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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR3  『息衝く異世界プログラム』
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第一六話 『無垢なる殺意』

 村の中は炎の熱に溢れていた。

 チリチリと身を焦がすような痛みを感じるが今はそれどころじゃない。

 煙と火の粉で視界が不鮮明な中を俺は走る。


「ミライッ! どこだぁーッ! ミライィッ!!」


 もくもくと広がる煙を手で払って探していると、トラとはち合った。


「セイギくん、そっちは!?」


「ダメだ……! ミライも生きてる人も見つからない……!」


「こっちもだよ……! っ! ……あれ! ……倒れている人が……いる……!」


 トラが地に伏せた人影を見つけ、俺たちはすぐさま駆け寄った。何かと戦ったらしく腹を裂かれた傷からおびただしい量の血が流れ出ていた。その顔を見て俺とトラは眼を見開いた。


「ラーディハルトッ!! おいっ、しっかりしろッ!! ラーディハルトッ!!」


 俺の呼びかけに倒れていた人影――ラーディハルトは薄っすらと眼を開けた。


「……っく、セイギ……トラか……がはっ……!!」


 咳と同時に吐血していた。それがどれだけ重い傷を負ったのかを物語っていた。


「っ……何があった!?」


「あ、あいつらだ……! 笑った、骸骨とっ……円月刀の、紋章っ……!」


 すぐに俺の脳裏にそのエンブレムが浮かび、怒りで俺の眉間に皺が寄る。

《バンデット》ッ!! あいつら、城下町に向かってなかったのかッ……!! この村に戻ってきたっていうのか……ッ!!


「ったくよ……。ガハッハガッ、最期は、ちゃんと名前間違えなかった……な……。なあ、セイギ、トラ……頼みがっ……村のみんなをっ……フェレア様を……! フェレア様を……たの……!!」


 ラーディハルトが伸ばした手をトラが握る。俺たちが応える前に……彼は事切れていた。

 トラは彼の手を強く握ったまま眼を伏せた。


「ラーディハルトオォッ……!! くそぉおっ……!! あいつらぁあああッ!!」


 顔を天に向けたトラは、激昂していた。彼のこんな姿を見るのは二年前以来のことだ。

 その時、ふと俺は顔をあげた。

 ……声が聞こえた。助けを呼ぶ弱々しい声だった。


「どこだぁ!? どこにいるッ!! 返事してくれぇえ!!」


 トラとラーディハルトをおいて小さな声を頼りに煙の中を進むと、燃え盛る瓦礫の下敷きになった裁縫屋のおばちゃんを見つけた。


「おばちゃん……! 待ってろ……今、どかすから……!!」


「……こ、子供たち……を……!」


「分かってる!! だけど今は自分が生き延びることを考えてくれっ……!!」


 俺は筋肉がはち切れんばかりに力を入れ、瓦礫を押し上げる。そしておばちゃんの手を掴んで引っ張り出した。


「よし、すぐに村の外に運――」


 改めておばちゃんに声をかける、が……おばちゃんの反応がない。

 それもそのはずだった。

 おばちゃんはもうすでに……息絶えていた。

 ……ちっくしょぉッ!! っざけんな!!


「…………うそ……おばちゃん……?」


 その時、ミヤの声がした。振り返るとそこにはミヤが口を押さえて立っていた。


「おばちゃん……!! おばちゃんっ!!」


 たしかミヤは裁縫屋のおばちゃんと仲が良かったはずだ。

 夕食をご馳走してもらうほどの仲だと楽しそうに話していたのを俺は覚えていた。そんな人の変わり果てた姿を抱きしめミヤの眼から涙が溢れる。

 俺はミヤの肩に手をやって振り返り、煙の中を進んだ。

 誰かっ……誰か生きている人はいないのかよっ……!! 頼むから……!

 願いを込めるように辺りを見回していると、煙の向こう側で立っている人影が見えた。

 すぐに俺はそちらへと走り、足を止める。

 人影はナーガだった。

 斡旋所の前で彼女は突っ立っていた。

 いや、何かを見ているようだった。

 ナーガの視線を追うと、すでに事切れたガラハドさんの姿がそこにはあった。

《バンデット》と戦ったのだろう、その手には剣が握られていた。

 無残なことに、彼の腹から長い槍が伸びて串刺しにされていた。

 ナーガは静かにしゃがむと、手でガラハドさんの眼を閉じさせる。

 そして、ゆっくりと立ち上がった。


「…………こっちは、ダメだったわ。他を、探して頂戴。……大丈夫。きっと、まだ生きている人が……いるはず、だわ」


 煙の中に姿を消していく彼女の声は震えていた。


「フェレアさーんっ! どこにいるのっ!? フェレアさぁーん!」


 村の奥からミライの声が聞こえてきた。どうやらまだフェレアさんは見つかっていないらしい。


「ミライッ!! 無闇に歩き回るなっ! 建物が脆くなってるぞッ!!」


 俺は声がした方へと走りだす。すぐにミライの姿は見つかり、俺は彼女の腕を掴んだ。


「まぁくん……! フェレアさんがっいないのっ……! フェレアさんがっ……!」


「落ちつけ、ミライ……! まだ全部を見回ったわけじゃないだろ……!」


 その時だった。村の奥から――煙の中を人影が歩いてくる。

 煙から姿を現した人物に俺たちは息を呑んだ。

 フェレアさんだった。

 体のあちこちに怪我を負っているらしく、甲冑が赤い液体でてらついている。

 その頬は灰ですすけていた。見るからに満身創痍の彼女は子供を背負い、ゆっくりと、足を引きづるような遅々とした速度でこちらへ歩いてきていた。

 彼女には脱帽するしかなかった。あんなに傷ついた体で、自分の身を挺して誰かを救おうという志に俺はフェレアさんの生き様を見たように感じられた。


「フェレアさんッ……!」


 フェレアさんは俺たちを見ると、意識が途絶えたようにその場で前のめりに崩れ落ちた。


「っ、フェレアさん! 大丈夫っ!? フェレアさんっ!!」


 俺はフェレアさんの背中から子供を預かる。意識を失ってはいるが子供は息をしていた。

 ミライが彼女を抱き起こした。しかしそのミライの眉が怪訝そうに曲がる。違和感を覚えたのだろうミライが自分の手の平を見た。

 そこにはべったりと赤い血がついていた。

 フェレアさんが傷を負っているのは明らかだったが、その出血量から傷口はかなり深い。

 何か良くない想像でもしたのか、顔面蒼白になって震えだすミライの手をフェレアさんが鮮血で染まった手で掴んだ。


「あっぐ……! お願いっですっ……! 生き残った人の、手当て、をっ――!」


「……うん! 安心して……! わたしたちに任せて……!! 今、みんなで生き残った人を探してるから……!! 必ず助けるから……!!」


 その言葉にフェレアさんは薄く微笑んだ。だが傷口が痛むのだろうすぐに苦悶の表情に変わる。

 それでもフェレアさんは歯を食い縛って、何かを伝えるために力を振り絞って、残った微々たる活力を捻り出して、胸元のネックレスを掴んだ。


「ミライっ……! これをっ……!!」


 フェレアさんが血に濡れたネックレスをミライに強く握り込ませる。


「お願いですっ……! 私の……想いを……引き継いでっ……!」


 まるで彼女の生きた証を託しているかのような様子に、ミライは六枚羽のネックレスからフェレアさんへと視線を戻した。


「……やめてよ……! そんなこと言わないでよ、フェレアさんっ……! 大丈夫だよ、わたしがすぐに助けるから……! わたしの回復魔法で――!」


 すぐにミライが回復魔法をかける。だがフェレアさんはミライの手を止めて首を振った。

 どうやらフェレアさんは自分の状態を悟っているようだった。

 ――見て……いられない。

 俺は自分の表情を隠すために彼女たちに背を向けた。


「戦争をっ――お姉様をっ――止めて――! ミライ……!!」


「……やだよっ……それはフェレアさんがしなきゃっ……! 早く傷を治して、フェレアさんが自分の力で戦争を止めなきゃ……! だからっ……! だから生きてよぉっ!!」


「……ミライ……セイギさん。私は……あなたたちに出会えて……本当に――」


 彼女はその言葉を最期まで言い切ることは……なかった。

 途絶えた言葉に俺はハッとなって振り返る。

 するり、とフェレアさんの手がミライの手から抜け……地面に落ちた。

 力なく、地面に落ちていた。

 うそ……だろ……。なんなんだよ、これ……。悪い冗談に……決まってる……。

 眼前で起きている事を理解したくない。俺の脳がひどく拒否を示していた。


「……フェ、レア……さん? ねえ……フェレアさんってば……」


 ミライが彼女の肩を揺らす。眼からぼろぼろと大粒の涙を流しながら揺らし続ける。


「お願いだから……っ……眼をっ……開けてよ……! フェレアさぁんっ!!」


 それでも彼女は応えない。

 ミライが眼を閉じた彼女に回復魔法をかけ続ける。

 だが俺は緑色に発光するその腕を掴んで止めさせた。

 なぜなら彼女はもうすでに――


「……まぁくん……!」


 俺を見上げるミライの眼からはぼろぼろと涙が溢れだしてきていた。


「どうしてっ……! どうしてこんなことになっちゃうの……! いやだよっ……こんなのっ……! こんなのってないよ……! せっかく友達になれたのにっ……! うわあぁああああぁあぁん――っ!! フェレアさんっ……フェレアさぁんっ……!!」


 止め処なく、ミライの眼から涙が溢れて地面に落ちていく。


『あなたたちッ!! 神聖な場所で何をしているのですッ!』


 脳裏に、フェレアさんと出会った時のことが思い返される。


『し・か・し、この村にいるなら働いてもらわないといけませんね。路銀を貯めておくに越したことはないでしょう?』


 彼女の悪戯っぽく笑った顔が浮かんで消える。


『たるんでいます!! あなたはたるんでいます、セイギさん!! 私があなたの性根ごと鍛えなおしてあげます!! こちらへ来てください!!』


 彼女の真面目一徹な姿が――


『…………あなたたちのような友に出会えたことを、本当に、誇りに思います』


 俺は静かに、彼女の手を胸の前で組ませた。

 頭が熱を帯びたように怒りで支配されているのが自分でも分かった。

 ぐつぐつと腹の底からマグマのように抑えきれない感情が迸っている。

 二年前――あの時に、”あいつ”に抱いた感情に似ている。


 ――ハハッ、アハハハッ!! ”魔王”は”救世主”に裁かれる運命なのですよッ!! あなたのやってきたことは無駄無駄無駄ッ!! ぜんぶ無駄だったのですよッ!!


 そうだ。これはどろどろに濁った怒り――そして無垢なる殺意だ。

 俺はぎゅっと右拳を握り締めて静かに立ち上がった。


「ミライッ、セイギくん!! 手伝って頂戴ッ!! 奥の小屋に生存者がたくさんいるのよ……!」


 俺たちを見つけたナーガがこちらに駆け寄ってくる。


「ナーガちゃんっ……! フェレアさんがっ……フェレアさんがぁあっ!!」


 ナーガは動かなくなった彼女の姿にギリッと奥歯を噛んだ。

 ミライの前に屈んでナーガは彼女の両肩を強く掴む。


「ミライ……! 哀しいのは私も一緒だわ……でも、今は立つのよ……っ! 一刻を争う時なの……っ!」


 しかし、ミライはいやいやをするように首を振った。


「でもっ……フェレアさんをこのまんまにしておくなんて……! できないよっ……!!」


 刹那、ぱしんっと乾いた音が響いた。

 ナーガがミライに平手打ちをしたのだ。


「ミライッ……!! 嘆くのは後からでもできるわ……ッ! まだっ……まだ生きている人たちがいるのよッ……!! あなたがいれば救える命があるのよ……ッ!! 今しかできないことをなさいな……ッ!!」


 そう言ったナーガの唇は震えていた。

 ナーガは正しい。ここで俺たちが動かなければ被害は増える一方、これ以上……村のみんなが死ぬのはごめんだ……!


「うん――うんっ……!!」


 ナーガが走りだし、ミライも目元を拭ってその背中を追っていく。

 俺もそちらへ走りだそうとしたその時――

 ――ピシャーン、と空で雷が鳴り、辺りが白く照らされる。

 その光であるものが地面に照らし出されて俺は動きを止めていた。

 雨でぬかるんだ地面――そこに幾つもの足跡が残っていたのだ。

 ただの足跡だ。

 いつもなら見過ごすだろう変哲も無い足跡。

 再び雷鳴が轟き、その足跡が明るく照らしだされる。


「――っ!!」


 俺は弾かれたように両手をついてその場にしゃがみ込み、眼を細めてこらす。

 複数人……六人? 七人? いや、違うっ……!

 これは――八人分の足跡だ……!

 足跡を視線で追うと入り口へと、村の外へと続いていた。

 ぞわり、と俺の産毛が怒りで蠢き、眼が鋭くすわる。

 この豪雨でぬかるんだ地面じゃなければ残らなかっただろう。

 まるで道標のようにそれは残っていた。

 ……間違いない。


 ――これは《バンデット》たちの足跡だッ……!


 豪雨で消えかけているが、今なら……まだ追える――!

 だが……俺が救助に向かえば助かる命があるんじゃないのか?

 背負っていた子供の弱々しい鼓動が俺の足を動けなくさせた。

 俺はナーガとミライが走っていった方に眼をやり、再び、足跡へと視線を戻す。

 ……時間が無いッ! 足跡が豪雨で消える前に……! 追うなら今しか……! だけど――!


「――行ってきなよ、セイギくん」


 振り返ると、そこにはトラが立っていた。

 背を向けているせいで表情は分からない。

 だがトラの声はひどく落ち着いていた。いや、落ち着いているように装っていた。


「ここで奴らを見逃したらセイギくんの二つ名が泣くよ。……俺の知ってる彼は自分の信念にいつも正直で、誰よりも仲間想いで……自分の信じる正義のために戦っていたはずでしょ。例え誤解されようと、味方を敵に回そうと、誰に罵られようと」

 そんなカッコが良いもんなんかじゃない。

 “魔王”はただただ貪欲な男だ。自分の欲望にただ正直な男というだけだ。

 今、俺が欲しているのは――考えるまでもない。

 ……ありがとな、トラ。

 その言葉は胸の中で告げておく。

 俺は音を殺してすぅっと立ち上がり、背中の子供をトラに預けた。

 そして奴らの足跡を踏んで歩きだす。


「八人、だよ。…………俺も、手伝おうか?」


「手伝うだと? ……誰に言っている? トラッ! 貴様は村の人たちを一人でも多く助けだせッ!!」


 俺は剣をゆっくりと抜く――そして、くるんっと手の甲を返して剣を回転させた。


「八人程度……俺様一人で――充分だッ!!」


「……分かった。……俺の分までっ……! ぶち殺がしてきてよっ……!!」


「あッたりまえだああぁあああぁあぁあああぁ――ッ!!」


 刹那――俺は弾かれたように全速力で豪雨の中を走りだしていた。


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