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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR3  『息衝く異世界プログラム』
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第六話 『こっちなんてムサい男どもばっかりだぞ、ゴルァ!」』


「…………どういう意味?」とこれはミヤの問いだ。


「《ゲート》の出現によって各異世界間で交流、交易を持つようになりました。色んな異世界がさらに繁栄と発展をし、【はじまりの世界】は各異世界の情報生命体が行きかう異文化交流が盛んな世界になったのです。ですが各々の異世界が持つ超過技術や資源を奪い、独占しようとする者たちが出てきたのです」


 あー、それで戦争になったのか。情報生命体も人間とやってること同じなんだなぁ。


「それ以降、【はじまりの世界】は異世界戦争の最前線となってしまいました。今でも各異世界の《ゲート》を通じてどんどんと戦力が送り込まれてきている状態です。……誰かが止めないといけないんです、誰かが」


 フェレアさんは顔を伏せ、首から下げたネックレスを強く握り締めた。

 トラがとんとんっと机を指で叩く。


「うーん……CSNゲームじゃ各国の戦争なんてよくある設定、なんだけど……『ワールドマスター』の場合、かなぁーり異色……というか簡単な話じゃないねぇ。この世界じゃ設定が設定じゃないんだもんにー」


 トラの言う通り簡単じゃない。通常のCSNゲームではトラが言うところの設定で済ませられる話だ。“猛獣”の〈アギト〉が言うようにその世界も戦争も架空のものだ。プレイヤーは与えられたゲームの設定を楽しみ、自分の好きなように行動すればいい。例え人間と同じく振舞うキャラクターがゲーム内に登場したとしても、その中身はアミューズメントGM――人間がキャラクターを動かしているにすぎない。『戦争が起こっている』という設定・世界観の中で役割を演じているにすぎない。

 言い方は悪いが、嘘っぱちの世界に嘘っぱちのキャラクターたちだ。

 しかしこの世界は違う。

 この世界に存在する彼女たちはこの世界で生きているのだ。なら、こちらもこの世界の理、歴史、文化を尊重し、相応の振る舞いをするべきなのだろう。


「設定、ですか。あの生まれの悪そうな方もそうおっしゃっていましたね」


 フェレアさんは笑ってホットミルクを飲んだ。……何気に毒舌ですね、フェレアさん。


「私たちだって馬鹿じゃありません。自分があなたたちの言う人工知能だということは理解しています。当然、あなたたちからすればただのデータでしかないってことも……。

 ですが、それがなんですか。私たち情報生命体にとってここが現実の世界だということは変わりません。私は父と母から生まれ、今、ここにいます。ここで生きているんです。その事実に嘘はないんです。……ミライが彼に言ったように」


 俺たちは死んだとしても元の世界の肉体と魂に影響は無い。それは確かだ。だが彼女たち、情報生命体の肉体は今ここにある。彼女たちは間違いなくこの世界で、たった一つの命を宿して生きている。これも確かなことだ。

 笑いあうフェレアさんとミライに自然と周囲の空気が柔らかくなる。

 どうやらフェレアさんはミライにかなり心を開いているらしい。〈アギト〉に蔑まれ腸が煮えくり返っていたところにあのミライの大爆発だ。フェレアさんからすれば心強い味方を得たような気持ちになってもおかしくない。

 その調子で俺にもカモーンオープンハート!


「よぉーし、決めたっ!! 決めたよ、わたしはっ!!」


 言うなりミライが立ち上がった。それに俺たちは何事かと彼女を見上げる。


「ねぇ、フェレアさん! わたしたちとお友達になろうよっ!」


 フェレアさんの両手を掴み眼をぴかぴか輝かせているミライさん。

 大興奮している彼女にフェレアさんは素っ頓狂な顔をしていた。


「と、友達、ですか? 人間の……あなたたちと……情報生命体の私が? 私は人間で言うところのプログラム……、データでしかないんですよ?」


「そんなの関係ないよっ! フェレアさんは今までの経験を培ってフェレアさんっていうたった一つの個性を得ているんだから! 記憶した経験をプログラムによって選出して行動を決めてる、確かにそうだけど、それって人間も同じだとわたしは思うの! 人間も自分が得た経験から考えて自分が良いと思ったことを無意識にしてるんだよっ! フェレアさんもそれと一緒のことをしているだけじゃないっ! 日々学んでその経験を生かして未来を生きてる! 他の情報生命体と違う経験を得ることで個性が生まれてるんだもん! 私たちの違いは考える部分が有機物か無機物かだけの違いだよ!」


 まくしたてるミライに二の句が継げなくなるフェレアさん。おーおー、超特急ミライ号に驚いた表情のまま固まってしまっている。

 やがてフェレアさんは優しく微笑んだ。


「ありがとう、ミライ。その気持ちだけで、嬉しいです」


「ねぇねぇっ、もっと色々教えてよっ! この世界のこと! フェレアさんのこと! あ、そうだ! さっきから気になってたんだけど村からこっちの森には何があるの?」


 ミライが指差した地図を見てみるとジョルトー城下町に向かう道とは逆方向、クノッソの村から少し離れた場所に赤い丸印が打たれていた。


「…………。……こっちの森はもう密林国家スラ・ラピスの領土ですね。ここは国境の近くですから。私たち【ヒューノ】とは違う種族【ハウトゥー】が住んでいるんです」


「へぇ~~っ! ハウトゥーってどんな人たちなの!?」


「ハウトゥーは女性しか存在しない種族です。彼女らは肌の色が透き通るみたいに白くて、お耳が長いんですよ。気難しい方々で私たちよりも遥かに長い寿命を持ちます。勉強熱心で魔導技術に強く、保守的な考えをする方が多いですね。彼女らの人生は森の中で完結してるといっていいでしょう。そのため森には結界が張ってあってですね、ハウトゥー以外は入れないようになっているんです。だから結界の外に出てくるのは極々稀ですね……。というのも身を隠しているのには理由がありまして、彼女らは非力なため奴隷商人に狙われやすく、また処女の生き血は様々な効能があるため密猟者にも狙われていて――」


 それから俺たちは同好会会室の閉鎖時間ぎりぎりまで談笑を楽しんでログアウトした。




【二一五三年/四月二七日/土曜日/二一四九時/現実/城東学園・学生食堂】


「凄いゲームだよね、『ワールドマスター』! 異世界だよ、まぁくん! 本当の異世界なんだよっ! わたしたちは人類とは違う文化の中で成長してきた人たちと触れ合って、あの異世界を旅して攻略を目指さなきゃいけないんだよっ!」


 学園内にある食堂で俺たちは遅めの晩御飯を食べていた。通常は九時で食堂は閉まるのだが、GW中は一〇時まで開いているらしい。


「わたしたちがこうしてる間も、向こう側でフェレアさんたち情報生命体は生きてるんだよね! なんだか不思議~~っ!」


 未だに興奮冷めやらぬ未来の様子に俺たちは思わず笑ってしまう。

 食堂には俺たちと同じように晩御飯を食べている生徒たちが何組かいて、彼らも『ワールドマスター』の話をしているようだった。


「いや、だからそもそも日本語が通じないんだって! あれ何語なんだよ! 絶対に地球上の言語じゃねー! 解析班が必要だぞ、ありゃ! 獣耳生えてるし、尻尾があったし!」


「じゃあ絵を描いて意志を伝えてみるとか?」


「そういえば、それ“盾姫”さんが地面に絵を描いてやってたよ。その後、何か言ってる獣耳たちの言葉を正座して微動だにせず真面目に聞いてたけど絶対理解できてないと思う」


「お、おまえのところのPTは《スクトゥム》の“盾姫”さんと同じ場所に流れ着いたのかよ……! 羨ま――」


「羨ましいだろうがあぁああ!! こっちなんてムサい男どもばっかりだぞ、ゴルァ!」


 俺は思わず話し込んでいた二人組みに向けて叫んでいた。

 俺の大声に吃驚して顔を向ける二人組み。その唖然とした表情を見て俺は冷静さを取り戻した。コホンとわざとらしく咳払いして席に座りなおす。

 にしても……言葉が通じない種族もいるのか……。まあ、フェレアさんの話じゃ各異世界で発展した種族が【はじまりの世界】に来て国を作ってるらしいし、国によってかなり文化が違うみたいだな……。


「にひひ、電脳掲示板も未来っちやみんなと同じような調子だぁね。『本物の異世界だ!』ってみんな興奮してるよん」


 虎雄が携帯端末に眼を落としながら楽しそうに話す。

 それに続くように一之瀬がなんだかそわそわした様子で俺たちの顔色を伺ってきた。


「ね、ねえ、ごはん食べた後どうする? ま、まさか寝るまでみんなでレベル上げするとか……言わないわよね?」


 うーむ、『もちろんレベル上げだ!』と言われるのを期待しているように見えるのは俺の気のせいか? もしかして一之瀬さん『ワールドマスター』にだだハマりですかー? ログインしたくて仕方が無い状態ですかー?

 しかし永森さんや虎雄の回答は可哀相なことに一之瀬の期待を裏切るものだった。


「いえ、初期に近い状態でレベル上げをするのは難しそうね。他のところは分からないけれど、あの森の夜は危険だわ。それよりもまず情報を集めた方がいいんじゃないかしら。きっと掲示板では色んな国に散らばったプレイヤーたちが情報交換をしているはずよ」


「にひひ、それがいいだろうねぇ。現段階で夜の狩りは命取りっぽいからねぇ。最初が肝心だぁね。俺も今日は部屋で情報集めすることにするよん」


「そ、そう……。ま、またすぐに『ワールドマスター』に戻るって言われたら、ど、どうしようかと……思ったわよ……」


 一之瀬は少ししょんぼりしてスープスパゲティに顔を落とした。……可愛いやつめ。


「じゃあわたしはフェレアさんのところにもっとお話を聞きに行ってくるよっ!」


 もうすっかりフェレアさんと仲良くなった未来は友達の家に遊びに行くような感覚でそう言っていた。まあ、実際二人は友達になったようだが……。

 フェレアさんっ……今日は寝れないかもなっ……! 未来の相手、頑張ってくれ……!


「未来、話を聞きに行くのはいいのだけれど。あなた、私たちのセルズ名とエンブレムをまだ決めてないでしょう。GWが終わるまでにはCSNにセルズ申請を済ませて頂戴」


 面倒だけどサイバーセルズとして活動するためにはCSNに登録する必要があるんだよね。登録にはセルズの名前、メンバー、そのセルズの紋章――エンブレムが必要だ。この申請が通って初めてサイバーセルズの名がリストに表記されるのだ。


「うっ、そ、そうだった……。じゃあまぁくんとミヤちゃんも一緒にきてっ! フェレアさんも含めて四人で考えればきっと良い案が浮かぶよ!」


「えっ!? 私もっ!?」と一之瀬はスープスパゲティから眼を輝かせて顔をあげた。


「ぶふっ!?」


 底にあったテンションからの急上昇っぷりに俺は思わず噴出してしまった。くそっ、くそっ愛くるしいやつめ……! そんなに『ワールドマスター』やりたかったのか……!

 俺が子供を見るような慈しみの笑みを向けると、一之瀬はうげっと身を引いた。


「みんな、頑張るなぁ。俺は明日に向けてみんなの分まで睡眠をとっておくよ!」


「えぇ!? まぁくんも情報を集めてよぉ! わたしたちは一番を目指しているんだからねっ! あれを見て、あれっ!」


 未来が指差した方には食堂の隅を陣とっている相馬たち《ホワイトフォース》メンバー一団の姿があった。バラバラになったPTの位置確認やこれからどうするかを話し合っているみたいだった。

 おーおー、人数の多いセルズはまとめるのも大変だねぇ。


「わたしたちも負けてられないよっ!? 一番に攻略するのはわたしたちだーっ! えいえい、おーっ!」


 一人拳を高く突き上げてはしゃぐ未来に食堂内の視線が集中していた。恥ずかしくなった俺たちは顔を下にして黙々とご飯を胃の中に入れていった。



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