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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR5 『蠢くテロリストプログラム』
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第一〇話 『〈かぐや〉』

 叫んで落ち着いた俺は〈白ウサギ〉に胸を張った。


「ふふんっ。それでこの【CHA】数値『1』の俺様に何の相談なのだね? この【CHA】数値『1』のこの俺様にっ! はっはっは! 何でも相談したまへ! はぁーっはっは! おっと、これからは俺のことは“Charisuma”の〈セイギ〉と呼んでくれたまえよ!」


「おぉー! わからないことぉー! どうすればいー?」


 うん、ダメだった。話にならない。知りたい内容が返ってこない。いくらCharisumaな俺でも理解不能だ。こいつにパラレルサーバの管理を任せていて大丈夫なのか。


「そうだな。とりあえずそこの果物屋で『リンゴください』って言えばすべて解決だ」


「おぉー! さすがセイギー! わかったおー!」


 適当に答えて、彼女を地面に降ろし手を離すと〈白ウサギ〉はとてとてと果物屋の店主まで走っていく。そして小さな体を精一杯縦に伸ばし、元気よく右手をあげた。


「おぉー! リンゴくださぃー!」


「あいよっ! 幾つ必要だい?」と果物屋の店主がかかんでにこやかに返した。


「…………。なにがー?」


 可愛らしく身体ごと首を傾げる〈白ウサギ〉に、果物屋の店主も首を傾げていた。

 よし、めでたし、めでたしだな。

 俺は物語の終わりを見届けると、颯爽と路地裏へ戻る。


「どうだった? 何の用事だったの?」


 再び円の中に混ざると、ミヤが興味深そうに身を乗りだして尋ねてきた。


「なにがー?」


 俺は〈白ウサギ〉の真似をして可愛く首を傾げてみた。

 すると三方向から順番に、ばしっばしっばしっとテンポ良く頭を叩かれた。

『あ、この流れはわたしもしなきゃ!』という使命感にでもかられたのか、遅れて反応したミライが俺の頭にツッコミを入れようと手をあげたので、俺はその手を受け止めて逆にミライの頭を叩く。


「いたぁい!?」とミライが頭を押さえて涙ながらに叫んだ。


 それを無視して俺はミヤに向き直った。


「何の用事だったのか俺も分からないんだ。分からないが、分からないことを訊かれたみたいだが、分からないことが分からないんだ。どう思う?」


「…………。……あんた、何言ってんの?」


 確かに。俺も頭がぐちゃぐちゃになってきた。ちゃんと日本語話せてる?

 まあいい。そんなことより俺は先ほど知った事実を告げるべくコホンと咳払いした。


「みんな、よく聞いてくれ。さきほど、驚くべきことが分かったんだ」


「ほぇー? なになにー?」


 俺は四人が俺へと注目しているのを確認すると、立ち上がってバッと格好良くポーズをとった。


「実はな……! 俺のステータス【CHA】は1に上がっていたのだ! だぁだぁ……!」


 自らエコーまでやっちゃうテンションの上がりっぷりである。


「あっそ。良かったわね」と淡白なミヤさん。


「へぇ、凄いじゃない。で、結局セイギくんでは〈白ウサギ〉から情報を引き出すことはできなかったわね。……使えない人」


「にひひ。みんな、もうちょっと乗っかってあげたらー?」


 あ、あっれぇ……。なんで誰も信じてない風味?

 あまりに拍子抜けな反応に、テンションを上げてしまった自分が恥ずかしくなり俺は静かにしゃがんだ。だがそんな中でミライだけは好奇心旺盛な瞳を輝かせていた。


「す、すごーい! さすがまぁくんだよっ! かっりすまぁー!」


 なぜだろう。信じてもらっているのに、相手がミライだとなぜか哀しくなっちゃう。


「おぉ? セイギのなかまー?」


 その声に横へ眼をやると、いつの間にか〈白ウサギ〉が俺たちの円に加わり同じようにしゃがんでいた。


「きゃあーきゃあーきゃあー!」


 もはや言葉になっていないミライの黄色い声。彼女は〈白ウサギ〉を抱き上げると、胸に抱きかかえ頬ずりする。そんな熱い抱擁に〈白ウサギ〉はけらけらと笑った。


「おぉ、くすぐったぃおー、ミライー」


「わっ、偉いよ〈白ウサギ〉ちゃん! わたしの名前がわかるんだねっ!」


「おぉー! 白ウサギ、わかるおー! ミライ、いいやつー!」


「わーん、ありがとぉ~っ! わたしのペットにしてあげるよ的雰囲気がわたしの中で有頂天だよっ! ばーにんぐだよっ! 二人合わせて有頂天ばーにんぐだよ!」


 意味は分からないが嬉しいのは分かった。なんだろう、有頂天バーニングというお笑いコンビでも流行ってるんだろうか。最近テレビ見てないからわからないや。


「〈白ウサギ〉。わざわざここまで来たのには何か理由があるのかしら?」


「おぉー! セイギによーあるー! そうだんしにきたー!」


 相談、という言葉に皆は互いに顔を見合わせる。


「相談か。悪いがお兄さんたちはお前の相談にのってる場合じゃないんだ。色々と大変なんだよ。分かるか?」


 俺は優しく諭すように〈白ウサギ〉にそう言った。だが俺の言葉は彼女の長い耳には届いてないらしい。


「なんかぇー? たいへんなのよぉー! ねーね、けんげんなくなったー!」


「「「……………………」」」


 ねーねイクゥオール〈黒ウサギ〉のことだよな……。で、権限がなくなった、とな?

 つまり〈黒ウサギ〉の権限がなくなったってこと? それで助けて? ……あ、やばい。凄い嫌な予感がする。逃げたい。巻き込まれる前に逃げたい。

 うん、よし、逃げよう。


「あ、俺ちょっと用事を思い出し――」


 俺が立ち上がろうとすると、両サイドに座っていたミライとトラが俺の肩を手の平で押さえ込んで無理やりしゃがませた。

 ちっくしょぉおおおお! 次から次へとどんどん問題が増えやがってぇえええ!


「権限? それって『ワールドマスター』の製作者である権限かしら? ゲームマスターとしての権限を〈黒ウサギ〉がなくしてしまったということ?」


「そー! さいしょのひになくなったー! ばくはつしたらじどーしゃがじこして、ねーねがイーッってなってもうわけがわからないのよぉー! どーにかしてー!」


 自動車が事故と〈白ウサギ〉は言った。

 今、確かに言った。

 すぐに俺たちの脳裏には日本一七箇所で同時に起きた一ヶ月半前の事故が思い当たる。

 そして彼女――〈白ウサギ〉の言う自動車事故はおそらくその件に違いないだろう。

 だけど“ばくはつ”って何だ? 現実の世界でそんなことあったっけ?

 事故が起きる前に爆破事件なんて起きてなかったはずだけど……。

 CSNサーバ関連のどこかが爆破されて事故を誘発させたってことか? でもそれならやっぱり大きなニュースになってるだろうし……うーん……。

 俺たちがよく分かっていないのを悟ったのか〈白ウサギ〉は両手をぶんぶん振る。


「ねーねいってた! だれかがいめーじでーたにわるさしたのぉー! それでつくったぶきがばくはつしたのぉー! いーーっぱいのうぃるすがあっしゅくされてたのよぅー!」


「「「………………」」」


 俺たちは思わず無言になってしまった。

 なぜなら俺たちはイメージデータにイロウシェンウィルスが入っている武器のことを知っていたからだ。そしてその武器が爆発することも知っている。

 さらに言えばその武器のせいでかなりヤバい状況に立っている。

 さらにさらに今、それのせいで現実の世界で自動車事故が起きたことを知った。

 つまりだ。

『ワールドマスター』内でのイロウシェンウィルスを使った“爆発”が、現実世界での自動車事故を引き起こしたと……そう〈白ウサギ〉は言っている……らしい。

 思えばそうだ。

『ワールドマスター』は日本のインフラを管理する人工知能〈黒ウサギ〉と直結されている。

 もし『ワールドマスター』がサイバー攻撃を受けたとすればそれは人工知能〈黒ウサギ〉にダメージを与えることとなり、結果、日本のインフラにダメージを与えた……っていうのか!?

 やばい事態とやばい事態が繋がっていることが発覚した瞬間だった。

 仮想世界で起きたことが……現実世界を脅かしているっていうのかよ……!

 若干の沈黙が路地裏に降りる。

〈白ウサギ〉が言わんとしていることを、それぞれが胸中でまとめて考えているようだった。

 しだいに各々の顔つきが変わってくる。

 今までこの件に関してはこの五人にとっての問題だと俺たちは思っていた。

 しかしどうやらそういうわけじゃないらしい。

 思いもよらず、この国の重大な危機に触れてしまっていたようだ。


「…………うそ、でしょ。そんな……こんなことって……」


 そう言ったミヤの声は擦れていた。口に当てた手が震えている。


「……ねえ、これってもしかして大事件……じゃないかに?」


「…………ええ。彼女の言っていることが本当なら……大事件、だわ。私たちでどうにかしようと考えていたのだけれど……はっきり言って私たちのような学生が手におえる話じゃなくなるわね。《シグナル》に連絡をとるべきかも知れないわ……」


 トラが堅い表情で放った問いを、ナーガは親指で唇をおさえて肯定した。

 と、その時だった。

 ちりんちりん、という鈴の音とともに俺の視界に【コール】のアイコンが点滅して表示される。

 コールは『ワールドマスター』内にいる離れたプレイヤー同士で会話するための機能だ。現実でいうところの電話がそれに近いだろうか。

 俺にコールしている相手の名前を見て俺の眉根が驚きで寄った。

 そこには思いも寄らぬプレイヤー名が表示されていたのだ。

〈かぐや〉――二年ぶりに見る懐かしい名前だった。


「あうー。ねーね、はなすなっておこってるぉ……」


〈白ウサギ〉の耳がしゅんと折れたのが横目に入る。

 この狙ったようなタイミングってことは……何らかの方法で監視でもしてたのかなぁ……。

 俺は少し逡巡したが、回線を開いた。

 そして口には出ない声で俺は彼女に話しかける。


『おっす! 久しぶりだな、かぐやたん! そろそろ結婚しようか!』


『まったく……愚昧には困ったものじゃ。一プレイヤーに機密を話すなど言語道断なのじゃ』


 挨拶も俺の求婚に対する返答もなく〈かぐや〉はただため息を吐いた。


『そう怒ってやるなよ。可愛い妹がしょげ返ってるぞ。きっと彼女なりにどうにかしようと思ったんだろうからさ』


 俺は小さな体をさらに小さくしている〈白ウサギ〉から視線を離し会話に意識を戻す。


『ま、元気そうで何よりだね。現実の世界で色々と面白い噂は聞いてたよ』


『世間話をする時間も余裕もないのじゃ。事態は既に窮地にある』


『だろうね。なんせ二年も音信不通だった俺に接触してくるくらいだからな』


『フン。消えたのはお前様の方であろう。本来ならば思いつく限りの罵詈雑言を投げつけたいところじゃ。この件さえなければお前様を高みの見物するつもりだったのじゃがの』


 音には出ない俺と〈かぐや〉の会話をよそに、トラとナーガも会話を続ける。


「『ワールドマスター』での“爆発”が現実の世界に影響を及ぼすなんて……そんなこと有り得るのかに……? だってゲームだよねん、これ?」


「『ワールドマスター』と〈黒ウサギ〉が直結しているのは確かだけれど、防護機能は存在していたはずだわ。……詳しくは分からないのだけれど……何にしても、〈白ウサギ〉の言っていることが本当ならサイバーテロ、ということになるわね。《リベレイター》は『ワールドマスター』開始初日から動いていたのだわ。ニュースでは何も報道されていないようだけれど……いえ、報道できないのかしら……。もしかしたら、事態は私たちが思っているよりも遥かに深刻なのかも知れないわ」


 俺はふぅと深くため息を吐いて神妙な面持ちになる。


『……で、何があった?』


『南東地区にある儂の館まで一人で来てくれるかの。そこですべて話すのじゃ。今の『ワールドマスター』の状況、そして――日本の状況を』


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