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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR5 『蠢くテロリストプログラム』
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第一三話 『日本の中で唯一の無法区域』

 

 俺が……二つの世界を救う英雄だって……?


「だけど『ワールドマスター』の攻略が……日本を取り返す、ってどういうことだ?」


 かぐやたんは竹串で芋羊羹を切り取って口の中へ放り込む。


「確かに日本の全権は奪われたのじゃ。じゃがあの日、最初に奪い合っていた『ワールドマスター』の権限はテロリストのものでも、儂のものでもなく、誰のものでもない宙に浮いた権限になってしまっておる。『ワールドマスター』内は現在、日本の中で唯一の無法区域であり中立というわけじゃの。日本でテロリストが唯一好きにできぬ場所であり、尚且つ、日本のサイバーエージェントも手を出せぬ無法地帯でもある。つまり中立である『ワールドマスター』のゲームマスター権限を確保できればその繋がりから儂――正一位――いや、ここは日本と言っておくべきかの。日本に接触でき、権限を取り返すとっかかりにできるのじゃ。テロリストの領土となった日本の内側から反旗を翻ることができる、というわけじゃの」


 俺は顎に手をあてると、視線を下にして考える。


「……テロリストたちが『ワールドマスター』を通して日本を攻撃したように、『ワールドマスター』を通して日本を奪い返すってわけか……」


「そういうことじゃ。もはや『ワールドマスター』は一〇〇億円以上の価値があるのじゃ。『ワールドマスター』に日本の命運がかかっているのじゃからの。《シグナル》や《ハッカー》も日本を奪い返すべくすでに動いておる。この『ワールドマスター』の中でじゃ。国家公務員やサイバーネットワークの腕利きたちが真面目にゲーム攻略を目指す、というのはなんとも可笑しな話になってしまったものじゃが……。シャーリーのことじゃからお前様に話していると思っておったがのぅ」


 え……母上様、今『ワールドマスター』にいんの……? やだこわい会いたくない。


「でもさ、そもそもどうやって宙に浮いたゲームマスター権限を得るつもりなんだ? 『ワールドマスター』攻略がゲームマスター権限に繋がるのか?」


「『ワールドマスター』のクリア特典。知っておるかの?」


「一〇〇億円」


「+副賞じゃ。クリア特典は他にもあるのじゃよ」


「そうだっけ? そういえばあったような、なかったような。……あ、もしかして――!」


「おそらくお前様が思いついた通りじゃろうな。副賞の中には『ワールドマスター』のゲームマスター権限が入っているのじゃ」


 成る程。それでかつて『七つの未攻略クエスト』を攻略した俺が切り札になるってわけだ。


「たしかに俺が『ワールドマスター』を攻略して、手に入れたゲームマスター権限をかぐやたんに譲渡すれば……」


「うむ。後は儂やシャーリーがサイバーネットワーク領域で《リベレイター》と電脳戦をすればよい。日本の命運をかけてな。……今度は負けぬぞ」


 ゴゴゴゴゴ、とかぐやたんの殺気が膨れ上がりギラリと眼が赤く光っていた。


「ユーアークレイジーガール! ヘイ、ヨー!」


「……なぜいきなり米語になったのじゃ」


「すまん。あまりにシリアスすぎる話題だったんで……なんか耐えられなくなっちゃってさ。不治の病だから気にしないでくれ」


「……たしかに馬鹿は死んでも治らないと聞くからのぉ」


 ひどい切り返しがあったもんだ。まあいい、今はツッコまず話を進めよう。


「だけどその計画をやるにしてもだ。何ヶ月かかると思ってらっしゃるんだ。いや、何年かも知れない。それより早く《シグナル》と《ハッカー》が現実世界から決着をつけてくれるんじゃないの?」


「いや、現実世界での決着は有り得ないのじゃ。相手は《リベレイター》じゃからな。奴らは無国家の人類主義。捕まえても捕まえても沸いて出てくるテロリスト共じゃ。一つの思想を元に名を連ねるテロリスト集団を壊滅させるには思想そのものを根絶することでしか終幕は有り得ぬでな。それこそ何十年、何百年単位でかかるじゃろうて。だからこそ『ワールドマスター』の攻略しか選択肢はないのじゃよ。これが最も早い日本の取り返し方じゃ」


「オーケー。その方法が最善だとしよう。攻略するのは別に俺じゃなくてもいいんじゃないか? 誰かが攻略するのを待って、そいつに今の状況を話せばいいだろ。大抵の日本人なら協力してくれると思うけど」


「大馬鹿もの。そやつが《リベレイター》だったらどうするのじゃ? 《リベレイター》とてゲームマスター権限を得るために『ワールドマスター』内で活動しているのは間違いないのじゃぞ」


 あー……なるほど、確かにそうだ。《リベレイター》にしてみれば日本と繋がりがありつつも誰の管理下にもない不可侵領域となった『ワールドマスター』は眼の上のたんこぶ。腹の中に爆弾を抱えているようなもの。早々に潰しておきたい案件になっていることだろう。

 それに、と言葉を続けて彼女は順に指を立てていく。


「この件を任せられるプレイヤーには条件があるのじゃ。まず第一に、《リベレイター》よりも早く『ワールドマスター』を攻略できるほどCSNゲーム経験豊富で素質を持った者であること。日本は今も脅威に脅かせられておる早急に攻略しなくてはならん。悠長に攻略者を待っていられる状況ではないからのぅ。第二に、ゲームマスター権限を儂に譲渡すると確信できる者が攻略者であること、つまりそれだけ信頼できる者だということじゃの。最後に、現実の世界で何が起こっているのか――サイバーネットワークの実情を知っている者であること、じゃ」


「確かに俺はCSNゲームの経験は豊富と言っていいさ。そりゃかなりのもんだと自負できる。だけど俺の最新BQは48だって知ってる? 素質なんてないよ?」


「…………はあ。なぜそうまでして渋るのじゃ。……特区出身の化け物が何を言っておるのやら。自分の脳に制約をかけBQテストを低い数値で留めることができるとは……そこまで自らの脳を自由に支配できるのは人類でお前様くらいなものじゃ。お前様が本気を出したBQがいかほどか見てみたいものじゃの。それとも……過去の経験から深層心理がサイバーネットワークと関わることを避けておるのかや?」


「…………。……ま、第一の条件は別にいいや。だけど第二の条件、俺はかぐやたんにゲームマスター権限を譲るとは限らないよ」


「お前様は“観客”でいるより“演者”の方が好みだと記憶しておるがの。それともゲームマスターに興味があるのか? ならば儂は別にお前様がやっても良いと思っておるぞ」


「まあ、かぐやたんが俺を信頼し、愛してしまっているのはその筋で周知の事実だからな」


「有り得ないのじゃ。正直、そこが一番不安な点じゃの。お前様の考えておることは訳が分からんからの。じゃが最後の条件を考えると他に適任がいないからのぉ。現実の世界で何が起こっておるのか裏側を知っておる者はほんに希少じゃからな」


「えっ」


「えっ」


 俺とかぐやたんは無言で見つめあった。しばらく沈黙した後、


「ま、諦めるのじゃ。条件に合う人類はただ一人、お前だけじゃて。日本奪還の最後の砦『ワールドマスター』。これをお前様が攻略し、日本を救うのじゃ。現実の世界を……お前様が守るのじゃ」


 現実の世界を……俺が、守る。

 その言葉がどれだけ俺の胸をしめつけるか……きっと彼女は理解しているはずだ。

 胸がずきずきと鈍く痛みだす。

 どれだけゲーム内で強くても現実にいる人間は守れない。

 どれだけゲーム内で傍にいても現実で駆けつけるのは何時間もかかる。

 俺は二年前の出来事から誰よりもそれを理解している。手詰まり、どう思考しても手段が無かった絶望的状況。……だが今度は違う。手が、方法がある。俺が誰よりも先に攻略すれば、現実の世界を……今度は仲間たちを守ることができる。

 たかがゲーム内での強さが現実で生活している人々を守ることに――

 ――日本を守ることに繋がっている。


「俺は一度、失敗してるんだぞ」


「……失敗、か……。なれば尚更じゃろうて。二年前、お前様ができなんだことを今度こそやり遂げるのじゃ。これはCSNゲームを征服した“魔王”の〈ジャスティス〉――黒猪正義にしか不可能なクエストじゃよ」


 俺は眼を伏せた。握った拳を開くと手に爪の痕が残っていた。


「とまあ……散々、お前様一人に任せるようなことを言うたが……。そこまで気負う必要はないぞぇ。《シグナル》や《ハッカー》も攻略に向けて動いておる。要は協力してくれという話じゃ。お前様はお前様が出せる最良の結果を儂に提供すれば良い」


 変な気の使い方してくれちゃって……。

 かぐやは《シグナル》や《ハッカー》じゃ無理だと判断しているから俺にこの話をしたのだろう。そもそも《シグナル》や《ハッカー》はサイバーネットワーク上での電脳戦が主舞台だ。ゲームの謎を解き、攻略するということに関しては初心者も同然。どうせ現状はゲームのシステムや内容を理解するので手一杯になっていることだろう。

 ……確かに客観的に考えても適任者は俺になるってわけか。

 俺はゆっくりと息を吐いた。


「…………。……この話を聞かせたい奴らがいる。そいつらにもう一度話してくれないか。どちらにしても俺一人じゃ難しい話だ。協力者がいる」


 その言葉にかぐやは視線を落とし黙考する。しばらくして俺へと顔をあげた。


「……そやつら、信頼できるのかぇ?」


「俺の仲間、だからな」と彼女の赤い瞳を見つめ返す。


 その言葉に彼女はフと口を歪めた。


「――連れてくるのじゃ」


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