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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR2 『無情なるチュートリアルプログラム』
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第六話 『最強のプレイヤー』

 自分でも、肩から服がずり落ちるのが分かった。

 全プレイヤーの眼が点になった貴重な瞬間だった。

 ……前言撤回。愚考だったわ。セイギくんがあの人なわけないわね……。


「…………ねえ、トラ。あれがあんたの言う世界最強のプレイヤーなの?」


 惜しげもなく地面に平伏するセイギくんを指差して、ミヤはジト眼でトラくんに問う。

 これにはトラくんもぽりぽりと頬を掻くしかないようだった。


「に、にひひ。俺の勘違いだったみたいー……」



   ◇◇◇



 フッ、俺の見事な土下座にみんなびっくりしてるようだな。

 これでドラゴンの怒りもおさまることだろう。きっとみんなから惜しみのない拍手が送られ、俺は村を救った英雄として空高く胴上げをされるに違いない。

 と、俺が顔をゆっくり上げると――


「シャゲゴォオオォォオオォオオォッ!!」


 怒り有頂天バーニングハート!?

 ドラゴンさんは俺に向かって惜しみのない怒号を放っていた。

 むしろ逆効果!? ギャグ効果では逆効果だったなんちゃってな、ギャグ効果だけに……ぷふっ。

 こんな時でも笑いを忘れない俺の冴え渡るセンスが憎らしいぜ……あれ、ドラゴンさん? 腕なんか振り上げてどうし――ってげぇええぇっ!!

 何の戸惑いもなく振り下ろされてきた豪腕を俺は横に体を転がして寸での所で回避する。


 ズドォオォオォンッ!!


 地面が揺れ、土煙が広がる。

 ドラゴンの爪は俺のすぐ近く――一メートルもない距離を深く穿っていた。

 あ、あっぶなっ……! もうちょっと気づくの遅かったらぺしゃんこだったぞっ……!

 どっくんどっくんと心臓が高鳴っていた。一気に脂汗が背中に噴きでてくるのを感じる。


「よ、避けた……? あ、あのドラゴンの攻撃を……? 正座した体勢から? ほ、本当は凄い奴なの……か? そうは見えないけど……」


「い、いやマグレだろ……? だ、だって見たこと無い名前のプレイヤーだぞ……?」


 戸惑いの声が周りから聞こえてくる。

 ふふふ、棚からぼた餅だがこれはカッコつけるチャンスじゃないか!

 俺はここぞとばかりにゆらりと立ち上がり、胸を張った。


「はっはっは、見たか! これぞその昔、『東洋の魔女』と呼ばれた魔女結社が敵の魔法を反射させるために編み出した『回転レシーブ』に俺の類まれな素質と一六年の研究というエッセンスを加えた新たな回避法……! 名づけて“正座ローリング”!! はーっはっは!」


「セイギくーん、合ってるのは単語だけで内容は全部間違ってるよー!」


「ただ転がっただけのことをよくあそこまで大袈裟に言えるわね」


 俺の稜々たる口上にトラとミヤは冷静にツッコミを入れていた。

 えぇい、うるさい、やつらめ! 気持ちよくカッコつけているのに水を差すなっ!

 気を取り直し、改めて俺は口の端を笑みに歪める。


「フッ、残念だったな、偉大なるドラゴン族の一人よ。俺にこの技術がある限り貴様は俺を倒すことはでき――」


 俺の台詞はまだ途中なのに聞く耳を持たず再びドラゴンが腕を振るってくるぅう!?

 俺は命からがらヘッドスライディング気味に地面を滑って二撃目も回避する。


「ま、また避けた……! あいつ、ドラゴンの攻撃が見えてるのか!?」


 どよめくプレイヤーたち。攻撃を二度も避けたことでドラゴンの眼に苛立ちが灯る。


「ぜぇ……ぜぇ、や、やるじゃないか、偉大なるドラゴン族よ。だが今日はこれぐらいで矛を収めたらどうだ? お互い痛みわけという形にしようじゃないか……。でなければお前はッ……!! 俺の血で真っ赤に染まることになるぞッ……!」


「って、あんたの返り血かよっ!」とミヤちんが律儀に指摘してくれていた。


 残念なことに俺とドラゴンの和平協定が結ばれることはなかった。ドラゴンは攻撃を止めるつもりはないらしく、次から次に俺めがけて両腕を振るう。


「ひぃいぃ!? ふっ、まだまだ――ちょっ! やめっ! うおっマジあっぶねぇ!! らめぇえ!! す、すいませんでしたぁあ!! だっ、誰かっ! お助けえええぇえ!」


 そのことごとくを紙一重で避けながら俺は恥も外聞も無く叫びだす。

 刹那――俺の呼びかけに応えるが如く分厚い白刃が閃く――!


 ジャギィイイィンッ!!


 振り下ろされたドラゴンの指を斬りつけ、俺の前に着地する影。

 俺とドラゴンの火花を散らす激闘へ乱入してきた男の背中を俺は荒い息をしながら見やった。

 身の丈は一七〇半ば、白銀に輝く鎧、肩まである金色の髪――その背中は勇ましく、後光が差すかのように輝いていた――

 すぐに彼の名前が俺の視界に表示される。

 その名に俺は見覚えがあった。どうやらまともに戦えそうな奴がきてくれたらしい。


「エ、〈エクスカリバー〉だ――ッ!!」


 誰かが、その名を――CSNゲーム界であまりに有名な名を叫んだ。


「で、でやがった……!! 現在最強のプレイヤー……ッ! あ、あいつはっ……《七雄剣》のセルズリーダー“聖剣”の〈エクスカリバー〉だぁああぁああッ!!」


「うぉおおお、〈エクスカリバー〉!! ドラゴンなんかやっちまえぇええ!!」


 どよどよとしたざわめきと、「頑張れ!」「ドラゴンを倒せ!」と期待が込められた歓声が離れた所で見ていたプレイヤーたちから巻き起こる。

 真打の登場でプレイヤーたちは一気にヒートアップしていた。

 おー、相変わらず絶大な人気だ。まさに英雄ってやつだな。ちっ、恨めしい奴め……。

《七雄剣》――《ディカイオシュネ》が無き今、もっとも王者に近いセルズの名前だった。

 伝説の剣の名を冠した七人の幹部、そのリーダーである“聖剣”の〈エクスカリバー〉の腕を疑う者はいない。名実共に現在最強のプレイヤー、それが俺の前に立つ男だった。

〈エクスカリバー〉が身の丈はあろうかというその大幅の両手剣を構え、ドラゴンを見据える。

〈エクスカリバー〉から発せられる雰囲気は常人を逸脱していた。

 まるでファンタジー世界に登場するような本物の武人――本物の英雄。それがドラゴンにも分かるのだろう。攻撃の手を休めドラゴンは〈エクスカリバー〉の様子を伺っていた。

 ドラゴンの〈エクスカリバー〉を見る瞳は崇高な知性が見て取れる。

 何かを思考しているようなドラゴンの様子に俺は確信した。

 あのドラゴンには知能が宿っている。自分の眼で見て、自分でどう行動するか考え……判断している。

 張り詰める緊張感を物ともせず、〈エクスカリバー〉の隣に六人のプレイヤーがやってきた。

 中央に立つ〈エクスカリバー〉を含め……全員で、七人。

 その七人が一列に、ドラゴンの前へと立ち並ぶ。


「う、嘘だろっ! “炎剣”の〈レーヴァテイン〉と“水晶剣”の〈バルムンク〉も……! いや全員だ――し、七剣が……《七雄剣》の幹部が全員集合してやがるっ!」


 それぞれの剣を抜いた七人のプレイヤーに周囲の驚きが増していく。

 騒がしくなったプレイヤーたちを制するように〈エクスカリバー〉が大声を張り上げ【叫ぶ】。


『聴けぇっ、『ワールドマスター』に集いし全プレイヤーよッ! 今はまだ失うものなどないだろうッ! 逃げたところで殺されるのが後か先かの違いだけだッ! どうせ殺されるのなら戦って死ねッ! 1のダメージでも与えてから死ねッ! 死を畏れるなッ! 武勲を挙げられぬことを怖れろッ!! 今こそッ名を売る好機と心得ろおぉおッ!!』


〈エクスカリバー〉の発破かけに反応した者たちがいた。

 逃げ惑っていたプレイヤーたちが意を決すると武器を掲げ、咆哮をあげる。

 その雄叫びを耳にして〈エクスカリバー〉はフッと微かに笑った。


『さあ、《七雄剣》の猛者たちよッ!! 自身となる剣でその意志を示せッ! 決して振り向くなッ! 攻略するのは俺たちだッ! 前へ――進めええええええぇえッ!!』


 するといつの間に待機していたのだろうか、俺の後ろから《七雄剣》のメンバーたちが喊声をあげてドラゴンへと疾駆していく!

 ――いや、ドラゴンへと駆けだしたのは《七雄剣》だけじゃなかった。


『ハッハァッ! テメェらだけにカッコつけさせてたまるかよッ! おらぁ、《螺旋の騎士》どもォ!! 《七雄剣》なんかに遅れをとるんじゃねぇ!! どっちが最強かハッキリクッキリキッパリ見せつけてやれやあぁッ!!』


 そう叫んだのは黒の眼帯で片目を塞いだ傭兵姿の男だった。ドリルのような黒槍を天に向け掲げている。

 その背後に並んだ荒々しい傭兵軍団――《螺旋の騎士》らも《七雄剣》に負けじとドラゴンへと駆けてゆく――!


「ら、“螺旋”の〈ヘリックス〉だ……!! 《七雄剣》と王者争いしてる《螺旋の騎士》たちもきやがったああぁあ!!」


『やれやれ……まったく、あなたたちは暑苦しくて構いませんね。戦いとは智でもってスマートに行うものですよ。ですが、逃げていても仕方がないというのには同意しますよッ!

 我が《ローゼンクロイツ》が頭脳たちよッ! 今こそ我らが名を轟かせましょうッ!! 反射神経馬鹿にできない戦いを魅せてあげるのですッ! そう、スマートにねッ!!』


 その【叫び】が聞こえた方向を見ると、そこには丸い片眼鏡をかけた魔導師姿の男。

 おぉ、ありゃ“聖職者”の〈ヨハン〉じゃないか。相変わらずキザだねぇ……。

 口上合戦はそれだけに留まらなかった。


『ふふっ、あなたも先の熱血漢たちと同じようなものでしょう、〈ヨハン〉さん! このような晴れの舞台にわたくしを忘れてもらっては困りますわっ!

 《四天女》が一人、“扇天”の〈麗春〉――華麗に美しく、推して参りますわっ!』


 ナイスバデーの肢体に透け透けの衣をまとった女性――“扇天”の〈麗春〉が両手に持つ大きな扇を広げドラゴンへと軽やかに跳躍した。その空を舞う姿はまさしく天女様のようだ。しかし、ドラゴンへと果敢に挑んでいくその姿はちょー勇ましい。まあ、そこがいいんだけど。

 あちらからこちらから次々に名乗りが挙がり、ドラゴンへと挑んでいく猛者たちに多くのプレイヤーが言葉を無くしていた。


「す、すげぇ……! 信じられない光景だ……! あっちもこっちも【二つ名持ち】プレイヤーばっかりじゃねぇか……!! うわ、《鉄鋼連合》の“鋼鉄王”までいやがるよっ……! 各CSNの大手セルズがっ、有名プレイヤーがっ……本当に『ワールドマスター』に集結してるんだ……!! 俺はこの光景を見れただけでここにきた甲斐があったと思えるよ……!」


 そうそうたる懐かしい顔ぶれだなー。二年経ってもあの人ら全然変わってないのなー。天女のお姉様も相変わらずおっぱい透けてゲホンゲフン……元気そうで何よりです。

 男なら華麗な扇捌きよりも透けるおっぱいに眼がいってしまうのは仕方がないことだよね!

 しばらく有名人祭りを眺めていると、手をメガホンにしたトラが後ろから声をあげた。


「にひひ、セイギくーん! セイギくんも名乗りをあげた方がいいんじゃないのー!?」


 アホかっ! そんなことしたらドラゴンほっぽってみんな俺を殺しにくるっての!



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