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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR3  『息衝く異世界プログラム』
36/109

第一二話 『あなたが何者なのか。何を背負っているのか』

【二一五三年/地月三日/木の日/二一三二時/はじまりの世界/クノッソの村】


 その夜、クノッソの村では大きな鍋に様々な肉を投入した鍋祭りが行われた。

 村の人たちは呑めや歌えやの大騒ぎをしている。主賓の俺たちは広場に出したテーブルの前に座らされ、次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打っていた。バックでは村の人たちが奏でる陽気な音楽が流れている。


「これはジョルトーの名物料理ヨススナだ。腕によりをかけて作ったんだから全部くえよ! まだまだあるからな! ほら、食え食え!」


「食べてる! 食べてますから!」


「このぶどう酒は私が作ってるからね! じゃんじゃん飲みなよ!」


「アルコールなの!? これアルコールが入ってんの!? 法律的にどうなの!?」


「ゲームの中の疑似体験なのだから別に構わないでしょう。あら、これもイケるわ」


 名物料理を口に含み、手で口を隠してもぐもぐと小さく呵責するナーガさん。


「にひひひ、にゃははははっ! ラ、らーじまひゃるが三人に見えりょー!」


 元からおかしい言葉遣いだったトラはアルコールにやられて余計に変な言葉遣いになっていた。「お前、飲みすぎだぞ。もうやめとけ」とラージマハルはトラの持つ木製のコップを取り上げていた。


「よお、我らが人間の友人たち! 踊ろうぜ!」


 村の男たちに手を引かれてミライとミヤが炎の前で音楽に合わせて見よう見真似で踊りだす。ミライは自分で自分の足を踏んづけて倒れるという高等テクニックを村人に見せつけ、それにどっと村人たちは笑っていた。

 ミライも照れくさそうに頭をかいてぺろっと舌をだし、笑う。

 みな一様に笑顔を見せ、陽気に騒いでいた。


「……実感するわね。情報生命体たちは、間違いなくこの世界で生きているのだと」


 不意に、ナーガはそんなことを呟いた。


「ここは間違いなく私たちが住む世界とは違う――異世界なんだわ」


 恐ろしく現実的なナーガがそんな非現実的な言葉を吐いたのは祭りの陽気に当てられたからか。なんにせよ、俺にはナーガのその台詞から嘘を感じなかった。


「よぉし、お前ら、あれを持ってこい!」


 村人の一人がそう叫ぶと、女性陣らが麻布から何かを取りだし机の上に並べていく。それを見て俺たちは息を呑んだ。それは新品の防具や武器だった。


「お、おばちゃん……こ、これって……」


 ミヤがおっかなびっくりといった感じで銀色に輝く靴を手に取る。


「ミヤ。あんたの武器だよ。大事に使っとくれ」


「うわぁ~~んっ! おばちゃーん!」


 ミヤちんがおばちゃんの胸の中で大泣きしていた。それに俺も思わず微笑みながら自分のであろう剣と右拳に装着するであろう強固な鉄腕に触れてみる。


「よし、セイギ。つけてやろう!」


 俺は手伝ってもらって右腕を完全に包み込むような鉄甲を装備した。右拳を握るとがっちりと噛み合って力が入る。矢だろうと大剣だろうと、右拳で弾き返せる気がした。


「また右腕を折られないようにかなり頑丈に造ったんだぜ? 感謝しろよな」


「ああ、ありがとう、おっちゃん」


 俺はおっちゃんと拳をぶつけあった。


「この村はお前たちにとってこの世界での故郷だ。いつでも好きな時に帰ってこいよ!」


「ああ、お前たちはもう村の一員! 家族みたいなもんだ!」


 村の人たちからかかる声を忘れないようにか、ミライは胸をおさえて反芻する。


「……この世界での故郷……。うん……うんっ、ありがとう、みんな!」


 ミライも涙ぐみながら村の人たちと抱き合った。

 ふと、その時だった。右腕が小さく引っ張られた。

 振り返ると、フェレアさんが遠慮がちに俺の右腕をつまんでいた。


「セイギ……さん。よろしいですか……。よければ少し歩きませんか?」


 き、きたあぁああ! 美女からのお誘いですよ!


「ああ。……行こうか」


 俺は努めてクールに、渋いボイスで彼女のお誘いにのった。




 俺たちは少し村から外れた草原まで来ていた。なだらかな丘になった草原からは村の明かりが見える。風にのって村人たちの歌う声や笑い声も聞こえてきていた。

 フェレアさんと俺は始終無言でここまで歩いてきた。

 人気が無いのを確認すると、やっと彼女は俺の右腕から手を離した。


「セイギさん」


「は、はい! 初めてなんでやさしくお願いしますぅうう!!」


 俺はしゃんと立って彼女の次の行動を待つ。

 フェレアさんは俺を真っ直ぐに見つめると、すっと右手を俺にさしだした。その手に握られているのは二本の模造剣だった。……ん? 模造剣? なに? なんで?

 俺が理解の及ばない顔をしていると、フェレアさんは真面目な口調でこう言った。


「剣の道――その頂を目指す者として手合わせをお願いします」


 は、はいぃいぃい!? あれ!? どうしてこうなった! フラグは!? この流れって告白とかキスとかそういう流れじゃなかったの!?

 話の展開に戸惑い、パニックになっている俺をよそにフェレアさんは続ける。


「一緒に訓練をして分かりました。あなたの肉体は戦うことに慣れています。おそらく私の想像もできない修羅場をくぐっていらっしゃるのでしょう。だからこそ私はあなたに私たちの剣術を教えようと過酷な鍛錬を課したのです。……ただ、どうしてその実力をあなたが隠そうとしているのかは分かりませんが……確かめておきたかったんです」


 そこまで言ってフェレアさんは再び俺へと真摯な瞳を向ける。


「あなたの本気を私に見せてください。……あれ? ……どうしてがっくりしてらっしゃる……のですか?」


「あ、いや、なんでもないよ。なんでも……」


 俺はフェレアさんから模造剣を受け取った。

 ……ここで応えないほど俺も間抜けじゃない。


「……美女の誘いを断っちゃ俺の二つ名が泣くね」


 俺は数歩、フェレアさんから離れ、左手の甲をくるんっと返して剣を回転させる。


「もし俺が勝ったら一つ教えてくれないか」


「……何をでしょう」


「……あなたが何者なのか。何を背負っているのか」


「……分かりました。お話するのをお約束します。レベル差のある私に勝てたらですが」


 俺は眼を閉じすぅーっと深呼吸をした。


「怖いって言われるからシリアスな顔は好きじゃないんだけど……」


 脳からアドレナリンが放出され、どくんどくんと自分の心臓が穏やかに脈打つ音が聞こえる。そしてゆっくりと眼を開いた。

 俺の視線を受けたフェレアさんはビクッと肩を震わせた。

 次の瞬間、彼女は大きく後ろへ跳躍して俺から間合いを開けていた。

 信じられないものを見るような表情だった。彼女の額にじっとりと脂汗が滲んでいき、やがて彼女は震えていた口元をゆっくりと笑みに変えた。


「――胸を、お借りしますッ!!」


 フェレアさんは独特の構えから鋭い踏み込みで俺へと肉薄してきた。俺への恐怖心、怯えはあるだろうに……それを自制し振り払う思いっきりのいい踏み込みだった。

 それはそれはとても楽しい――剣撃の応酬だった。




【二一五三年/地月四日/闇の日/〇九五一時/はじまりの世界/クノッソの村】


 GW八日目の朝、ログインしてすぐに俺は気づいた。

 なんだか……村の様子がおかしい。

 フェレアさん宅二階の窓から様子を覗いてみると、ばたばたと村人たちが走っていくのが見えた。俺はフェレアさんの家を飛びだし、近くにいたおっちゃんに声をかける。


「どうかしたのか、おっちゃん!」


「お、おうセイギ! どうしたもこうしたもねぇよ! 来てくれよ! こっちだ!」


 俺はおっちゃんに案内され、村の横にある牧場へと足を急がせた。そこにはすでにミライ、ミヤ、ナーガ、トラ、そしてフェレアさんもいて、ほとんどの村人が集まっていた。


「あ、まぁくん! お、遅いよっ! た、大変なのっ!」


 ミライが俺に気づくと俺の腕を引っ張り、村人たちの間を縫って前に進んだ。人垣を抜けると俺の目の前にその惨状が広がる。そこには牧場のあちこちに食い散らかされた羊や牛だったものが、血まみれになって転がっていた。

 そのあまりに無残な光景に背筋が凍りつき、言葉が出なくなる。

 地面に残ったこの蛇が通ったような跡は……もしかして……!


「……フォレストサーペント……でしょうね」


 俺が胸中に抱いた疑念をナーガが肯定した。ナーガは親指の腹で唇をおさえたまま牧場の惨状を見て考え込んでいる様子だった。


「………………やはり。あの夜、追ってこなかったのもそういう理由だったのだわ」


 どうやらうちの参謀様が何かに気づいた様子だった。

 まあ、この惨状の違和感は俺でも気づくぐらいだ。ばきばきに壊された木製の柵……掘り返された土の跡……どれも悲惨な光景だが牧場の中で暴れた様子のない付近があったのだ。


「ちっくしょぉ! 半分以上やられてやがる! 森の主め……!」


「今年でもう三度目か……。火事にならなかったのは不幸中の幸いだな……」


「日に日にひどくなっていきやがる……! この前も行商が食い殺されたらしい……!」


 ミライは村人たちが漏らす嘆きに暗い顔になる。だがその表情が徐々に決意を宿したものへと変わっていく。おいおい、まさかミライのやつ……。分かってるのか? 今日旅立つんだぞ?

 そして俺たちCSN同好会の誰もが予想したであろう言葉をやっぱり彼女は言いだした。


「よぉーし! わたしたちでフォレストサーペントを退治しようよ!」


「「「ええぇええぇっ!?」」」


 村の人たちが彼女のその言葉に驚き、声をあげた。


「はぁ……やっぱり……。……言うと思った」とミヤは額に手をあてた。



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