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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR2 『無情なるチュートリアルプログラム』
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第四話 『攻略はもう始まっている』

 

「んでー? セイギくんはなんにするのー?」


「戦い方にこだわりはないけどさ。前衛がミヤ一人だと厳しいだろうから、俺も前衛にしようと思ってるよ。とりあえず【剣術】と【拳術】スキルを使っていこうかなぁー」


「にひひ、適材適所、だねぇ」とトラは満足そうに笑っていた。


 NPCで武器を剣に変更してみる。

 左手に持った剣で【カカシ】を切りつけ、身体を捻り、返す右拳で【カカシ】の顔面を殴り飛ばす。

 殴られた反動で【カカシ】がぐらぐらと左右に揺れていた。

 斬撃と打撃の連携と使い分け、うん、これはケッコー面白いかもしれない。

 その後【カカシ】を殴って分かったことは『ワールドマスター』の戦闘にターゲットはないということだった。武器自体に攻撃判定があるようなものだ。その攻撃判定を振るうことで、対象に当たればダメージが入っているらしい。

 要するに現実と変わらない。誤って味方を攻撃してしまうことも想定された。

 また、上段からの攻撃と下段からの攻撃、勢いをつけた攻撃など、微細なほど威力設定がされているらしく、これも現実の物理法則と同じだった。

 やたらめったらに剣を振るっても威力は弱い。しっかりと力の乗せた武器の振るい方をすれば威力は増しているようだった。

 加えて【溜め】の概念も存在していた。

 力を込める時間をかければかけるほど疲労は増すが一発のダメージが増加する仕様になっているようだ。

 今は何も技を覚えていないので技の仕様を調べられないが、きっと通常攻撃とは違うシステム体系になっているんじゃないだろうか。


「や、やっと追いついた……。もぉー、ひどいよ、まぁくん。わたしを放っていくなんて幼馴染にあるまじき行為だよー」


「えぇい、幼馴染じゃないと何度言えば分かるんだっ。それと、そろそろ『まぁくん』と呼ぶのはやめるんだ。一応この世界じゃ〈セイギ〉という高貴な名前だからな、ふふん」


「それじゃあセイくん? せぇちゃん?」


「好きに呼んでいいぞ。それよりミライはどういうスキルを成長させるのか考えてるのか?」


「うん! 私はこれだよっ、まぁくん!」


 ミライは「じゃじゃーん」と自分で言って、木の杖を取り出した。

 ファンタジーでよく魔法使いが持っているような、先がぐるっと渦になった木の杖だった。

 呼び方がもう『まぁくん』に戻ってしまっているのをあえて訂正すまい……。

 俺は悟ったね、無駄だと。


「わたしは運動とか苦手だし、戦うのも怖いからみんなの支援をしちゃうよっ」


「回復魔法や防御魔法、強化魔法を上げていくのね。意図せず良いPT構成になったわね」


「前衛二枚に、物理遠隔と魔導遠隔、それにヒーラー。にひひ、ガチPT完成だぁね」


 いやいや。ヒーラーなんて役割をミライに任せていいのか? この時点でこのPTは破綻してると思いますけど!?

 なぜならヒーラーはCSNゲームで一番難しい役割だったりする。

 後方支援を担当するヒーラーには状況を広く判断する視野が必要なのだ。

 ミリ秒の空間とはいえ敵との駆け引きに集中すればいい前衛とは話が違う。

 ヒーラーは敵の攻撃を見、仲間が取りこぼした攻撃に防御魔法で対応し、仲間のHPの減り具合を確認、全員のHPを管理し、切れかけている強化魔法をかけ直したりと実のところかなり忙しい。

 しかも『ワールドマスター』じゃHPが表示されてないことを考えるとさらに難易度は増し増し!

 敵の範囲攻撃の被害から戦線を維持させるためMPがすぐに空なんて事態もあるから、MPを無駄に使わずとっておく、なんて配分も考えたりしないといけない。

 その時の最良の選択を――冷静な取捨選択を常に迫られるヒーラーという重役を果たしてポンコツのミライができるだろうか、もちろん反語。できようはずがない、断言。


「わたしは会長だからねっ! みんなを守るよーっ! 守っちゃうよー!」


 だがやる気満々で杖を振り回しているミライにそんなことが言えるほど俺は冷徹に接することはできなかった。

 ……まあ……徐々に覚えさせればいいか。マイペースに動くつもりだったし。

 ゲームは楽しむことが第一だ。

 敵に殺されても『うわ、こいつ強すぎ』と爆笑できるのが真のゲーマーだと俺は思っている。

 うんうん、ミライたちが強くなるのを生暖かい眼で後ろから見守っていくとしよう。

 そうこうしているとミヤが俺たちのところに帰ってきた。

 今の今まで村の中を走り回っていたらしい。

 さすがに現実で人一倍に体力があるだろうミヤでも膝に手をやって肩で息をしていた。


「……はぁはぁ……どう? っ……スキル、決まった? ……ふぅ」


「あらあら、嫌だわ、ミヤったら。そんなに汗かき息乱していったい一人で何をしていたのかしら。もしかして木陰に隠れて自分で自分をなぐさ――」


「疾ってたのよっ! 見てたでしょうがっ!」


 さすがだよね、ナーガさん。バナナやキノコにさえ反応しそうな思春期具合だよね。


「メインにする武器の大まかな方向性が決まったところよ。実戦を試してみたいわね。きっと村を出れば敵がいるはずだわ。さっそく森の方へ行ってみましょう」


「モ、モンスターとの戦いだねっ。き、緊張するよっ」


「にひひ。五人PTだしチュートリアルゾーンのモンスターなら楽に狩れると思うよん」


 俺たちはわいのわいの言いながら移動を始める。

 しかし、俺たちの思惑に反して森の方から声が聞こえてきた。

 プレイヤーの声が一定範囲内に聞こえる【叫び】機能を使って話しているらしい。

 通常はあるアイテムを消費しないと【叫び】機能は使えないそうだが、【チュートリアルの世界】では情報交換も兼ねて誰でも何度でも使えるらしかった。

 果たして、その内容というのが――


『森の中にモンスターいないんだが、誰かモンスター見た人いる?』


 その問いに、別の方向の森から【叫び】が聞こえてくる。


『全然モンスター見つからないな。【チュートリアルの世界】にいないんじゃないか、これ』


 その会話に俺たちは足を止めて顔を見合わせた。


「森に入っても無駄なようね。それなら【チュートリアルの世界】から出ましょうか」


「にひひ。それには賛成だけど、どうやって【チュートリアルの世界】から出るんさ?」


 しん、と静まり返る俺たち。

 当然、トラの問いに答えられる者はいなかった。

 ……どうやら攻略はもう始まっている、ということのようだ。

 周りのプレイヤーがする会話に耳を傾けると、彼らも【チュートリアルの世界】から出る方法が分からないようだった。

 さすがに【カカシ】を殴り飽きた人も増えてきて【叫び】が連鎖し始める。


『チュートリアルから出る方法知ってる人いないのー? 俺ぁ早く敵と戦いんだけど』


『よし、俺と戦おうぜ!』


『お前、負けたらデータ消えるぞ……』


『対人戦より私は冒険をしたいんですが……。まさかチュートリアル以外未実装?』


『作ったのが人間嫌いの〈黒ウサギ〉たんだから有り得る!』


【叫び】を使った雑談ムードに陥りつつあるその時だった。


『ぎゃああああああああああああああ!! ……死んだ』


 男の絶叫が村の向こう――柵の外から聞こえてくる。俺は訝しげに聞き耳をたてる。


『なに今の絶叫……。もしかしてモンスターいたの?』


 村からの【叫び】に対して、絶叫が聞こえた方向から次々と【叫び】が返ってくる。


『あ、これ、ヤバい。お前ら逃げた方がいいかも』


『さすが〈黒ウサギ〉たん! チュートリアルさせる気ないな、これは!』


『いやこれ……マジでチュートリアルってレベルじゃないんだがうぼぉあっ!!』


『どうあがいても即死です本当にありがとうございました。これ無理だろおぉお! …………あ、村の方行ってる。お前ら逃げてぇえ超逃げてえええ!』


 ざわざわと村のプレイヤーたちがざわつき始める。

 それは俺たちも同じだった。俺の疑問を投げかける視線に、トラは肩をすくめてみせた。

 その時だった。

 地響きをたてて、何かが迫ってくる音がする。

 その危機感をつのらせる振動は【カカシ】たちを揺らし、あるいは倒してしまう。

 音の方――鬱蒼と生い茂る森へと視線をやると、木々がバキバキと倒れ、もうもうと土煙が天高く舞い上がっていた。

 まるで巨大な何かが凄い勢いでこちらに、村に迫ってきているような――


「よぉし、お前ら準備はいいかっ!! 俺は逃げる準備できてるぜ!」


「セイギくーん。逃げるにしてもせめて敵の姿を確認してから逃げようよー」


 仕方なく俺は身構え、臨戦態勢に入った。構えているのは俺たちだけじゃなかった。近くにいるプレイヤーたちも緊張した面持ちで武器を握り締め、土煙のあがる森を見つめている。

 村にいる何千人――何万人というプレイヤーが緊張と期待を胸に、初めての戦闘を待つ。

 そして、ついにソレは木々から飛びだし姿を現した。

 おお、でかい。

 いや、でかいなんてもんじゃない。

 大きさだけで言うなら俺たちプレイヤーの二〇倍――九階建てのビルぐらいはある。

 森から飛び立ったソレは、大きな六枚の翼をめい一杯に羽ばたかせ、アリの群れのような俺たちを見下ろしていた。

 その姿が太陽と重なり、村に大きな影を作りだす。

 黒の鱗がテラテラと反射しているのを見て、最初、俺はそれがヘビかトカゲかと思った。

 ――だが違う。

 ヘビやトカゲは翼を持たない、決して飛行したりはしない。

 大空を羽ばたくソレは長い首をうねるように天に掲げ、咆哮する――


「シャゲゴォオオォオオオォォォオオッ――ッ!!」


 ビリビリと鼓膜が震え、思わず耳を塞ぐ。

 その心臓に悪い大音量にミライが声をあげ俺の背中へ隠れた。

 現われたソレはどう見てもドラゴンだった。

 それもラスボスだと言われても納得してしまうほどディティールの凝ったドラゴンだ。

 レベルを上げ、いくつもの困難をクリアし、ついぞ現われるような凶悪で巨大な姿をした世界を終焉たらしめるドラゴンだった。

 視界隅から急に『WARNING』の文字が流れ、その後に文章が続く。


【突発クエスト発生! No.001『チュートリアルドラゴン急襲!』 チュートリアルドラゴンのHPが空になるまで戦い続けろッ!】


「「「ンな馬鹿なああああああ!?」」」


 俺たちを含め、その世界にいたプレイヤー全員の絶叫が木霊した。



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