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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR3  『息衝く異世界プログラム』
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第五話 『うるさいっ!!』

 

「フェレアさん、質問していい? 永世中立国家、と言うからには戦争している国があるってことだよね?」


「はい。大変、遺憾なことですが……。現在、五つの国が戦争をしています」


「せ、戦争っ!? ダメだよ、そんなのっ! すぐに止めないとっ!」


 ミライのその言葉にフェレアさんはとても驚いた表情をした。そして、徐々にその顔が優しいものになっていく。

〈アギト〉はけっと唾を吐いた。


「お前、馬鹿か? これは〈黒ウサギ〉が創ったゲームで、この世界も戦争も架空のものなんだよ。その警護団長も〈黒ウサギ〉が創ったただのデータだ。この世界に歴史なんて何もありゃしねぇんだよ。今日、やっと初めて起動したプログラムなんだからな」


「……データ、……プログラム、ですか……」と眼を伏せてフェレアさんは笑った。


「あぁん? 何か文句あんのか?」と〈アギト〉が彼女を睨みつけた。


「……いえ、あなたのおっしゃるとおり、私はプログラムの一つに違いありません」


 何か言い返したり皮肉の一つでも返すかと思ったが、フェレアさんは冷静にそう返答していた。

〈アギト〉は馬鹿にするように鼻で笑い、調子付いて続ける。


「人工知能だろうが、なんだろうがプログラムだってことに代わりはしねぇ。この世界の全部が作り物だ。〈黒ウサギ〉が創りだした『ワールドマスター』の設定なんだよ」


 フェレアさんは言い返さなかった。……彼女は頭が良い、と俺は思った。

 彼女が設定なんかじゃないと思っているのは表情からして明らかだったが、〈アギト〉の言葉を覆す証拠など存在するはがないことを分かっている。

 言っても無駄なことだ、だから言い返さない。


「だいたいな――」とまだ続けようとする〈アギト〉に、


「うるさいっ!!」


 教会の中にその声が反響した。見ると立ち上がったミライが大声で叫んでいた。


「うるさいうるさいうるさいうるさーーいっ!!」


 駄々っ子のように地団駄を踏む彼女に俺たちは目が点になってしまった。

 えぇえぇ!? ミライさん急に発狂しだしてどうしたの!?


「ちょ、ちょっと……ミライ!?」


 隣に座っていたミヤが落ち着かせようとミライの両肩をおさえる。だがそれを振り切ってミライはずびしっと〈アギト〉を指差した。


「そんなことないもんっ! フェレアさんはこの世界で間違いなく生きてるんだよっ! 自分で考えて自分で決めて、自分で行動してるじゃないっ! 歴史がない!? あるもん! 設定だろうと、この世界の人たちにとって紛れも無い真実じゃないっ! 歴史じゃないっ! この世界じゃ人間も人工知能も関係な――」


「だぁあっ! すいません、すいません! こいつ、ちょっと頭がアレなんで、ははは」


「あははは! ほんとすいません! この子、よく妄想を口にしちゃう子でして、ははは」


 俺とミヤはミライの口を塞いで言葉を遮った。

 そんな俺たちに〈アギト〉は舌打ちする。


「俺たちは明日の朝、この村から出るぜ。いくぞ、てめぇら」


《バンデット》たちは間借りしている教会の奥にある一室へと戻っていった。

 事なきを得たことに俺とミヤはほっと胸を撫で下ろす。その真ん中に立つミライは〈アギト〉の背中に「べ~~っ!」と舌をだしているのだった。





【二一五三年/空月二七日/闇の日/二〇四八時/はじまりの世界/フェレア宅】


 教会で話を聞いた後、俺たちはフェレアさんの自宅にお邪魔していた。話の流れで俺たち五人をフェレアさんの自宅に泊めてくれることになったのだ。


「改めて、教会での件はすいませんでした。私も村のみんなも人間を見るのは初めてで。吃驚させてしまいましたね。手荒な真似をしてしまったことを許してください」


 部屋の内装はシンプルだった。機械技術は発展していないのか、ほぼ木製で作られている。現実の世界だとロッジのような建物が雰囲気に近い。床に敷かれた絨毯は何かの獣から剥いだものなのかな? 現実の世界だとうん十万円としそうだけど、自然がまだまだ多そうなこの世界じゃわりと普通に手に入れられるものかも知れない。

 フェレアさんはテーブルの上に人数分のホットミルクを置いた。

 俺たちがフェレアさんの家に泊まることになったのには理由がある。

 目的地のジョルトー城下町へ至るまでに幾つか村や街はあるみたいだが、ちょっと次の村に行くくらいで歩いて半日はかかるっていうからさあ大変。すぐに出発しても道中で日が暮れるのは明らかだ。

 ちなみに、《ホワイトフォース》と《バンデット》は教会に泊まることとなった。ドンパチをやらかさないか懸念しないわけじゃーないけど、まあ、今の状況を考えれば……大丈夫! ……だよね?

 そして今、こうして一つの丸テーブルを俺たち五人とフェレアさんで囲んでいるわけだ。


「いえいえっ! 気にしないで下さいっ! いきなりあんな神聖そうな場所に流れ着いちゃったわたしたちが悪いんだからっ!」


 ぶんぶか両手と首を振るミライにフェレアさんはくすりと笑った。


「……確認なんだけど、フェレアさんって人工知能、なんだよね?」


 俺が言い終わるや否や、フェレアさんはコップを勢い良く、音をたててテーブルに置いた。


「その呼び方は好きません。私たちはこちら側の世界に生きる者たちを情報生命体と呼んでいます。あなたも、私たちのことはそう呼んでくださいね?」


 にこりと笑うフェレアさんから鬼気迫るオーラを俺は感じ取っていた。もしかしたら『人工』――人に作られたという意味合いが入っているのが気にくわないのかも知れない。そんな彼女の脅迫……あ、いや、お願いに俺はこくこくと素直に頷いた。


「……ふぅ。それにしてもまさかあなたたちが向こう側の世界の住人だったとは思いませんでした。……私たちと姿は変わらないのですね。見分けがつきません」


 って、フェレアさんは人間をどんな風に思ってたの!?


「なんだか実感は薄いんだけどね。ここがゲームの中だって感じしないし」


 ミヤの言葉にフェレアさんは白い液体を見つめた。


「『ワールドマスター』、ですか……。ふふふ、そうですね。あなたたち人間からすれば確かにここはそのゲームの中、ということになるのでしょう」


 それは言外に『だが私たちにとっては違う』という意味を含んでいた。

 そりゃそうだろう……人工知能……いや情報生命体たちにとっては紛れもなくここは現実なのだ。ここに住み、ここで学び、生活するこの世界は彼女にとって紛れもない現実だ。


「フェレアさん。例えばの話だけど、俺がフェレアさんを殺したらどうなるの? またどこかに出現ポップしたりするの?」


 その問いにフェレアさんは顔をしかめて俺のおでこをぺちりと叩いた。


「死ぬに決まっています。私たちの生は一度きりです。あなたたちは向こう側の世界に肉体と魂がありますが、私の肉体と魂は今この世界この場に存在するのですから」


 ですよねー。な、なんてゲームを創りやがる〈黒ウサギ〉たん……。色んな意味でリアルすぎてもうこれは本当に異世界と言っていいレベルの出来ですがっ!?

 っていうか……そもそも〈黒ウサギ〉はこの世界をゲームのために作ってたのか? ……もしかして〈黒ウサギ〉は『ワールドマスター』に何かしら別の意図を込めてるのかなぁ?


「まあ、簡単に殺されるつもりはないですけどね」とフェレアさんが鞘に手をかける。


「ストーップ! フェレアさんと戦うつもりはないってば!」


 今までの動きを見て察するにこの人、かなり強い。今の俺たちのレベルじゃ五人がかりでも簡単にあの世逝きにできるだろうぐらいに強い。


「ねえ、フェレアさん。どうして戦争が起こっているの?」


 ミライのいきなりな質問にフェリアさんは眼を閉じ、まるで酒でも煽るようにホットミルクを喉へ一気に流し込む。そして、ほぅ、と熱い吐息を吐いた。


「…………。順を追ってお話しましょう」


 フェリアさんはぽつぽつとこの世界の歴史を話し始めた。


「まず、この世界を含め、様々な閉ざされた異世界があったんです。その数は私たちも把握していませんが、その世界一つ一つが独自の文明を築き、文化や技術を生み、繁栄していました……ですがある日、異世界と異世界を繋ぐ扉が開いたのです」


「《ゲート》、ね」とナーガが指摘する。


「お、驚きましたね。人間の世界にも《ゲート》があるのですか? だとしたら一度、人間が住む世界を見て回りたいものです」


「にひひ、現実の世界にはないよん。『ワールドマスター』を始める時に、そういうナレーションがあったんだぁよ。《ゲート》が出現したことによって異世界に渡れるようになったーってさ」


 俺は世界観設定をスキップしたがちゃんと聞いたらしいナーガとトラはその設定をしっかり記憶していたらしい。この二人、ほんと頼りになるわー。頼っちゃうわー。


「《ゲート》はどこからでも好きな異世界に行けるわけじゃないんです。異世界に行くにはある世界を必ず通らなければなりません。そのある世界というのが……ここ【はじまりの世界】なんです。だから【はじまりの世界】は様々な異世界の中心地と言われています。そのことが……【はじまりの世界】の悲劇だったんです」



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