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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR4 『偽りのディカイオシュネプログラム』
48/109

第四話 『このナイフを持ってからカリカリくんでハズレが出たことがありません』

「みなさん、紅茶が入りましたよ。夜までまだ時間はありますし小休止しませんか」


 心のっオアシスゥッ、いや女神っ!

 フェレアさんが淹れた女神紅茶を有難く頂きながら俺は窓から城下町の通りを眺める。

 そこにはたくさんのプレイヤーが往来していた。

『ワールドマスター』が開始されてもう四二日、か……。

 すでに攻略サイトやブログといった類はうん百万の数を超え、日々、多種多様な情報交換がなされている。

 新種のモンスター、スキル、技、魔法、魔術、アイテムなどといった情報の種類はもはや一人の人間が把握できる数を超えていた。現実に動物博士で宇宙博士で、しかも神話にも精通したメカニック技師免許を持つサッカー選手の漫画家なんて超人がいないのと同じように、すべての事柄に精通したプレイヤーなど存在しない。

『ワールドマスター』のプレイヤーたちはもはや自分に必要な情報――使用する分野の知識のみを選別して記憶する他なかった。

 そんな数ある情報の中で最も有益とされるのがクエストの情報だった。

 クエストは大別して三種類が存在する。

【ノーマルクエスト】、クエスト斡旋所や情報生命体から依頼を受けるタイプのクエスト。

【ストーリークエスト】、『ワールドマスター』の歴史に関係性があるクエスト。

【突発クエスト】、何らかの条件を満たした瞬間に発生するクエスト。

 あー、違った。四種類だ。一番大事なものが抜けている。

【メインクエスト】と呼ばれるものだ。

『ワールドマスター』で一つしか存在していない【メインクエスト】、これをクリアすることは『ワールドマスター』を攻略したってことだ。賞金一〇〇億円という眼が飛びでる報酬が得られる。中には死に物狂いでこの【メインクエスト】の情報を探しているプレイヤーたちもいる。

 話を元に戻そう。

 普通のクエストの報酬は多岐に渡っていた。アイテムやお金であったり、特殊な装備や通常行動では手に入らない隠されたスキル、技、魔法であったり、ステータス値にプラス補正がかかる称号が手に入ったり、ペットが手に入ったり……兎にも角にも、そのクエストでしか手に入らないものもあるため、おいしいクエストの情報が高値で取引されたりするわけだ。

 もし誰にも知られていないクエストを発見したとして、その報酬が隠しスキルや特殊な装備であった場合、諸君らならどうするだろうか。まあ独り占めしたいと思うのは人間の性というものだろう。なぜならそれは強烈なイニシアチブになるのだから。

 それでなくても一〇〇億円という賞金がかかっている。

 誰よりも早い攻略を目指しているのなら、隠しておく方が得策……っていうか、むしろ真っ当な考えといえる。

 そのせいもあってか、いくら攻略サイトがあるとはいえ、それらに記載されているのは普通にプレイしていれば受けることになるクエストばっかりだったりする。

 結論。プレイヤーはみんなライバルってことだ。積極的に有益な情報を無料で流す理由なんか無いってことだろう。そんなわけで『ワールドマスター』の進め方は、仲間内で手に入れた情報を共有しながら攻略していくのが基本となっていた。

 さて、この一ヶ月近くでプレイヤーたちが新たに発見したこと、理解したことは多くあるが、最初から見えているのに未だに理解の及んでいないものがあった。

 ステータス【CHA】である。

 これに関する情報は売買チャンネルを見れば他の取引と値段の桁がまるで違っていた。どんなアイテムよりも、どんな情報よりも高い値がついているのだ。

 理由は至極簡単。未だに誰一人として『1』以上に到達できたプレイヤーがいないのだ。

 つまり一ヶ月半経過しても、まだ誰もが【CHA】は『0』なのだ。

 俺は黙ってるだけで『1』になっているプレイヤーなんて実はケッコーいるんじゃないか、と疑ったりするが、永森郁巳……ナーガの意見は違う。

 彼女は『誰も知らないから取引額が天井知らずに値上がっているのよ』と言っていた。

 ……まあ、確かにいづれは知れ渡ることだ。現在の取引額なら後生大事に隠しているより情報を売り払って荒稼ぎした方がメリットは大きいだろう。だというのに取引が成立した履歴が無いということはやっぱりナーガの言うとおり誰も知らないってことなのかなぁ。

 何にせよ、この【CHA】というステータスがプレイヤーにどういう影響を与えるのか、どうすれば上がるのか、何のために存在するステータスなのか、その一切は不明のままだった。

 現在、『ワールドマスター』プレイヤーが抱えている最大の謎と言っていいだろう。


「ねえねえっ! 早く城下町を見て回ろうよっ! わたし待ちきれないよっ!」


 ミライの明るい声が俺を思考から引き戻した。


「うーん、城下町は広いので一日や二日では全部を回りきれないと思いますよ」


 フェレアさんは困ったような表情でミライにそう告げる。


「そ、そんなに広いのっ!? やっぱり私パス。ここで休憩してるわよ……」


「ダメッ! ミヤちゃんも行くのっ! ほら、みんなっ! 出発、出発~~!」


 元気すぎるミライに背中を押されて俺たちは宿屋を出るのだった。

 それから俺たちはフェレアさんの案内で城下町のあちこちを時間をかけて練り歩いた。

 フェレアさんは三年前までここに住んでいたので地元の人しか知らないような抜け道や近道にも詳しかった。何でも城下町一帯が子供の頃からの遊び場だったらしい。

 プレイヤーが開いている露店を覗くと、見たこともない武器もかなりあった。

 きっと俺たちが受けたことのないクエストの報酬品だったり、プレイヤーが生産系スキルを駆使して造りだしたものだったりするのだろう。俺たちはまともな店から怪しい店まで数々の店舗や露天を見て回って新しい装備や、必要なアイテムを買い揃えていった。

 人通りの少ない道でプレイヤーが開いている露店を見て回っている時だった。


「まぁくん、まぁくん!」


 呼ばれ振り返るとミライが何かを企んでいるような笑みを浮かべていた。

 両手を後ろにしているところを見るに何かを背中に隠しているらしい。


「はい、これ! まぁくんにプレゼント!」


 言って彼女が渡してきたのは武器にしてはあまりに小さなナイフだった。握りの部分に崩れ繋がった文字らしきものが彫られている。

 ほほぉ、なかなか洒落たナイフじゃないか。これでモンスターと戦う勇気はさすがに出ないが、懐に忍ばせていればもしもの事態に使えそうだった。


「そこの露店商さんが言ってたんだけど、何でもそのナイフは『肌身離さず持っていると幸運を呼ぶ』んだって! 凄くない!? 凄いよねっ! そのナイフを持ってから幸運に恵まれた体験者のお話も聞かせてくれたよ! 『このナイフを持ってからカリカリくんでハズレが出たことがありません』とか『このナイフを持ってから持病の腰痛が治りました』とかっ! ねぇ~~、凄いよねぇ~~っ!」


 胡散臭さが限界を超えて大気圏を突破するレベルだった。

 眼を輝かせて興奮しているミライには悪いんだけど……絶対騙されてるよ、ミライさん! ほんとキミの将来が不安だよ、ボクぁ!

 このナイフをミライに売りつけた悪徳露店商の方を見てみる。その露店商は眼深のフードを被って顔が見えないようにしていた。名前は不表示設定にしているらしくポップアップしてこない。

 俺の視線に感づいたのか、薄い紫に彩られた唇が『ニィ』と邪悪に裂けた。

 …………あからさまに怪しい。これ以上ないくらい怪しい露店商だった。むしろ『怪しいです!』とこちらに訴えかけてきてるんじゃないかと思えるくらいだ。幸運も裸足で逃げ出してしまいそうなどんよりとした雰囲気に俺もさすがにたじたじになる。

 だがミライは変わらず笑顔で俺にナイフを差し出していた。


「いや、その、なんていうか……ミライさん」


「うん?」


「あれだよ、ほら、プレゼントされる理由がないといいましょうか」


「えぇー、あるよ!」


「だってまぁくん、いつも皆のこと見守ってくれてるじゃない! 後ろで戦闘サボってるフリして周囲に気を配ってたりするじゃない! 皆が敵に集中して戦えてるのはまぁくんが常に周りを警戒してくれてるからだよ! だから、いつも頑張ってるまぁくんにお礼だよ!」


 俺は思わずぽかーんと口を開けたまま二の句が継げなくなってしまった。

 これだ。だから俺は未だに明日野未来という女の子の判断がつかないんだ。ただの馬鹿なのかと思えば聡いこともある。だてに超人的な頭脳を持ってるわけじゃないってことなのかなー。

 ミライの感謝に俺はちょっと照れ臭くなり頬をぽりぽりと掻く。そしてコホンと咳払いをした。


「まあ、そこまで言うなら俺がもらってやろう。代わりに俺もお前に何か買って――」


「わ~! 見て見て! ヒツジさんのぬいぐるみ! 部屋に飾ろうよっ!」


 もうすでに俺の前からミライはいなくなっていた。……なんでやねん、話聞けや。


「ちょ、ちょっとミライ! 無駄なお金を使ってる余裕なんてないわよっ!」


 雑貨屋の前で立ち止まったミライの首根っこをミヤが掴む。だがミライは胸に抱えたヒツジさんのぬいぐるみを離そうとせずイヤイヤをするように首を振っていた。傍から見ていると子供と母親のようで笑える。


「コホン! まったく仕方がないなぁ! ここはこの俺様が――」


「……仕方がないわね。……これを頂けるかしら」


 俺が言い終える前に雑貨屋の店主にナーガが財布を取りだして話しかけていた。……なんでやねん。


「ちょっとナーガっ! あんまりミライを甘やかしちゃダメだってば!」


「いいでしょう、別に。ヌイグルミを買うぐらいの余裕はあるわ」


「あ、ちょっと待って! これナーガちゃんに似合いそー! ほらっ!」


「おぉっ! 似合う、似合う! ヌイグルミ買うよりこっちにするべきよ!」


「そうかしら。私のイメージからは離れているように思うのだけれど」


 女三人よればかしましいとはよく言ったもんだ。雑貨屋の前で三人はあーでもないこーでもないと次から次に装飾品を手にとって買い物を楽しんでいた。


「にひひ、なんかいいねぇ、こういう時間。ほっとするよん」


「ええ、本当に。……姉妹、のようですね。見ていて微笑ましいです」


 と、その時、風に乗って『ワァアアァアァアァッ!』という大きな歓声が聞こえてきた。


「……何だろうに?」


「……あっちは……闘技場、ですね」


「そういえばソーマが何か言ってたな。闘技場でイベントでもやってるんだろ」


 俺の声に耳ざとくミライが反応した。


「イベント!? 行ってみようよ!」


 俺たちの返事も聞かずにミライはミヤとナーガの手を引いて駆けだしていく。俺たちは顔を見合わせ苦笑すると、ゆっくり彼女らの後を追って闘技場へと向かった。

 闘技場に近づくにつれて歓声が大きくなっていく。それに急かされるように俺たちはドームの球戯場のように大きな建物――闘技場の前まできていた。

 円に造られているらしいその建物にどれだけの人数が収容されているのか想像もつかない。

 闘技場の外観はとにかく白く、汗臭い闘技場というよりも神聖な戦いの場というイメージがしっくりきた。

 赤み始めた空に破裂するような音ともにスモーク花火が色を加える。やはり何かイベントをやっているらしい。闘技場の出入り口には大きな弾幕が横に伸びていた。

 その文字を俺たちは眼で追って口を大きく開ける。

 そこに書かれていたのは――


「「「だ、第一回人類武闘会ぃ!?」」」



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