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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR5 『蠢くテロリストプログラム』
57/109

プロローグ

【二一五三年/機月一六日/光の日/一四○二時/始まりの世界/ジョルトー城下町】


 繁栄国家ジョルトー。それはそれは広大な面積を有する大国だ。

 他国と違って永世中立をうたっている平和な国――それがジョルトーという国だ。

 その首都であるジョルトー城下町もまた見て回るのに三日もかかってしまうほど広すぎる都市だった。探索した結果を簡潔にまとめると、他国よりも生産設備が充実しているのが特徴らしく、プレイヤーだけでなく情報生命体たちにとっても重要拠点となっていた。

 町の情報生命体が言うにはこの世界にはジョルトー以外にも五つの国があって戦争をしているらしい。そういえばフェレアさんもずっと前にそんなことを言ってたような……。

 ちなみに、その町人が『お前たちじゃ他の国には辿り着けないなぁ』とか言うもんだから、俺はバックドロップキックを叩き込もうとした。ミライとミヤに羽交い絞めにされて止められてしまったが。今度、ソロの時にこっそり闇討ちしようと画策している。

 ジョルトーの領地は高い防壁で区切られた扇状の街並みになっていた。

 西洋中世時代の街並みを想像してもらえばそれはもうジョルトー城下町だ。石畳の街路もそうだが、レンガ作りの家や、入り組んだ細道、街路沿いの水路、アーチ状の橋はいかにも西洋ファンタジーに登場する街だ。

 極めつけは扇状の最奥――山にめり込むようにして鎮座するジョルトー城だろう。

 実に壁内の六分の一を占める巨大な城だ。なんでも城内にはジョルトー国の最高権威者である王女様が住んでいるらしい。せっかくなので謁見してみようと俺たちは城の門前まで行ってみたが、取りつく島もなく門兵に追い返されてしまった。

 なので俺は門兵をジャーマンスープレックスしようとした。だがミライとミヤに羽交い絞めにされて止められた。今度、ソロの時に忍び寄って膝かっくんしてみようと画策している。

 残りの六分の五が城下町となる。

 城下町には十字に引かれた大通りが存在し、商店が立ち並んでいた。

 お金やアイテムを預けることができる銀行、クエストが受けられる斡旋所、道具屋、武器屋、防具屋、装飾品屋、修理屋はもちろんのこと、雑貨屋、果物屋、肉屋、魚屋、雑貨屋、家具屋まで、ありとあらゆる商店が大通りを所狭しと立ち並んでいる。現段階ではどう使うか分からない施設もいくつか存在したが、それも追々分かってくるんだろう。

 大通りから離れると情報生命体やプレイヤーの居住区になっている。

 一ヶ月半以上も経過するとちらほらと家を所持している金持ちプレイヤーも現われていた。それでも人類に宛がわれた地区はまだまだゴーストタウンのようだ。もう家が建っているところも、大人数の巨大セルズに所属していてみんなでお金を出し合って共有したりしているのかもしれない。それはそれで楽しそうだった。

 そんな人類住宅街とは対称的に、大通りは買い物をして回るプレイヤーも多く、いつ来てもがやがやと雑踏と喧騒に包まれている。毎日がお祭りのようで真っ直ぐ進むのも困難なほどだ。

 そして最もプレイヤーの声が飛び交っているのは城下町の中心地――大通りが交差する位置――にある噴水広場だった。

 噴水の周りにはベンチが置かれていて、大きな公園になっている。

 直径三〇メートルはあるだろうという巨大な噴水の中央には時計台が高くそびえ立っていた。時計台といっても本当に時計がついているわけではなく、代わりに大きな金色の鐘がついている。

 その鐘は日の入り、正午、日の出と一日に三度鳴り、朝、昼、夜を告げてくれる。

 夜になると出現するモンスターが変わったり、凶暴化するモンスターもいるので夜の鐘が鳴ると、城下町の関所は戻ってくるプレイヤーでごった返したりもする。

 現在の時刻は一四時ちょうど。現実の世界では日曜日ということもあって、城下町の大通りは平日よりもプレイヤーで溢れていてとても通れたもんじゃない。迂回して裏道を使ったほうが断然早く目的地へ到着できるだろうなぁ。

 しかも今日の夜には人類武闘会決勝戦――偽“魔王”の〈ジャスティス〉と“ソロ”という【二つ名持ち】プレイヤーの対決がある。城下町にこれだけ人が溢れているのも納得だった。

 人類武闘会決勝戦。それはつまり現時点での『ワールドマスター』内最強が決定することを意味していた。『ワールドマスター』内最強はCSNゲーム界最強と同意義だ。

 と、言っても一回目の大会ということもあって多くの有名【二つ名持ち】プレイヤーが不参加だったりするんだけど……。まあ、何にしても優勝者の名前がCSNゲーム界に大きく轟くのは違いない。もし“魔王”が優勝すればそれは劇的な復活をアピールできることだろう。

 CSNゲーム界に“魔王”あり、とばかりに。

 なのでこの戦いを観たいプレイヤーは吐いて捨てるほど多いのだ。

 もちろん、それは俺とて変わらない。〈エクスカリバー〉が“ソロ”のことを俺の知り合いみたいに言ってたのも気になるし、早い目に闘技場へ行くつもりだった。


「がっはっは、こりゃすげぇ! 【煌びやかな水晶】一〇個、確かに受け取ったぜ! がっはっは、お前たちならやれると思ったぜ! 俺の眼に狂いはなかったな、がっはっは!」

 白髪が混じった初老の男性斡旋員――ラガールはミライが受け渡した黄色の光を放っている水晶を持ち上げて大げさに驚いてみせた。なかなか豪快な人のようで大口を開けて笑う様は盗賊の親分のようにみえてしまう。

 今日も今日とてクエストを終えた俺たちは早速、斡旋所で報告をしていた。

 ラガールは後ろの棚から幅三〇センチもありそうな大きめな箱を取りだすと重そうにカウンターへ置く。ドンッ、と重量感のある音にカウンターに置かれてあった羽ペンが跳ねあがった。どうやら相当な重みがあるらしい。


「こいつは依頼人からの報酬だ! 浮かれて散財すんじゃねーぞ!」


 ミライが箱を開けると、ジョルトー国内の通貨――ジィル硬貨がざっくりと入っていた。

 おおーっ、と俺たちはミライの後ろから銀色に輝く箱の中を覗き見て歓声をあげる。

 おそらく三万ジィルはあるだろう。クエストでしか手に入らないような特別アイテム報酬じゃないが、これだけの金額が貰えるならかなりおいしいクエストだ。

 クエスト斡旋所から出る時にミライがラガールに手を振っていた。それに気づいたラガールはニッと笑って「またよろしくな!」と彼女に手を振り返す。人懐っこいせいか、分け隔てがないせいか、ミライは情報生命体にやたらと好かれるふしがある。

 情報生命体――『ワールドマスター』内で生活している人工知能を宿したキャラクターデータたちだ。しかし彼らはただのデータ、プログラムじゃない。ここに住む彼らは自分で考え、プレイヤーと話し、自分で決めて行動している。

 そう、彼らは『ワールドマスター』という世界で生きているのだ。

 プレイヤーがゲームだし、と踏ん切りがつく事柄でも彼らにとっては違う。

 彼らにしてみればこっちが現実、俺たちが生きている世界は向こう側。

 まあ……ミライの場合は情報生命体だけじゃないか。やはりその明るい性格は男女関係なくクラスメイトたちにも人気がある。俺の知らぬ間にどんどんミライの交友関係は広まっており、一緒に学校の廊下を歩いていると俺も見知らぬ他クラスの子がミライに声をかけたりすることがあるのだ。

 本当に『ワールドマスター』は異世界のようなものだった。

 俺たちが最初に与えられていた職業『異世界冒険者』という言葉はきっと〈黒ウサギ〉たんがそういう意図を含ませたものだったのだろう。まるで人類と人工知能――情報生命体の交流の場、それが『ワールドマスター』というゲームのようにも感じた。

 閑話休題。とにかく情報生命がこの世界で生活している故に、需要と供給のバランスがしっかりと存在する。そのため、おいしいクエストを見つけたとしても、いつでも何度も受けられるわけじゃない。その時に情報生命体たちに需要があればクエストは発生するし、需要過多であればクエストは発生しない。

 人類にとってこのシステムはとても衝撃的だった。

『ワールドマスター』初日、巨大掲示板『電脳ちゃんねる』では異世界だ、異世界だと大騒ぎだった。衝撃を受けたのは他聞に漏れず俺もそうだ。母親が『おい。味噌汁とかいう日本料理を作れるようになったぞ、ふふん』と自慢げに告げてきた時と同じくらいの衝撃だった。

 くそっ嫌な思い出が蘇ってしまった。なんで味噌汁にトカゲがぷかぷか浮いてたんだよ。あいつは日本をなんだと思っているんだ……。

 ジィル硬貨が詰まった大きな箱を抱え、城下町の南東地区にある自宅へと戻ってきた俺たちは一息をいれるために装備を外してアイテムボックスに収納していく。


「うぅーっ! 今日もスキルが上がった上がった~っ。ふぃー、疲れた~~」


 ソファの上で両腕を大きく上にあげて伸びをするミヤちん。その胸を突きだすような仕草に俺はじっと谷間を見つめてから装備を収納する作業に戻る。

 ベッドの方ではふかふかの布団に腰かけたナーガが片足をあげてブーツを脱いでいるところだった。黒く短いスカートから覗く紫色の布地がちらちらと見える。


「みなさん、紅茶が入りましたよ」


 カップをトレーの上に乗せたフェレアさんがキッチンから顔をだした。フェレアさんはみんなにカップを配っていく。


「もう、セイギさん。いつまでそんな物騒な格好をしているんですか。早く着替えちゃってください」


「ああ、すいません。なんていうか……この部屋には俺の邪魔をするものが多くてですね」


「あらあら。……それは何のことかしらね」


 くすり、とナーガが妖艶に笑った。

 わざとだったの!? 誘ってるの!?


「そういえばフェレアさん、お姉さんにはもう会ったの?」


 紅茶に口をつけてほっと一息ついたミヤがフェレアさんに問いかけた。


「あ、いえ、まだ……」とフェレアさんは苦笑いする。


 その言葉にシャワーを浴びていたらしいミライが脱衣所の扉を開け放った。


「ええ!? まだ会ってなかったの!? もう城下町にきて二週間も経ってるのに!」


 バスタオル一枚のその姿にトラがぶふぅうと紅茶を吹き出す。


「ミ、ミライっち……。男もいるんだからちゃんと服着てからでてきてよん……」


 うーむ、ミライのやつ、相変わらず良い体してるなぁ。出るところは出て、腰はきゅっと引き締まって……。バスタオルの上からすっと細い体のシルエットが見て取れた。


「お姉様に会うには、少し勇気がいるといいますか……タイミングがですね……」


 彼女は苦笑しながらトレーをテーブルに置き、ミヤと向かいあうようにソファに座った。


「だ、だめだよっ! ちゃんと会わなきゃっ! 三年も会ってないんでしょ!?」


 ミライはずんずんとフェレアさんの元まで歩いてばんっとテーブルに手の平を置いた。ミライが身を折ったことでおおぉ、Cカップの胸の谷間がっ! み、見えるっ……!

 たしか視界をそのまま写真として収める機能が『ワールドマスター』にはあったはず!


「ト、トラ! スクリーンショットってどうやって撮るんだっけ!?」


「セイギくん、それ聞いてどうするつもりなのさー。いや何したいのか分かるけどさー」


 そんな俺とトラをよそにミライたちの会話は続く。


「そう、なんですが……。ダメですね、私は……いざとなるとどうにも足踏みしちゃって」


 顔を伏せてしまったフェレアさんにミライは良い事を思いついたと言わんばかりの表情になって『むふぅ』と鼻を鳴らす。そしていつものように大きく右拳を突き上げた。


「よぉーし、今からみんなでフェレアさんのお姉さんに会いにいこー!」


「いいわねっ! 行こう、行こう! 私もどんな人なのか気になってたのよね~!」


 お疲れモードだったはずのミヤもソファからぴょんっと立ち上がった。


「そうですね。みなさん、ついてきて頂けますか」


 俺たちを見回してフェレアさんはにっこりと微笑んだ。


「私のお姉様を――ご紹介します」


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