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愛ある週末

作者: 竹仲法順

     *

 何かと忙しい一週間が終わり、自宅マンションに帰宅してから、ゆっくりと土日の準備を整える。あたしも普段ずっと会社員で働き詰めだったから、疲れていた。別に何か仕事に対して不満があるわけじゃないのだし、不安なことを考え続ければキリがない。週末は謙一が来て一緒に過ごす。あたしも気こそ遣わなかったのだし、彼との時間は大切だと思っていた。確かに二人で過ごせば気が紛れる。いつもはずっとパソコンのキーを叩き続けるのが仕事だ。オフィスに出勤してきても、フロア隅にあるコーヒーメーカーでコーヒーを一杯淹れて飲みながら、立ち上げていたパソコンの画面に見入る。職場で使っているパソコンはOSが古いから、起動には若干時間が掛かっていた。メールボックスにはいつもメールが入っていて、スパムは即削除し、必要な分には目を通して返信すべきは返信する。その繰り返しだった。毎日単調である。週末や正月、ゴールデンウイーク、お盆などまとまった休みが取れたときだけ、謙一がやってきた。あたしも彼と会える日はとても楽しみだ。ゆっくりしながら、普段の慌しさを忘れる。週末だけはテレビやネットなどを忘れてしまって謙一と過ごしていた。彼が来たとき、まずコーヒーをホットで一杯淹れてあげる。謙一はすぐ近くのマンションに住んでいて、あたしの家からは近い。やはり同じように会社員で仕事をしていたのだが、営業マンで外回りが中心だ。フロアにいるのは朝夕だけで、後はずっと営業して回っている。あたしの仕事に比べると、体力を使っていた。だけど、同じ会社員なので原理は同じである。内勤でも外回りでも会社で一定の拘束時間を課せられることに変わりはない。ずっと仕事が続いていた。週末は充電時間だ。あたしも彼と一緒に過ごすことでいつものことが忘れられる。別にいいのだった。毎日のように残業をこなして帰宅するのは、午後八時過ぎとか午後九時前などだったし……。翌日も会社のフロアには午前八時半過ぎに来ていて、始業時刻の午前九時までに準備をし、時間になれば電話応対などを開始する。その繰り返しだった。当然疲れない方がおかしい。せめて週末ぐらいは息抜きしたいと思っている。謙一もあたしと会うと、歓談し合う。話が弾むのだ。極自然なのだった。

     *

 彼の頑丈な二の腕に抱かれ、ベッドの上で性交し合う。口付けから入り、ゆっくりと腕同士を絡ませて抱き合った。何も遠慮は要らないのだ。抱き合えることだけでも十分幸せなのである。それから絡み合った。惹かれ合った人間同士で性行為していて、十分楽しめている。喘ぎながらも、やがて互いに多少のズレがあり、オーガズムへと達した。ゆっくりと余韻を味わう。ベッドに横たわりながら、謙一が言った。

治美(はるみ)も疲れてるんだね?」

「ええ。……でも、まあ、普段働き詰めだとどうしても週末が楽しみになっちゃうし」

「うん、分かる気がする。俺もきついんだ。実際のところはね」

 彼が弱音を漏らすのは珍しい。いつも朝晩欠かさずメールし合っていて、互いの近況は手に取るように分かる。あたしも会社員である前に人間だ。確かに三十代後半で管理職に就いているから、部下ももちろんいる。同じフロア内にいる部下たちを監視するのが仕事だった。確かに勤務時間中はトイレなどにも簡単に行けない。コーヒーの利尿作用でトイレに行きたくなるときは昼休みに行っていた。秋が深まっていくとき、社内で仕事をこなしながら、いろいろと考え続ける。想いが巡るというが、まさにその通りだった。あたしもオフィスにいる間はずっと仕事に集中しているようで案外散漫になることもあった。この季節は何かと物思う時季だ。あたしもなるだけ気を付けていた。あまり考えすぎないように、である。もちろん仕事中はスマホもマナーモードに設定していた。鳴り出すと仕事にならないからだ。スマホを使うのはお昼の休憩時間帯だけだった。ずっと仕事が続く。あたし自身、いつも会社の近くのランチ店に行き、日替わりを食べていた。疲れていた体に美味しい食事を取りさえすれば活力が湧いてくる。食べ終わってコーヒーを飲みながら深呼吸し、気持ちを取り戻した。ゆっくりと立ち上がり、レジで会計してもらって、レシートを受け取ってからオフィスへと舞い戻る。あたしも日々単調さが続くので疲れてしまっていた。だけど週末に謙一と一緒にいられるときはゆっくり出来ている。あたしも生身の人間だ。土日ぐらいは休まないと身が持たない。それにきついことはいくらでもあった。仕事でと言うよりも、むしろ人間関係だ。肉体が疲労しているよりも精神的に参っているときがある。そういった場合、ストレスが掛かるので当然メンタルヘルスが悪くなっていた。一度掛かり付けの病院に掛かったとき、相談したことがある。そうするとドクターが、

「軽めの安定剤を処方しておきましょう。それをお飲みになってしばらく様子を見てから、もしお加減が悪くなられましたら、またおいでください」

 と言った。あたしも安定剤はずっと飲むわけじゃないようで、二週間分処方してもらって、それを継続して飲み続けてから何とか治った。そして毎日戦場のように忙しい職場へと向かう。ずっと仕事が続いていた。だけど別にそう気にすることじゃない。単に自分がする仕事が増えただけで、派遣社員はかなり首を切られた。ゆっくりとする時間は週末だけである。謙一が話を聞いてくれるので、あたしも打ち解けていた。メールは欠かさずし合っている。スマホからでもパソコンからでも。特にスマホが多かった。やはり持ち運べるから便利がいい。下手すると、夜の残業中にスマホをスーツのポケットから取り出し、メールを打ったりしていた。キーを叩きながら、その日あったことを文章にして、所々に絵文字や顔文字などを入れてから送る。そして送り終わったことを確認し、残業し続けた。遅くまでずっと。

     *

 週末彼と会って抱き合うと、普段の仕事のきつさの慰みにはなる。お互い疲れた者同士で腕を絡ませ合い、ゆっくりと抱擁し続けた。週末は普段の憂さを忘れ、寛いでいる。その分、平日は忙しかった。でもそれが今の会社員の現実である。管理職にいれば尚更疲れてしまう。上と下の板挟みになるからだ。かと言って、ここで戦線離脱するわけにはいかない。食べることの出来るような資格などは何も持ってないからだ。別にいいのである。多少きつくても週末に謙一と抱き合えれば、それに越したことはないと思っていた。努めてゆっくりと歩き続けている。仕事をしながら、週末だけは彼に癒してもらっていた。あたしも物寂しさを感じることがある。だけど普段キーを叩き続けながら、何も考えないことはないのだ。秋の空のように多少移り変わりやすい天候でも、彼との愛は変わらない。正直なところ、あたしも食生活などはいい加減だった。とにかく偏ってもいいから、食べられる物を食べている。本来なら、ランチ店のランチなどには健康に悪い食材を使ってあるので、食べ続けると体調を壊してしまう。だけど、自分でお弁当などを作るのは無理だった。基本的に料理が苦手なのである。それに早起きするような気もないのだし……。何でもいいから食べるしかないのだ。それにあたしも栄養が偏っていても、サプリメント類でしっかりと補っている。それでいいのだ。別に気に掛けることはない。返って肉類など高い食材を買い込み、それを焼肉などにして食べる方が体に悪いとすら感じていた。実際、あたしも食事にお金は掛けない。まあ、週末彼が来るときも、予めスーパーなどで買っていたお弁当などを準備していたのだし……。謙一が来るときは事前に掃除もしておいた。あたしたちは愛し合っているのである。紛れもなしに。そして愛はこの秋空のように深まっていく。ゆっくりとした感じで。ふっと窓を開けると、彼方に飛行機雲が広がっているのが見えた。白い航跡を綺麗に描いて。

                                (了)


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