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第56話 クランづくり?④



 カトルとの迷宮探索から更に数日後、アンジェリカ嬢から正式に通達が来た。


「声をかけていたパーティーが頷いてくれたわ。これで11名確定よ。後1人も直に合流できそうだから、早速準備を進めちゃって」

「……準備って何を?」


 朝食である薄焼きのパンを頬張ろうとしていた俺は、静止した状態でそう訊ねた。


「勿論、20層の主攻略準備よ。今から『赤鎚』に連絡しておくから、今日から彼らの所で作戦会議をしてきてもらえる?」

「……了解です」


 タイミングは唐突だったが、俺としても暇だったので丁度良かった。

 カトルとの探索もあれから2度ほど行い、彼女の新兵装も含めた作戦立ても既に済んでいる。

 本当は今日も潜る予定だったんだが、カトルには1人で頑張って……流石にまだ無理か。

 ミンナに伝えて、相手してもらおう。

 そろそろ協会の訓練場くらいは1人で行ける様になってもらいたいが。


 というわけで、食事を終えた後に馬車を出してもらって、数日ぶりの工房へとやってきたのだった。


「よう、ゼナウ! よく来たな!」

「「来たな!!」」

「……今日は3人ともいるんだな」


 工房へと入った俺を、仁王立ちする3人が出迎えた。

 この人たちならもう口調も気にする必要はなさそうなので、いつも通りでいくことにする。

『赤鎚』のリーダーだろう男――ウルファも気にすることなく頷いている。


「おう。さっき知らせが届いたからな。仲間が揃ったんだろ?」

「どうもそうらしい」

「なんだよ、知らねえのか?」

「ああ。一応代表者がこの後ここに来るらしいが……」


 悲しいかな詳細はなんにも知らない。

 アンジェリカ嬢は無駄なことはしない人だろうから、忘れたわけでも、ふざけているわけでもないだろう。

 今は黙っておいた方がいい理由でもあるんだと、そう考えてる。


「ふぅん。ならいいか」


 あっさりとそう言ったウルファの表情は平穏そのもの。

 借金などまるでなかったような清々しさである。

 その後ろにいる女性陣2人も、平常通り――こいつらの『いつも』は知らないが、落ち着いているように見える。


「3人とも、元気そうだな」

「あん? ああ、この間のことな。……そりゃ最初は驚いたけどよ、よく考えりゃ大口の仕事をくれたわけだろ? しかも絡繰りまで買ってくれたんだ。オレらとしちゃむしろありがてえことだって気付いてな!」


 豪快に笑みを浮かべてウルファがそう言った。

 かと思うと、その横からひょっこりと緑の頭が覗く。


「それにぃ、絡繰りが壊れちゃったのも、ウチらの技術不足ってことだしねー」

「そうそう! あれで壊れる素体を作ったオレが悪い! 主の素材がありゃ、アンジェリカ様でも壊せない絡繰りに仕上げて見せるぜ!」


 あの怪力で壊れない……そんなモノができたら、それはそれで大問題な気もするが……。


 まあそれは置いておいて、いきなり出てきた緑頭へと視線を向けた。

 ウルファの仲間らしい女性2人のうち、緑髪の方。

 短めの癖毛。分厚い眼鏡をかけており、厚手の作業衣に身を包んだ身体は色々と豊満である。


「えっと……」

「あ、ウチはアミカ。絡繰りの()()と、爆弾作りが担当だよ」


 獣みたいなギザ歯を開いて、アミカは自分の頭を突きながら笑う。

 分厚い眼鏡の奥には、蛇を想起させる鋭い目があった。


「戦闘だと弩を使うんだ。ウチらは3人だから、ウルファが1人前衛で、ウチとイマが後衛なんだよねー」


 そう言って指さした先で、イマと呼ばれたもう1人の方と目が合う。

 あっちは炎を思わせる赤みがかった橙色の髪を1つに纏めて後ろに流している。

 スッと背筋の伸びた姿勢で、自らの胸に手を当てた。


「イマよ。私は魔法を使うの。火が得意。絡繰りは装飾、あとは金属の精錬とか加工をやってるよ」


 女性にしては上背のある、均整の取れた身体は身軽そうだが、こっちも後衛職らしい。


「んで、オレが絡繰りの素体作りと掘削担当だ。戦闘じゃオレが前衛を張ってるぜ」

 

 絡繰り製作も穴掘りもそれぞれ分担があるらしい。

 ……ん? てことは工房も戦闘も、全部3人でやってるってことか?


「もしかして、普段からあんたら3人で潜ってるのか?」

「おう、基本はそうだな。仕事の時は雇い主のパーティーとも潜ったりするが」

「そうなのか。前衛が1人でよく深層まで行けたな」


 感心しながらそう告げると、ウルファが「ああ」と得心したように頷いた。


「オレらは最初からずっと一緒に潜ってたわけじゃねえんだ。……っと、まあ座れよ」


 この間の金属机に移動してから、話を続ける。

 折角これから一緒に戦うんだ。彼らのことを知っておきたい。


「オレらが元々は騎士団の所属だったのは知ってるよな。その中で、オレとアミカは技術屋でな。それぞれ別の部門で働いてたんだよ」

「ウルファが鍛冶担当で、ウチが魔道具系の担当ね」

「そもそも探索者じゃなかったってことか? それがどうして一緒に?」

 

 そしてどうして派閥追放までいくんだ?


「オレは当時から絡繰りの構想があってな。暇さえありゃ手前(てめえ)で色々と作ってたんだよ。したらこいつが声かけてきたんだよ、手伝わせろって」

「だって面白そうなもの作ってたし。ウチも作りたいものが色々あったんだけど、工作は苦手だからさ、代わりに箱を作ってくれる丁度いい職人を探してたんだよね」

「んで、2人して色々作ってたんだが、騎士団の素材を使ってたのがバレてな。あん時は大目玉喰らったよ」

「なにやってんだ……」


 変人同士が出会ってしまった結果、とんでもない変化を起こしてしまったらしい。

 ……騎士団の設備も壊したのか? 壊したんだろうなあ……。


「反省にって迷宮内で素材の鉱石掘りとかやらされたんだけどさ、そん時に一緒になったのがイマ」

「反省で迷宮潜らせるのか……。んで、あんたは何したんだ?」


 訊ねると、イマではなくウルファとアミカの方が目を合わせて指折り数え始める。


「無断外泊、遅刻の常習犯、あとはなんだっけ?」

「男を部屋に連れ込んだのは?」

「それは無実よ! 妬んだ同僚の嘘。おかげで騎士との玉の輿がなくなったんだから、最悪よ」

「……」

「こいつは魔術師部隊所属で、優秀だけど態度は最悪だったんだよな」

「ああ……」


 別の方で問題児だったらしい。

 目を向けると、気怠げに手を振ってくる。


「騎士団はお給金がいいから入ったんだけど、制度がガチガチで嫌だったー。その点、こいつらは自由で面白くてね。気付けばつるんで迷宮に潜ってたわ」

「罰だった迷宮探索が楽しくなってな! 罰が終わっても潜って、3人で絡繰りを作ってたんだよ。探索者組になったのはその時からだ」

「そしたら騎士団の仕事を大量にすっぽかしちゃってね。遂には追放されちゃった♪」


 ちゃった、じゃないんだが……。

 なるほどな。この赤鎚ってのは問題児が集まってできたパーティーってわけか。

 追放ってのも、要は解雇(クビ)か。


「まあそこはいいか。んな理由だからよ、16層までは騎士団のお目付け役が同行してたんだよ。穴掘りはそこでやるからな」

「へぇ……あ、でもそこから先は? 今は3人なんだろ?」

「そこは絡繰りの力よ!」


 そう言って取り出してきたのは、胴を隠すくらいの大きさの金属製の物体。

 鮮やかな黄色で塗られたそれは、大きなネズミのような姿をしていた。


「それは?」

「オレたちの最初期の発明品。騒音鼠だ。すげえデカい音を出して走り回ってくれる。こいつで染獣の注意を惹いて、追いかけさせるのさ」


 確かに良く見れば車輪のようなものが複数つけられている。

 これが回転して走り回るってことか。


「んで、捕まったら……」

「ウチ特製の音響爆弾が起爆して、染獣の動きを止めるってワケ」

「へえ……そんなこともできんのか。それで16層以降を進んだのか」

「流石にこれだけじゃ無理だが、20層攻略でも間違いなく活躍するぜ? さっ、早速作戦会議だ!」


 ウルファがそう告げながら、机にデカい紙を広げた。

 そこには巨大な生き物の姿が描かれている。


 生き物としては蜥蜴に似ている。

 絵でも分かる分厚い四足と、それ以上に巨大な尾。

 横長の体躯には鈍く太い棘のような構造物が並んでおり、全身が分厚い鎧に覆われているのが分かる。

 何より厄介なのが、その大きさが、想像の百倍はデカいってことだ。


「20層の主。岩喰らいの大蜥蜴――『踏み鳴らし』。こいつの攻略方法を決めるぞ」


 次なる怪物退治の手法について、ようやく本腰を入れて考えることになった。



***



「『踏み鳴らし』の生態はいたって単純だ。歩き回って餌を食う、以上!」


 移動式掲示板に貼り付けて見やすくした奴の絵図を叩いて、ウルファが言い切った。

 掲示してみるとその巨大さもよくわかる。

 実物は、背にこの工房が建つくらいにはデカいという。

 長さも高さも、俺らの50倍はあるんじゃないか?


「とにかくデカく、重くて硬い。だからこいつの通り道は深い渓谷になってるくらいだ」

「だから20層はこれまでの岩山地帯ともちと違う動きが必要になる……んだよな」


 まるで掘り進められたかのような岩の回廊が続き、戦闘中に上下間の移動は基本的には不可能。複数パーティーが要るのもこれが理由の1つ。


「そうだ。まず、囮役がとにかく奴に攻撃を続けて追いかけさせる。奴は口内だろうが目だろうがとにかく硬いが、賢くはねえから目の前の獲物には襲い掛かってくる。それを利用して追いかけさせて、事前に見つけておいた広場まで誘導する」

「その間にウチらが背に乗って、穴をあけるの。アレの外皮はどういう仕組みなんだか、食った岩が染み出て鎧みたいになってるんだよねー」


 そう、奴の餌は岩や鉱石。

 実際はその中の何かを食ってるんだろう。だから余分な岩や金属を身体に纏う。

 だからとんでもなく重くて硬い。

 もし奴の足元に塞頭牛(ラタンカ)がいれば、数匹纏めて踏みつぶしていくだろう。

 奴からすれば、小石を踏んだ程度の感覚なんじゃないんだろうか。


「しかも、その構成する岩や金属は種類がバラバラなの。だから囮役が耐えている間に、壊しやすい場所を見つけて急いで殻をはがなきゃ駄目なんだよね」


 イマが気怠そうにそう告げる。

 魔法使いからすれば、絶対に相手したくない染獣だよな。

 カトルの魔法でさえ、多分大した効果を発揮しない。

 デカいってのは、それだけで凄まじい耐久力を発揮する。


「しかも奴の身体にはなんでか知らんが他の染獣が住んでんだよ。陸地と勘違いしてんのか? ともかく、穴を掘ろうとするとそいつらが襲い掛かって来るから、それも倒す必要がある」


 穴掘り役と、その防衛役。

 これで更に2パーティーが必要になる。

 勿論これだけが攻略方法じゃねえが、10名以上を集めなきゃいけないのはちゃんとした理由があるってわけだ。


「殻を剥げたら、あとは一気に奴の身体を()()()()。んで、奴の体表にある外核をぶっ壊すんだ」


 魔法と呼ばれる力を使うあらゆる生物には、核と呼ばれる内臓器官がある。

 身体に取り込んだ魔力をろ過――その表現があってるかは知らんが、自分で使える様に変換が行われるそうだ。

 人間なら胸の中心に埋まってる。

 染獣はものによって様々だが……『踏み鳴らし』は巨大故か核が2つあるらしい。

 その外側を壊せばいいのだそうだ。


「……また血だらけになりそうな作業だな。それで死ぬのか?」

「いや、死なねえ。ただなんでか知らんが、奴の身体を覆う岩が全て剥がれるんだ」

「どうも岩を纏ってるのは、アレの魔法の産物らしいよ? 魔法の根幹を担う核をぶっ壊せば、それが切れちゃうってわけ」

「なるほど……あとは鎧がなくなった奴を全力で討伐する、と」


 そうなれば後はいつもと変わらない。

 巨大ではあるが、それ故に的はデカい。鎧さえなければ何とかなる……筈。


 囮、穴あけ、その補佐――12名の全員の力を結集して主を倒す必要がある。

 その手順、そして分担を考えなければならない。


「オレらは当然穴あけ要員だ。てか、それしかできねえ」

「囮なんて絶対にできないしね! あ、でも最後の戦闘はちゃんと役に立つよー。丁度いい絡繰りもあるしね」

「「「ふっふっふっ……」」」

「……後で詳しく教えてくれ」


 絶対ろくなもんじゃなさそうだが、使えそうなら是非とも組み込みたい。

 なにせ巨大な染獣相手だ。

 俺らの戦力だけじゃ、絶対に討伐できん。毒とか効くのに何日かかるんだって巨体だしな……。


 しかし、そんな奴の囮ねえ。


「俺らも囮ってメンバーじゃないから、もう1つのパーティーが担当するんだろうが……どうするつもりなのか」

「あとから来るって話だったろ? そろそろ来ても良いと思うんだが」

「――呼んだかい?」


 この場にいる4人以外の声が響いた。

 爽やかなその声に顔を上げると、男が1人立っていた。

 金属鎧に身を包み、腰には長剣を佩いた青髪の騎士。


「あんた……」


 そこにいたのは何度か顔を合わせた、アンジェリカ嬢の知り合いらしい騎士。

 確か名前は――


「ルトフ、だったか」

「そうだよ。久しぶりだね、ゼナウ君」

 

 にっこり爽やかな笑顔で、ルトフは手をひらひらと振っている。

 いつの間に入ってきたのか、赤鎚の連中も目を見開いて驚き、固まっている。

 仕方ないので、俺が疑問をぶつけることにした。


「なんであんたがここに……」

「今、君たちが話してただろ? 僕のパーティーが君たちと一緒に20層に挑むのさ」


 少し前から聞かせて貰ってたよ、と彼は言う。

 ……全く気付かなかった。てか来たなら言えよ怖えな……。

 なんて正面きって言えるわけもなく、俺は頷きだけを返した。


「……そうだよな。ここに来たってことは、そういうことだよな」


 他に可能性はないんだが、思わず聞いてしまっていた。

 だってまさか騎士がここに来るとは思わないだろ。しかもアンジェリカ嬢やディルム支部長の同格っぽかった人が。


「でもあんた、その……騎士だろ? それも結構偉い立場の。それがなんで?」

「その筈だったんだけどねえ」


 その問いかけには、特大の溜息と苦笑いが返ってくる。


「君のとこのリーダーのせいで、迷宮に潜ることになったんだよ? あんな奴に後れを取るなーってうちの団長が怒っちゃってね。おかげで次期騎士団長候補の筈が、今じゃ日々迷宮探索の毎日だよ」

「それは何というか、申し訳ない……」


 輝かしい功績が消えることになるとは……。

 てかアンジェリカ嬢の行動のせいでンなことになったのか……。

 色んな所に迷惑かけてんだな、俺ら。まあアンジェリカ嬢的には望み通りだろうが。


「そして、今回はそのアンジェリカ嬢の依頼で駆り出されたってわけ」

「じゃあ本当に……」

「そう。20層の主狩り、僕ら金蹄騎士団の4名が参加するよ。よろしく」


 あっさりとそう言って、騎士ルトフが仲間になった。

 ……って、いいのか!?


 少し前にこの『赤鎚』はどこの派閥にも属してないって理由で選んだのに……。

 それが思いっきり騎士団所属の、しかもえらい奴。

 アンジェリカ嬢は何を考えてるんだ……?


「……よろしく、お願いします」

「ああ、口調はさっきまで通りでいいよ。折角仲間になるんだ。気にしない気にしない」

「わかった。ならいつも通りで」


 そんなやり取りをしている間も、ウルファたちは何の反応もしなかった。

 元気な彼らが珍しいと思ってみれば、3人とも青い顔をしている。


「……」

「君たちも()()()()()()、元気してたかい? まあ、さっき見てたんだけど」

「あ、はい。それはとっても……」


 笑顔のルトフに委縮している……なんでだ?


「まさかまた一緒になるとはね。前に鉱石掘りについていって以来かな? ……ああ、君らが破壊した寮の被害額を調べた時だっけ。なんにせよ懐かしい。よろしく頼むよ」

「「「はい……」」」

 

 ああ……そうか、騎士団のお偉いさんってことは、こいつらにとってルトフは迷惑をかけまくった元上司みたいなもんか。

 てかやっぱり壊してるんじゃねえか。

 

『――それに安心しなさい。その『赤鎚』なら大人しく従うと思うわ』


 アンジェリカ嬢の言ってたのはこれの事か……。

 狙ったわけではないだろうが、結果的に良い人選になったんだろう。多分。

 後は最後のもう1人だが……そっちは全くどんな人間が来るかわからん。

 今日も来るとは聞いていないから、どこかで紹介されるんだろう。


 またカトルみたいな試練は御免だぞ……。


「……というわけで、早速やろうか」


 なんてことを考えていたら、不意にルトフがそう言った。

 それを聞いて、ようやくウルファが動き出した。


「お、おう! 丁度、作戦会議していたところだ……って、聞いてたんだよな。じゃあ続きを――」

「ああ、違う違う!」


 たどたどしく喋り出したウルファの言葉を笑顔で遮った。

 ……ん?


「そっちは任せるよ。僕らは囮役だろう? 囮に関してはこちらで考えるよ。僕ら4人にできることは後で教えるから、最後の戦闘時の作戦はよろしくね」

「……じゃあ、何をするんで?」


 ああ、嫌だ。凄く嫌な予感がする。

 まさか、あんたもなのか?


 縋るような俺の目線を真正面から受け止めて、彼は腰の剣を叩いた。


「手合わせだよ。仲間の実力は、把握しておくべきだろう?」


 屈託のない笑みを浮かべて、騎士ルトフはそう告げるのだった。

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