第20話 冴えなかった俺と、かわいすぎる彼女
軽快で容赦のない騒音が、朝の静寂を突き破る。
翔太は反射的に腕を伸ばした。
いつものようにスマホのアラームを止める、ただそれだけの動作のはずだったのに。
「ぐぎぃ……っ!?」
全身を襲うあまりの痛みに、声すら出せなかった。
すべて昨日の全力疾走と転倒の代償だ。
しかし、同時に幸福の象徴でもあった。
なぜなら、昨日の出来事が翔太の夢などではないと教えてくれているから。
「……ん、っ……」
翔太の腕の中で、陽菜子の喉から甘い吐息が漏れた。
もっともっと感じていたい。陽菜子のぬくもりを。誰よりも近くで。もう我慢なんてする必要などないのだから。
翔太がさらに強く求めれば、陽菜子は驚いたように体を硬くして、しかしすぐに力を抜いて応じてくれる。
陽菜子の熱を、吐息を、もっともっと何もかもすべてを感じ、味わい、同時に翔太も自分のすべてを陽菜子に伝える。
翔太も初めてで、陽菜子もきっとたぶん初めてなのだろう。
お互いを求める気持ちは激しいのに、どこかぎこちない応酬を続ける。
脳髄が溶けるのではないかという圧倒的な幸福感は、数分間の出来事をまるで永遠のように感じさせた。
翔太が名残惜しさを感じながらもゆっくりと体を離すと、陽菜子との間に開いたわずかな隙間に水槽の青白い光が滑り込んだ。
ゆらゆらと揺れる水の影が、陽菜子の白い頬を泳いでいく。
まるで深い海の底で二人きりになったような静寂の中、鼻先が触れそうな距離で漏らす二人の熱を帯びた吐息だけが響き渡る。
「……翔太、さん」
二人求め合った余韻を感じさせる熱を漏らしながら、陽菜子が翔太の名前を呼んだ。
「……陽菜子」
翔太もまた、彼女の名前を呼ぶ。
「キス、しちゃいましたね」
「ああ」
とてつもなく甘いキス。
これまで繰り返してきた『実験』だって、翔太にしてみれば充分過ぎるほど甘いと思っていた。
しかし、その認識自体が甘かった。
ままごと遊びみたいなものだったと思い知らされた。
「本物ってハンパないな……」
翔太の呟きに、陽菜子が「何ですか、それ」と笑う。
ねえ、と呼びかけられる。
「わたし、今、世界で一番しあわせです」
その笑顔は、かつて翔太を翻弄した『小悪魔』のそれを完全に脱ぎ捨てた、ただ恋する一人の女の子の顔だった。
「……俺、その笑顔を見るために今日まで生きてきたのかも」
「…………大げさすぎると思うんですけど」
陽菜子は言うが、
「大げさなもんか」
真顔で言い切れば、陽菜子は「……もう」と呆れたような、しかし愛おしそうな様子で翔太の胸を叩いた。
制服に着替えるだけで、いつもの倍以上時間がかかってしまったため、朝食は抜くことにした。
玄関でやっぱりいつもの倍以上時間をかけて靴を履いていれば、家族に食べていけと言われたが、それよりも今の翔太には大事なことがあったから。
「ごめん!」
とだけ謝って、家を出る。もちろん、絶え間ない激痛に襲われながら。
翔太は全身を引きずるようにして歩く。
そして、いつもの場所にいた。
「もうっ、翔太さんってば遅すぎます。わたし、すっごく待ってたんですからね!?」
朝の逆光を背負った陽菜子が。
いつもどおり、お約束の台詞。一部、微妙に違ったりするが。
いや、それよりずっと顕著に変わっているところがあるだろう。
翔太を見る表情。
これが今までとまったく違う。
小悪魔的だったこれまでの感じは跡形もなくなり、頬を赤く染めて上目遣いで翔太を見つめる瞳が甘すぎてかわいすぎる。
「このめっちゃかわいい子、俺の彼女だからぁ……!」
我慢できずに翔太が叫べば、
「ちょ、何やってるんですか翔太さん恥ずかしいからやめてください!」
と言われてしまったが後悔はないし、何なら陽菜子もまんざらでもなさそうなのを翔太は見逃さなかった。
「ほら、いきますよ!」
陽菜子が翔太の手を取り、歩き出す。
翔太が全身筋肉痛であることをわかっているのだろう。
その歩みはとてもゆっくりしたものだった。
「……ありがとう、陽菜子」
「……べ、別にこれぐらいふつうですよ? だ、だってわたし、か、彼女ですし……っ!」
言い方が全然普通じゃないのだが、それは指摘しない方がいいだろう。
翔太は陽菜子の手を握りかえし、指と指を絡ませた。
恥ずかしい。
うれしい。
しあわせ。
そして痛い。体が。
それら全部が入り交じった気持ちを抱えて、いつもの通学路を歩く。
陽菜子のことを好きだと自覚した日、世界が輝いて見えた。
しかし、今日は、あの時より、ずっとずっと眩しかった。
何もかもが輝いて見えた。
「翔太さん、ちょっと顔がニヤけすぎなんですけど?」
「陽菜子だって、顔が緩みっぱなしなんだが」
「わたしはいいんです! だって、世界で一番大好きな人と、こうして『本番』の登校をしてるんですから……!」
そう言って、陽菜子が繋いだ手に力を入れる。
その時だった。
「朝っぱらから激甘すぎて、見てるこっちが胸焼けしそうなんだけど」
冷ややかな、それでいてどこか楽しげな声が背後から聞こえてきた。
翔太と同じタイミングで振り返った陽菜子が言う。
「月花!」
「おはよ、陽菜子。そして先輩も」
意味深な笑みを浮かべている理由は、イルカショーの途中で別れて以来の再会だからに違いない。
「……お、おう。昨日は、その、なんだ。ありがとな」
短く、しかしせいいっぱいの感謝を込めて、告げる。
あの時、彼女が翔太の名前を大声で叫んで、その背中を叩いてくれなかったら?
翔太は今頃、部屋の隅で膝を抱えて、一生消えない後悔に苛まれていただろう。
陽菜子の隣にいる資格なんてないと思い込んで、この温もりを手放していたかもしれない。
だから、彼女は自分たちにとって恩人だ。
月花は一瞬きょとんとした顔をして、それからニッと悪戯っぽく笑った。
「へぇ? 先輩でも素直にお礼とか言えるんだ」
「一言余計だ」
「ま、あたしは『総合プロデューサー』としての仕事をしただけだし。それに……いいもの撮らせてもらったし」
月花はポケットからスマホを取り出し、操作しながらニヤリと笑った。
いいもの? 撮る? と首を傾げた翔太と陽菜子の前に、彼女はスマホの画面をかざした。
その中で、時間は永遠に止まっていた。
透明なクラゲたちの淡い光が、キスをして重なり合う二人のシルエットをやわらかく縁取っている。
それは偶然の一枚というより、一枚の完成された芸術作品のような雰囲気を漂わせていた。
「……ッ……!?」
翔太の思考が停止した。
すぐに全身の血液が沸騰し、顔から火が出るかと思うくらい熱くなる。
「っみ、見てたのかよ!」
翔太が裏返った声で叫ぶと、月花は意地悪そうに笑い、
「当たり前。総合プロデューサーがクライマックスを見届けないで帰るわけないでしょ」
「あ、悪趣味だ! プライバシーの侵害だぁ!」
「タイトルは『ブルー・ラグーンの夜明け』」
どう? と告げる月花。
「どうじゃない!」
翔太が羞恥心で悶絶している横で、陽菜子が食い入るように画面を見つめていた。
てっきり、翔太と同じように恥ずかしがっているのかと思いきや。
「まるで映画のワンシーンみたい……! 月花、あなたってば天才ですか!?」
「我ながら完璧な仕事だと思ったわ!」
「月花! それ、今すぐ送ってください! 当然画質落としたら許しませんから!」
「ちょ、陽菜子さん……!?」
思わず陽菜子をさん付けで呼んでしまう翔太である。
「だってこれ、わたしたちの『初めて』の記念写真ですよ!? 家宝にするに決まってるじゃないですか!」
「か、家宝って……! こんな恥ずかしい写真を!?」
「恥ずかしくなんてありません! ……だって、すごく綺麗で、しあわせそうで……」
陽菜子が頬を染め、潤んだ瞳で俺を見上げてくる。
「翔太さんは嫌ですか? わたしとの思い出、残したくないですか?」
その目はずるい。犯則だ。恥ずかしいから嫌だと言えなくなる。
とはいえ、正直なことを言えば、翔太自身も、いいなと思ってしまったのだ。
写真の中の二人は、どうしようもないくらい真剣で、世界にお互いしかいないみたいで。
月花の言うタイトルぴったりだな、と。
「………………………………ひ、陽菜子がそこまで言うなら!」
「えへへ、ありがとうございます! 翔太さん大好き!」
「あ、うん」
何だろう。台詞自体は昨日と同じなのに、そこに込められた想いがめちゃくちゃ軽い気がするのだが。
「月花、送信お願いします……!!」
月花がスマホを操作し、陽菜子がワクワク顔で受け取る。
「じゃ、イチャイチャはほどほどに!」
月花はニンマリ笑うと、軽快な足取りで学校へと駆けていった。
その背中は、どこか誇らしげで、清々しかった。
学校が見えてきた。
――と思ったら、予鈴が鳴ってしまった。
「くっ……」
本来なら、この程度の距離、少し小走りで向かえば余裕で間に合うはずだった。
だが、今の翔太にとって、一歩を踏み出すことは、エベレストの登頂に挑むことと同義だった。
隣で心配そうに、陽菜子が覗き込んでくる。
今のペースでは、チャイムが鳴り終わるまでに教室に滑り込むのは不可能だ。
「俺を置いていけ」
「できません……!」
「……俺は、もうダメだ……ここで朽ち果てていくんだ……」
「筋肉痛で朽ち果てるとか聞いたことありません! いいから、ほら! いきますよ……!」
陽菜子が怒りながらも、翔太の背中を押してくる。
「ほら、あと少しです!」
「……遠い。蜃気楼のように遠い……」
「もうっ! あと25メートルくらいですってば!」
陽菜子の懸命な励まし(と物理的な介助)のおかげで、なんとか校門の前までたどり着いた。
そこには、遅刻ギリギリで駆け込む生徒たちの姿が、翔太たち以外にもちらほらと見えた。
「よし……ここまで来れば……」
翔太は息を整え、陽菜子に向き直った。
「陽菜子、ここからは別行動だ」
「え?」
「俺の教室は3階、陽菜子は2階だ。一緒にいたら、二人とも間に合わなくなる」
翔太の足では、階段を上るのにどれだけの時間を要するか想像もつかない。
「俺のことはいいから、陽菜子は走って教室に行ってくれ」
「で、でも……!」
「お願いだ。……陽菜子を、遅刻させたくないんだ」
翔太が真剣な眼差しで告げると、陽菜子は一瞬言葉を詰まらせ、それから不満そうに唇を尖らせた。
「……翔太さんの、いじわる」
「ああ、俺はいじわるだ」
「……わかりました。でも!」
陽菜子は一歩踏み出し、翔太の目を見上げる。
「教室まで送ります。それくらい、させてください」
「ダメだ」
「どうしてですかっ」
「俺が、かっこ悪いからだ」
「は?」
「彼女に支えられないと教室にも行けないなんて……そんな情けない彼氏、嫌だろ?」
翔太が苦笑交じりに言うと、陽菜子はきょとんとして、それから顔を真っ赤にして、
「……ばか。そんなこと、思うわけないじゃないですか」
ぽそっと呟いた。
「………………わかりました」
いかにも渋々といった感じだったが、それでも陽菜子は翔太から離れ、校門をくぐる。
その姿を見送りながら、翔太は思う。
……ああ、やっぱり。
どうしようもないくらい、好きだ。
数歩進んだところで、陽菜子が振り返った。
翔太に向けて、胸のあたりで小さく手を振る。
その仕草が、たまらなく愛おしくて。
同時に、翔太の脳裏にある記憶が蘇った。
それは、風邪を引いて寝込んでいた時のことだ。
『もし万が一、いや、億が一、陽菜子とキスができるのなら。意識のない状態じゃなくて。最高のシチュエーションでしたいじゃないか』
あの時、熱に浮かされながら願ったこと。
最高のシチュエーション。
それは、夜景の見えるレストランでも、夕暮れの海辺でもないのかもしれない。
ただ、大好きな人がそこにいて。
その人が、自分に手を振ってくれていて。
周りには生徒たちがいる日常があって。
そんな『当たり前』の中で、愛を確かめ合うことこそが『最高』なんじゃないか。
「……ッ」
思考よりも先に、体が動いていた。
「うおおおおおっ!」
「え、ちょ、翔太さん!?」
筋肉痛の激痛? 知ったことか!
全身を駆け巡る暴力的な痛みを無視して、地面を蹴った。
視界の端で流れていく通行人たちの姿は、もはや意味をなさないノイズに変わる。
突き飛ばすように空気を切り裂き、たどり着いた先で、陽菜子を抱きしめた瞬間、世界からすべての音が消え去った。
彼女のやわらかな体温と、驚きで見開かれた瞳だけが、この世界の唯一の焦点となった。
「し、翔太、さ――」
陽菜子の甘い香りが翔太の脳髄を震わせる。
やわらかい感触。
トクトクと早く打つ心臓の音。
周囲にいた生徒たちが、何事かと足を止め、ざわめき始める。
「え、あれって……」
「嘘、抱き合って……!?」
視線が刺さる。
これまでの翔太だったら気になって仕方なかったことだろう。
だが、今は、そんな視線なんて、どうでもよかった。
世界には自分と陽菜子しかいない。
翔太は、腕の中で呆気にとられている陽菜子の顔を覗き込んだ。
驚きで丸くなった瞳。
わずかに開いた、桜色の唇。
「陽菜子!」
「は、はい……?」
「大好きだ……!!」
その言葉に対する反応を待たず、翔太は顔を近づけた。
「んッ……!?」
触れるだけの、やさしいものじゃない。
昨日の水族館で交わしたような、互いの存在を確かめ合うような、熱いキス。
周囲のざわめきが、一瞬で静寂に変わる。
時が止まったかのようだった。
翔太が唇を離すと、陽菜子は腰が抜けたように翔太にしがみついていた。
目はとろんとして、焦点が合っていない。
翔太と陽菜子以外が言葉を失っている中、翔太は笑う。
筋肉痛で足がプルプル震えているのを必死に隠しながら、それでもせいいっぱい『彼氏』の顔をして。
「一度、こういうシチュエーションでしてみたかったんだ!」
だってそんなことができるのはモブなんかじゃなくて、まるで物語の主人公みたいじゃないか。
翔太の言葉に、ようやく我に返った陽菜子が、真っ赤な顔で翔太の胸を叩く。
「……バカっ」
「ちょ、い、痛いって! そこ昨日倒れた時にぶつけたところで……!」
「こんなみんなが見てる前で……! 信じられません……!」
口では文句を言いながらも、陽菜子の表情は隠しきれないほどのしあわせに満ちていた。
陽菜子は叩く手を止めると、翔太のシャツをギュッと握りしめ、上目遣いで囁いた。
「……わたしも、翔太さんと同じ気持ちでした」
恋人で、共犯者。
そんな甘い恋のスパイスが翔太と陽菜子の間に共有され、もう一度キスをした。
呆気にとられていた生徒たちが我に返り、口笛を吹いたり、拍手をしたり、予想外のイベントに盛り上がる。
しかし、それはいつまでも続かない。
予鈴ではなく、本鈴のチャイムが鳴り響いたから。
「「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」」
翔太と陽菜子を含め、その場にいた生徒たち全員の声が重なった。
翔太と陽菜子以外は慌てて校舎に向かって走り出す。
「……もう、翔太さんのせいで完全に遅刻ですっ」
陽菜子はそう言うが、その顔はむしろうれしそうだった。
陽菜子と手を繋ぎながら、ゆっくり校舎に向かう。
その道すがら、翔太は胸ポケットの上から、その膨らみに触れた。
そこには昨日の水族館でずぶ濡れになってしまった布の感触がある。
家に帰ってから必死に乾かした、陽菜子の手作りの『試作品』。
歪んだ縫い目も、水に濡れてヨレてしまった感触も、そのすべてが愛おしい。
校門をくぐり抜ける瞬間、ふと、初めて二人で登校した日のことを思い出した。
『好きな人と一緒に登校するための予行演習ですよ』
あの時、陽菜子はそう言って笑っていた。
地味で冴えない、平凡な男子高校生は、世界で一番かわいい後輩とたくさんの『実験』を重ねて、これからは『本番』の世界を生きていく。
夏の容赦ない陽光、秋の乾いた風、それらを感じながらいくつもの思い出を積み重ねていって。
そして、吐き出す息が真っ白に染まる冬。
隣にいるのが当たり前になった彼女は、あの日からさらに長く伸びた髪を揺らしながら、翔太に向かって笑いかける。
放課後の帰り道。
制服の上に、ふわふわとした白いマフラーを巻き、顔の半分くらいを埋もれさせている陽菜子。
その姿は、雪の妖精か、あるいは冬限定の天使か。
「……翔太さん、聞いてます?」
陽菜子が翔太の顔を覗き込んでくる。
「え、ああ、陽菜子がかわいいってことならちゃんとわかってる」
「違います! ……そ、そんなふうに言ってくれるのはうれしいですけどっ」
付き合い始めて時間が経つのに、翔太の言葉にそうやって喜んでくれるのは素直に感動する。
「で、何の話だったっけ。月花から極秘の情報を入手したとかって言ってたような気がするけど。また何か企んでるのか?」
「いえ、そうじゃなくて。駅前のコンビニに、新作の『とろ~りチーズ肉まん』が入荷したらしいんです! 月花曰く『あれはヤバい。飛ぶぞ』らしいので」
陽菜子の月花のモノマネに翔太は笑う。
「翔太さんと半分ずつなら、カロリーも半分ですから実質ゼロですし!」
「なるほど?」
「何で疑問形なんですかっ」
いつもの、他愛ないやりとり。
彼氏彼女になる前と、何も変わっていないかのように感じられる。
しかし、二人の時間は確実に積み重なっていた。
その証拠に――。
陽菜子の右手はそうするのが自然なように翔太のコートのポケットに入っていて。
翔太もそれを当たり前のように受け止めていて。
二人はポケットの中で恋人繋ぎをしていた。
陽菜子がふと足を止め、繋いだ手を離した。
「陽菜子?」
離れたぬくもりに翔太が振り返り、陽菜子はマフラーに顔を埋めたまま見上げる。
あの日と同じ、いたずらっぽく、けれど世界で一番甘い瞳。
「新しい実験、してみませんか?」
陽菜子は一歩踏み出し、翔太のコートの襟をぎゅっと掴んだ。
白く、熱い吐息が二人の間で重なる。
「――死ぬまで一緒にいたら、どれだけしあわせになれるか……っていう実験、ですっ」
あ、と言う間もなかった。
背伸びした陽菜子の唇が、翔太のそれに重なる。
冬の街の喧騒が、遠くへ消えた。
離れた唇から、白く、熱い吐息がこぼれる。
真っ赤になった陽菜子が、
「愛してます、翔太さん!」
と叫んで、走り出す。
翔太は呆気にとられ、しかしすぐに不敵な笑みを浮かべた。
「俺の方が、もっとずっと、陽菜子のことを愛してる……!!」
翔太の大声が、冬の空に吸い込まれる。
恋の実験は終わり、愛の本番はまだまだこれから。
いつまでも、ずっと続いていく。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
翔太と陽菜子の『実験』の結末はいかがでしたでしょうか?
もし「面白かった!」「最後は泣けた」と思っていただけましたら、ブクマとページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると、本当に、本当にうれしいです!
皆様の評価一つが、私の執筆の原動力になります。
ぜひ、応援のほどよろしくお願いいたします!




