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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR3  『息衝く異世界プログラム』
32/109

第八話 『あー、やだやだ現実が見えてない男って』

【二一五三年/空月二八日/光の日/〇九五三時/はじまりの世界/クノッソの村】


 翌日、俺たちは村中央に位置する井戸がある広場で集合していた。

 ミヤが眠気まなこでぼーっとしているのはミライに付き合わされたからだろう。

 何時まで話していたのかは知らないけど、きっと魂が抜けた状態になってしまうミヤが正常だ。

 異常なのは……と俺はミライの方を見てみる。

 彼女は村の子供たちに混ざってきゃっきゃと黄色い声をあげて遊んでいた。もう村の子供たちの遊び相手になってるなんてさすがだよね、ミライさん。元気の塊みたいな人だよね。

 そんな二人を置いて、俺たち三人は円を作って昨晩収集した情報の吟味をしていた。


「大多数のプレイヤーはジョルトー城下町を目指しているみたいだわ。中にはジョルトー以外の国を拠点にするつもりのセルズもあるようだけれど」


「俺が見た情報も同じだぁね。初心者向けの永世中立国家ジョルトーって感じらしいよ。他の国を拠点にするのは巨大セルズのような組織力がないと無理なんじゃないかなぁ」


「そっか。そんじゃあやっぱり予定通り向かうはジョルトー城下町だな。でも俺たちの戦力で辿り着けるか? 今のレベルだと道中、モンスターに襲われたら終わりじゃないか?」


「お、襲われっ――コホン……ええ、そうね。《ホワイトフォース》や《バンデット》は頭数がいるから強引に進むこともできるでしょうけれど、私たち五人だけでは無理があるわね。だから私はクノッソの村でしばらくレベル上げすることを推すわ」


「だねー。こういう辺境でしか見聞きできない情報があるかもだしねぇ。まだクノッソに何があるかさえ見て回ってないのに次の街へ移動するのももったいないよねぇ」


 あー、頼りになるわー。マジで頼りになるわー、この二人。

 まあ、ナーガさんが『襲われる』という単語に反応していたのは若干ツッコミを入れたいところだが……。ナーガさんがどこか期待しているように見えたのは勘違いだと思いたい。頬が仄かに上気しているように見えるのは気のせいだと思いたい。

 こんなに頼りになる二人に比べてミヤとミライといったら……。

 ミヤはついに立ったままぐーぐー眠っていた。口から涎なんか垂らしちゃったりして幸せそうな寝顔だ。ミライは相変わらず子供たちと元気に走り回っている。

 ……ってかミライさんはセルズリーダーでしょ!? これからどうするかを決めてるっていうのにリーダーが遊んでてどうすんのっ!

 俺はまずミヤを眠りから覚ましてやることにした。


「おい、ミヤちん、起きろ~。朝だぞー、王子様のキスが必要かー?」


 左手で肩をがくんがくん揺らすとミヤは目をぱちぱちとしばたたかせた。しかし「うー」と不機嫌そうに唸る彼女の目はまだとろんと半分しか開かない。

 あー、ダメだ。完全にまだ夢の中だわ。仕方ない奴だなぁ。俺は唇を突きだしてミヤへ目覚めのチッスをしてやろうとして――腹に膝蹴りを入れられた。うつらうつらとしていた人間とは思えないほど速い反応だった。


「なにしようとしてんのよ、変態っ! 油断も隙もないわねっ!」


「ね、眠気を覚ましてやろうと思ったんじゃないかっ……な、何も蹴ることは……! だいいち、CSNゲームの中なんだからそこまで気にすることじゃ……!」


「はあっ!? 気にするわよ! ナメたこと言ってると本気で蹴るわよ!?」


 ……え。本気だったっしょ、今の膝蹴り。俺の腹に残る鈍い痛みがそう告げているんですが。

 ぷんすか怒って俺に背中をみせているミヤちん。まるで俺の顔も見たくないと言わんばかりの素振りだが……ふふふっ、最初はこうしてつれない態度をとっているが、やがて俺たちは互いを理解しあい、一つの道を二人で歩むようになるんだろうな……。……分かってる、分かってるぜ、ミヤちん。

 女心の分かるイケメンタル(イケてるメンタルの略)な俺がクールに笑っていると、教会から《ホワイトフォース》たちが出てきた。俺たちが集まっているのを見つけると、ソーマっちがにこやかにこちらにやってくる。


「やあ、おはよう。方針会議中、かな?」


「そういうこと。そっちはもう村を出るのか?」と俺が問うと、


「ああ、そうしようかと思ってる。セイギくん、でいいかな。キミたちのところはどうするんだ?」


 ……俺に対する接し方がリアルと違うッ……!

 未来にも気づいてなかったようだし、どうやらソーマっちは俺が黒猪正義だと気づいていないらしい。これはソーマっちとの友好関係を築く良いチャンスかもしれない。

 こっちで友人になった後、リアルでバラせばきっと『お前がセイギだったのか! どうやら俺はお前のことを勘違いしていたようだ!』ってなるに違いない!

 ふっふっふ、完璧すぎる計画だぜ……。


「一応は村に残ろうかって話になってる。ほら、俺たち五人PTじゃん? 道中は危険も多いだろうし、レベル上げが先かなって」


「やっぱりそうか。キミたちは同じセルズに所属してるのかな? 誰がPTリーダーをしているんだ? 提案があるんだ」


「セルズはまだ未登録よ。名前も決まってないわ。リーダーならあそこで遊んでいるのがそうだわ」


 ナーガの目線の先を見てソーマっちは仄かに頬を染めた。そしてわざとらしく咳払いをすると、「キミたちのリーダーに交渉してくる」と歩いていった。


「……ジョルトー城下町まで一緒に行こうって提案だろうにー」


「残るにしても一緒に行くにしても構わないわ。決定はミライに任せましょう」


 ナーガの言葉に俺たちはソーマっちとミライの会話に耳を傾けた。


「ミ、ミライたちも一緒にいかないか? その人数だと道中に不安があるだろ? 俺たちも人数は多い方が安心できる。お互いにメリットのある提案だろ?」


 ソーマの誘いにミライは子供たちに腕をぐいぐい引かれながら、考える素振りを見せる。


「な、なに……敵が襲ってきても心配はない。俺はこう見えて結構な数のCSNゲームを渡り歩いてきてるんだ。お、俺が……守ってやる」


 ミライはにっこり笑ってソーマの手をとった。かぁあっ、と顔が紅潮したのがここからでも見て分かる。嗚呼、手を握られただけで……純真なんだなぁ、ソーマっち。


「ありがとっ! でもわたしたちは残るよっ!」


 ミライの迷いのない返答にソーマっちは明らかに残念そうな表情になった。


「だってわたしたちはライバルだからねッ!」


 びしっ、と指差すミライにソーマっちの顔に色が戻ってくる。


「ラ、ライバル……! ふふ、そうか……! 最初はこうして敵対していてもやがて俺たちは互いを理解しあい、一つの道を二人で歩むように……!」


 ……な、何言ってんだ、あいつ……頭、大丈夫か……?

 俺はソーマっちの妄想炸裂勘違いっぷりに戦慄を覚えた。

 あー、やだやだ現実が見えてない男って。


「よし、分かった、ミライ。またジョルトーで会おう」


「ふっふっふ。すっごく強くなってびっくりさせてあげるよ!」


 ソーマとミライが固く握手した。うん、この様子だと《ホワイトフォース》とは友好関係を築けそうだな。まあ、どんなセルズもミライの前じゃ毒気を抜かれるだろうけど……。

 ミライ先輩マジぱねぇッス。先輩の天真爛漫さマジ最強ッスね。

 俺が《ディカイオシュネ》のリーダーをやっていた時は友好関係を築くどころか全セルズと敵対してたからなぁ、はっはっは。嫌われてるってレベルじゃなかったよね!

 こちらへと戻ってきたソーマはすれ違いざまに俺の肩をぽんっと叩いた。


「……彼女を頼むぞ。ジョルトーで待っている」


「ああ。そっちも道中気をつけてな」


 フッ、と俺たちは背中ごしにニヒルに笑いあった。粋な男たちによる別れの演出にきっとミヤちんのハートもきゅんきゅんしていることだろう。

 俺がちらっとミヤを確認すると、「くかぁー」と寝息をたてて立ったまま眠っていた。

 ……まあ、そんなことだろうと思ってたけど。

 そして俺たちは《ホワイトフォース》を見送った後、改めて輪になった。


「本当に残って良かったのかしら。今ならまだ追いつけるわよ」


 追いかける気もないだろうにナーガがミライに問うた。


「うん! ジョルトーに行かないといけないのは確かだと思うけど、急ぐ必要はないと思うの! どうすることが近道なのかは分からないし! それにフェレアさんとせっかく仲良くなれたのにもうお別れって寂しいし……」


 ほお、驚いた。ポンコツはポンコツなりに考えているらしい。ナーガは何も言わなかったが、口の端を笑みにしたことからミライが存外にリーダーに向いてるのを感じ取っている様子だった。

 俺たちがこれからどうするか話し合っていると、フェレアさんが眠そうな顔で眼をこすりこすりやってきた。……眼の下にくまができている理由をあえて問うまい……。


「あれ……? あなたたち、こんな所に集まってどうしたのですか? 他の二組はもう村を発ったと聞きましたが……。ジョルトー城下町へ向かわないのですか?」


「フッ、キミを置いてはいけないさ、フェレアさん」


 俺はフェレアさんの手を取り、その瞳をまっすぐ見つめた。


「は、はあ」とフェレアさんは困った顔をする。


 うん、困った顔も美しい。

 美人の困った顔って……そそる! もっと困らせたくなっちゃうよね!


「あ、そのことなんだけど……私たちもう少しこの村にいたらダメかな?」


 ミライからの思っていなかった言葉にフェレアさんはきょとんとした。だが、やがて彼女は俺たちに何も訊かず笑顔になった。


「好きなだけ居てください。歓迎しますよ」


「ありがとう、フェレアさん!」


 フェレアさんに飛びついたミライの頭をフェレアさんは優しげな瞳で撫でた。


「し・か・し、この村にいるなら働いてもらわないといけませんね。路銀を貯めておくに越したことはないでしょう」


 そう言ったフェレアさんの笑顔には怪しい光が含まれていた。



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