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第64話 白砂の迷宮第20層/踏岩山⑤




 それから数日の後。

 ワハル探索者協会支部に、20層の主討伐に参加するメンバーが遂に集まった。


「こうして並ぶと壮観だな」

「ほ、ホントだね……これからこの人数で潜るの……!?」


 全部で12人。20層に潜る資格のある中級以上の探索者が集結している。

 そんな実力者が一堂に会すると、不思議な圧のようなものが放たれるのか、見てるだけで気圧されてしまう……横でカトルが震えるのも無理はない。


 ここは騎獣舎の一角。

 狐用に拵えられた、専用厩舎の中だ。

 周囲に騎獣たちののんびりとした鳴き声が響く中、各パーティーが集まりながら談笑している。

 まずは『赤鎚』。

 

「いよいよこいつらのお披露目だな!」

「整備もバッチリ。後は上手く機能するのを祈るだけだねぇ」

「試運転なんてできねぇからなあ。上手くいくといいんだが」

「この子たちなら大丈夫よ。これで返すよ、借金!」

「「おおー!」」


 ……不安な話をしている気がする『赤鎚』たち3名は何やら大量の荷物を運び込んでいる。

 先日聞いた絡繰りたちだろう。物によっては2m以上の大きさがある。

 俺たちはあれを護衛をしながら運んでいくことになるらしい。

 かなりの重労働になりそうだ。

 続けて、ルトフたち騎士団組。


「『踏み鳴らし』は騎士団でも挑む者がいないからな。腕が鳴る」

「流石にあなたでも貫けないと思うけどねえ……どう思います? ルトフさん」

「ん? やってみないと分からないじゃないか。僕らだけで倒せるなら話も早いしね。見上げる程の動く巨岩を斬る……ワクワクするね」

「この戦闘狂どもが……」


 爽やか戦闘狂の騎士ルトフに、他3人は見るのも初めてだ。

 目立つのは鉄塊を除けば一番デカい茶色の髪を短く刈り上げた大男。名前はワーキル。

 背はジンと同じか少し低いくらいだが、とにかく横幅がデカい。肩とかカトルの胴より太くないかあれ。

 あれで使うのは大弓らしい。騎士団連中は前衛3人後衛1人らしいが、あれが後衛なら実質全員前衛と考えてよさそうだ。


 お次はため息を吐いている身軽そうな女性騎士。名前はクリム。

 金色の髪を肩口辺りで切りそろえており、身体に合うように作られた鎧は関節部分が厚く盛られた、不思議な造りになっている。

 腰に短剣を2本差しているから、彼女も最前線で戦う騎士なのだろう。


 そして最後の1人。

 ルトフと似たような鎧姿の青年で、少し長い髪は根元は黒く、先端に向かうにつれて透き通るような赤に変わっている。

 腰には長剣を佩いてるから彼もまた剣士なのだろう。

 名前は確か――カイ。

 他が談笑する中、1人表情を変えずに佇んでいた彼の目が、ふとこちらへと向けられる。


「――――」

「……?」


 なんだ? ちょっと見ていただけだったんだが、今の一瞬で視線に気づかれたか?

 そのまま視線はつい、と外されたが、流石に偶然ではないだろう。

 なにせあの戦闘大好き人間(ルトフ)がわざわざ選んだという連中だ。

 きっと全員規格外なんだろうなあ……。


 

 これで7人。そこにジンと俺らの5人を加えた12人で、主討伐に挑むことになる。

 後は何故かルセラさんと、支部長ディルム、騎獣舎のヤニクまで揃っていた。

 場所が騎獣舎だからヤニクは分かるが、他2人はどうして?


 なんて考えていると、アンジェリカ嬢が中央に立ち、手を打ち鳴らした。


「全員揃ったわね。――では、始めましょうか」


 合図をすると、ルセラさんが『踏み鳴らし』の絵と20層の地図が張り付けられたボードをアンジェリカ嬢の横へと置いた。

 たっぷりの笑みを浮かべて、アンジェリカ嬢は口を開く。


「作戦は既に頭に入ってると思うから、ここでは簡単な確認だけで済ませるわ。ウルファ」

「おう!」


 絡繰りの山から飛び出したウルファがボードの横に立つ。


「『赤鎚』のウルファだ。『踏み鳴らし』の採掘と決戦場の準備を担当するぜ。よろしくな」


 よく響く声でそう告げてから、真横の20層地図を叩いた。


「『踏み鳴らし』の生息域は単純だが面倒だ。――昇降機の外側をぐるりと囲むみてえに周回を続けてる。向きも速度もほぼ一定。だから、まずは散らばってこいつがどこにいるか見つける必要がある」


 この『主捜索』はそれぞれのパーティーに別れて行う。

 でないと広すぎて見つけるだけで何日もかかるのだ。


 まず、今日から2日間を捜索にあてる。

 主の『周回跡』は深く広い渓谷になっているので、追跡自体は凄く簡単だ。

 3方向に別れて主を追ってぐるりと回っていけば、いずれ必ず見つけることができる。


 なので散らばって捜索を行い、2日目の終わりに昇降機に集合して、得た情報をもとに狩場を決めていく。

 

 奇跡的に1日目に見つけた場合でも、そのパーティーは狩場に適切な地形調査などより詳細な情報収集を続ける。

 勿論見つけられなかった方にもちゃんと役割はあるから無駄にはならない。


 問題はその上でどのパーティーも見つけられなかった場合だが……その時は全員で固まって調査できていない個所を調べ、その場で狩場を決める。

 不確実性は上がるが、あまり時間もかけてられないので仕方ない。



 そしてどうにかして狩場を決めれば――そこから作戦開始となる。


「まず作戦の第1陣。奴を狩場へと誘導する。これはルトフたちが担当する」

「金蹄騎士団のルトフだ。僕ら4人で奴の先導を担当する。よろしく頼むよ」


 前に出てきたルトフとウルファがそれぞれ自己紹介を兼ねて発言していく。

 それぞれのパーティーの顔役は誰なのか、わかりやすくてありがたい。


「その間、オレら『赤鎚』が決戦場となる狩場の陣地形成を行う。オレらの絡繰りは事前準備がいるからな。その分効果は保証するぜ」

「私たちはルトフたちの援護をしつつ――ゼナウ」

「……!!」

「あなたの目で、採掘場所を決めなさい」


 アンジェリカ嬢の、いや他全員の視線が俺へと集まった。


「……了解」


 背中に家が建つくらいの巨獣、その攻撃開始場所を俺の目で見つけなければならない。

 破壊目標は身に纏う岩を剥がす『外核』。 

 これまでの調査で大体の位置はわかっているが、なにせ巨大だ。

 隆起する岩の鎧からそれを見つけるのは至難の業だ。てかできるのか?


 できないなんて、この場でいえる訳もない。

 それに、これは乗り越えなきゃならない試練でもある。

 まあ、やってみるしかない。やってやるさ。


「陣地構築が済み次第オレらも合流する。お前が選んだ場所に突貫して――奴を丸裸にするぞ」 


 ウルファが叫ぶとともに、『踏み鳴らし』の絵図を叩いた。


「作業期限は、『踏み鳴らし』が到着するまでの数時間。時間との勝負になるが、上手くいったら、奴はオレたちの仕掛けた罠で一網打尽! 主は必ず討伐できる! ――皆で20層を攻略するぞ!」

「「おおー!」」


 その咆哮に答えたのはジンと、騎士団の大男ワーキルくらい。

 ウルファの熱狂とは異なり、場は白けたままだ。


「……あれ?」

「……頼んだのは作戦説明よ。誰がそこまでやれと言ったの。どきなさい」

「あっ、はい」


 溜息とともにアンジェリカ嬢がウルファをどかして、再度前に出た。


「――聞きなさい」


 彼女が手を打ち鳴らす。

 その瞬間、場に緊張が走った。

 特に騎士団連中なんかは姿勢を正している。軍人特有の反射ってやつなのか。

 それを誘発させるくらいには、アンジェリカ嬢の言葉には迫力があった。


 再びの静寂の中、彼女の声が鋭く響く。


「この戦いには、意義がある」

「……あん?」

「――誰にも見向きされない、新たな技術を認めさせる」


 首を傾げるウルファへと、長手袋(イブニンググローブ)に包まれた指を向けた。


「おお?」

「――停滞し澱んだ組織に、新たな風を吹かせましょう」


 それはそのままルトフへと流れ、妖しい微笑みでそう言った。

 ルトフは苦笑いとともに頷きを返すのみ。

 更にその指先は騎士連中へと向けられて。


「――この戦乱なき世で、自分たちの力を証明しましょう」

「おお!!」


 ワーキルの咆哮が上がる。

 そのまま指先はするりと流れ、俺たちへ――ジンへと向けられる。


「そして――」


 まさか、言うのか? と思ったのは一瞬。

 くすりと笑ってジンを流し見てから、最後は自分の胸に手を当てて、告げる。


「――この膿んだ国を、変えてみせましょう」


 思わず見惚れるほどの妖艶な笑みを浮かべて、彼女は右足を叩きつけ、踏み鳴らす。


「この戦いにはそれぞれの意義がある! これはただの主討伐じゃない。この戦いは、あなたの運命を大きく変える一歩となるでしょう。だから気を張りなさい。あなたの持つ全てを賭けなさい。私に命を預けなさい!」


 最後は手を打ち鳴らし、アンジェリカ嬢は吼えた。


「さあ、行きましょう! 勝って、生き残って――運命を変えてやりましょう?」

「――おお!」


 今度こそ、騎獣舎が揺れる咆哮が上がった。

 アンジェリカ嬢の声に導かれ、それぞれの思惑が混ざり合い――20層の主討伐は開始されるのだった。

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