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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR2 『無情なるチュートリアルプログラム』
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第二話 『チュートリアルの世界』

 彼女の言葉に続くように虎雄――〈トラ〉が親指でくいっと小屋を指す。


「にひひ。他にも武器、食料、飲料を配布しているNPCがいたよん。色んな武器や魔導の種類を【チュートリアルの世界】では試せるみたいだぁね」


 トラもまた現実の虎雄と同一だった。

 服装はミリタリージャケットに、膝上のハーフパンツを履いている。黒と黄の線を帯びた虎柄だった。

 こいつ、なんだかんだでイメージデータ作ってたのか!

 にしてもトラ――か。

 いつもCSNゲームで虎雄が使っていた名前とは違っている。

 おそらく永森さんの件があるから空気を読み、わざわざ別の名前にしたのだろう。

 というか、今気づいた。ジャスティスの名前で登録してたら今頃俺たち修羅場だったじゃん!

 俺たち四人はこれからどうするか話し合おうと……あれ? 四人って少なくない?


「そういえば自称・幼馴染……もとい未来はどこだ? まだインしてないのか?」


 俺の問いに、トラとナーガは顔を見合わせて、同じ方向へ視線をやった。

 そちらの方から聞こえてくる明るいというか無邪気というか天真爛漫な声。


「へぇー、そうなんだっ! モンスターがっ? 戦うのっ? わたしが? そ、そんなの無理だよぉー! えー、そっかなー? えへへ、なんだか照れちゃうよ~」


 そこには決まった台詞しか言わないNPCの言葉に一喜一憂している未来さんの姿。

 俺は思わず地面にズサーとコケそうになってしまった。

 未来の感情表現が豊富なのが手伝って、遠目から見るとNPCと会話が成立しているよう見えるのが不思議だ。……現実で例えるなら、テレビと話している感じになるのかな?

 うわーっ、あいたたた、さっそくイタいことをしているのか、あいつは……。


「あ、まぁくん! この人、『ワールドマスター』のことよく知ってるよー! あれ? まぁくん、どこ行くの? えへへ、もうっ、強引なんだからぁー、あ、またねー!」


 俺に手を引っ張られながら未来は残った手を大きくNPCに振る。周りのプレイヤーがそんな未来にくすくすと笑っていた。

 くそ、どうしてこの俺まで恥をかかなきゃならんのだっ! その無駄に大きい胸でも揉んでやろうかっ! ……喜びそうだからやめとこう。


「うんうん! みんな無事にログインできたようだねっ! 会長は嬉しいよっ!」


 未来――〈ミライ〉はリーダーらしく両手を腰にあてて大きく頷いた。

 キャラクターデータをイジれることなど知らないのだろう、当然のようにミライも明日野未来の姿そのまんまであった。服装もミヤと同じく初期装備だ。ミライが純真な性格をしているせいか、白色の初期装備は彼女のために造られたのではないかと思うほどぴったりと似合っている。

 この子、本当にもったいない子だよな。なんでこんな脳を授かってしまったのか……。いやBQ高いけどさ……宝の持ち腐れって言葉も未来のために造られた言葉だよな。

 改めて、俺たち五人は輪になってこれからどうするかを話し合う。


「まずはちゃんとPTを組んでおきましょう。【チュートリアルの世界】から次の世界に行く時はそれぞれランダムな位置に飛ばされてしまうらしいのだけれど、PTを組んでいるメンバーは同じ場所に飛ばされるみたいよ。……これは私たちにとっては嬉しい誤算だわ。『ワールドマスター』は1PTの上限が一二人。大規模なセルズは最初、世界各地へ飛ばされてバラバラになるということだわ。……ふふ、ご愁傷様ね」


 ……他人の不幸を本当に楽しそうに笑いますね、ナーガさん。


「うーん、【複合ステータス制】かぁ……。キャラクターレベルが上がると各ステータスが上昇し、レベル1毎に『3ポイント』のボーナスポイントを割り振ることができるんだよねぇ。それとスキルレベルを上げていくと、関連するステータスが上昇して、技や魔導はスキルレベルが上がることで習得できる、で合ってるかにー?」


 確認するように、トラがナーガに話を振る。


「【職業】もステータスに関係があると言っていたわね。おそらく『近接戦闘型の職業に就けば物理攻撃力が1.2倍になる。代わりに魔導防御力が0.8倍になる』というふうに職業毎にメリットとデメリットが設定されているのでしょうね。もしかしたら職業によってキャラクターレベルが上がった時、ステータスの上昇値も違うんじゃないかしら」


 ミライは腕を組んで、うんうんと頷いていた。理解していない方に千円賭けるね。


「【称号】の意味はなんだったの? 私、スキップしたからよく分かってないんだけど」


「はあ、これだから素人は……。説明をスキップするとかマジありえないんですケドー」


 そう言ってやると、ミヤは額に青筋を浮かべ右のつま先で地面をとんとんっと打つ。

 俺が説明をスキップしまくったのは秘密にしておこう。絶対にハイキックが飛んでくる。


「【称号】は特殊なクエストをクリアしたり、何らかの条件を達成すると手に入るらしいねぇ。三つまで組み替えて装備できるみたいだよん。これもステータスに影響したり、特殊効果があったりするんじゃないかなぁ」


 俺はステータス画面を呼び出しながら、それらに眼を通していく。

 名前〈セイギ〉職業『異世界冒険家』。かなり細部まで凝ったパラメータが設定されていた。

【火】や【水】といった属性力や、【麻痺】、【毒】など状態異常の耐性値も個別にあるのか。【体調】や【満腹度】といったものもあるけど……これはどうするんだろう……。

 まあ、スキルに関しては通例から考えて剣を装備して戦えば【剣術】スキルや【筋力】スキルが上がるって感じかな……?

 スキルレベル合計は現在『0』だ。隣に最大スキル合計値というものが表示されていて、そちらは『800』になっている。つまり『800』というレベル制限の中で好きなスキルを上げていくシステムだろう。スキルを八種に絞って100まで上げる特化型にしてもいいし、50に抑えて一六種のスキルを使うマルチ型にしてもいい、というわけだ。

 そこで俺はある違和感を覚え、ステータスをじっくりと眺める。


「あれ? HPやスタミナの表示がないぞ? どうなってんだ?」


「にひひ、さてはセイギくんも説明をスキップしたでしょ。『ワールドマスター』ではHPやダメージの表示はないんだってさー」


「あんたもスキップしてるんじゃないのよっ!」


 すかさずミヤが俺の側頭部に蹴りを放つ。

 ふっ、だが甘い! この俺はすでに貴様の行動などお見通しなのだよ!

 俺は背中を反らしてミヤの蹴りを余裕で回避していた。


「ふはは! 残念だったな、ミヤちゃん! CSNゲーム内で俺に勝てると――」


 だが、通り過ぎたミヤの踵が、そのまま俺の顔面めがけて降ってきた。


 ごすっ!


「ひぎぃいぃぃぃいっ!! 二段構ええぇえええ!!」


 俺は両手で顔面を押さえ、現実の世界と同じ痛みに地面をのた打ち回った。

 そんな無様な俺を放って会話は冷静に続いていく。


「自分の体力は体感で分かるからいいけどさー。戦ってる敵のHPがどこまで減ってるか分からないのってやりにくそうだよねん」


「うんうんっ! そうだねっ!」とミライさんが腕を組んで大きく頷いている。


 その様子にトラたちがミライに視線をやる。だが誰も声をかけようとはしなかった。


「……そうね。息遣いや、発汗、痛んでいる箇所がどこなのか……注意深く敵を観察しないといけないでしょうね。間違いなく『ワールドマスター』はリアル思考のゲームだわ。物理法則や、物質も、現実の世界を忠実に再現しているそうよ」


 まさに『このゲームに存在しない事象は無い』ってわけだ。……凄いな、〈黒ウサギ〉。


「さて、今はどんなスキルがあるのか分からないわね。どうやら一度スキルが上がるような【行動】をしないとスキル名さえ一覧に表示されないようだわ。オープンしたばかりだから攻略サイトに情報もないでしょうし、どんなスキルが在るのか知るのが先決かしら」


「スキル値にアップやダウンの設定があるねぇ。いつでもスキルレベルは上げ下げできるみたいだ。うん、ナーガっちの言うとおり、まずは色んな【行動】を試してみて、どんなスキルがあるのか見つけることからだぁね。その後、改めて自分に合うもの、伸ばしたいスキルをアップ設定、不必要なスキルはダウン設定にすればいいかにー」


 やはりCSNゲーム常連がいると話が早い。いや常連なんて表現は二人に対して失礼だ。

 なにせ彼らは【二つ名持ち】のヘビープレイヤー――マッドゲーマーなのだから。人生を捧げちゃってるようなゲーム馬鹿なのだから。


「ごめん、みんな。つまりどういうことなの?」


 おずおずと右手をあげるミヤ。俺は紳士アピールも兼ねて簡単に話をまとめる。


「このゲーム内で【行動】を起こせばその【行動】に関連した【スキル】が上昇していくってことだ。ステータス画面からスキル一覧の見方は分かるか?」


 俺の問いにミヤは素直にこくりと首を縦に振る。従順で大変よろしい。


「【水泳】や【筋力】のスキルが表示されてて、経験値がちょっとだけ入ってるだろ?」


「これってさっき溺れたから……ってこと、よね?」


「イエース。今はどのスキルもレベルが0になっているけど、各スキル個別にある経験値バーが満タンになればレベル1に上がるはずだ。そうやって色んなスキルレベルを合計800まで自由に上げ下げできるってことだな」


「うんうん! そうだねっ!」とミライさんが腕を組んで大きく頷いている。


 そんな彼女に四つの視線が集まる。四人を代表して俺は彼女に問いかけた。


「ミライ。貴様、本当に理解しているのか?」


「してるよ~? 敵を倒せば強くなるんだよねっ! 常識だよねっ!」


 確かにゲームの常識だった。どうやら彼女は俺がした質問の意図さえ理解できていないことが発覚してしまった。ナーガたちはやれやれと深いため息をついていた。



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