第10話 ジェラシー
テストも無事に終わり、授業も平常運転に戻った。
翔太は休み時間になると同時にトイレに突撃し、教室が見えるところまで戻ってくると、そこで立ち止まった。
「えー、本当ですかー?」
教室の入口に陽菜子がいた。
それだけならよかった。
問題は、陽菜子がクラスメイトの男子と、何やら楽しげに話していたことだった。
「あれはバスケ部の梅木くん……」
陽菜子は梅木のことが好きなのだろうか。
翔太のクラスに好きな人がいると言っていたのだから、梅木だとしてもおかしくはない。
梅木は身長190センチの、笑顔が実に爽やかな感じのイケメンだ。
人当たりもいい。
「何気に俺のクラス、運動部のエースやら文化部の期待の星やら、あとかっこいい奴らが多いんだよな」
漫画やラノベなら、主役をやっているような奴らばかりなのである。
その中においても、梅木の存在は決して他の主役級の連中に引けを取らない輝きを放っていた。
翔太はロッカーの陰に身を隠した。
咄嗟のことだった。
休み時間が終わるまで、翔太はそこに隠れ続けた。
次の休み時間になると、陽菜子がやってきた。
非難がましい視線を向けてくる。
「ちょっと」
だけ言って、翔太の腕を掴むと、ぎゅっと抱きしめるようにし、教室から連れ出す。
そのまま人気のない廊下の片隅まで連れてこられると、
「翔太先輩、わたし怒ってるんですけど」
と言ってきた。
なるほど。確かに陽菜子の顔を見れば、不機嫌な感じがびんびん伝わってくる。
しかし一方で、ぐいぐいと自分の胸を押しつけてくる行動の意味がわからない。
「さっきの休み時間、翔太先輩ってば、いったいどこに行ってたんですか!?」
「え?」
「翔太先輩は休み時間、絶対に教室にいなくちゃ駄目なんです!」
「ちょ、絶対って何だよ!? 俺だって教室にいないことだって――」
「駄目です! だってそうじゃないと……!」
「そうじゃないと……?」
「………………翔太先輩に逢えないじゃないですか」
「ごめん、何言ってるか聞こえないんだけど」
「………………もしかしたら他の気になる子のところに行ってるのかもって不安になっちゃいますし」
「あの、陽菜子さん? 聞こえないって言った俺の声、聞こえてる?」
「ええ、もちろん聞こえてますよ?」
「聞こえてて声のボリュームを変えないあたり、どんな意図があるのか聞いてもいいか?」
「乙女の秘密です」
そう言われてしまうと、何も言えなくなってしまう翔太である。
「で? さっきの休み時間、どうして教室にいなかったんですか?」
「その話題は終わったんじゃなかったのか?」
「残念ながら始まってすらいません。さあ、翔太先輩。きりきり白状してください……!」
「……トイレに行ってたんだよ」
「それにしてはちょっと長くないですか?」
「あ、ああ、まあ……そうかもな」
「……何だか怪しいですねー。もしかして何か隠してます?」
「べ、べべべべ別に隠してなんかねえし!」
「それで隠してないつもりだとしたら、翔太先輩のことがちょっと心配になっちゃうんですけど」
そのタイミングで、休み時間終了のチャイムがなった。
「ほ、ほら、次の授業があるから!」
と、この時は逃げ出すことができたが、陽菜子は陽菜子で諦めなかった。
翔太の前に顔を出すたびに、
「翔太先輩、大人しく白状してくださいねー?」
と笑顔で圧力をかけてきた。
先に折れたのは翔太である。
放課後、陽菜子に腕を取られながら歩く中で、翔太は白状した。
「……陽菜子が俺のクラスメイトと楽しそうに話してたから」
「すみません、翔太先輩。もう一度言っていただけますか?」
「だから、陽菜子が俺のクラスメイトと楽しそうに話してたから」
気がついた時にはロッカーの陰に身を隠していたと、そう告げれば。
「もうっ! もうっ、もうっ!」
なぜかめちゃくちゃうれしそうな顔で、陽菜子が翔太の脇腹をくすぐってくる。
「ちょ、陽菜子、くすぐったいから! や、やめ……!?」
「翔太先輩、それって嫉妬ですよね……!」
「は?」
「わたしが他の男子と話しているのを見て、思わず嫉妬しちゃったってことですよね……!?」
「そ、そんなんじゃねえし……!」
「またまた~。大丈夫ですよ、わたしはちゃんとわかってますから」
「違うって言ってるだろ!?」
いや嘘だ。
本当は嫉妬だ。
ただ、それはいけない感情だということは理解している。
だって陽菜子は翔太のクラスメイトのことが好きなのだから。
「翔太先輩ってばかわいいですねー」
なのになぜ、翔太が嫉妬したと知って、陽菜子はこんなにもうれしそうに笑うのだろう。
翔太にはそれが不思議でならなかった。
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