第五話 『ハッピー死だよ!』
第一回人類武闘会――ジョルトー国女王が主催する己の肉体と武器を駆使して武の優劣を競う大会だ。
人類であれば誰でも参加でき、形式は一対一のトーナメント戦になっている。
優勝者には賞金五〇〇万ジィルと、ジョルトーの女王様から素敵な賞品が贈られるのだとか。
「――以上が人類武闘会の概要です。何かご質問はありますか?」
説明を終えた闘技場ロビーの受付嬢がにこやかに俺たちへ問いかけた。
「……なるほど。たしかに『最大の名を売るチャンス』ね。『ワールドマスター』が開始されて一ヵ月半、まだまだ短い期間だけれど現状誰が一番強いのかがこの大会で分かるわね」
「勝ち上がっていけば嫌でも名前が売れるし、セルズの宣伝にもなるわよね! 良い大会じゃない、これ! 参加しましょうよ!」
うわ、ミヤが乗り気だ。
嫌だ。絶対嫌だ。そんな面倒な大会、絶対に参加したくない。
そもそもそんなにうまくいく訳がないし。
ミヤのやつ、この『ワールドマスター』というCSNゲームには有名セルズ、有名プレイヤーがすべて集っているというの忘れてるんじゃないのか?
要求されるプレイヤースキルが激高になっている大会なのは目に見えている。
真の武勇によって付けられた【二つ名持ち】との戦いは本当に疲れる。
体力面よりも精神面がだ。
ミヤはまだ【二つ名持ち】たちの怖さを知らないからなぁ……。
「あのっ、どうすればこの大会に参加できるんですかっ!?」
「えっ。あ、えーっと……大会参加者の応募期間はすでに終了していますよ?」
「「えええぇぇえ!?」」
「おっしゃああぁあ!」
不満そうに声をあげるミライとミヤ、の後ろでガッツポーズする俺。
ミライとミヤがジト目で俺へと振り返った。
……しまった。つい本心が。
「もうっ、まぁくん! どうして喜んでるのっ! せっかく名を売るチャンスなのに!」
「なんとか途中参加できませんか!? 私たち今日この町にきたから大会のことは何も知らなかったんです! そこを考慮した上で、なんとかっお願いします!」
ミヤが必死に受付嬢に参加の意志を訴える。
それに受付嬢は困った顔をした。
「も、申し訳ありません。途中参加は認められておりません。一週間以上も前から予選は始まっていましたし、今行われている試合は予選通過者が出揃った後の本選ですから……」
「そ、そんな~~っ!」とがっくし肩を落とすミヤちん。
へぇ、予選があったのか……。うんうん、こりゃ予選も参加してないのにいきなり本選で途中参加したら他の参加者からブーイングの嵐になっちゃうよな。仕方ない仕方ない。
俺は意気消沈してしまったミヤの肩に優しく手を置いた。
「残念だったな、ミヤ。俺も参加したかったけど、今回は諦めよう」
「満面の笑みのクセにどの口がほざいてんのよっ!」
どうやら正直者の俺は思っていることがすぐ顔に出てしまうらしい。
「こうなったら直談判だよっ! 主催してるジョルトーの女王様に直談判だよっ!」
まだ不満そうにぶーぶー受付のお姉ちゃんを困らせる二人にナーガが動いた。
「第一回ということは次回があるということだわ。セイギくんの言うとおり今回は素直に諦めて次回参加のために英気を養いましょう。それに本選へ進んだ人たちの戦いを……手の内を観ておくのも良い勉強になるはずよ」
我侭な二人もナーガの言う事はよく聞く。ミヤは諦めたようにため息をついた。
「それもそうね。あの、今日これからの試合って誰が戦うんですか?」
問われ、ほっと胸を撫で下ろしていた受付嬢は眼下のリストを手に取る。
「次は本日十試合目ですね。闘うのは〈ヤマカガシ〉選手と〈エクスカリバー〉選手です」
「エ、〈エクスカリバー〉!? って“聖剣”の〈エクスカリバー〉さんよね!?」
ほへぇ~、あいつ、この試合に出場してたのか……。っていいのか? 鶏同士を戦わせる闘鶏に狼が一匹だけ混ざってるようなもんだと思うんだけど……。
「い、行こうよっ! 早く席をとらなきゃ! CSNゲームで一番強い人の戦いなんてめったに見られないよ!」
ミライが俺の手を引っ張って観客席への階段を駆け上がった。
会場内は溢れかえる熱気と耳が痛くなるような歓声に包まれていた。
中央には正方形の舞台、その周りを円状に段々になった客席が幾段も連なっていた。白く良い石を使っているらしく触れるとひんやりと気持ちいい。何段にもなって斜め上へと伸びて行く観客席はかなり上の席からでも試合を観戦できるよう配慮されているらしい。
「まさにコロッセウムだわ」とナーガは誰に言うでもなく呟く。
『続きまして〈ヤマカガシ〉選手VS〈エクスカリバー〉選手! 本選第五七試合目を行います!』
「「「ウォオォォオオオォォオォォォォッ!」」」
拡声器から聞こえたアナウンスに会場中から待ってましたとばかりに拍手が鳴り響いた。
俺たちも下の観客席と上の観客席の間にある通路で立ち見しながら手を叩く。
『ルールはもう覚えていますね!? アイテム全般の使用もOK! 武器、防具、魔導、己の肉体、そして頭脳で武を競ってください! 舞台の外に落ちれば場外とみなせれ失格になりますので、気をつけて戦ってくださいねっ! さぁ! それでは両選手の入場でぇーっす!』
空を彩るスモーク花火とラッパの勇ましい音色、ゆっくりと両側に設置された鉄扉が上へと持ち上がっていく。
俺から見て右側――獅子が描かれた鉄扉から〈ヤマカガシ〉が気合十分といった表情で舞台へと歩く。
反対方向、龍が描かれた鉄扉から登場した〈エクスカリバー〉はしっかりとした足取りで舞台上へと進んでくる。
『獅子門から姿を見せました〈ヤマカガシ〉選手は《バジリスク》というサイバーセルズのリーダーをされています! コメントを読み上げましょう! 『安らかな死をあの人に! 明るく楽しい暗殺を目指す暗殺一家の《バジリスク》をよろしく!』とありますね~! 明るく楽しい暗殺ってなんだぁあ!? 本当に殺る気あるのかぁ!?』
実況も兼任しているらしくアナウンスと同じ声の人がご丁寧にツッコミを入れていた。〈ヤマカガシ〉の『宣伝乙!』と叫びたくなるコメントには会場も失笑している。
「リーダー頑張れぇ! 〈エクスカリバー〉なんか倒しちまえーっ!」
「「「〈ヤマカガシ〉! 〈ヤマカガシ〉! 〈ヤマカガシ〉!」」」
俺たちが立っていた前の観客席にいる一団が声をあげた。おそらく〈ヤマカガシ〉がリーダーをしている《バジリスク》のメンバーなのだろう。
誰にでも気兼ねなく話しかけちゃうミライが、そのうちの一人に声をかけた。
「ねぇねぇっ! もしかして《バジリスク》の人たちなの?」
「うん、そうだよ! 明るく楽しい暗殺、目指してます!」
ミライが声をかけた《バジリスク》の少女は明るい声でクナイを指で回した。
「かっくぃ~~! 暗殺なのに明るくて楽しいってゲシュタルト崩壊だよねっ! きっと暗殺された人の死因はハッピー死だね! ハッピー死だよ!」
「あははは! キミ、面白いね! あ、これ名刺ね! 暗殺以外にも偵察や潜入もやってるから! いつでもコールしてよ!」
なんだか意気投合してるミライは放っておこう。会話に混ざりたくない。ってかゲシュタルト崩壊の意味をどう捉えてるの、ミライさん。使い方間違ってますから。
『対するは龍門から登場の〈エクスカリバー〉選手! この人については多くを語る必要もないでしょう! 現在、最強と云われるプレイヤーといえばこの人っ! その二つ名は“聖剣”っ! 今日もその“聖剣”は冴え渡るのかぁ!? では〈エクスカリバー〉選手のコメントを読み上げましょう! 『さっさと俺の大剣返せ』……。またしてもいつもと同じコメントだああ! 〈エクスカリバー〉選手、これは一体、誰に対するコメントなのかぁああ!?』
「ぶふぅうぅう!!」
思わず俺は吹き出してしまった。
……そ、そういえばチュートリアルドラゴンと戦った時に大剣預かったんだっけ……。
ごめんな、〈エクスカリバー〉……あの大剣、チュートリアルドラゴンの眼に刺さったままだから……。もう取り返すの不可能だから。
舞台の上に〈ヤマカガシ〉と〈エクスカリバー〉が立つ。
『両選手、準備はいいかな!? それじゃあいってみよー! 人類の頂点目指してぇ!?』
「「「ファーイトッ!!」」」
会場全体からその言葉が舞台へ投げられた。
どうやらそれが試合開始の合図らしい。
ええぇえっ!? な、なになに、なんなのこの会場の一体感!?
みんな頭がハッピーなの!? ハッピー死するの!?




