第七話 『【チュートリアルの世界】を出れば敵として戦うことになる者たち』
やれやれ、あんだけ【二つ名持ち】がいれば大丈夫だろう……。なんとか助かったようだし後はあいつらに任せて俺はさがろう……。
四つん這いで静かに仲間たちの元へ俺は戻る。
「あ、あんた……よくドラゴンの攻撃を避けられたわね……」
「ふっふっふ、惚れ直しただろ、ミヤちん。まあ、俺が本気を出せばソロであんなドラゴン倒せるよねー。マジ秒殺だよねー。でも今はあいつらに花を持たせてやる、みたいな?」
「うざ」とミヤちんは顔を横に背け、端的に心情を言葉にした。
ふふふ、ツンデレさんめ。もうそろそろ俺にメロメロになってるくせに……。
「すっごーい! さすがはまぁくんだねっ! かっくいぃー!」
「こらこらはしゃぐのはやめたまえ、ミライくん。照れるじゃないか、はっはっは。ま、〈エクスカリバー〉も頑張ってると思うがまだまだ俺の足元にも及ばないかなぁ~」
と、その時だった。
背後から俺の肩を掴む輩がいた。
誰だろうと振り返ると、そこにはなぜか英雄の〈エクスカリバー〉様が立ってらっしゃった。
って、なんで〈エクスカリバー〉さん俺のところまで来てんのぉ!?
「ほう、面白い。そこまで言うならその力を見せてもらおうじゃないか、無名。……すまんな、キミたち。彼を借りていくぞ」
「「「どうぞどうぞ」」」
ミライ、トラ、ミヤが両手で俺を差しだした。
三人の了承を得ると、その細身とは思えない力で〈エクスカリバー〉がずりずりと俺を死地へ引きずっていく。
「ひぃいっ! ひ、引っ張らないでぇ! 俺は戦いたくなぁーいっ!! 痛いの嫌ですぅう! 調子乗ってすいませんでしたああぁ! マジで力になれませんからぁ! 俺なんてホント底辺を這いつくばってる汚くて醜い豚なんです! ウジ虫なんです! クズだの馬鹿だのと罵って頂いて結構でございますしその通りでございますからぁ!! ほんと生きてることが皆様にとって誠にご迷惑だと常日頃から思っておりましてぇえええ!!」
じたばた暴れる俺にミライたちは「いってらっしゃーい」と手を振っていた。
この裏切り者どもめぇ! 有名人の威光に気圧されやがってぇえ! 生命保護機能が働いてるとはいえ痛いものは痛いんだぞぉ!? 攻撃を受けたら死ぬほど痛いんだぞぉお!?
「これだけの有名プレイヤーが集結しているんだ。名を挙げる絶好の機会だぞ、無名。こんなに楽しい場面で戦わないのはもったいないと思わないのか」
「俺は名誉なんか欲しくなぁあああい!! 無名の俺は引っ込んでますぅう!」
「往生際が悪いッ! 俺たちに力を貸すか、ドラゴンと戦うかどっちがいい!?」
〈エクスカリバー〉は白刃を俺の首筋に添えた。
ひぃっ! 〈エクスカリバー〉さん、ちょー怖いんですけどぉ! そんな人でしたっけぇ!? ってかその選択肢意味ないッス!
「はい! あなたに力を貸し戦いますっ!!」と俺は背筋をしゃんと伸ばして敬礼した。
するとなぜだろうか〈エクスカリバー〉は本当に嬉しそうに口を笑みにした。
硬く握った拳を俺の胸にどんっとぶつける。
「――よく……戻ってきたな」
「はえ? 今、なんて?」と俺は眼をぱちくりさせた。
「ドラゴンを倒すぞ、と言ったんだ! いくぞ、無名ッ!!」
俺の返答も聞かずに〈エクスカリバー〉は大剣を構えてドラゴンへと駆けだす。
ドラゴンの周囲は大混戦となっていた。
戦っている者たちの名前を見るとやはり昔ながらの熟練プレイヤーや、【二つ名持ち】が多い。
だがドラゴンに挑もうとしている数は全体のプレイヤーからするとほんの一握り――決して多くない。
〈エクスカリバー〉の発破かけでも勇気がだせず踏み足している者が大半だった。
なにせ即死級のダメージだ。どんな痛みが身を襲うとも知れない。
二の足を踏むのは常人ならば当然といえる。
それでも――!
名だたる猛者たちがドラゴンへと集結していく――!
その光景に俺は震える右手を拳に変えた。
間違いない。
ドラゴンの周囲にいるのは命をかけてるほどのゲーム馬鹿ばっかりだ。
逆境になればなるほど楽しくなり、自分の限界を引きあげ、意地でも前に進もうと、『攻略』という栄光を掴もうとする者たちのフィールドと化していた。
おそらく――二度と無い共闘。
これは【チュートリアルの世界】を出れば敵として戦うことになる者たちとの、二度と無い共闘だ――!
そのことを自覚すると、お笑いキャラをモットーとしている俺でさえ柄にも無く胸が熱くなってしまう。
否応なしに脳からアドレナリンが放出されてしまう。
ははは、たしかに〈エクスカリバー〉の言うとおりだ。
……この戦いを傍観するだけっていうのはもったいないじゃないか!
俺もあいつらにならって少し熱血漢になっちゃうとするか……!
自然に口元が笑みに裂けてしまう。久しぶりの刺激に心が躍る。
もしかしたら俺は心の底でこんな状況を、こんな刺激を求めていたのかも知れない。
俺は左手に持つ剣を握りなおすと、死の風が吹き荒れる戦場へと地を蹴った――!
「うおおぉおぉおおぉおッ! ――たぁッ!!」
象の胴体より遥かに太いドラゴンの足へ俺は下段からすくい上げる斬撃を繰りだす!
ギィンッ、と小気味の良い音をたてて鱗に剣筋がつき――剣が真っ二つに折れる。
その結果に思わず爆笑しそうになった。
他プレイヤーの攻撃も硬い鱗に弾かれているようで、折れた刃先がくるくると宙を舞う。
「あぁん!? なんだこりゃッ! おい、そこのッ、ダメージは!?」
鱗に弾かれ俺の近くに着地した黒眼帯の傭兵――“螺旋”の〈ヘリックス〉が緊迫した声をあげた。
「効いてるようには見えない! はははっ、こいつ鱗が硬すぎるな!」と俺は応える。
すると丸い片眼鏡をかけた魔導師――“聖職者”の〈ヨハン〉が俺たちの背後に立つ。
「やれやれ。笑い事じゃありませんよ。……HPが空になるまで戦い続けろ、ですか……。ドラゴンのHPが空になるまで小さなダメージを蓄積させろ、とでもいうんですかね。ふざけた話ですよ。……ですが、それが望みだというのならっ、やってやりますよ――!!」
〈ヨハン〉が俺と〈ヘリックス〉に手を向けた。
何らかの強化魔法をかけたらしく緑の光芒が俺たちを照らす。
視界の隅にアイコンが灯る。内容を見ると速度強化だった。
「応ともよ! “人類への挑戦状”っつーなら、これぐらいでないと、なッ――!!」
〈ヘリックス〉は螺旋を描く黒槍を頭上で回転させ、再びドラゴンへ突っ走っていく。
まったく――ほんと愛してるよ、お前ら――!!
俺もまた眼帯の傭兵に続いて、ドラゴンへと地を蹴った――!
魔法や矢、銃弾があちらこちらから乱れ飛び、ドラゴンの胴体へと直撃していた。
しかし、ドラゴンは動じることさえなく、近くにいる熟練プレイヤーたちに腕を振るう。
ほとんどの熟練プレイヤーがその一撃で空中に吹っ飛ばされる中、少数の【二つ名持ち】プレイヤーだけが回避行動を取り――生き残っていく。
果敢に挑んでいくプレイヤーの数がどんどんと減っていっても尚、俺たちはドラゴンに物怖じせず、ダメージを累積させるため地を駆けていく。
俺たちが戦う様子を離れたところから戦闘に加わっていないプレイヤーたちはただただ見ていた。竜巻のように繰りだされるドラゴンの両腕に近づくことさえできず、見ていることしかできなかった。
「し、信じられねぇ! 信じられないほどの馬鹿たちだっ! なんなんだよ、あいつらっ……! マジであのドラゴンに勝つ気かよっ……! どれだけあるか分かりもしないHPを――最後まで削りきるつもりかよ!」
「「「当たり前だ――ッ!!」」」
俺を含めたドラゴンに果敢に挑んでいるプレイヤーが同時に叫んでいた。
だが状況は芳しくなかった。
俺も紙一重でドラゴンの攻撃を交わしつつ、ドラゴンに攻撃を加えてはいるもののやはり細かな傷がつくだけだ。散りも積もれば山となるとは言うものの、ドラゴンは微動だにしていない。
これじゃあラチがあかないってのっ! 攻略法だッ! 早いとこ攻略法を見つけないと――!




