24話 新たな決意
3章スタートです。よろしくお願いします。
父上に問われたことが、ずっとモヤモヤと鉛のように胸を押し潰していた。だからといって、それで諦めたわけではない。
むしろ今まで以上に迷いを捨て、誰からも……何よりクラリスさんに認めてもらえるまで成長したい。今できることを精一杯やっていれば、きっと彼女の隣に立つことを諦めなくていいはずだ。
翌日、朝食のために食事室へくると父上と母上がすでに席に着いていた。直しきれなかった寝癖を慌てて手で撫でつける。
「あら、ノエル。おはよう。お寝坊さんだったかしら?」
「おはようございます、父上、母上。申し訳ありません。少々起きるのが遅くなってしまって……」
父の言葉を考えすぎて寝付けなかったとは言えない。
「そうか」
当の本人はこちらを見て、ただそう一言だけ。それ以上は何も言わない。
「あなたってば……。ノエル、そんな顔しなくていいのよ」
「……はい。ありがとうございます」
代わりに母が言葉を紡いでくれたが、僕は父と母がどれだけのことを話しているかを知らない。ただ夜更かしして起きられず、髪が跳ねたまま姿を現した息子を庇ってくれているだけなのかもしれない。
もしかしたら、全てを知って味方でいてくれようとしているのかもしれない。多くを語らない母の心中は、僕にはわからなかった。
ベルモント領の屋敷へ来ると庭先でリリアさんに支えられながら男爵が歩いているのが見えた。
「ノエルさんだ!お姉ちゃんなら中にいるよ」
「ノエルくん。いつも遠い所ありがとう。中でお茶でも飲んで行っておくれ」
「お二人ともこんにちは。お邪魔します」
屋敷の中に入るとクラリスさんがちょうど剣を片手に出てくる。
「あれ、依頼ですか?」
「いえ、それはもう済んだの。少し手入れをしようと思って」
「そうなんですね。見ててもいいですか?」
「……いいの?せっかくノエルさんがいるのに……」
クラリスさんは伺うようにこちらを見ている。
「僕が見たいんです。だってクラリスさんの大事な剣でしょう?」
「……うん。ありがとう」
クラリスさんは早速剣を鞘から出して柔らかい布で丁寧に磨いていく。
「アジュールでしたよね。きれいな青ですね」
「ええ。母からもらった大事なものよ」
布を動かす手つきは、どこまでも優しい。
「母は十年前に流行病で亡くなったんだけど……本当に強い剣士だったの。でも、それだけじゃなくて、明るくて優しくて、我が家の太陽みたいな人」
懐かしむように語る彼女の表情は穏やかだ。
「そうだったんですね。クラリスさんの剣の師匠でもあるんですか?」
「うん。剣だけじゃなくて、色々なことを教わったわ」
思い出を振り返るように、そっと瞳を閉じる。
「……例えばね、春の草原はお日様の香りがするから、寝転ぶと気持ち良いって連れて行ってくれたり」
他にも、料理のこと、冒険した先で見た景色のこと、家族のこと……たくさんの思い出を静かに語ってくれる。
「……裁縫だけは苦手だったみたい。だから私もあんまり上手にならなくて……」
リリアは手先が器用で得意なのよ、と笑っている。
「とても素敵なお母様だったんですね」
大切にしまっていた思い出を、僕にも見せてくれたことが、なんだか心を許されているようだった。
「……そうなの。自慢のお母さんよ」
クラリスさんは剣を、アジュールを握る手に力が入っている。
「あのね、お母さんがよく言っていたの。……幸せの色は青色だって」
「幸せの、色……ですか?」
クラリスさんにとっての幸せとは、どんなものなんだろうか。
僕は彼女の隣で一緒に笑いあいたい。だから、幸せの色もどんな色なのか、どんな意味を持つのかが知りたい。




