第一三話 『フォレストサーペントの弱点』
「ミ、ミライ! 本気なのですか!? フォレストサーペントの怖さを忘れたわけではないはずです!
あれは正真正銘の化け物なんですよっ!?」
「にひひ、ボス戦だぁね。新装備の慣らしにちょうどいいんじゃないかにー」
「トラさんまで何を言いだすんです! 考え直してください! ナーガ、ミヤ、あなたたちからも――!」
「恩を返すぐらいの義理はあなたたちに貰ったつもりよ」とナーガ。
「ここでやらなきゃ人間が恩の無いやつらだと思われちゃうわ」とミヤ。
フェレアさんはそんな二人から俺へと視線をやった。
「セイギさんっ! あなたもこの子たちを止めてください!」
「安心してくれ。ヤバくなったら逃げるさ」
俺はぽんぽんとフェレアさんの頭に手をおく。
「~~~~っ!」
フェレアさんは無言で怒っていた。
「……それに策も無しに戦うわけじゃない。……だよな、ナーガ」
「…………ええ、準備はいるのだけれど。……私の推測が正しければ、狩れるわ」
何を言っても無駄だと分かったのか、やがてフェレアさんは肩を落とした。
それからすぐに俺たちは準備を始めた。と言っても今日の朝、村を発つ予定だったからそれほど時間もかからない。俺たちが武器や所持アイテムのチェックを終え、村の出入り口で集合しているとフェレアさんや村のみんながやってきた。
「本当に倒す気、なんですね……」
「まあ、俺たちは最悪死んでもやり直しが利くからね」
「…………あなたたちのような友に出会えたことを、本当に、誇りに思います」
「くれぐれも無茶だけはすんなよ!」
「おねーちゃん! フォレストサーペントなんか倒しちゃって!」
「任せたぞ、人間の友よ!」
「うん、いってくるよ!」
村人たちの声援を受け俺たちは森の中へと進んでいった。
【二一五三年/地月四日/闇の日/一〇五七時/はじまりの世界/クノッソの村近辺】
森の中は奥に行けば行くほど木々の葉が生い茂り、暗がりを作りだしていた。
ナーガがガラハドさんから掴んでいた情報だとフォレストサーペントの住処は奥の洞窟らしい。何でも村の木こりが雷雨から避難した時に、洞窟の中に入っていく大蛇を見てしてしまったのだとか……。
俺たちは森の中を慎重に進みながら大蛇の住処を目指していた。
「それで……どんな策を思いついたの? あるんでしょ? 倒す方法が」
「そうね。策はならあるわ。……フォレストサーペントには弱点があるのよ」
「フォレストサーペントの弱点って……チュートリアルドラゴンの時みたいに眼を攻撃とか、そういうこと?」
「そういう意味での弱点じゃないわね。フォレストサーペントには嫌いなものがあるという意味でだわ。私たちが初めてこの世界に漂着したあの夜……。逃げる私たちをフォレストサーペントは追うのを途中で止めたのを覚えているかしら」
「にひひ、そういえばそうだったよねん。なんでいきなり止めたんだろうね?」
「おそらく……火よ。……ミライが落とした松明のね」
「へ? わたし?」とミライが自分を指差した。
「それってもしかして……フォレストサーペントは火が怖いってこと?」
「ええ。それなら今朝の牧場の違和感も説明がつくのよ」
「……違和感って? 何か変なところあった?」
眉を曲げるミヤちんに俺が答えを教えてあげる。
「……獣避けのかがり火さ。フォレストサーペントはかがり火を避けて牧場を荒らした形跡があったんだ。羊や牛に生き残ったのがいるのも、かがり火の近くにいたから手をだせなかったんじゃないか?」
火事にならなかったのは不幸中の幸い、と村人が言っていた。だがこの表現は少し的を外している。フォレストサーペントも火事になるのは避けたかったんだ。火事にならなかった、ではなく、火事にしなかった。火が燃え移るのを嫌い、かがり火を避けたんだ。
「……にひひ、なるほどねん。フォレストサーペントが火を怖がってるかもしれないっていう理由は分かったよん。でも、それを利用してどう戦うつもりなのかに?」
「奇しくも、私たちはフォレストサーペントを倒すためのアイテムをクノッソの村のクエストで手に入れているわ。……使うアイテムは……これよ」
……なるほど。ナーガが取り出したものを見て俺たちは作戦の意図を理解していた。
「しっ、静かに。あったわよ。きっとあの洞窟じゃない?」
一番前を進んでいたミヤが息をひそめてしゃがんだ。それにつられて俺たちも身を低くする。木の影から顔をだしてミヤが指をさす方向を確認すると……あった。
たしかに洞窟がある。岩山の壁面に亀裂が走るように開いた穴だ。穴の大きさはかなり大きい。あの大きさならフォレストサーペントでもゆうに中に入り込めるだろう。
「中にいるのかな?」とミライが俺たちに問う。
「…………夜になると出てくる話から夜行性と考えるべきだわ。日中の間はあの洞窟で眠っているのではないかしら。できれば森の中よりも洞窟の中で戦いたいところだわ」
「でも洞窟の中に戦える広さなんてあるのかにー?」
「あれだけ大きな蛇よ? きっと中は広い空洞になってるんじゃないの?」
「甘いな、ミヤちん。広くなってなかったらどうするつもりだ? 狭い洞窟で電車みたいな図体に下敷きにされて終わりだぞ。ボス攻略に関して希望的観測はいかんのだよ、チミィ。ボス攻略で重要なのは戦うまでの準備、ボスの情報、戦う場所の地形、これらすべてを含めて考えた作戦の確実性なのだよ」
「……ふんっ。なぁにが甘いな、よ。セイギのくせにナマイキね」
こ、このアマ……! 伝説の『七つの未攻略クエスト』をすべて制覇しきった攻略のスペシャリスト“魔王”様を捕まえてナマイキだとっ……!? 俺ちゃまは攻略の鬼なんだぞぉ!? ボス攻略、クエスト攻略、攻略と名のつくものすべてに精通する攻略の鬼なんだぞぉ!?
「にっひっひっひ」とトラが俺とミヤのやり取りに笑っていた。
「うーん、みんなで渡れば怖くない、じゃないの?」
「馬鹿ね、ミライ。注意一秒怪我一生、よ」
意見は慎重派と出たとこ勝負派で別れていた。
「よし、分かった。まずこの俺様が行って見てこようじゃないか」
「えぇー? できんのー? あんたにー?」と挑発するようなミヤの視線。
「で、できますしぃ、余裕ですしぃ!」
俺は剣を抜きランタンを右手に持って、静かに洞窟の脇へと移動する。
「が、頑張ってねぇ、まぁくーん……! 気をつけて~~」
木陰から静かにミライが応援していた。ふんっ、見てろよ。貴様らに格の違いというものを見せつけてくれるわ……! なんならソロで倒してメロメロにしちゃるからなっ!
俺は単独で洞窟の中へと足を踏み入れた。
入り口はともかく、中は横へ真っ直ぐ伸びる狭い洞窟だった。ランタンで照らされた洞窟内にはフォレストサーペントがつけた傷痕なのだろう。あちこちに爪の跡が刻まれている。どうやらフォレストサーペントの住処はこの洞窟で間違いないようだった。
俺が歩く音が静かに反響する。ランタンの光に眼を覚まされたコウモリたちがパタパタと闇の中へと飛び去っていった。
うーむ……参ったな、ケッコー洞窟は深いのか?
そんなことを考えながら歩みを進めていると、突如、狭い洞窟に終わりが訪れる。広い空間に出たのだ。ランタンの淡い光が辺りを照らしだし俺は生唾を飲み込んだ。
…………いた。フォレストサーペントだ。
広い、天井も高い……山の中をくり貫いたかのような大きな空間だった。
その奥にとぐろを巻いている巨大な影……あれは間違いなくフォレストサーペントだ。
やはり夜行性なのか、眠っているらしい。なだらかな胴が呼吸にあわせて上下していた。
どくどく、と高鳴っていく心臓を、俺は大きく息を吸い込んで落ち着かせる。
よしよし、決戦の場としてはもってこいの地形だ。
さて、長居は無用だ。さっさと戻るとしよう。
俺はフォレストサーペントを視界に入れながら、ゆっくりと後退していく。
だが一体、なんだろうか。
俺の背中にどんっと何かがあたった。
おかしい。
俺は来た道を戻っただけであって、背後は空洞になっているはずだ。
フォレストサーペントは前にいるし……何にぶつかったんだ?
俺は顔だけで背後を確認する。そこには――
舌をチロチロと出したフォレストサーペントの姿があった。
ぱっちりとおめめを開けて俺を見つめている。
パニックになるな、という方が無理な話だった。
慌てて俺は顔を前へ戻す。
いる。フォレストサーペントだ。まだ寝てる。
後ろを見る。
いる。フォレストサーペントだ。俺を見てる。
この事象から導き出される結論、それは――
――二体いるっていうのかよ……っ!! 聞いてないぞ、んなことぉぉお!!




