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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR3  『息衝く異世界プログラム』
34/109

第一〇話 『ジョルトー流古剣術』

【二一五三年/空月二八日/光の日/一二三四時/はじまりの世界/ランドール湿原】


 ぱちぱち、と薪にくべられたアリゲイターのお肉が良い匂いを放つ。

 時刻は一二時半を少し回ったところ、俺たち七人は湖から少し離れたところにある開けた場所で昼食を摂っていた。結局、アリゲイター討伐クエストはフェレアさんとラージマハルの活躍もあって難なくこなすことができた。お昼まで時間もあったので二つ目の群れを探して討伐し、計六五体ものアリゲイターを狩る結果となったのだ。

 俺たちは予想以上の戦果にわいのわいの話しながら食事をすすめる。


「すっごい、すっごい! キャラクターレベルが6まで上がってるよ!」


 ステータスを確認しているらしいミライが黄色い声をあげた。


「にひひ、最初のレベルの上がり方は気持ち良かったねぇ。ぐんぐん経験値バーが染まってレベル3までは一瞬だったよん」


「ねぇ、ナーガ。私ってどういうパラメーターにポイント割り振った方がいいの?」


「AGIじゃないかしら。素早さに特化した方が戦闘スタイルにもあっていると思うわ」


「おっと忘れてた。ポイント割り振りしておかないとな」


 俺もステータス画面を開けてすべてのポイントを【STR】――物理攻撃力へつぎ込んでいく。決して割り振りを考えるのが面倒なわけじゃない。ちゃんと俺なりの考えがあるのだ。だってほら攻撃力ないと敵を倒せないじゃん。だから攻撃力上げるのが良いに決まってるのにみんな馬鹿だなぁ。力こそパワーなのにねー。

 わいわいと話す俺たちと比べ、フェレアさんの言葉数は少なかった。俺は左手のみで肉を噛み千切るのに苦労しながら彼女に声をかけてみる。


「フェレアさん、どうかしたのか? 悩みがあるなら紳士的に俺が聞いちゃうよ」


「……あ、いえ、驚いているんです。一つ目の群れはともかく、二つ目の群れは私たちが加勢しなくても討伐できていたのでは……と思いまして。……いえ、あなたたちなら一つ目の群れもやり方によっては討伐できていたかも知れません。……とにかく、想像以上の結果に驚いてます」


 そうだろうなぁ。なにせ五人のうち【二つ名持ち】が三人もいるという時点でえげつない強PTだし。全員が【二つ名持ち】だった《ディカイオシュネ》は例外だけど、普通のセルズなら戦力の偏りを無くすために【二つ名持ち】は別々のPTにして組んだりするもんだしなぁ。五人中残りの二人だって一人は現実の世界で“神の足”と呼ばれる俊足、そしてもう一人はBQだけはやたら高い頭脳を持っているっていうんだから。通常の適正ラインより少し上のクエストでもケッコーこなしちゃいそうなんだよね、このPT。


「……たしかにみんな良い動きだったわ。だけれど、やっぱりフェレアさんとラーディハルトさんの活躍によるものが大きかったわね。私たちが各個撃破している間、あなたたちは他のアリゲイターを近づかせないように動いて耐えてくれていたから」


「俺もそう思う。フェレアさんとラージマハルがいなけりゃ討伐はできていたとしても倍以上の時間がかかったんじゃないかな。こんなにスムーズにいってないさ」


「「「ラージマハル?」」」


 その場の全員が俺へと訝しげな視線をやった。

 …………しまった。脳内ネーミングをそのまま使ってしまった。


「俺はラーディハルトだっ! 名前くらいちゃんと覚えろよっ人間ッ!」


「すまん、ラージマハル。なんか覚えにくくてさ。ラージマハルってあだ名でいいか?」


「よくねぇよっ! ラしかあってないだろ! そもそもな、セイギ、お前はあだ名の意味わかってんのか!? お前のやってることは改名だ、改名っ!」


「うるさいな、静かに食べろよ、ラージマハル。あ、その肉とってくれ、ラージマハル」


「このヤロっ……!!」とラージマハルが立ち上がった。きゃーやだぁー怖いー。


「お、落ち着いてくださいっ、ラージマハルさんっ!」


 と、フェレアさんも立ち上がった。そして言い間違えた後でフェレアさんがハッとなって恥ずかしそうに口を手で覆う。それには思わず俺たちも吹き出してしまう。


「フェ、フェレア様まで!?」とラージマハルはショックを隠しきれなかった。


「す、すいません……セイギさんがラージマハル、ラージマハルと言うから……」


「にひひ、まあまあフェレアさんもラージマハルさんも座りなよ。お肉が焦げちゃうよん」


「だから俺はラーディハルトだっ! わざとだろっ、トラ! 今のはわざとだなっ!?」


「話は変わるのだけれど、フェレアさんとラージマハルのレベルはいくつなのかしら」


「おいっ、セイギっ! お前のせいで間違った名前が定着しつつあるだろうが!」


「良かったな!」と俺はぐっと親指をあげた。


 それにラージマハルは諦めたのか、がっくりと肩を落として座り、怒りまかせに肉へかじりついた。


「私のレベルは現在19ですね。メイン武器にしている【剣術】スキルが23です。ラー……、ディハルトさんのレベルは14、であってましたか?」


 今、迷った? どっちの名前が正しかったか……フェレアさん、迷った?


「いえ、フェレア様。レベルは15になりました。メインの【槍術】スキルは18ですね」


「わっ! 二人ともつよ~いっ! ラーさんよりフェレアさんの方が強いんだぁ!」


「ラーさん?」とミヤがオウム返しにしてミライへ眼をやる。


「うん! ラーディハルトとラージマハルって名前からとってラーさん!」


「…………別にラージマハルの方からはとらなくていいんだが。まあいい。フェレア様が強いのは当たり前だ。フェレア様は本来、こんな辺境にいらっしゃっていい方ではない」


「ラ、ラーディハルトさん、それは……!」


「あ……すいません。……出過ぎた事を言いました」


 フェレアさんは顔を伏せて胸元に隠れた銀チェーンのネックレスを強く握り締めた。

 ……この人、どこか物腰が柔らかいし気高いし、元は貴族の令嬢とか……だったりするのか?

 まあ、そうであったとしても別に驚きやしないけど。フェレアさんは気品に溢れる美人さんだし、行儀も良いからかなり生まれは良さそうな気がする。


「ねぇねぇっ! お昼からはどうするのっ?」


 少し湿っぽくなった空気をミライの能天気に明るい声が吹き飛ばす。それがわざとならばとても空気の読める良い子なのだが……彼女のことだ、何も考えてないに違いない。だってミライさん天然の中の天然さんだしー、ナチュラルボーンナチュラルだしー。


「……そうですね。村に戻りクエスト完了報告をしましょう。他にもクエストはあるはずなので良い仕事をグラハドさんに選んでもらうといいですよ」


「俺たちは昼からは毎日、鍛錬を行っているんだ。アリゲイターの群れを討伐できたんだから、お前たちだけであらかたのクエストはもうこなせるだろう」


「鍛錬……修行だねっ! それってわたしたちも参加したらダメ?」というミライの提案。


「構いませんが……慣れてないとかなりキツいと思いますよ?」


「大丈夫っ! へっちゃらだよ! わたし頑張っちゃうよっ!」


 鼻を鳴らして意気込むミライに俺は『一級フラグ建築士』という単語が脳裏に浮かんでいた。




【二一五三年/空月二八日/光の日/一五四一時/はじまりの世界/クノッソの村】


「ひぃひぃ! も、もうダメ! し、死んじゃうよっ! し、死ぬぅ~~っ!」


 ミライは走りながらそんな泣き言を叫んでいた。って、フラグ回収はやっ!

 あれから村に戻ってきた俺たちはアリゲイター討伐クエストの報酬を受け取った。

 もともとかなり報酬額の高いクエストだったらしいが二つの群れを討伐してきたということもあってグラハドさんは俺たちに割り増しで報酬を支払ってくれた。

 ジョルトー国内ではジィル硬貨という貨幣が流通しているようだが、受け取ったジィル硬貨の量がどれだけの価値を持っているのか俺たちはいまいち分からなかった。ラージマハルいわく『お前らにはもったいない額』らしいので良い報酬なんだろうけど。

 その後、俺たちは現実の世界で昼食を摂るため一度ログアウトした。そして警護団の鍛錬に参加すべく再び『ワールドマスター』内へと戻ってきたのだが……。

 はっきり言って警護団たちの鍛錬はキツかった。

 基礎体力を向上させるための緩急をつけた走りこみ、基礎筋力を向上させるための筋肉トレーニング、武器技術を研鑽するための模擬戦……毎日やっている彼らと比べすぐに俺たちはヘバってしまった。

 基礎体力なら人類の中でも秀でているアスリート、ミヤでさえ全身から汗を流し地面に両手両膝をついて荒い息を繰り返している。だというのに俺たち如きがついているけるわけもなく、さらに俺たちより体力の無いミライに至っては言わずもがなだ。

 これは間違いなく明日、筋肉痛になってるな……。朝方、ベッドの上で苦しまなければならないことを思うと今から憂鬱だ……。

 よし、バレないように少し手を抜こう。

 だが、それがいけなかった。フェレアさんに隠れて木陰で休んでいると――


「たるんでいます!! あなたはたるんでいます、セイギさん!! 私があなたの性根ごと鍛えなおしてあげます!! こちらへ来てください!!」


「ひぃいいぃいっ!! だってこんな剣術聞いたこともないしぃい! らめぇええぇえっ!! ちゃんとやりますからぁ!! 勝手に休憩してすいませんでしたぁああ!!」


 俺は首根っこを捕まれて日の当たる場所へずるずると引きづられ、フェレアさんに鍛錬という名のイジメを受けるハメになった。


「違います、セイギさん! もっと右手をあげるんです! 視線は真っ直ぐ敵を見て!」


 フェレアさんが手でぐいっと俺の顎をあげた。ゴキッと俺の首が鳴って、俺は思わず首を押さえてしゃがみ込む。だがそんな俺の様子も気にせずフェレアさんは指南を続ける。


「ちゃんと私の構えを見てくださいっ! こうですっ! いきますよ!?」


 フェレアさんが俺の横でその独特の構えをとった。

 顔の横で剣を真っ直ぐ水平に伸ばし、空いた手の平で標準を合わせ、前方に立つ仮想敵――カカシを見据える。

 俺もフェレアさんの構えを真似てカカシを睨んだ。

 そして俺とフェレアさんはゆっくりと深呼吸をし、すぅーっと大気を吸い込む――


「「ジョルトー流古剣術――ッ!! 【雅穿すいが】――ッ!!」」


 俺とフェレアさんの声が重なった刹那――

 フェレアさんの剣が閃光となって虚空を走り対象に穴を開けていた。摩擦によるものなのか、しゅ~~っ、と穴の回りから白い煙が出ている。

 一方、俺のは不発だったらしく、剣先がカカシに突き刺さっただけだった。


「どうしてできないんですかっ!! やる気あるんですかっ!?」


「そんなこと言われましてもぉお!? こんな剣術、現実の世界にないんだってばぁ!」


「にひひ、頑張れ~、セイギく~ん」


 かかった声の方を見てみると、俺以外の人間四人はいつの間にか木陰で休憩していた。って、うぉおおい! なんで俺一人で頑張ってんのぉお!?


「セイギさん! よそ見しないでください! もう一度最初からです!」


「はいぃいぃっ!」


 こうして、朝はクエストへ、昼から警護団に混ざって鍛錬、夜はフェレアさんや村の人たちとこの世界の話を聞いたり現実の世界の話をしたり、ネットで情報収集したりという日々が続いた。

 十日間のGWのうちあっという間に七日が過ぎ、俺たちのレベルとスキルはもうジョルトー城下町まで辿り着けるであろう数値にまで達していた。



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