだ……そうだったのか」


 俺は剣を降ろして近づき、


「とでも言うと思ったか、死ねぇえええええッ!!」


 問答無用で男の顔に剣を勢い良く突き刺そうと振りかぶった。だが――


「ちょっと待って、まぁくんっ!」


「ちょっと待った、セイギくーん!」


 ミライとトラに後ろから羽交い絞めにされて止められ、剣筋が反れた。男の顔の横を俺の剣が突きぬけ、彼は「ひぃいっ」と声をあげて尻餅をつく。


「はなせぇ! そいつを殺させろぉおおおおっうがああああ!!」


 俺は両腕にぶら下がった二人を引き離そうと暴れる。そんな中、男へとしゃがむナーガ。


「今のはどういう意味なのかしら。あの“爆発”はあなたがやったのでしょう? あなたの背後に誰かがいるとでもいうの?」


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