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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR3  『息衝く異世界プログラム』
25/109

第一話 『異世界冒険者』

《バンデット》の一人が肩をすくめ、俺たちの言いたいことを代弁してくれる。


「どこからも何もチュートリアルからに決まってるだろ」


「……チュートリアル? 聞いたことがない村ですね。どの地方にある村なのですか?」


 …………おかしい。どうも話が噛み合っていない気がする。

 俺が感じたのと同じようにナーガも違和感を持ったらしい。親指を唇に押し当て目線を下にしていた。

 鋭い眼光がおさまらない金髪の彼女に、ソーマは敵対心がないことを示すため剣を鞘に収めた。そして友好的な笑みで彼女へと歩みでる。


「俺は〈ソーマ〉。《ホワイトフォース》というサイバーセルズのリーダーをしている者だ。俺たちはさっきチュートリアルを終えたばかりなんだが……キミはこの辺りをもう探索したのか?」


 だがすぐにソーマの足は止まった。彼女がソーマを制止させるように剣の切っ先を突きつけたのだ。それ以上近寄るな、という警告だろう。

 彼女は美しく整った眉を曲げる。なんだか彼女の疑念が大きくなってる気がする……。


「さいばーせるず? チュートリアルを終えた? あなたは一体、何の話をしているのです。《ホワイトフォース》というのは組織の名前ですか? 耳にしたことはありませんが」


《ホワイトフォース》はCSNゲーム界で多少名前が通っているらしいのに、耳にしたことがないなんて言われ、ソーマはショックを隠せないようだった。

 彼の薄い苦笑いが悲しみを誘っちゃうね。頑張れ、ソーマっち。有名セルズになるまでの道のりは険しく遠いのだ……。

 まあ、もっとも――と俺はすっと眼を細め、金髪の女性を観察する。

 ――彼女はどのサイバーセルズの名前も知らない可能性があるけどな……。


「ここはどこなんだ? お前は知ってるのか? てか、お前さ、なんで名前を非表示に設定してるんだよ。なんて名前なんだ?」

《バンデット》の男から質問が彼女に飛ぶ。

 おおっ、いいぞ、山賊さん! よくぞ彼女の名前を訊いてくれた! よぉし、お兄さん、ちゃんと彼女の名前を覚えてお近づきになっちゃうぞぅ!


「ジョルトー国バガン領にあるクノッソという小村です。あなたたちこそ何者です?」


 ……どうやら名乗る気は無いらしい。……どうしてこんなに警戒されてんの?

 しっかし、クノッソだっけ? ……どうしたもんか。もうすでに国名からしてじぇーんじぇんわからん。地図がないことには現状把握も難しそうなレベルだよね。


「世界地図はあるかしら」と狙ったようなこの質問はナーガからだ。


「せ、世界地図、ですって? 何を馬鹿なことを……。あなたたちの質問はさきほどから要領を得ないものばかりですね……」


 俺たちは顔を見合わせた。やはり、おかしい。彼女は……本当にプレイヤーなのか?

 さっきからまるでこの世界の住人だとでも言うような口ぶりだ。

 もしかしてなりきり(ロール)プレイでもしてたりするんだろうか……。

 にしては妙なリアリティがあるというか、真に迫るものがあるというか……。彼女の中で創り込まれた設定でも存在しているのかなー? ……その割に彼女は真剣そのものだし、この場所で抜剣してる彼らに対して本当に怒ってる感じだ。

 頭の中で考えが二転三転しちゃって俺も考えがまとまらないけど、うーむ、やっぱり彼女は……。

 そうこうしていると、がやがやと金髪の女性の後ろ――教会の外に人だかりが出来始めていた。「何者だ?」「見たことない顔ばかりだ」「いつの間に村へ入り込んだんだ?」と話し合っている。

 彼らの俺たちを見る目はよそ者に向ける眼差しだった。

 おいおい、俺たちは動物園のパンダじゃないんだぞぅ! なんだか武器をチラつかせている怖いお兄さんたちも集まってきてるしー! ちょっとヤバいんじゃないの!?

 外の様子を眼の端で捕らえながらナーガは慎重に言葉を紡ぐ。


「私たちに戦闘の意志はないわ。剣を収めて頂戴」


「剣を収めるかどうかは私が決めます。見たところ旅人……にしては軽装ですね……あなたたちは教会に物乞いにでもきたのですか?」


 おかしいよ!? これは絶対におかしいよ!?

 ……俺たちがいるのは『ワールドマスター』のゲーム内であってるよな!? これって間違いなくCSNゲームだよな!? なんなんだ、この『マジで異世界に漂着しちゃいました』みたいな展開は……! もし彼女がNPCなら普通はもっと説明的だったり旅人(プレイヤー)に対して親切だったりするもんじゃないのか!?

 俺たちが戸惑い考えていると、ついに《バンデット》の男が痺れを切らした。


「やいっ、てめぇ! 何のお遊びか知らねぇけどな! こっちはさっさとレベル上げがしたいんだよ! 頂上決戦はもう始まってんだ! こちとらてめぇらのくっだらねぇ妄想に付き合ってる暇はねぇんだよっ!」


 彼はずんずんと出口へ、彼女に詰め寄っていき――足払いされて床に転倒した。

 おー、見事な生足……じゃなく早業だ。型がある構えや筋の通った動きからして武の心得があるのは間違いないだろう。それも相当な手だれっぽい。転倒した《バンデット》の眼前に剣を突きつける彼女の凛々しい姿には俺の高鳴る胸も爆発寸前ですよ。


「何者か分からない輩を放置する訳にはいきません。話が終わるまでここにいて下さい」


「ふざけやがって!!」


《バンデット》の男が剣に手をかけたのと同時に、金髪の女性の後ろで俺たちを睨みつけている怖いお兄さん四人がそれぞれの武器に手をやった。


「待ちなさいッ!」


 ナーガの有無を言わさぬ声が《バンデット》の男と怖いお兄さんたちの動きを止める。

 まさに一触即発だった。

 誰かが少しでも妙な動きをすれば間違いなく戦いが始まる。

 こんな益も主張もない戦いなんて俺はごめんだね。

 俺はこそこそと隠れようとして、ミヤに首根っこを掴まれた。

 いやぁーん! ミヤちんってばいけずー!

 場を支配する重い空気に、教会の外に集まっていた人々が顔色を変え始めた。


「フェ、フェレア様っ! こいつら危険だぜ! きっと略奪しに来たんだ!」


 フェレアという名前らしい金髪の女性は《バンデット》の男に剣を突きつけたまま、視線をナーガへと注いだ。どうやら《バンデット》の男や、ソーマっちでは話にならないと思ったらしい。

 良い判断だ。交渉、仲介、論議といった話術を駆使する事柄はナーガの得意分野だ。

 きっとフェレアさんはナーガの冷静な佇まいを見てそれを見抜いたんだろう。


「フェレア様。こいつら怪しいにも程があります。全員を捕縛すべきかと」


 怖いお兄さんの一人、槍を構えた男がじりっと前に出た。


「ラーディハルトさん、村の人たちを家の中へ。彼女らとは私が話をします」


 ラーディハルト――槍を構えていた男は俺たちを一睨みすると集まった野次馬たちを追い払っていく。残ったのは武器を持つ怖いお兄さんたちだけだった。

 ナーガはゆっくりと言葉を選んでつむぎだした。


「改めて名乗らせて貰おうかしら。私の名前はナーガよ。さっきも言ったのだけれど、私たちは騒ぎを起こすつもりはないわ。剣を収めて頂戴」


「私はフェレア=レイアスです。この――」


 そこで彼女は言葉を一旦飲み込んだ。


「――この村の警護団長をしております。ナーガ、剣を収めることはできません。あなたたちが私たちにとって害がないと分かるまでは」


「そう。ならその状態で構わないから聞いて頂戴。私たちは『ワールドマスター』というCSNゲームのプレイヤーよ。私が言っている意味、分かるかしら?」


「…………。……いえ。ワールドマスターという遊戯は聞いたこともありません」


 どうやらナーガは共通認識のある項目を探っているらしい。

 そのことをフェレアさんも理解しているらしく、素直に返答していた。


「…………。じゃあ――私たちは現実の世界からきた人間よ。これは……伝わるかしら」


 その言葉にフェレアさんや怖いお兄さんたちが驚いたように眼を見開く。

 彼女は《バンデット》を、《ホワイトホース》を、そして俺たちを順に見やった。


「まさか……そんなっ……あなたたちは――あなたたちが“人間”――だと言うのですかっ……!?」


 彼女のその台詞は、彼女らが人間でないことを示していた。

 確定的、だった。間違いないだろう。

 やってくれるじゃん、〈黒ウサギ〉たんめ。

 ゲームにこんな仕掛けを施してるなんて……。

 つまりこういうことだ。

 フェレアさんも怖い顔したお兄さんたちも、さっきの野次馬たちも、彼、彼女ら一人一人が――この・・ワールドマスター・・・・・・・・という世界で・・・・・・生きている・・・・・人工知能なのだ・・・・・・・

 ……職業『異世界冒険者』とは体よく与えられた呼び名だ。まさにここは俺たち人類の知らない国、文化、技術、生活、歴史、宗教、種族で成り立つ未知の世界――まさに異世界……!

 人類の誰も知らない未踏の地にして、今、俺たちが目の前にしている相手はっ……地球に住まう俺たち人類とはまた別の、”知能を持った存在”ってことじゃないか……!

 こんな……たかがゲームそのものが俺たちが住まう別の世界を構築してるっていうのかよ……!!



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