二人ぼっちの秋
芥野琴音は秋限定でキッチンカーを借りてお菓子販売をしている。
「Cafe木実花」
アップルパイ、マロンマフィン、柿羊羹、梨タルト、ぶどうタルトなど秋のフルーツを使ったテイクアウト専門店。
「にゃあ」
琴音が用意したものをマロンが客の元へ運ぶ。
看板猫のぬいぐるみだ。
出会いは3年前の秋。
地震で夫の桃矢と飼い猫のマロンが亡くなった。
悲しみから後を追おうと車で山へ向かった。
車を止め、山道を歩く。
途中、マロンに似たぬいぐるみが落ちていた。
雨や泥で汚れ、茶色く変色している。
琴音は手に取り抱き締めた。
涙が止まらず、その場にへたり込む。
するとぬいぐるみが琴音の涙を拭った。
これは夢か幻か。
「大丈夫?」
「おばさんね一人ぼっちになってしまったの」
「じゃあ僕と一緒だね」
「え?」
「僕ね、家族で梨狩りに来たんだ、パパとママと真穂ちゃん、どこに行くにも僕と一緒だった」
「そうだったの、真穂ちゃん達は?」
「死んじゃった、地震で車が倒れて僕だけが窓の外に飛ばされて、それからずっと僕はひとりぼっち」
「私も地震で旦那と飼い猫だったマロンが亡くなったわ」
「え!君の猫もマロンなの!?」
「それじゃもしかしてあなたも?」
二人はパチクリと目を合わせた。
「真穂ちゃん栗が好きでね」
「私はね、丸まった姿が栗に見えたのよ、
マロンはどうして喋ったり動いたりできるの?」
「分かんない!でも秋だけ動けてお話しできるみたい、あちこち破れてて動きにくいけど」
「ねぇマロン、良かったら家に来ない?」
「いいの?わぁい!これからは僕ひとりぼっちじゃないんだ!」
「そうよ、もう一人ぼっちじゃないわ」
琴音はマロンを抱き抱えるとアパートに帰った。
マロンの汚れを取りほつれを丁寧に縫う。
「わー!僕の体、きれいになった!琴音さんありがとう!」
「どう致しまして」
マロンがぴょんぴょん跳ねる姿が愛おしくて
琴音は目を細めいつまでも見守っていた。